【連載版】TS異世界リフォーム工務店 〜勇者がぶっ壊した魔族屋敷、格安再生して高く売れ!〜   作:劇団おこめ座

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3章 5話 破産者トラブル

 ゴミ掃除が概ね終わった。

 スライムの襲撃イベントはあれ以来なかったし、地下室で倫理的にアウトな理由で生成していたホムンクルスもいなければ、栗みたいな爆弾も散らばっていなかった。

 

 腐りかけのフローリングを取り外していくと、古めかしい作業服を着た作業員5人がやってきた。

 業者は呼んだ記憶がないので、何事かと相手をする。

 

「こちらの家の精霊コンロの解体を引き受けにきました」

 

「いや、精霊コンロの解体なんてしないけど……なんでそんなこと知っているんだ」

 

 彼らは俺の言葉に顔を見合わせた。

 

「違法だから解体するんでしょ? うちらなら相場より安くできますよ」

 

「錬金術に使えば違法だけど、錬金術に使わないし、排気口も上に付け替える予定だから、全く違法にならんよ」

 

 俺はとりあえず、その業者たちを追い返した。

 何で精霊コンロがこのボロ屋敷にあることを知っているのかは、その業者たちは一切口にしなかった。

 オークション前に見にきたのかもしれないけれどゴミだらけでわからないだろうし……このゴミ屋敷が綺麗な時に来た客からの情報などあったのかな。

 

 業者が屋敷から出て行ってから、業者の後を少し追って聞き耳を立てる。

 

「おい。話と違うぞ」

 

「あの錬金術師、金になる情報だって言っていたのに」

 

 そんな不穏な言葉が聞こえてきた。

 ろくでもないことになりそうな気がした。

 

***

 

 翌日、奇抜な格好をした細身の男がやってきた。

 白い襟付きのシャツの上に赤色の光沢のあるテーラードジャケット、下に黒のぴっちりのスキニーパンツに頭に大きな白い羽根が刺さった赤色の中折れハット。編み上げの革のブーツがカツカツと音を立てていた。

 絶対こいつナルシストだ。

 そんな雰囲気のするやつだ。

 そして香水臭い。

 香水なんてたくさん使えばドブの中にいるような臭いを放つのだけど、使っている本人は鼻が慣れちまっていて、わかりゃしない。

 香水以外に、すえた臭いが混じる。

 体を洗わないやつや、服を洗わないやつの臭いだ。

 

「ああ、こんなに綺麗にしてくれたか、小さき職人よ。私がこの屋敷の主のセニョールだ」

 

 元の持ち主が来た。ぱっとみ、白魔法も黒魔法が使えて連続魔が使えるあの赤い魔導士みたいな恰好をしていたから、錬金術師だとはすぐにわからなかった。

 これはめちゃくちゃ面倒になるやつだ。

 俺は慌てて声を上げる。

 

「ゴンザレス! 緊急だ! 前の持ち主が来た!」

 

 裁判所オークションで入手した差押物件に、前の持ち主、特に夜逃げしたようなやつは絶対に家に入れてはならない。

 奴ら、訳アリの前所有者を一度でも入れたら最後だ。

 大体のパターンとしては、

 

・ 夜逃げしたと言われているが、実は荷物を置いたまま一時的に離れていただけだ。

  だから、この建物は君らが所有していても、建物の占有者は私だ。

 

・ 建物の所有権は君らにあるけれど、私の荷物がまだあるから出られない。

 

・ 業者が勝手に私の荷物処分しようとしている。

 

・ ここは元々私の家で、追い出されても行くところがない。王国民に平等にある生存権を侵害されている、と主張したり、オークションの手続きに誤りがある、などと裁判所へ再審請求をし始める。

 

 ざっとこんな話をコロコロとされて、裁判所に元居住者の立退請求とさらにそれに応じない場合の強制執行まで、一年の時間がかかる。

 鍵や窓を壊されて侵入されたという場合は衛兵が建造物侵入や器物損壊の罪で捕まえてくれるが、普通に入ってきてしまった場合は王国裁判所で民事訴訟で対応する他ないのだ。

 当然、そんなことをしていれば、物件売買の利益はいつまでもでない。

 しかも、揉めている物件だということで客が嫌がるだろう。

 だから、最後には金で殴って追い出す他ない。

 その金だって、足元を見られて高値を要求されるのだ。

 そんなのは馬鹿馬鹿しい。

 

