【連載版】TS異世界リフォーム工務店 〜勇者がぶっ壊した魔族屋敷、格安再生して高く売れ!〜 作:劇団おこめ座
聖女サン
もう、ダメだ、そう思うことが増えてきた。
勇者エンデルクは仲間に当たり散らし、その仲間と揉み合いになった。
私はそれをなだめていた。
何度も何度も。
そんなことをしていたら、仲間たちからエンデルクのメス犬、エンデルクからは八方美人サンとか裏で言われていた。
でも、打倒魔王という目標において、些細なことだ。
そう心に言い聞かせていた。
いつものようになだめていると、とうとう目の前で尻軽女と言われた。
急に何もかもがバカらしく、打倒魔王という目標も霞んで見え、どうでも良くなり、パーティから離脱した。
行く当ては……祝福のカーテンの寮。そこでも良かったのだが、甘えられる人の家に行こう。
呼び鈴を鳴らすと、来る気がしたから鍵は開けてるよ、とスピーカーから声がした。
歩いて進むと、すぐにリビングに辿り着く。
目に飛び込むのは虹色の炎が煌めく暖炉、濃いミルク色の石材の床だ。
家の主は表面が革張りのソファになっているロッキングチェアに触りうつらうつらとしながら細目を開けた。
「酷い目に遭ったって顔してる」
気だるそうだけど、どこか優しい響きが心の奥に沁みる。
「もう最悪なのよ」
私はもう一つのソファにダイブする。
「うちの妹と同じでパーティをやめるんでしょ」
家主は自身の長い白銀の髪を撫でると、長い耳が現れた。
エルフ。白い肌に驚くほど整った容姿。あまり王都に現れないその存在は、エルフの貴族だから王都に別荘を持っていた。
ローザ・ブリュンスダッド
エルフの中でも高貴な貴族。先読みのギフトを持つエルフの切り札。
そして、
「うん、リファと同じ」
リファ・ブリュンスダッド、リファの実のお姉さんだ。
一般常識人なら、早くパーティに戻れと言うに違いない。聖女なのだから、聖女の役目を果たすべきだ、と。
「大変だったね」
ローザはそう言って立ち上がり、紅茶を淹れてくれた。
マスカットのような甘い香りが周囲に広がった。
「パーティの足りない資金はアルバイトで補填して、夜間も結界をしっかり張って、みんなを守り続けていたのに……」
襲われたら困るから性欲減退の魔法をかけていた、と言いそうになり口を閉じた。自意識過剰とか思われたら嫌だからだ。
「あの人たち、回復魔法を使えるのかな? 補充の伝手はあるのかな?」
「私より勇者パーティが心配なの?」
言葉にして、迷惑な女と思われたらどうしようと思った。既に口から出てしまった言葉に今更驚いてしまってももう遅いのだ。
ローザはそれを聞いても怒らず、少し困ったような笑顔になる。
「補充の伝手がなかったら、また執拗にあなたが呼ばれるわ。まあ、きっと、勇者パーティに誘われたなら好き好んで参加するでしょうけど」
「変なこと言って、ごめんなさい」
「それだけ疲れてたんでしょ」
ローザはまるで木のような人なのだ。私の言葉という強風を、身に受けてもしなやかさと流し、木の葉の優しいざわめきに変えてしまう。
どっかの誰かみたいに狂犬みたいに噛み付いたり倍返しを狙ったりしないのだ。
でも、それを含めて可愛いんだよなあ、リファは。
「しばらくは休んだら?」
ーーーそうそう、ここならダラァ〜って休んでも気にしないよ
火の上級精霊、ウェスティア=フレイアが現れて床の絨毯に寝そべる。
「ほら、ウェスティアもそう言っているし、行くところも困っているんでしょ?」
二人の気取らない優しい笑顔に思わず、
「ありがとう」
と呟いてしまう。
ソファーに座り込んだ私は、ぼーとして、リファの作りたがっていた、東洋庭園をリビングの窓から見つめる。
小さな光が動く。
淡い緑色の優しい光の緩やかな点滅。
「……こんなところに蛍?」
「よっぽど環境が良かったのかしらね。この小さな点滅、妙に味わいがあるのよね」
街の中にいつくはずがないのに、この庭園で生き生きと大切な相手を探していた。
私は、いったい何をしているんだろう。
いったい、何をしてきたんだろう。
リファも、追い出された時にそう思ったのかな。
リファはすぐに立ち上がってリフォーム業を始めるバイタリティがあったけど、私は無理かな……。
でも、またシスタールナに扮してリファのところに遊びに行きたいなあ。
読んでいただきありがとうございます。
急に別の話を書きたくなり、別の短編を書いています。
それが書き終わったらまた着手しようと思います。