休みの日。
響は兼ねてより思っていた事を不意に口にした。
「ルシファーとラファエルの生活用品を買いに行こう」
あまりに突然の発言だった為当人達は響を見つめてポカンとした。
「え、いやいやそこまでしてもらわなくていいよ」
「そうですよラファエルはともかく私は使いませんし……」
確かにルシファーが人間らしい生活を送っているところは見た事が無かった。
反対にラファエルは食事もするし入浴もする。
以前にそれを不思議に思った響が訊ねた時は、ラファエルは趣味だと言っていた。
「見に行くだけでいいから、ルシファーも行こう」
「そりゃあ響様が行くようでしたら私は何処でもお供しますが……」
あまり乗り気では無さそうなルシファーを連れて、響とラファエルは近所の日用雑貨店へと足を運んだ。
「まずはラファエルのタオルと歯ブラシと……あとお茶碗とお箸かな」
「そんなに買っていいの!?」
「うん、好きなデザイン選んできていいよ」
ラファエルにカゴを持たせて見送る響。
「ルシファーは何か人間界のもの食べたりとかしないの?」
「人間の魔力で事足りてますので」
その発言を聞きふ〜ん……と流そうとした響は時間差で疑問を覚える。
「僕って魔力無いんだよね?」
「えぇ」
「……誰の魔力食べてるの?」
「すれ違う人間達から少しずつ……足りない分は彷徨っている死者の魂とか食べてますね」
言いながら響には見えない何かをつまんで見せたルシファーがペロリとそれを飲み込み舌舐りをする。
それ見て引きつった笑顔を見せた響の元にラファエルが駆けてくる。
「ねぇご主人!これでもいい?」
ラファエルがカゴを見せるので覗き込むと、そこにはうさぎのイラストがあしらわれた子供用の茶碗が入っていた。
きょとんとした響はラファエルに訊ねる。
「え、いいけど……ちっちゃくない?」
「でもこのうさぎが一番可愛かった……」
愛おしそうに茶碗を見つめるラファエルを見て響は微笑む。
「ラファエルが一番だと思ったならそれがいいね」
それを聞いて顔を輝かせたラファエルは大きく頷いた。
「でもお箸はもうちょっと大きいのがいいかな〜」
茶碗と一緒に入っていた子供用の箸を取り出した響は売り場へと戻しに行く。
「え、え、でもセットでどうぞって書いてた〜!」
「ラファエルにはちっちゃすぎるよ、毎日使うんだから使いやすい方がいいでしょ?」
「そっかぁ〜」
談笑する二人を後ろから静かに眺める悪魔。
蚊帳の外だが別にあの輪に入ろうとは思わない。
響が楽しいのならそれでいいし、人間の文化に触れるつもりもない。
生きる世界が違いすぎる人間と悪魔は、分かり合う必要が無いとルシファーは考えていた。
ラファエルの使う箸を選んでいた二人はいつの間にか場所を移動しており、ルシファーも付かず離れずの位置で見守る。
すると、不意にルシファーの方を振り返った響が何かを手に駆けてくる。
「どうされました?」
「ルシファーも、マグカップだけでも買わない?」
シンプルなデザインのマグカップを手に首を傾げる響。
後ろから来たラファエルの持ったカゴには同じデザインの色違いのマグカップがふたつ入っていた。
「ご主人、お揃いが欲しいんだって」
「ルシファーの物が何も無いの寂しいし、家に人が居たことも無いからこういう日用品のお揃いっていいなって思ってて」
少し恥ずかしそうに話す響の手からマグカップを受け取ったルシファーは、少し考えてからカゴに入れた。
「まぁ……この世界にも、ひとつくらいは所有物があってもいいかもしれませんね」
カゴに入った三つのマグカップを見て響とラファエルは顔を見合わせて笑う。
「やったねご主人!」
「うん!」
心底楽しそうな二人を見て軽く微笑んだルシファーは、レジに向かう二人の後を心なしか軽い足取りで着いて歩いた。
「ご主人、福引きだって。引いていこうよ」
ラファエルが指をさした方では、レシートで引ける福引きがやっていた。
「一等何?」
響が聞くとポスターを見たラファエルが答える。
「えっとね、遊園地一日貸し切りだって!凄いねぇ」
「……そのくらいならまぁ」
ラファエルからレシートを受け取り、響は抽選機を回す。
明らかに高めの賞の色の玉が出たかと思うと、即座に鐘の音が辺りに鳴り響いた。
「一等です!おめでとうございます!」
店員がチケットを渡してくる。
「「え」」
天使と悪魔はお互いに何らかの運気を上げる術でも使ったのかと疑い、お互いに否定する。
当の本人はチケットを手に溜息をつく。
「ご、ご主人……?一等……」
「うん……」
「ず、随分と運がよろしいようで……?」
「昔からなんだよね……運だけは凄く良くて……」
引きつった笑顔で顔を見合わせた天使と悪魔は同じ人間を頭に浮かべていた。
「駿河と足して二で割ってあげたいね……」
「まったくだな……」