天獄の救世主様っ!   作:弥代海月

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6話

福引きで一等の一日遊園地貸し切りが当たった響。

せっかく貸し切りなのだからとラファエルが契約者達に片っ端から声を掛け、姫莉と弥琴以外は遊びに来てくれた。

この前の交流会で挨拶が出来なかった璃玖と緋奈が二人で話しているのを見かけた響は、二人に駆け寄る。

「あの……」

響に気付いた二人は響の方に向き直る。

「あ、ルシファーの……」

「この前挨拶出来なくてごめんなさい。僕ルシファーとラファエルの契約者の涼村響って言います」

ぺこりと頭を下げた響に二人もつられて頭を下げる。

「ご丁寧にどうも、有栖川緋奈です」

「成瀬璃玖です〜この間はマモンがやかましくしてごめんね〜」

「ブーちゃんが元凶だし謝るなら私の方だよ、ごめんね」

「いえいえ!賑やかで楽しかったです!」

談笑する三人の所へ音も無く近付いたマモンが璃玖の肩に腕を回す。

「だ〜れがやかましいって?」

「うわ、マモンだ!逃げろ〜!」

するりとマモンの腕を抜け走り去る璃玖を追いかけるマモン。

「おいコラ待ちやがれ璃玖!」

取り残された二人は、楽しそうに追いかけっこを始めたのを見て小さく笑いを零す。

「楽しそう」

「いつもあんなだよ、あの二人は」

天使と悪魔との関係性も、人それぞれ。

響や弥琴のようにしっかりとした主従関係もあれば、璃玖や緋奈のように友達のような距離感で接している人もいる。

きっとどのような結末を迎えるのかもそれぞれあるのだろう。

「ひな〜お化け屋敷あるよ〜」

遠くからのんびりした声で呼びかけるベルゼブブを見て、緋奈は響に会釈をしてその場を離れる。

一人になった響は、さてどのアトラクションから回ろうかと辺りを見回す。

そこへルシファー、ラファエル、アズラエルを引き連れて駿河がやってきた。

「響くん一緒に回って〜」

両手を合わせて頼み込む駿河。

快く承諾した響に感謝を伝えた駿河の元にウリエルと碧空がやってくる。

「僕も混ぜて」

「あ、碧空」

響に確認をとる駿河に「もちろん」と快諾する響。

そんな響に碧空は屈んで耳打ちをする。

「駿河、凄く不幸体質だから何かトラブったらごめんね」

「聞こえてるよ碧空〜」

バツが悪そうに頬をかく駿河は「今回は大丈夫だと思うよ」と胸を張る。

「さっきラファエルから響くんはすっごく運がいいって聞いたから!相殺してくれるんじゃないかな!」

「人並みにはなれるか」

「そう、人並みにはね!」

自慢げな駿河にウリエルが小さく「かわいそう」と呟いた。

言葉を詰まらせた駿河は響と碧空の手を引き、「遊び尽くすぞ〜!」とアトラクションへと駆けて行った。

その姿を見送り、ルシファーが口を開く。

「アスモデウスは来なかったんですか?」

それを聞いたウリエルはうん、と頷く。

「碧空が悪魔だとは分かってるけど猫にしか見えないから、猫は遊園地には連れて行けないからって置いてきたの。行きたがってたけどね」

アスモデウスは見た者の好きな見た目で見えるようになっており、人によって姿が違って見える。

契約者である碧空には猫に見えているようで、猫と同じような扱いを受けているらしい。

「猫ならしょうがないですね」

さて、と呟き休憩所のある建物へ向かおうとするルシファーの手を取るラファエルとウリエル。

「……?何を……」

「せっかく遊園地来たんだし!」

「遊ばなきゃ損だよね?」

嫌な予感がしたルシファーは顔を引きつらせる。

「は……?いや、お前らだけで……」

しまいにはアズラエルにも背中を押される。

「人間の文化に触れるのもたまにはいいわよ〜」

「遊園地と言えばジェットコースターだよ!ルシファー!」

「もしかして怖いのかな〜?」

ニヤニヤ笑いながら顔を覗き込むラファエルにカチンと来たルシファーは眉を寄せながら呟く。

「いいんだぞお前の安全バーだけ無くしてやっても」

「ジェットコースターの楽しみ方分かってないわねあんた!空飛ぶのとは訳が違うのよ!」

遊ぶ気の無かったルシファーは三人の天使に囲まれズルズルと引きずられていった。

 

