【連載版】TS異世界リフォーム工務店 〜勇者がぶっ壊した魔族屋敷、格安再生して高く売れ!〜   作:劇団おこめ座

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2章 1話 王都内一等地の4階建て旧伯爵屋敷のリフォーム

 王都の一等地に、その屋敷はあった。

 

 立地だけなら文句のつけようがない。

 本来なら貴族が奪い合うその土地に、誰も買わなかった屋敷があった。

 王城からはやや遠いが、大通りに面し、商人も貴族も行き交い、王城の文官や騎士達もせわしなく通り過ぎていく場所だ。

 その一角に、ボロい作業着を着たエルフの俺と、今日は深海のような濃い青のチャイナドレスを着ているツノの生えたドラゴン族の女、ニーナ、年季の入った作業着を着たずんぐりムチムチのドワーフ族の男ゴンザレスが立って、その屋敷を見上げていた。

 

「……ねえリファ」

 

 隣に立つニーナが、屋敷を見上げたまま言った。

 

「よくこんな建物が残っていたわね」

 

 俺は答えず、ただ外壁を観察する。

 代わりにゴンザレスが説明した。

 

「近くに民家がたくさんあるから、下手に取り壊すと周りの物件に傷をつけるかもしれないから、壊せんのだろ」

 

 王都でも珍しい四階建ての屋敷。

 王城の近くの公爵家の屋敷くらいにしか存在しない高さだ。

 

 だが、その姿は見るも無惨で、今まで崩れていなかったことの方が神の奇跡にも見えた。

 

 四階部分は、黒く焦げている。

 まるで巨大な火事にでも巻き込まれたかのように、壁が煤で覆われていた。

 

 三階はもっとひどい。

 

 外壁に巨大な横一閃の斬撃の痕が走り、今にも崩れ落ちそうなほど深く抉れている。

 

 二階の割れた窓から見えるのは、落書き。

 意味の分からない文字や、子供の悪戯のような絵が壁を埋めていた。

 

 そして一階。

 

 隅っこにボロ布にくるまった男が寝ていた。

 

「……」

 

「……」

 

 俺たちは顔を見合わせた。

 

「……起きてくれる?」

 

 ニーナが軽く揺すると、男はむくりと起きた。口からは濁ったアルコールの臭いが漂ってくる。

 一瞬、男の顔が赤くなる。

 ニーナは出るところは出て引っ込むところはしっかり引っ込む長身の美女だからな。

 

「ここは俺の家だぞ……」

 

「違う」

 

 書類をひらりと見せる。

 

「今日からここは俺たちの物件だ。文句があるなら衛兵を連れてきて一緒に話し合おう」

 

 男はしばらくぼんやりしていたが、やがて「ああ……」と小さく呟き、荷物を抱えて去っていった。

 

 静かになった一階で、ニーナが言う。

 

「……これだけ酷いなら……その分、儲かるわね」

 

 ニヤリと悪い笑顔にニーナがなる。俺もゴンザレスも同様に悪い笑みを浮かべたと思う。

 

「俺にしかできない無料の修繕ができるからな」

 

ーーー

 

 屋敷の中は、外見よりはましだった。

 

 一階の中は家具は撤去されているが、構造はまだ生きている。

 

「土台も基礎も悪くない」

 

 俺は床を軽く踏み、柱を叩く。

 

「骨組みは生きてる」

 

「それは分かるけど……」

 

 ニーナは天井を見上げた。

 

「あの四階の焦げはどうするの?」

 

「火属性魔法の暴発だったかな? 俺が壁を作り直せばいい」

 

「軽く言うわね」

 

 俺たちは階段を上がった。

 

 二階で、俺たちは落書きだらけの壁を見つめた。

 

「これは……」

 

「子供と、大きな子供の遊び場にされてたわね」

 

 ニーナが苦笑する。

 

「消して再利用する?」

 

「土製の壁の方はできるけど、板張りの壁は取り外した方がいい。焦げ臭さが移ってる」

 

 問題は三階だった。

 

 階段を上がった瞬間、俺は足を止めた。

 

「……ああ」

 

 思わず声が漏れる。

 

 壁を深く抉る、巨大な斬撃の跡、妙に硬く大きな石製の棘のモニュメントが十五、六箇所ある。

 

 俺には見覚えがある。

 

 当然だ。

 

 ……この戦闘に、俺もいた。

 

ーーー

 

 あの時……当時の俺は、前世で出来なかった多くのことができ、エルフの中でもトップクラスの土魔法使いとなったことからも、プライドも高かった。

 

 だから、勇者と俺は、いつも功績を競い合っていた。

 

 この王国の伯爵屋敷に魔族幹部が潜伏していると聞いたときもそうだ。

 

「俺が倒す。お前は雑魚をやれ」

 

「逆だろ。お前が雑魚をやれ」

 

 そんな言い合いをしていた。

 

 そして、クソみたいな総力戦の乱戦になり、俺は手あたり次第、見つけ次第魔法を唱えた。

 次々に倒れていく魔族や魔物に、己の功績を焦った勇者が魔族に剣を振った。

 

 派手に。

 

 キザっぽく、格好良く。

 

 そして、外した。

 

 壁だけを盛大に破壊した。

 

 石壁は紙のように裂け、斬撃は三階から外壁まで貫通した。

 

 肝心の魔族は、その隙に窓から逃げた。

 

 

ーーー

 

 俺は壁の斬撃跡を撫でた。

 

「これは残す」

 

「え?」

 

 確かにそうだ。事故や戦闘の痕跡なんてものは、価値を下げる要因にしかならない。だからこそだ。

 

 俺は軽く壁を叩き、斬撃の走ったラインを指でなぞる。

 

「これは使える気がする。むかつく勇者を、客引きパンダにしてやろう」

 

 ニーナが一瞬きょとんとしたあと、くすりと笑った。

 

「……なるほどね。『勇者が戦った証』ってことにするのね」

 

 本来の土地販売価格は74万ゼニー。

 解体依頼料33万ゼニー。

 

 それらをひっくるめて購入。

 建物及び土地代、41万ゼニー。

 日本円にして約4100万円。

 

 相場は中古物件二階建て土地付きなら80万ゼニー。

 四階建てなら130万ゼニーも狙えるだろう。

 

 何もトラブルが起きなければ、ボロ儲けだ。

 そう、何も起こらなければ。




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