休日の午前をだらだらと潰してしまい、あっという間に午後。
リビングのソファで寝転んだ響は掃除でもしようかなと思っていた。
すると、玄関ドアの開く音。
目の前にラファエルとルシくんはいる。
「ルシファー?」
声をかけると、玄関と反対方向から悪魔の返事が聞こえた。
「どこ行ってたの?」
「いえ、何処にも……ずっとおりましたよ」
「え……」
この家に帰るべき存在は全員部屋にいるのに玄関ドアの開閉音。
すぐにルシファーが立ち上がる。
「響様はそこに居てください。少し様子を……」
見てきます、と続けようとしたルシファーはリビングのドアが開いた音でそちらを振り向く。
「お!なんだお前不審者か?」
何処かで見た顔の面影を残したスーツ姿の女性がそこにいた。
その声を聞き、上体を起こしてルシファー越しに覗いた響は嫌そうな顔をした。
「お母さん……?」
先程まで眉を
「ひびきゅ〜ん!母さん寂しかったぞ〜!」
抱きつかれた響はそのままソファに倒れ込んだ。
ひたすら頬擦りをされながら死んだ顔で享受している。
と、不意に母親が振り返り口を開く。
「で、お前らは?警察呼ぶか?」
警戒しながらも響を撫でる手は止まらない。
「お母さん、この人たちは……」
説明しようとしてはたと気付く。
天使と悪魔です、なんて馬鹿正直に答えようものなら警察どころか精神科医のお世話になってしまう可能性すらある。
かと言って上手い説明も思い付かず、答えあぐねる響にルシファーが助け舟を出す。
「響……くんの友達の太郎です」
思わず吹き出しそうになった響は顔を背ける。
その言葉を聞いたラファエルも続ける。
「同じく花子で〜す」
「なんだその日本国民の見本みたいな名前はぁ……」
「いや!親から貰った大切な名前だ!あまり言うのもよろしくないな!疑ってすまない!」
握手を求める母親に片手を差し出したルシファーは、その手を取られ上下にぶんぶんと振り回される。
「響と仲良くしてくれてありがとう!少し抜けてるが悪い子じゃないから、今後もよろしく頼むぞ!」
はい、ええ、と適当に相槌を打つルシファーを見て笑いを堪えるラファエル。
「今日は遊びに来てくれたのか?お茶も出さずに申し訳ない!」
「あぁいえ、お気遣いなく……」
冷蔵庫を開けた母親は慣れた手つきで麦茶を取り出してコップに注ぐ。
「遠慮するな!むしろこんなものしか無くて申し訳ない!」
天使と悪魔の目の前に麦茶を出した母親は、また響を撫で回す。
「はぁ〜ひびきゅん、一人にさせてすまない……母さんと一緒に暮らすか……?」
「学校が遠いよ……」
「そうだよなぁ〜……」
頬擦りをしながら少しの沈黙の後に母親が話し始める。
「……本当はな、今日は母さんの家来ないかって、転校しないかって言いに来たんだ」
それを黙って聞く三人。
「でも、友達が出来たんだな。引き離す訳にはいかないし諦めるよ」
ずっと響を撫で回していた母親は天使と悪魔に向き直る。
「響を一人にしてしまうダメな私の代わりにこれからも傍にいてやってくれ」
頭を下げた母親に二人は顔を見合わせ「もちろん」と笑った。
それを聞いた母親は顔を上げて笑う。
「まぁ得体の知れなさは若干怖いがな、響が選んだ友達だ。文句は言うまいよ」
さて、と呟き立ち上がる母親。
「母さん明日も仕事だからもう帰るぞ。ひびきゅんにも出会えたことだ!仕事頑張るからな。お金は足りてるか?家事は滞っていないか?大丈夫か?」
「も、もういいから早く帰って……」
撫でくり回され疲弊しきった響が母親の背中を押して玄関まで行く。
「次来る時は連絡してね」
「ああ!また様子を見に来るからな!あ、父さんによろしく言っといてやれ!じゃあ元気でな、響」
閉まった玄関ドアに手を振る響。
「つ、疲れた……」
「嵐のような方でしたね」
「いっつもああなんだよね……もっとゆっくり出来る時に来て欲しいな……」
呟いた横顔は少し寂しそうだった。
結局、母親の襲来で何もしない一日になってしまった響だったが、その日はぐっすり寝られた。