ゴーカート、鏡の迷路、ジェットコースターなどを周り、次は何処に行くかの話し合いをしている二人の後ろから、チュロスを食べながら着いていく響。

観覧車かお化け屋敷かと話す二人の声を聞きながらぼんやりと周りに目を向けていると、一人のスタッフがこちらに向けて手招きをしているのを見付けた。

二人に声をかけようかと迷ったが、二人の会話が白熱しているのを見て、すぐに帰れば問題無いかと判断した響は一人でスタッフの元へ近付く。

「どうし……」

どうしたのかと声をかけた響の口を塞いだスタッフは、そのまま響と共に路地裏へと消えた。

音も無く行われた誘拐に園内の誰も気付く事はなかった。

駿河と碧空はようやく次の目的地を決めたらしく、響の方を振り向いたがそこには誰もいなかった。

「あれ?響くん?」

きょろきょろと辺りを見回す駿河と碧空。

近くには響の姿は見当たらず、二人はみるみる顔が青ざめる。

「ヤバい……?」

「ヤバいかも……」

二人は大急ぎで園内を駆け巡り、呑気にソフトクリームを食べていた天使と悪魔を見つける。

「あ!いた!ルシファー!」

「ん、駿河様?どうされました?」

「ごめん!目を離した隙に響くん見失っちゃって……!探せないかな……!」

ラファエルとルシファーがそれを聞いてすぐに探知を開始するが、どちらの探知にも主人の居場所は引っかからなかった。

「ルシファー、探知反応しない!」

目を閉じていたルシファーはゆっくりと目を開く。

「ああ、少しまずいな……」

確かに主人は探知には反応しなかったが、ルシファーはひとつだけ、気になる存在を認知していた。

 

一方、誘拐された響は誘拐犯に菓子を振る舞われていた。

「あの……?」

状況が飲み込めていない響に誘拐犯はスタッフ帽を脱いで微笑む。

長い黒髪にマスクが印象的な彼の耳元で赤い耳飾りが揺れた。

「ごめんね、君を傷付けるつもりは無いから安心して。人間の子供はお菓子が好きだって聞いたから用意したんだけど、お気に召さなかったかな」

向かいの席に座りながら頬杖をつくマスクの青年。

「あ、いえ……!ありがとうございます……?」

悪い人では無さそうだが、知らない人から食べ物を貰う訳にもいかず、響は視線を巡らせる。

扉はマスクの青年の背後のひとつのみ、逃げ出す事は困難だろうと考え、大人しく座っておく事を選択した。

「あまり警戒しなくても、多分すぐに皆来るよ」

その言葉の通り、数分と待たずに部屋の扉が開き「響様!」と聞き馴染んだ声が飛び込んでくる。

「ルシファー?」

青年の肩越しに顔を覗かせた響と、その声を聞いて席から立ち上がって振り返るマスクの青年。

響の元に駆け付け、怪我は無いかと訊ねる駿河と碧空は青年を見据えて呟く。

「悪魔だよ、あれ」

「しかも相当強い……」

扉の向こうでは天使達が警戒態勢に入っていたが、一番前にいるルシファーだけは目を見開いて青年を見ていた。

「アスタロト……?」

アスタロトと呼ばれたマスクの青年は呑気に「お久しぶりです」などと手を振って応えた。

「何でお前がこんな所に……」

「ルシファー様、魔界に帰ってきてください」

突然の申し出に固まるルシファー。

溜息をつき、だるそうに首元に手を回しながら答える。

「お前がいたら大丈夫だろ」

「俺には貴方ほどのカリスマ性も実力も無い。悪魔達もこの子を殺そうと躍起になっている。この子の安全の為にも魔界王になってください」

「ならないって言ってんだろ、ずっと」

「魔界の現状に目を向けてください。魔界王になるなら貴方しか……」

「ならない。何を今更言ってるんだ、何百年とこの状態だろ」

話はそのまましばらく平行線を辿り、人間と天使はじわじわと疲弊していった。

とうとう耐え切れなくなったラファエルが口を挟む。

「いいじゃんもう一回帰ってやりなよ」

ムッとしたルシファーにも若干の疲労が滲んでおり、諦めたように溜息をついた。

「分かった、明日にでも一回帰る」

パッと顔を輝かせたアスタロトが「必ずですよ」と言い残しその場から姿を消した。

そこにいた全員が、気が抜けたように大きな溜息をついてへたり込む。

「お互い全然譲らないじゃん……永遠に続くかと思ったわよ……」

「悪い……俺もムキになってた……」

 

その後は結局、その場にいた全員が遊ぶ気になれず、美味しいご飯だけ食べて解散となった。

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