【連載版】TS異世界リフォーム工務店 〜勇者がぶっ壊した魔族屋敷、格安再生して高く売れ!〜 作:劇団おこめ座
建物の外壁を魔法で補強し、色もくすんだ灰色から真っ白な外観へ変える。
王国ではかなりの高さの建物だ。
これだけ目立つように改築を始めたのだ。
すぐに目ざとい客が食いつくに違いない。
しかし、思っていた獲物ではなく、予想外の来客とトラブルを釣り上げ、俺たちの計画はすぐに崩れることとなった。
数日後の爽やかな晴れの日にノコノコと王国建築課という腕章をつけた男の役人二人がやってきた。
「この建物は日照権の侵害と高さ制限違反をしています」
開口一番、それだった。
「この土地で建てることのできる建物は基本的に8メートルまでなんです」
俺は耳を疑った。
「は?」
思わずいつも以上に間の抜けた声が出た。
「理解出来ませんか? これだから汚らしい作業員は……。これ、違法建築なんですよ」
こいつら、最初からケンカ売る気満々だな。
現代で飛び込み営業やってみろよ、速攻で追い出されて苦情を会社にぶち込まれるぞ。
「ちょっと待って」
ニーナが建物の奥からやってきた。スリットからチラリと覗いた脚に役人どものゲスい視線が刺さった。
なんでわかるって?
そりゃ、俺は前世は男だからな。
ニーナが現場責任者かなんらかの偉い人だと思ったのか、それともこれから素敵な関係を築きたいと妄想しているのか、役人たちは佇まいを直した。
「この屋敷、何十年も前からあるわよね?」
「はい」
「なんで私たちに所有権が移った途端そんなことになるの?」
「そうなんですか?」
一瞬、役人の言葉が詰まる。
だがすぐに取り繕い、書類を差し出してきた。
「王国裁判所から交付された是正命令書です」
ニーナの眉間に血管が浮かび上がり、顔が真っ赤になる。ツノの先端から水蒸気でも噴出しそうだ。
「だから、なんで今更なのよ! 前の所有者は是正してないじゃない!」
こちらの話は一向に聞かず、役人は声を出す。
「解体せずに、四階建ての建物としてリノベーションするのでしょう?」
役人はそう言って涼しい顔をして是正命令書をニーナに手渡す。
「住民の皆様から相談を受けておりますので、早急に対応してください」
淡々と、それだけ言って書類を押し付けてくる。
「どの口で言ってるのよ! 前の貴族の時になんで是正命令がでなかったのよ! そもそも所有者が変わってすぐに是正命令書だなんておかしいでしょ!」
ニーナの叫び声だけが建物にこだまし、役人二人は逃げるようにその場から消えた。
ーーー
「ずっと前から建っていたから、建築法違反とか日照権侵害になっているなんて気がつかないわよ!」
ニーナは頭を抱えた。
「しかも元の権利者から説明なし!? 重要事項説明義務違反でしょ!」
俺は書類を読んだ。
書面には、
1、王国憲法第23条、人権の保障に付随する日照権の侵害
王都建築規則北側斜線制限に基づき、王都一等地指定区域において国王の特別な許可なしに建てられる建築物は、その北側に隣する居住者の日照権を守るため、
•起点:5メートル
•勾配:1.25
(※境界の北側ほど高さ制限が厳しくなる仕組みで、北側の境界から南に1m離れるごとに 1.25mずつ高さが増える)
の制限があるにも関わらず、貴殿の土地の北側境界から貴殿の建築物は2.6メートルの地点にあるも、同制限から算出される制限の限界値8.25メートルを超えた高さで存在している。
2、王国建築法違反
王国建築法第154条、王国施設またはそれに準ずる建築物を除く王都内の建築物の高さ制限
8mメートル
を超えている。
要するに、
『隣の家の日当たりを邪魔する高さ』
で
『王都内で高さ8メートルを超えるの建物を建ててはいけない』
ってことらしい。
俺はため息をつく。
「一般的な建物の高さが一階あたり三メートルだから、この建物は約十二メートル。三階まで残しても九メートル。
高さ制限の八メートルを超える。
ちなみに、四階は高さ十二メートルになるから完全に違法。