***

 

 俺はゴンザレスを呼び出し、すぐに土魔法で建物と敷地全を石のドームに包んだ。

 

「はあ!? 君たち、どういうことだい? 私はここの家主だよ? 王国一有名な錬金術師セニョールなんだよ!」

 

「違うだろ。この建物を売り出された夜逃げのセニョールだろ」

 

「だから薄汚い建築業者は嫌いなんだよ! 責任者を連れてこい?」

 

 職人をバカにする言葉に、眉間に血管を浮かび上がらせたゴンザレスが手元のハンマーを取り出した。

 やめろ、ここは王国衛兵の目が届かない、どこかの山の中やダンジョンじゃないんだぞ。

 俺はゴンザレスの前に片手を出して静止する。

 

「俺が責任者のリファだ。こんななりだがお前より年上のはずだし、浮浪者のお前よりまともな生活もしているんだわ。一体いつ風呂に入ったんだ」

 

「私が浮浪者だと!? 家がそこにあるじゃないか!」

 

「嘘つけ。王国裁判所が最近交付した不動産権利書が俺たちにある。お前が払わなかった税金の滞納で財産没収後ここは最低でも一年前から誰も住んでいなく、鍵も裁判所で保管。お前がここに住んでいたとは言えないよな。ワイシャツの襟元が茶色いぞ。浮浪者の典型じゃねえか」

 

 セニョールは奥歯を強く噛み締め、ギリギリと音を立てた。

 

「ぐぬぬ! 私の契約した精霊が中にいる! 精霊なら私のことを説明してくれるはずだ」

 

「火の精霊のことか?」

 

「そうだ。ウェスティア=フレイア、火の上級精霊だ。聞こえているだろ! ウェスティア!」

 

 セニョールの声に応じて、火の上級精霊ウェスティア=フレイアが現れる。たれ目の優しそうなお姉さんみたいな、緩い感じの雰囲気をいつも身にまとっているが、今は眉間にしわを寄せている。

 

「おい、ウェスティア=フレイア、セニョールがお前とまだ契約しているって言っているけど本当か?」

 

ーーーあなた、契約不履行したじゃない。私にくれるって言っていた捧げもの、一切なかったじゃない。だから、あなたの契約はもう何年も前に切れているし、2、3年前からここに姿すら表さなかったでしょ

 

 俺はそのやりとりに思わずニヤリと口を釣り上げた。

 

 精霊は嘘をつかない。

 裁判でも精霊の発言は証拠として使われることがある。

 だから、ウェスティア=フレイアのこの発言は非常に重たい意味を持つ。

 

「ウェスティア=フレイアはお前を家主と認めていなけば、契約も捧げものしてないから契約不履行により解除されているって言っているけど……それなら当然のこと裁判所の権利書の通りお前のこの家や家財に対する占有権、とっくにないな」

 

「なんだと! ウェスティア=フレイアがそんなこと言うはずがない!」

 

 セニョールが俺の胸ぐらを掴んだ。

 胸ぐらを掴まれたことよりも臭いがひでぇ。

 

「早く離れろ、薄汚い浮浪者!」

 

 ゴンザレスがセニョールの手を捻り上げて、突き飛ばした。

 地面に転がったセニョールは大袈裟に腕を抑えて喚き始めた。海外のプロサッカー選手並みのリアクションだ。

 

「痛い! 痛い! 今、暴力を振るわれたぞ! 衛兵を呼ぶぞ!」

 

 セニョールが叫ぶが、俺はゴミを見る目で手を払う仕草をする。

 

「呼んでくれ。道路で騒いでいるくっせえ浮浪者がいるからな」

 

 そして、俺は作業服の胸の辺りまでボタンを外す。

 鎖骨より少し下の白い肌には赤い痕がある。胸ぐらを掴まれた時の痕だ。

 

「俺はお前に暴力を振るわれて、ゴンザレスが暴漢のお前を引き剥がしただけ。衛兵が来て困るのはどっちなんだろうなあ? おーい、衛兵さーん!」

 

「くっそおおお!」

 

 セニョールが足元の小石を投げて、逃げていく。小石は、建物を囲む土魔法の壁にあたり砕け散った。

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