底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:ロボワン

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第18話:ゲームだから出来るは狂ってる(☆)

 客船を降りて、ヨネさんたちと別れた。

 結局、ブラックレコードについては聞けなかったけど。

 彼女が言うには、ランクマッチを重ねてランクを上げて。

 公式戦にも参加するようになれば、行く行くは会う事にはなると言っていた。

 

 タイタングリードで最強と謳われる存在。

 男か女かも不明で、年齢も不詳。

 公式戦においても、彼女が姿を現す事は無く。

 彼女が遠隔操作するロボットを通して、公式戦は進められていた。

 

 ネットでは、遠隔操作のロボットで戦うのは良くないのではないかと言われていたが。

 それはロボットに意思があり、完全にコンピューターの制御が行われている場合だと俺たちは分かる。

 遠隔操作とは、自らの動きをロボットにトレースさせる。

 が、現代のロボットであろうとも多少の誤差は発生する。

 完全に動きを合わせるのであれば、よほどの高性能機か。

 或いは、感覚そのものを完全に同期させる必要がある。

 それをしていないのであれば、ロボによる遠隔操作はデメリットはあったとしてもメリットはほぼない。

 

 ……公式戦を行う時は、決まって運営側からチェックが入るし……問題なかったって事だ。

 

 そんな状態でも、公式戦において無敗。

 実力は本物であり、そんな存在が俺と何の関りがあるのか。

 単に、伝説だなんてもてはやされている俺と最強を戦わせたいだけなのか……ちょっと自意識過剰な考えだよなぁ。

 

 中々に恥ずかしい考察だ。

 伝説伝説って言っても俺はただのプレイヤー。

 ただちょっとゲームをやり込んでいるだけに過ぎない。

 だからこそ、先生だなんていわれるほどでもなく。

 純粋にゲームを楽しんでいるだけのニート配信者で……うぅ、よそう。

 

 この考えは最悪、心が壊れる。

 そう考えたからこそ、俺は考えを消して――木のベンチに全身を預ける。

 

「ふぁぁ……沢山、周りましたねぇ」

「ですねぇ。はぁぁ楽しかったぁ……先生はこの後、何か予定は?」

「そうですねぇ。この後は――」

 

 観光地である街の中にある自然公園の一角。

 舗装された石畳に、背後には木々が生い茂っていて。

 夕暮れ時でも、散歩をしているNPCは疎らにいる。

 

 日常を送る彼らに交じって、俺たちはベンチでくつろぐ。

 そうして、鮮やかな茜色の夕焼け空を見ながら月島さんと談笑していた。

 客船に乗って、はるばるゲーム内で有名な観光地へとやって来て。

 そこで色々なものを見て回ったが、中々に見応えのあるものが多くて楽しかった。

 

 実際、仮想現実内で観光地を作り。

 お金の無い人でも手軽に観光気分を味わえるようにしたゲームは多い。

 俗にいう“旅ゲー”であり、バトル要素や収集要素が無くても楽しめるのかと思ったが……結構いいな。

 

 オブジェと記念写真を撮り、不思議な動物と戯れたり。

 テーマパークでは月島さんと一緒にはしゃいだりもした。

 想像以上に、VRゲームでの旅というのはかなり噛みあっているのかもしれない。

 

 時間にすれば、ゲームでは夕方となっている。

 現実の時間にすれば……いや、そんなに差はないかなぁ?

 

「……まぁ旅って良いよなぁ……今度、良さげなのをダウンロードしてみるのもいいかもなぁ」

「先生?」

「ん? あぁいや、旅もいいなぁって思いまして……さて、それじゃそろそろ」

「……そうですね。今日は態々、私なんかを同行させてくれてありがとうございました……その、バトルではあの女に負けてしまいましたけど。でも! 次は絶対に勝ちますから!! 先生の今の弟子は私ですから!! ね!!」

「は、はい。ははは」

「……それに、弟子としての初めてのプレゼントも貰ったし……うへへ」

 

 俺はぐいっと顔を寄せて来る彼女にドキドキする。

 そうして、何とか落ち着かせて離れて貰う。

 彼女はポケットの中から何かを取り出し――瞬間、ベンチの後ろの茂みから何かが飛び出す。

 

「わぁ!? な、何!? て、えぇ!?」

「……鷹? それも機械の?」

 

 凄まじい勢いで飛んでいった機械化された鷹。

 見れば、月島さんが慌てている。

 どうしたのかと聞いて――彼女は走り出す。

 

「先生が買ってくれたお守り返せごらぁぁぁぁ!!!!」

「お守り……あぁ、あれか!」

 

 俺も慌てて月島さんを追う。

 彼女は全力疾走であり、中々の速度だった。

 ワンピースにおしゃれなサンダルでアスリートの走り方――すげぇ!