三階も削らないといけない」
つまり、この四階建ての屋敷は……
「二階までになるのか……」
ニーナは深くため息を吐いた。
「一階あたりの床面積は少ないから……貴族へ屋敷として売るには狭すぎるわね」
普通の中古の二階建て屋敷なら、80万ゼニーが相場だ……この狭さなら65万ゼニーが妥当だろう。
一等地なら貴族でなくても商人なら喜んで欲しがるだろうが……。
俺は壁を殴りつけた。
「クソォォオ! 130万ゼニーが吹き飛んで半額になんのかよ!」
ニーナはしばらく黙っていた。
「……完全に、私の見落としね」
確かに、交渉や契約はニーナの仕事だ。
「……俺たちもミスはする。気にすんなとは言えるようなミスじゃねえけど、落ち込んでいる暇があったら、なんとか儲けを取り返す話し合いをしようぜ」
ーーー
ゴンザレスと合流して、クソ命令書を見せる。
「こんな紙、ヤギにでも食わせちまえ」
「それをやると投獄される上に、財産没収だぜ」
「期限は?」
「すみやかに、だとよ」
「すみやかっていつなんじゃろな。役人どもは言葉遊びが好きだな」
ゴンザレスが鼻で笑った。でも、目は笑ってない。
「少なからず、努力はしていますという姿勢は見せないといけないわ。とりあえず、煤まみれの4階を消し去りましょう」
ニーナの言葉にみな同意し、俺は4階部分を土魔法で砂にして取り崩す。
風と一緒に砂は飛んでいった。
キラキラと舞う砂は虹色の輝き、やがて消えていく。俺たちが空を見上げているように、周囲の人たちは口を半開きにして舞う砂を見つめた。
ーーー
砂が風に乗ってどこかへ消え去ると近所の住人たちが声をかけてきた。
「あの焼けこげた4階を解体してくれたんですか?」
見たらわかるだろ、と言いそうな声を引っ込める。一応、客商売なのだ。変な言動をすればそれが噂になり、その噂から信用を無くし、買い手が付きにくくなる。
それにここは王都の一等地。ここで声かけてきた人がどんな人でどんな繋がりがあるのかわからない。
「そんなところです」
俺がそう伝えると
「良かった。助かりました」
住人たちはほっとした顔を作る。
「この辺り、この建物のせいでこの周辺の日当たりが悪くなって……気持ちが毎日陰鬱な気持ちになったのよ。ありがとう」
「あの屋敷のせいで、この通りの地価が下がっていたのよ」
「日差しが入らない庭なんて、誰も招けなくて……本当に助かったわ」
「ここの元伯爵様には、誰も文句なんて言えなくて」
「建築課にも相談したり抗議もしてたのよ。でも……ずっと問題なしって言われててね。だから、本当にありがとう」
……なるほどな
前の持ち主が放置されていた理由が、これか。
そう思いながら、話を聞いていると、感謝の気持ちの他に、次々と過去の不満が噴出してくる。
でも、ぶっちゃけ俺の仕事じゃない。
「大変だったんですね」
でも、俺はうんうんと相槌をした。
俺たちの現状の方が大変なんだぞ、とは口には出さない。営業スマイルを心がける。笑顔を作れば、このエルフの少女の顔は不快な気持ちを作らないほど造形がいいのだ。
「そうなんですよ。大変なのよ。この辺は一等地だから住宅が多いのよね。
お店が少ないから、なんかのお店になってくれないかなぁ」
話が一段落し、住民たちが去っていった。
俺はニーナを見た。
「店だ……店だよ」
「え?」
ニーナはまだ気づかない。
「店にするんだ」
言葉が転がり出る。
「ニーナ、ここをテナント物件としてリフォームしよう!」
そこで、ニーナの意気消沈していた顔色に火が灯った。
「……そうか、その手があったわね!」
ニーナが笑う。
今度は、さっきまでの苛立った顔じゃない。
「俺の昔からの知り合いに商家の次男坊がいる。相談すればいいアイディアが出てくるかも」
「早速手配して! 頼むわ!」
物静かなニーナも好きだけど、イケイケどんどんのニーナの方が俺は好きなんだ。
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