底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:ロボワン
隔壁を突破し、そのまま直進。
レーダーの反応が強まっていた。
敵はこの先の区画であり、その先こそが最後のエネルギー供給施設となる。
此処まで来るまで、メック乗りとは遭遇したものの。
全てNPCが操縦していたものだった。
対戦者ではなく、そもそも、あの謎の傭兵――千響のムラマサではない。
狭く長い通路をノンストップで進む。
進めば進むほどに得体の知れない寒気を感じる。
こんな感覚は久しぶりで……。
「もうそろそろ――ッ!!」
通路を抜けて――目の前の空間が歪んだ。
咄嗟に横へとブースト。
瞬間、甲高い音が鳴り響き。
俺が通って来た通路に無数の爪痕のようなものが出来た。
まるで、削り取った彼のような跡で――アレか。
《よぉ――先生》
「……やっぱり、君も……そうなんだね」
【先生って……また、根黒の……っ】
【相変わらず、すげぇ禍々しい機体だな】
目の前に立っている漆黒の機体。
六つ目のようになった赤く発光するセンサーに、後頭部が円のようになった頭部。
赤黒いローブのようなものを纏い、そのローブには何かを記録したような跡がある。
ローブから覗く両手には、見た事もないような兵器が取り付けられていた。
鉤爪のようなものであり、その爪は真っ赤に赤熱している。
ただのクローではない。
明らかに特殊な効果を持った――特殊兵器だ。
彼は笑う。
今の状況が愉快だと言わんばかりに。
俺は黙ったまま彼を見つめて――レーダーが敵の接近を知らせる。
彼を警戒しながら、現れるであろう敵を――
《――消えろ》
「……!」
彼がそう言って腕を振るう。
瞬間、同時に飛び出した俺と戦っていた二機は――三枚におろされた。
一瞬だ。
瞬きの合間の出来事で。
残骸が床を転がっていき、彼は一歩も動く事無く俺に視線を戻した。
《邪魔はさせねぇよ。思う存分――殺し合おうぜ》
「……望むところ、って言いたいけど。ごめん、間違ってたらあれだけどさ。君――コウちゃん?」
【……コウちゃん……可愛い】
【コウちゃんって……ギャップがすげぇな】
俺は静かに彼を見つめる。
すると、彼は静かに息を吐き――笑ったような気がした。
《何だよ。もうバレたのか――アンタ、俺の事、忘れてなかったんだなぁ?》
「あぁ! やっぱりコウちゃんなんだね! いやぁ懐かしいなぁ! 声が低くなってたから違うかなぁって思ったけど。なぁんだ。そうかそうかぁ。そりゃ十年も経ったら、成長して――うあ!?」
【あぶな!?】
俺が和やかに話しかければ、コウちゃんは間髪入れずに攻撃を放ってきた。
俺は反射的に横へと飛ぶ。
床を滑りながら、ハンドガンを彼の機体へと向けて――
《なんでさぁ――そんな馴れ馴れしいんだよぉ? あぁ?》
「……! コウちゃん。何でって、そんなの」
《家族って言う気か? 他でもないアンタが。俺たちの前から勝手に消えたアンタが――そんな間抜け面でかよ》
「……!」
彼は底冷えするような低い声を発した。
そうして、ブーストして俺へと接近し――攻撃を放つ。
俺はブーストで回避。
そのまま大振りの攻撃でがら空きの彼の背中に向かって弾丸を放つ。
彼は此方を見る事無く――ぐにゃりと機体を曲げて回避した。
「……!」
【何あれ!?】
【ぬるっと動いたぞ!?】
滑らかな動き、まるで人間のようなそれは――フルコントロール!
