「交流会?」
「えぇ、昔は人間界に来る天使悪魔の目的が同じだったのでその頃に情報交換の為に集まる会があったのですが、今は目的もバラバラで交換するような情報も無いので契約者の交流会になってまして」
「美味しいものいっぱい出るんだ〜!契約者達も面白い人ばっかりだから行こうよご主人〜!」
「まぁ見に行くだけなら……」
半ばラファエルに押される形で交流会の会場へと足を運ぶ響と一行。
並んで歩きながら響はルシファーを見上げて質問を投げかける。
「他の契約者ってどんな人達なの?」
「そうですねぇ……皆様個性派でして……」
考え込むような仕草で答えあぐねているルシファーを見て横からラファエルが顔を覗かせた。
「天使とだけ契約してる
「鮫島……さん?凄く怖そうな名前の人……」
興味を示した響にいやいや、と顔の前で手を振るラファエル。
「全然!名前負けの具現化みたいな人だよ!」
「それ以外は皆様両方と契約してますね」
思い出すようにルシファーは首を傾げる。
「えっとねぇラミエル、レヴィアタンと契約してる
指を折りながら話すラファエルを見て横から付け足すルシファー。
「あと……そうですねぇ、来るか分かりませんが
ラファエルはルシファーを見上げ「そう!」と人さし指を立てる。
「ガブリエルとベルフェゴールの契約者だね!前もなんだかんだ来てくれたし来るんじゃないかなぁ?」
「遠くに住んでるの?」
来るか分からない、というのを不思議に思った響が質問をすると天使と悪魔は否定の意味で首を横に振る。
「ただ面倒くさがりなだけだよあの子。前の時もベルが引きずって来たから」
「別にそこまでして来なくても良いんですがねぇ……」
「なるほど、確かに個性派だ……」
等と話している間に会場に着いた一行。
ルシファーが部屋の扉を開けるとすぐに悲鳴が飛び出す。
「返して〜!!!!」
何事かときょろきょろする響を見て「あそこで騒いでいるのがベルゼブブです」と淡々と紹介をするルシファー。
ベルゼブブが手を伸ばす先には料理の皿を上に持ち上げる赤髪の青年がいた。
彼はマモン、成瀬璃玖と契約をしている悪魔だ。
「人間界は食事も金も無限じゃねぇんだからもう少し遠慮してくれよ誰が金払うと思ってんだよ!」
どうやらベルゼブブを叱りつけている様子のマモンを見て、ルシファーはひとつ溜息をついて二人の間に割り込む。
「何やってんだお前ら」
割り込みに気が付いたベルゼブブがルシファーに縋り付く。
「マモンがご飯取り上げる〜」
一方的に悪者扱いをされたマモンは「なっ……」と声を漏らして力強くベルゼブブを指さす。
「こいつ馬鹿みたいに食うんだよ!まだ来てから五分ちょっとなのにもう二十五皿目だ!」
二十五皿と聞いて驚く響にラファエルが横から「いつもの事だねぇ」と呑気に注釈を入れる。
ルシファーはベルゼブブの頭に手を起き微笑んだ。
「今回は俺が金出すから好きなだけ食え」
それを聞いたベルゼブブは瞳を輝かせる。
「いいの!?やったぁ〜!」
マモンから皿を奪ってそのままの勢いで料理を貪るベルゼブブを見て赤い悪魔は溜息をついた。
「ルシファー金あんのかよ」
「最近はFXとか株があって楽でいいですね」
教えましょうか、と笑うルシファーに響は確かに凄くやっていそうだと妙に納得してしまう。
「冗談はさておき」
納得した手前、冗談と軽く流され冗談とか言うタイプだったのかと少し驚く響。
次に続く言葉を待っていた響の耳には、聞き馴染みの無い、言語と呼べるのかすら分からないルシファーの声が飛び込んできた。
外国語だろうかと注意深く聞いていると、隣からラファエルがルシファーを見据えながら出てくる。
「ご主人、あっちで人間達とご飯食べてきな」
「あ、ラファエル……あれは何語?何喋ってるの?」
「天界と魔界の話、人間達には関係ないから分からないように喋ってるの」
へぇ、と関心の声を漏らしつつ人の姿をとっているものの、人間を超越した世界の話や言語を間近で見てやはり上位存在なのだなと関心した響。
ラファエルに言われた通りビュッフェ形式の料理を席に座って大人しく味わっている響に、涼し気な好青年が声をかけた。
「こんにちは、君がルシファーの契約者?」
響が声のした方を見上げると、好青年は隣の席に座る。
「はい……あなたは?」
「アズラエルと契約してる鮫島って言います」
「あ!あなたが……なんか、その……」
先程の道中のラファエルの言葉を思い出し、確かに大仰な名前とは裏腹に優しげな青年だと失礼な事が頭を巡る響に眉を下げながら訊ねる駿河。
「名前負けしてるって言いたい?」
「わ、あ、いや……」
図星を突かれ、狼狽える響にはは、と笑い声を漏らして駿河は続ける。
「よく言われるから良いよ、気を使わなくて」
本当に気にしていなさそうな口ぶりを見て、内心ホッとした響は胸を撫で下ろす。
「怖い人を想像してたので……優しそうな人で安心しました」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