 

 彼女の鬼気迫る姿。

 本気と書いてマジ。

 俺はそれほど“アレ”を気に入ってくれたんだと少し嬉しく思う。

 

『ひひひ、おひとつ、どうだぃ?』

『『……』』

 

 お守りとは、怪しげな占い師の店で買った紫の小さな袋に入ったものだ。

 何でも、傭兵が持っていれば一度だけ奇跡を齎してくれるものらしい。

 明らかに胡散臭い上に、店自体も目立たない影のような場所にあった。

 そもそも、お守りなるものが本当に効果を発揮するなんて情報も俺は知らない。

 だからこそ、呪いの装備でも売りつけられるんじゃないかと思って退散しようとしたが……。

 

『……へぇ』

 

 彼女は興味津々でそれを見つめていた。

 お守り自体の値段は馬鹿みたいに高い。

 現実であれば目玉が飛び出るほどで、例えるならメックの心臓とも呼べるコアが買えるほどの値段だ。

 普段であれば絶対に買わないし、相手にもしない……が、よほど気になるのか月島さんは迷っていた。

 

『これ下さい』

『……! 先生!?』

『ひひひ、まいどぉ』

 

 本気で欲しいのならばと俺が御婆さんにお金を渡して購入した。

 代金は電子決済であり、支払いはスムーズに行われて。

 彼女にお守りを渡せば、激しく戸惑いながらも、最後は受け取ってくれた。

 

 ……まぁ平均的な性能のコアくらいの値段のものだし、確かに盗まれたら追うかな?

 

 俺はそんな事を考えながら、前方の少し上を見る。

 すると、公園を抜けて低空飛行する鷹はそのまま加速する。

 月島さんも更にスピードを上げて、俺も彼女を追い掛ける。

 

 鷹は器用に歩道を歩く人の間をすり抜けて。

 月島さんも映画のアクションスターさながらのアクロバティックな動きで追っていく。

 俺は冷静に、歩道と車道の間を走っていき――鷹が右へと曲がる。

 

「待てゴラァァ!!」

「路地裏って……やばいんじゃ?」

 

 何だか誘い込まれているような気がする。

 が、月島さんとは距離が離れている為、呼び止める事は出来ない。

 彼女はそのまま路地裏の道へと進み。

 俺も考える間もなく、彼女を追っていく。

 細い道であり、壁には落書きやら汚れの跡が目立つ。

 観光地の闇を上手く表現しており、窓から顔をのぞかせるNPCたちの目はどこか虚ろだ。

 

 日本人としての危機感がびんびんに反応している。

 が、月島さんはどんどん先に進み、彼女はそのまま、また右へと曲がって――悲鳴が聞こえた。

 

「……! 大丈夫……では、無いですね。は、はは」

「「「……」」」

 

 俺も彼女を追って曲がれば、そこには大男に拘束される月島さんと。

 ガラの悪そうなプレイヤーが数名に、大きな共用のゴミ箱の上で座る目つきの鋭いドレッドヘアの男がいた。

 袋小路であり、先へは進めない。

 終点であり、完全に罠であった。

 逃げる事は簡単だ、引き返せばいい。

 が、月島さんが捕まっていて、此処で逃げたら男でも人でもない。

 

 彼らを観察すればプレイヤーである事は一目瞭然だ。

 体中にタトゥーを入れている如何にもなプレイヤーたち。

 ドレッドヘアの男は恐らくはこいつらのリーダーだろう。

 

 浅黒い肌に、サングラスを掛けている。

 耳にはピアスであり、くちゃくちゃとガムを噛んでいる。

 身長は180を超えていて、ガタイはかなり良い。

 使い古された茶色いコートの下には鍛えられた肉体が。

 アーミーブーツを履き、手の中ではくるくるとエンブレムが彫られた自動拳銃を回している……“ベレッタ92FS”か。

 