彼はそのままステップを踏み。
連続して腕を振るって攻撃を放つ。
俺はその全てをブーストによって回避。
彼は笑いながら、俺へと迫って来る。
攻撃を放つ。
が、全て紙一重で避けられる。
その動きは人間のように滑らかで。
反射速度も神がかっていた。
強い。
アレほどの動きを行えるまでにどれほどの――
《――ずっとだよ》
「――心を!?」
《あぁ分かるさ。アンタの事なら誰よりも理解しているよ。だからこそ、答えてやる。俺はずっとずっと、お前を殺すまで永遠のようにヘブンフォールをプレイした。そして、グリードでも何百何千という傭兵をぶっ殺してきた。全て――アンタの為だよ。ホワイトレコード》
彼は狂気的な笑みを浮かべているのだろう。
その声は嬉しそうでありながら、怒りに満ちている。
怨念であり、何がそこまで彼を変えたのか……いや、分かるよ。
彼の連続攻撃を回避。
そうして、ブーストによって距離を離し――フルコンを起動。
グローブ型のデバイスへと腕を差し込み。
そのまま機体を操作し、彼へと向かう。
彼のクローは赤熱するほどの振動を発生させていた。
そして、腕を振るう事によってその振動波で攻撃をしている。
ほぼ不可視の攻撃であり、操作を誤れば一撃で機体は両断される。
彼はクローによって連続で攻撃を放ち――俺は連続で三発弾丸を放つ。
《……!》
【攻撃が止まった!】
【何でだ!?】
リスナーさんたちは驚く。
振動波による斬撃。
それは脅威であり、強力な斬撃だ。
が、タイミングさえ合わせれば、振動波を弾丸などの攻撃によって――キャンセルさせる事が出来る。
障害物に当たれば、アレらは止まる。
透明ではなく、実体のようなものだ。
故にこそ――合わせる。
彼がクローを放つ瞬間に、弾丸を放つ。
振動波の中心点を精確に射貫く。
そうすれば、振動は空中で分散する。
俺は彼へと最短距離で接近し――コックピッドを狙ってスパイクを放つ。
が、コウちゃんはクローの爪で器用にスパイクを受け止めた。
そうして、受け流すようにそれの軌道を変える。
彼は舞でも舞う様に床を滑りながら、そのままブーストで変則機動を行う。
ハンドガンで攻撃するが――当たらない。
上手く狙いを外させている。
その動きは、俺が教えた――
《あぁアンタの技だよ。アンタが仕込んだ種だ。どうだ? 嬉しいかよ――クズ野郎!》
「……っ!」
彼は一瞬で距離を詰める。
そうして、赤熱するクローで俺のコックピッドを貫こうとしてきた。
俺は脚部を操作し、スラスターの位置を調整し――回転。
ひらりと回避し、そのまま彼の背後を取る。
そうして、流れるように彼の機体の背中へ弾丸を撃ちこみ――彼も避けた。
恐ろしい。
今の攻撃を避けたんだ。
並外れた集中力。
かつての幼い彼が、これほどまでに強くなるとは――何故なんだ。
「そんなに強くなって、そんなに上手くなって――何で君は楽しそうじゃないんだ!」
《楽しいさ。楽しいとも。アンタと再会して、殺し合いが出来るんだからなぁ。ハハハハ!!》
「違う!! 昔のコウちゃんは、ゲームを心から楽しんでいた! 勝っても負けても楽しそうで、俺もそんな君と遊べる事が」
《――黙れッ!!!」
「……っ!」
彼は連続してブーストする。
残像が見えるほどの速度。
正面からの攻撃を回避。
そのまま横から攻撃も上へと飛んで避けた。
が、背後から殺気を感じて横に飛び――咄嗟に下へと降下。
「ぐぁ!?」
【根黒!?】
【あぁ!?】
彼のクローが――俺の肩部を抉る。
ミニガンが吹き飛び。
システムが被害を報告。
機体のパフォーマンスに支障はない。
が、一撃貰ったのは事実で。
リスナーさんたちも慌てふためいていた……コウちゃん。
彼はカタカタと機体を揺らす。
そうして、くつくつと笑って――言葉を吐き捨てる。
《楽しかったよなぁ。嬉しかっただろうなぁ。自分よりも弱い存在に頼られて、自分よりも劣ったガキ共を躾て、先生なんて呼ばれて――だから、アンタは飽きれば俺たちを捨てたんだ》
「ち、違う! 捨ててなんかないよ! 今だって、君たちの事は」
《嘘をつけッ!!! 俺たちの事を本気で思っていたのなら、何でアンタは大事な日に現れなかった!!》
「だ、大事な日って」
《――誕生日に決まってるだろォ!!!》
「……っ!!」
【……可愛い?】
【……読めたぞ?】
彼は叫ぶ。
そうして、更に鬼気迫る様相で怒涛の攻撃を仕掛けて来た。
防戦一方であり、俺は視線を動かしながら彼の攻撃を回避し続ける。
《送り物を待っていた!! カードだってそうだ!! 俺はずっと待ってた!! アンタは言ってたよな!? 良い子にしていたら、願いは叶うって――全部、嘘だったじゃねぇか!!》
「うぅ!?」
【根黒……お前が悪いよ】
【これは流石にねぇ……謝ろ?】
彼の声は大人のそれだ。
が、その心は少年の時に戻っていた。
やんちゃで純粋だったコウちゃんそのもので――彼は叫ぶ。
《何がホワイトレコードだ!! 何が伝説だ!! 俺にとってのアンタは先生で、兄ちゃんで――裏切者のクソ野郎だッ!!》
「ご、ごめんよぉ!!?」
彼は執拗に追って来る。
その攻撃は精確であり、確実に仕留めようとしてきていた。
俺はその攻撃を回避し――エネルギー供給施設への道が見えた。
俺は咄嗟にその方向へと飛び――殺気が増す。
《また逃げるのか――また、いなくなるのかよ!!》
「え、ぁ!?」
【根黒。お前は傭兵だが――クソ野郎じゃないよな?】
リスナーさんたちに諭されて――方向転換。
大切な任務であるが、優先順位が変わる。
彼の殺気が弱まり、俺は彼へと攻撃を放ちながら――叫ぶ。
「コウちゃん!! 確かに俺は君たちの前から姿を消した!! でも、それは決して君たちが嫌いになったからじゃないんだ!!」
《だったらァ!! 何でいなくなった!? 何で連絡一つ寄越さなかった!? 俺だけじゃない。他の奴らも信じていたんだぞ!! 明日は来てくれる、明後日なら、来週なら、来年だったら――もううんざりなんだよ!!》
彼は叫び――その速度が速まる。
リミッターの解除。
俺もそれに合わせて――枷を解き放つ。
互いに最高速度で床を滑り。
攻撃を放ち、それをギリギリで回避。
衝撃波が空間全体を揺らし。
攻撃の余波が周りを変化させていく。
当たれば即死。
迷えば死ぬ。
が、迷いはない――退かないさ!!