ニコニコと笑顔を絶やさない駿河にこの人となら仲良くなれそうだと響は思った。
そこにもう一人、金髪の青年が駆けてくる。
彼がウリエル、アスモデウスと契約をしている伊澄碧空である。
「駿河駿河、あっちプリンある……その子は?」
駿河に声を掛けたがもう一人、知らない顔があることに気が付き碧空の興味はそちらに移った。
「碧空、ルシファーの新しい契約者だよ。名前は……」
碧空の方に顔を向けて話していた駿河は響を振り返る。
そこで名乗っていなかった事に気が付いた響はハッとしてすぐに口を開いた。
「涼村!涼村響です!」
「響くん、いいなま……」
いい名前だね、と続けようとした駿河の言葉を遮るように入口から甲高い叫び声が聞こえてくる。
何事かと三人が顔を入口へ向けると声の主であるらしい少女がこちらへ向かって歩みを進めた。
「ルシファーそんな弱っちいやつにしたの!?」
言いながら響の目の前まで来た少女はジロジロと響を睨み付けながら文句を垂れる。
「こんな魔力の欠けらも無いガキなんか選んで!いったいどういう……」
そこまで言ったところで後ろから男性に首根っこを掴まれて持ち上げられる少女。
この少女は梓野姫莉、そして後ろから持ち上げている男性がレヴィアタンだ。
突然の出来事に固まる響の目の前で「離しなさいよ!」と暴れる姫莉をどうどう、と馬でも宥めるように軽くあしらうレヴィアタン。
「ごめんな〜躾のなってないガキで、気分悪くしたか?」
「え、あ、いや……」
響の返答は聞いていないかのようにすぐに言葉を続けるレヴィアタン。
「ほんとごめんな〜、ほら、美味しいものいっぱいあるからそっちで我慢しな」
「はぁ!?私はそこのガキに用があって……」
「あら〜私達が最後かと思ってたけどまだ来てない子達もいましたね〜」
後からやってきたラミエルがにこやかにそう言うと、呆れたように彼女を見てレヴィアタンが苦言を呈する。
「お前もなんか嫌味っぽく聞こえるからそういうこと言わないの」
「あらやだ、そういうつもりは……ごめんなさい〜」
「ほんと悪いな〜ごめんな〜」
言いながらレヴィアタンは暴れる姫莉と響達に手を振るラミエルを引き連れて去っていった。
ぽかんと口を開けたままの響が絞り出すように一言呟いた。
「なんか……濃いですね……」
「悪魔と天使なんてそんなものだよ〜」
のほほんと返事をした駿河の服の裾をくいくいと引っ張って碧空が「駿河、プリン」と料理の並ぶ方を指さす。
「あぁそうだった、響くんもプリン食べる?」
立ち上がった駿河に聞かれ、頷いた響を見て青年二人は小さく微笑む。
「ふふ、ちょっと待っててね」
再び一人になった響は駿河の登場で途中になっていた食事を再開した。
あちこちから色々な会話が聞こえてくる空間でのんびりと料理を味わっているとまた出入り口の扉が開く。
「もーお嬢!ちゃんと歩いて!絶対最後っすよ!」
サングラスを頭に乗せた悪魔、ベルフェゴールに半ば引きずられるようにして会場入りした赤髪の女性は煩わしそうに眉を顰める。
「来ただけ偉いって……」
「甘えんでください!皆もう揃ってんすよ!」
「別に私と交流したい人なんかいないよ……」
ブツブツと文句を言う弥琴に少し先を歩くガブリエルが振り返って声を掛けた。
「美味しいものいっぱいあるんでそっち目的にすればいいですよ」
「お腹減ってない〜……」
ズルズルと引きずられ、響の斜め向かい辺りの椅子に天使と悪魔に両脇を抱えられながら座らされた弥琴はぐったりと椅子に体重を預けた。
「ほら!オレらちょっと話してくるんでそこいてください!」
「ん……」
大人しく座って……?寝て……?いる弥琴を不思議そうに眺めている響の元にルシファーが戻ってくる。
「響様は何か食べないんですか?」
「わぁ、ルシファー……お話は?」
顔を覗かせにこりと微笑むルシファー。
「終わりましたよ、何か取ってきましょうか。サンドイッチとかありましたよ」
「あぁいや、今……」
料理が並ぶスペースを指さした響の元へプリンを持った青年二人が帰ってきた。
「あ、ルシファーだ、お喋りはおしまい?」
同じような事を聞く駿河を振り返るルシファー。
「おや、駿河様と碧空様。えぇ、おしまいです」
そっか、と相槌を打った駿河は響の前にプリンをひとつ置く。
「はい、響くんおまたせ、ルシファーも何か食べる?」
碧空は駿河とルシファーの会話など気にもとめず、一人プリンを美味しそうに頬張る。
ルシファーは駿河に向かって微笑む。
「いえ、お気遣いなく。弥琴様は何か食べますか?」
向かいでぐったりしている弥琴に声を掛けると、弥琴はゆっくりと手を上げて横に振る。
「今日は一段とやる気が無さそうですね」
「早めに解散しようか……」
その言葉通り遅れてやってきたベルフェゴールとガブリエルに話が行き渡ったらしい辺りですぐに解散となった。
響はまだ話せていない契約者がいた事を気にしていたが、ラファエルが「またすぐ会えるよ」と笑ったのであまり気にしない事にした。