 これが現実なら、死ぬ一歩手前。

 ゲームの中であるからこそ、まだ余裕はある。

 が、こんなところでログアウトするのは危険で……取り敢えず、話してみようかな。

 

「あ、あのぉ。そこの女の子は俺の身内で……それと、そこにとまっている鷹が咥えているお守りは彼女のもので……あのぉ」

「――で?」

「え、で? え、あの、でって……いや、返していただくことはぁ……あ、お金とかは要求して頂かないでくれると此方は助かるので、そのぉ、へ、へへ」

「――でぇ?」

「…………ふ、ふへ」

 

 俺は会話が通じない相手であると秒で理解した。

 だからこそ、どうにかして月島さんだけでも助けられないかと考えて――彼女が暴れる。

 

「くせぇぇんだよ!! 放せやボケがァ!!」

「ひゅー口が悪い嬢ちゃんだなぁ。どれ、ちっと教育してやろうかぁ?」

「「「くくく」」」

 

 にたにたと笑いながら、卑猥な会話をする男たち。

 流石に女性に対して性的な事を無理矢理にする遊び方は組み込まれていないが。

 単純な暴力や精神的な拷問の類は可能だ。

 精神的な苦痛であり、ゲーム自体に意欲が無くなるような行為。

 プレイヤーたちが嫌がる遊びなんてものは、ヒールであれば何でも思いつく。

 悪質過ぎれば運営によって粛清されるが。

 こういう輩はギリギリを責めたがるこそ質が悪い。

 

 ナイフを舐める蛇のような男に。

 頬を赤らめてぐふふと笑う巨漢の男。

 目をバッキバキにして斧と斧を擦り合わせて興奮する男。

 全てのプレイヤーたちが、こてこてのゲームの悪役そのものであり――ぷっと噴き出す。

 

 瞬間、ドレッドヘアは俺を睨みつけて来た。

 

「あぁ? 何笑ってんだぁ? 死にてぇのか?」

「え、いや、死にたくはないですけど……すみません。時間は無いので、また今度ということで」

「――死にてぇらしいな! あぁ!?」

 

 ドレッドヘアがゴミ箱から飛びのき。

 至近距離にて拳銃の銃口を俺へと向けて来た。

 俺は真顔でその拳銃を見つめる。

 

「撃つんですか? それはちょっと、やめておいた方が。最悪、市民の通報でデッドブックに載っちゃうんじゃ」

「はは、デッドブックだぁ? 生憎となぁ。俺たちはとっくに――載っちまってんだよぉ」

「「「ぷっ、ふくく」」」

「あぁ…………まぁ、ですよねぇ」

 

 デッドブックに登録されるのは大体が犯罪者で。

 NPCによるものか、プレイヤーによるものかの違いはあるが。

 全てが何かしらのこの世界の法に反する事をしでかした事によって登録される。

 盗みに殺人に、犯罪者の支援などもそうだ。

 大体がメックに乗るプレイヤーたちが制限のある領域を侵犯したり。

 非戦闘員を殺したり、盗んだり破壊したりしてはいけないものを……まぁ何だ。

 

 こうやって、街中で誰かを襲うなんてのは。

 よほどの命知らずしかしない。

 大体がスリルを味わいたかったり、死体から物を奪う事が目的だろう。

 銃弾一発でも放てば即通報であり、すぐに警官たちが駆けつけて来る。

 だからこそ、現実世界と同じように。

 こういう人目につきにくい場所は危険であることは当たり前で……何で、入っちゃったかなぁ。

 

 彼らの目的は金だ。

 そして、鷹を使っておびき寄せたなら手慣れている。

 恐らく、俺を殺した後に死体事持ち去る気だろう。

 デッドブックに登録されたプレイヤーたちには、その人間たちのみが使えるシステムがあるらしい。

 盗品を売りさばいたり、違法な賭け試合に、協会が請け負えない非人道的な依頼など。

 

 デッドブックになって良い事なんてほぼ無いが。

 それでも、そういう“役割(ロール)”をしたいプレイヤーは存在する。

 だからこそ、運営側も無法者たちに対して楽しめる方法を与えていた。

 

 俺としてはそういう考えは好きだ。いや、大好きだ。

 ゲームとは自由であるべきであり、現実で出来ない事をやるべきだ。

 まぁ明らかに現実世界に悪い影響をおよぼす事は論外であるが。

 タイタングリードでは、全く事なる自分を演じる楽しみを――て、また思考がズレてるぅ!

