【連載版】TS異世界リフォーム工務店 〜勇者がぶっ壊した魔族屋敷、格安再生して高く売れ!〜 作:劇団おこめ座
スキンヘッドの男が出て行き、屋敷の前には、またさらに10人くらいの活動家が増えていた。
その中でも目立つ人族のデブがいた。
指には貴金属の指輪がキラキラと鈍く光っていた。
「ゲイル、精霊を愚弄する奴らの建物はどうだった?」
スキンヘッドの男にそうデブが言う。
「ゴルドー代表、この屋敷は精霊のために改築され、精霊もそれに感謝し、愛を囁く状況です。ここに精霊の虐待はありません」
ゴルドーと呼ばれたデブ男は歯軋りをした。
「過去には?」
「はい?」
「過去に虐待を受けていただろ?」
「そうですね。過去に酷い目に遭った雰囲気はありました」
「お前はこの薄汚いエルフの作業員に騙されているんだ。過去の虐待を誤魔化し、我らスピリチュアル・ピースの目を欺こうとしているのだ」
ゴルドーは両手の人差し指を立てて空に掲げる。
すると、活動家たちは感極まった顔をして、地面が揺れるような声を出す。
「スピリチュアル! ピース! スピリチュアル! ピース!」
声が住宅街にこだまする。
過去の精霊虐待なんて、そこにいるセニョールがやったことでないか!
こいつらに俺から説明しても無駄だ。
火の精霊ウェスティア=フレイアに説明させるべきだ。
「出てきてくれ、ウェスティア=フレイア!」
ゴォウ、と俺とスピリチュアル・ピースの間に虹色の火柱が立ち、捻り上がるとともに回りながら赤く長い髪の女性型の精霊が現れる。
優しそうな顔つきが少し険しくなっていた。
ーーーいい加減にしなさい、あなたたち!
スピリチュアル・ピースの面々は息を呑む。
「おお! 我らと同様に精霊は怒っているぞ!」
ゴルドーの声で、俺たちを罵る声が増える。
ーーーはやく、帰れクズども!
「やはり、そのエルフどもが許せぬと言っておるぞ!」
「ゴルドー代表、おかしいです。敵意は私たちに向けられています」
「お前は使えんやつだな! ゲイル! 貴様は破門だ!」
ゲイルはゴルドーに殴られて地べたに転がった。
まて、なぜ火の精霊の声が届いてない?
真逆ではないか。
ああ、こいつらは精霊と対話できないんだ。
「精霊と対話できるものはいないのか?」
周りのスピリチュアル・ピースの活動家たちは顔を見合わせた。
「精霊と対話できないなら何を言っているかわからないだろ」
「精霊とは心と心で感じ合うんだ」
ーーー何言っているんでしょうね、この人。そんなに心で会話ができたらこんな精霊保護団体なんてできるわけないでしょ
「そのとおりだな……。おい、セニョールだったか? セニョリータだったか? ウェスティア=フレイアの言葉、翻訳してやれよ」
ーーーあんたたちの顔は見たく無いから帰って。
「えーと、私は……帰る……家に、顔を見る?」
ーーーだめよ、あの人、片言だし、読解力もかなり低いから。
「俺が翻訳してやるよ」
「お前が翻訳なんてすれば都合のいいことしか喋らないだろ!」
「なら、お互いに信頼のおける第三者機関に依頼しよう」
「どこに依頼するつもりだ」
「福音のカーテンだ。折半して依頼すれば、公平にやってくれる」
「ふん、いいだろう」
数刻もしないうちに、福音のカーテンのシスタールナが派遣された。
エルフ族では無い人族のシスタールナの姿を見て、ゴルドーはニヤリと笑った。
精霊の声をクリアに対話できる人族は少なく、真実を話したとしてもそこをついて煙に巻くだろう。
「では、今回の依頼は、上級精霊の声の翻訳でいいの?」
「いや、周りがわかるように、翻訳された声の拡散もしてほしい。これだけ人がいるんだ。それでいいだろ」
活動家だけじゃなく街の人々が集まって遠巻きで見ていた。
だいたい70人くらいはいそうだ。
変な噂が立てられたらたまったものじゃない。
売れなくなる。
「ふん、いいだろ。こいつらが精霊虐待していたことが判明したら、折半せず、そいつらに全額請求しろ」
「それは、当人同士間で決めてください。私たち福音のカーテンの請求はあくまで両者に対して行います。どちらかに肩入れするような条件で、王国裁判所でも通用する証拠資料の作成に類する契約で、そのような不公平性のある契約はできません」
