段々と天使と悪魔のいる生活にも慣れ始めた響。
学校からルシくんと共に家に帰り、いつも通り天使と悪魔に出迎えられる。
その日の夕食時。
響とラファエルが美味しそうに料理を頬張る姿をぼんやりと眺めながらルシファーは兼ねてよりの疑問を口にした。
「そういえば響様、要らぬ心配かとは存じますがご両親は……」
「ぇ、あ……う〜〜ん……」
しばらく悩んで唸る響を眺めるルシファーとラファエル。
確かにこの悪魔と天使が来てからこの家に一度も大人が出入りした事は無い。
中学生が一軒家に一人暮らしとは不自然である。
ご飯をかき込み、両手を合わせ「ごちそうさまでした」と律儀に挨拶をしてから立ち上がった響は「ついてきて」と部屋を出る。
案内されたのは使っていない和室の襖の前。
「あんまりルシファーには入って欲しくないんだよな……悪魔だし……まぁでも知ってる分には……」
そう言いながら襖を開けると立派な仏壇があった。
のだが、天使と悪魔の目にはその仏壇の上に寝そべる遺影と同じ顔の男性が映っていた。
なんかいるな……と二人が思うが早いか、男性はあんぐりと口を開けた。
『な、な、響おま……おい!同年代の女の子はまだしも知らん男を勝手に家にあげるな!おい響!くそー!また
響の周りを叱りつけるようにぐるぐると飛び回る男性。
「これは……」
口を開いたルシファーをギロリと睨み付け、標的をそちらに変えた男性がぐるぐるとルシファーの周りを飛ぶ。
『なんだお前!おい!聞いてんのかそこの男!全くこれだから響は!お父さんがいないとダメなんだから!もう!』
響が何かを説明してくれているのだろうが男性の声でかき消されてしまい、二人には何も聞き取れなかった。
小さく溜息をついたルシファーは響に向かって手を伸ばす。
「響様、すみません」
「ん、何……?」
振り返った響の目元にルシファーが手をかざすと、響はすぅっと眠りに落ちる。
ぐらりと倒れる響を片腕で支えて見つめるルシファーと、呆れたように溜息をつくラファエル。
その様子を見ていた男性は驚いたように一瞬黙ってしまったがすぐに先程と同じように言葉を放つ。
『お、お前!お前何しやがった!うちの響に!何を……』
「はじめましてお義父様、少し私とお話いたしませんか」
てっきり見えていないものと思っていたらしい父親は、唖然として黙りこくってしまった。
『み、見えてるのか……?いや、そ、そもそもお前にお義父様などと呼ばれる筋合いは無いわ!帰れ帰れ!なんなんだお前!響に触るな!』
すぐに先程の調子に戻る父親に関心する二人。
「お義父さん落ち着いて〜私達は別にご主人に危害加えたりはしないから」
『ご主人!?ひ、響はいつの間にそんな……な、どういう関係なんだ……?』
ようやく話を聞いてくれそうな雰囲気になった男性を見て小さく笑うラファエル。
響を横に寝かせ、畳に座り込んだルシファーが説明を始める。
「私はルシファー、響様と契約させていただいている悪魔です」
『悪魔だと!?響の魂はやらんぞ!早く帰れ!しっしっ!』
虫でも払い除けるかのような仕草に苦笑いをするルシファー。
「いえ、別に魂を頂きに来た訳ではないので……」
『ちなみにそっちのお嬢ちゃんは?』
「私はラファエル!ルシファーと同じくご主人と契約させてもらってる天使だよ!」
『天使と悪魔ぁ?非現実的だな……』
「幽体に言われたくないよ」
ラファエルの鋭いツッコミにきょとんとしてすぐに豪快に笑う男性。
『それもそうだな!いや悪いね、しかし何で響を選んだんだ?あの子、目立つような子じゃないだろ』
「色々と事情がありまして」
ルシファーは優しげに笑う。
「そういえば貴方の声でほとんど聞こえなかったのですが、響様は先程何のお話をされていたんですか?」
『あぁ、響がちっちゃい頃に俺が死んだって話だな。そんで響の母さん、奏ちゃんが今は仕事に専念したいから職場に近いとこで単身赴任中って訳だ』
「なるほど、それでご主人この家に一人なんだ」
考え込むような仕草をするラファエルに父親は指を二本立てる。
『俺もいるから二人暮らしだぞ!』
「実態無いからカウント対象外だよ〜」
『お嬢ちゃん手厳しいな……』
談笑する二人を見つめながら考え込んでいたルシファーが口を開く。
「お義父様は転生……もしくは成仏はされないのですか?」
『あ〜んなちっちゃい響を一人残して逝ける訳ないだろう!』
至近距離で反論され、小さくすみません、と呟くルシファー。
「そっかぁ……そりゃそうだ、人間の親ってそんなもんだよねぇ……」
うんうんと頷くラファエルに『分かってくれるか!』と嬉しそうに言う父親。
「お義父様がお望みでしたら貴方の魂と引き換えに一生涯響様をお守りすることも出来ますよ」
とんでもない提案をするルシファーに一瞬固まるラファエルと『んー……』と静かに考える父親。
『いや、俺はこのまましばらく響のこと眺めてたいし、こんな幽霊の世界があるなら響が死んだ後も心配だしまだ死ねないよ』
「そうでしたか、余計なお世話でしたね」
立ち上がったルシファーは指を鳴らす。
すると床に寝ていた響がゆっくりと目を開けて起き上がる。
「ん……何が……」
「すみません響様、教えていただきありがとうございました」
「え、あ、うん……」
一足先に和室を後にするルシファーを見送り、まだ状況が飲み込めていない響は曖昧な言葉を返した。
「ご主人は幸せ者だねぇ」
ルシファーの後に続き、何故か上機嫌なラファエルも鼻歌交じりに和室から去った。
一人残された響はよく分からないままに、とりあえず父親に手を合わせた。
「お父さん、よく分からない人達を勝手に家に上げてごめんなさい。でもきっと悪い人達じゃないから、多分大丈夫」
『分かってるよ、好きに生きな』
父親が返した言葉は届かなかったが、響は少し晴れやかな表情で襖を閉めた。