 

「……てめぇ、舐めてんのか?」

「兄貴、こいつ色々とおかしいですぜ? もしかして、素寒貧なんじゃ?」

「いや、それはねぇよ。こいつはあの客船から出て来たからなぁ。見てる奴がいやがったし、客船のクルーも、こいつらはVIPだったって言ってやがった……間違いなく、金はある。だよなぁ? くくく」

「……い、いやぁ、どうでしょうかぁ……へ、へへへ」

 

 俺は涙目で笑う。

 すると、ドレッドヘアはイラつき始めて……しゃあない。

 

「……あの、本気で撃つんですよね? だったら、お願いがあるんですけど」

「あぁ? 命乞いかぁ? だったら、金目のもんを全部」

「――いえ、撃ったら全力で逃げてください。多分、ギリ逃げれると思うんで」

「……あぁ? テメェ、何言って……っ!」

 

 俺は手をだらりと下げる。

 此処はゲームの中で、現実世界じゃない。

 失敗しても現実では生きている。

 本当の死なんてものはなく、チープで優しい疑似的な死で――だからこそ、余裕がある。

 

「……どうぞ」

「……ハッタリ野郎が……骨一本も残さず金にしてやらぁ」

 

 俺はジッと相手を見つめる。

 銃口を、引き金に掛けられた指を。

 そして、相手の口や視線を――観察する。

 

「「――」」

 

 相手はたらりと汗を流す。

 動揺はしている。が、その目に迷いはない。

 確実に撃つ。間違いなく、俺を殺しに来る。

 狙いは精確で、完全に経験者だ。

 

 互いに無言。

 風の音を聞きながら、彼は俺へと狙いを定めて――笑った。

 

 

 瞬間、乾いた銃声が鳴り響き――俺の頬を弾丸が掠めて行く。

 

 

「「「――!?」」」

「よけ――クソッ!!」

 

 

 ドレッドヘアは連続して弾丸を放つ。

 俺は前進しながら、一発目を左に回避。

 続く二発目を右に顔をずらして避けた。

 そうして、激しく動揺する彼の懐に入り――最後の一発が頬の肉を抉っていく。

 

「――いでぇ」

「「「……!?」」」

 

 片手でドレッドヘアの銃のスライドを抑える。

 スライドは後退した状態で固定されていた。

 その状態であれば、弾は発射されない……だったよね?

 

 ダラダラと裂けた頬から血が流れる。

 歯が見えていて、それなりに痛い。

 が、ゲームだからこそある程度は緩和されて……でも、痛いものは痛いなぁ。

 

 そんな事を考えていれば、遠くからサイレンの音が聞こえて来た。

 

 ドレッドヘアは銃を戻そうとするが俺は手を離さない。

 彼は銃を諦めて果物ナイフを取り出し切り掛かって来る。

 俺は後ろに軽く飛び、警戒する彼らに対して首を傾げて問いかける。

 

「……? 早く逃げてくださいよ。捕まったら、酷い目に遭いますよ?」

「――!! クソが!! 覚えていろよ!! おい!!」

「「へ、へい!!」」

「こ、この女だけでも……!! くそぉ!!」

「きゃ!?」

 

 俺は無言で銃口を大男に向ける。

 彼は顔面蒼白となり、彼女を投げ飛ばしてきた。

 俺は月島さんを受け止めて、走って来た彼らにそのまま道を開ける。

 彼らは俺たちが来た道の反対に向かって逃げて行く。見れば鷹も逃げようとしていた。

 俺は一瞬で銃からマガジンを抜き取り銃だけを奴へと投げて――落とす。

 

「――ッ!?」

 

 鷹はそのまま口に咥えていたお守りを落とし。

 命からがらに飛び去って行った。

 俺は静かに息を吐き、ジッと俺を見つめる月島さんに視線を向けて――微笑む。

 

「怪我は無い?」

「……! 先生、頬が……私のせいで……っ!」

「え、あぁ、いや、これは俺の経験不足であって……い、いや! 泣かないで!? ゲームだから!! 治るからぁ!!」

 