「で、値段は?」
「21万ゼニー」
「お前、足元見過ぎだろ」
「上級精霊と対話だけなら、1万ゼニーでも良かったのだけど、上級精霊から公平な証言を求めるものでしょう。最悪、このことで裁判出廷もしなければならないこちらの手間や、記録化。やることいっぱいなのよ。
それにスピリチュアル・ピースの皆さんはこの上級精霊を自由にするための活動なのでしょう? お金に目をつけるわけないでしょ。
だから、折半が代表さんの片手の指全部の指輪分になるように調整したんですよ」
片手でもう片方の手を隠そうとゴルドーはするが、当然隠せてない。
「こちらも責任を持って……福音のカーテンとしての仕事をするのだから、お金はビタ一文まけられないわ」
熱を持った瞳が向けられ、ゴルドーは視線を思わずそらす。
「ふん、福音のカーテンの嬢ちゃんの話はわかった。そこのエルフ筆頭の汚ねぇ作業員たち、お前らが虐待をしてないことがはっきりとしない限り、こちらは支払わねえかな」
「折半することで同意した上で福音のカーテンの職員を呼んでいる。今更俺たちがあんたのとこの団体に譲歩する道理はない。
それともなんだ、精霊の自由のために身銭は切れねぇってか?」
「ぐっ、後で泣き言を言うなよ。契約書にサインしてやる」
ゴルドーがシスタールナから渡された契約書にサインする。俺も契約書にサインをする。10万5000ゼニーがぶっ飛んだわけか、くそっ。
「サインを確認しました。早速、精霊ウェスティア=フレイアの声を自動翻訳して聞こえるように、かつ周囲の皆が聞こえるように拡散させましょう」
ーーーえっ、これ聞こえてるの? みんなわかる?
ウェスティア=フレイアが手を振りながら、声を出す。
その声と同じような声で翻訳された声が聞こえてくる。活動家たちはどよめきと歓喜の声をあげていた。
「火の精霊の中でも尊いそなたに不躾な質問をします。あなたはエルフの娘リファ、その他関係者から不当な扱いをされましたか?」
ウェスティア=フレイアは首を横に振る。
ーーー彼女やその仲間のドワーフ族やドラゴン族からはよくしてもらっているわ。見ず知らずの精霊の私に見返りを求めずエルダートレントを捧げてくれたし、私のいる住処をきれいにしてくれているわ。
活動家たちは、気まずそうな顔をしてプラカードを下ろし始めた。
そこで、一人そっと離れていく赤い服の男、セニョールを見つけて、指をさす。
ーーーそこのくっさい男、セニョール、逃げるな!
そいつが私に無理やり契約を迫ったやつ!
約束の薪はシケっているし、油は使い古した汚れた油。
綺麗にすると約束したはずの部屋は足の踏み場のない生ゴミも転がる汚い部屋。
嘘つき野郎!
二度と、私の名前を呼ばないで。反吐が出るわ。
熱心な活動家たちが、その言葉を聞いて、セニョールを囲みボコボコに殴り始めた。
ゴルドーもまたその様子を見てその場から離れようとする。
ーーーセニョールは私個人の話だからこのくらいのお灸を据える程度でいいけど……成金野郎。お前は別だ。
お前のせいで他の精霊たちが困っているの知っている?
私たちを困らせて食うメシは美味いか?
ゴルドーの前にはいつの間にかウェスティア=フレイアが浮かんでいた。
その表情は、火の精霊を彷彿させるような熱い情動を感じるようなものではない。小さな青い炎のような、感情を削がれたような無表情。
ただし、青い炎は赤い炎よりも温度はずっと高い。
「ひぃ」
ゴルドーに向かってウェスティア=フレイアが手を振るう。
するとゴルドーの右腕が宙に舞う。
腕は瞬時に燃え上がり灰と化し、地面に宝石のついた指輪が転がる。
腕の切断部からは肉の焦げる臭いが漂い、血液が滴る様子はなかった。
「ぎゃあああ!」
ーーー時間を与える。お前の組織解散のな。
時間を与えるけど命を保証したわけではない、そんな感じの言い方だった。
ゴルドーは悲鳴を上げながら走り去っていった。
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