 月島さんの瞳がうるみ。

 俺は慌てて彼女を下ろしてマガジンをそっと地面に置く。

 そうして、アイテム欄から応急処置用の傷薬を出す。

 スプレー型のそれを傷口に吹きつければ、ゆっくりと傷が治っていく……でも、痛い。

 

 チクチクと痛みを感じながらも傷を治し――後ろから声が聞こえた。

 

「「「動くな!!」」」

「あ、はいぃ……はぁ」

 

 両手を上げて地面に膝をつく。

 すると、警官たちは俺の両手を拘束する。

 そうして、転がっている拳銃やマガジンなどを回収し専用の機械でスキャンして――俺の拘束を解くように指示が出た。

 

 両腕が自由になり立ち上がる。

 すると、警官の一人が申し訳なさそうに謝罪してくる。

 

「失礼しました。被害に遭われた方々ですね。よろしければ、署にてお話を」

「――あ、すみません。時間が無いので、ログを渡すだけでいいですか」

「勿論です! ご協力、感謝します!」

 

 NPCである警官にお礼を言われた。

 俺はそのまま彼とのやり取りが記録されているログを渡した。

 すると、彼は確かに受け取ったと言って。

 これから此処で調査をするからと俺たちは帰される……スムーズだなぁ。

 

 まぁ、現実のようにガチガチに調べようものなら。

 拘束時間などによってプレイヤーたちからクレームが来る。

 だからこそ、最低限のやり取りだけであり。

 後は勝手にNPCたちがやってくれると言う訳だ。

 

 俺は泣きそうな月島さんを必死に元気づけながら。

 今度はもっと上手く避けられるようにと――密かに特訓を決意した。

 

 

 〇

 

 

 ぽたぽたと水滴が落ちる音が聞こえる。

 燭台の火だけが頼りの薄暗い地下空間。

 俺はじめじめとした空間には相応しくない上等なソファーに座りながら、リンゴを齧る。

 

「「「……っ」」」

「……ぷっ……すっぺ……ほら、食えよ」

「あ、ありがとうございます……っ」

 

 俺がリンゴを投げてやれば、奴らの兄貴分であるドレッドヘアの……あぁ誰だっけ?

 

 そいつが俺の食べかけのリンゴを拾って食う。

 俺はそれを冷めた目で見ながら、先ほどの話を思い出す。

 

「……で、だ。お前たちがやりそこなったそいつはぁ……確かに、至近距離で銃弾を……避けたんだよなぁ?」

「は、はい! 間違いないです!! 俺は精確にアイツの頭を狙って、アイツはすげぇ反応で……で、でも、最後の一発は頬を裂けさせて、それで!」

「あぁ、もういい。分かった……お前――お手柄だよ」

「「「……え?」」」

 

 俺は笑う。

 そうして、傍に控えていた手下に命じ。

 こいつに“最高の報酬”をくれてやるように命じる。

 すると、ハゲはそのまま雑魚共を連れて行き……く、くくく。

 

「銃弾を、避けたぁ? それも、至近距離で、簡単に……間違いねぇよ。あの人だ。あの人以外に、考えられねぇ。あぁ、やっぱアレ、本当だったんだなぁ……ホワイトレコードの再臨――加賀先生ぃぃ」

 

 俺は笑う。

 そうして、皿のリンゴを取り――豪快に齧る。

 

「すっぺぇ、すっぺぇけど……良いじゃねぇか」

 

 生きていた。

 マジで戻ってきやがった。

 俺たちの前から忽然と姿を消し、俺たちとの縁を勝手に切りやがったアイツが。

 約束も何もかも忘れちまって、くそみてぇな伝説だけを残したあのイカレポンチが。

 再び狂ったゲームの世界に戻って、俺との縁を繋ぎ直して……くは!

 

 

「最高だよ。アンタ、マジで――いかれてるよ」

 

 

 俺はリンゴを握りつぶす。

 そうして、手からしたたり落ちるエキスを舌で舐めとった。

 

「もう二度と逃がしはしねぇよ。今度こそ俺が、アンタの息の根を――伝説を終わらせてやるよ」

 

 俺は笑う。

 笑って、笑って、笑いまくって――“憎しみ”と“愛情”が心の中で渦を巻いていた。

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