「謝れば済むとも思っていないよ!! 許して欲しいなんて死んでも言わない!! 過去に戻れるのなら、君の元に会いに行く!! でも、そんな奇跡は起こせない。だからこそ――償いをさせてくれないか!!」
《償いだとッ!? この期に及んで、また俺たちに……そんな、そんなの……裏切られるのは嫌だ。他の誰でもない、アンタに見捨てられるのは、もう、嫌なんだ……誰も信じない。誰も頼らない。力で支配するんだ。金さえあれば、誰でも動かせる。絆なんて、とっくに俺は》
「――それでも!!! 俺は君と、コウちゃんと――また一緒にゲームがしたいんだ!!!」
《……っ! クソ、クソ、クソがァ――ふざけるなァァァ!!!!》
コウちゃんは叫ぶ。
鼻水を啜る音、汚濁の混じった声。
泣いている、泣いていた。
子供のようにボロボロと涙を流し、彼は心から声を出して――それなんだ!
コウちゃんの操作は荒々しくなる。
繊細さは消えた。
が、その動きは読み辛く。
回避が完璧に出来ずに、僅かにでも機体に傷が増えて行く。
掠り傷程度であるが、確実にダメージが蓄積されて行く。
それを感じながら――俺は笑う。
「もっとだ!! もっともっと!! コウちゃんの気持ちを俺にぶつけてくれ!!」
《何をッ!!》
「君の今までの苦しみも悲しみも!!! 空になるまで吐き出してくれ!!! もう逃げたりしない!!! もう二度と消えたりしない!!! 全部、全部!!! 今、この瞬間に――俺が受け止めるよ!!!」
機体内部の熱は最高潮に達する。
頭も心も熱を帯び、鼻血が垂れていた。
俺は肩部のミニガンをパージ。
両手の装備も捨て去り――拳を構えた。
瞬間、コウちゃんも――武器をパージする。
【おぉぉ!!】
【いいぞぉぉ!!】
【どっちも頑張れぇぇぇ!!!】
俺たちは互いに拳を構えて――走り出す。
「おおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
《あああぁぁぁぁぁ!!!!》
互いに拳を振りかぶり――頭部を打つ。
激しい金属音が鳴り響き。
映像が乱れていた。
衝撃波がコックピッドまで伝わり――が、止まらない。
俺たちは叫ぶ。
そうして、硬く握った拳で――互いに殴り合う。
俺の頭の中に、任務の事もランクマッチの事ももう無い。
コウちゃんも復讐も何もかも忘れているだろう。
今はただ、互いの気持ちを拳に載せて打ち合うだけだ。
純粋な殴り合い。
ただの喧嘩で――が、楽しい!!!
「コウちゃん!!!」
《兄ちゃん!!!》
俺たちは――笑い合う。
互いに一歩も引かず殴り合う。
殴って、殴って、殴って殴って殴って殴って殴って――映像が消える。
何も見えない。
何も感じない。
暗闇であり――そこにいる。
コウちゃんの機体が、彼自身が。
心で感じながら、俺は彼が拳を振り上げるのを感じて――両手を広げる。
《……!!》
瞬間、彼の拳は――空を切る。
打撃による衝撃は無い。
彼の機体がぶつかって来た。
俺は全身で彼の機体を受け止めた。
そうして、今にも壊れそうなボロボロの愛機で――彼を抱きしめる。
「……コウちゃん。あの場所で待っている……約束だ」
《兄ちゃん……約束だから……絶対に、もう……いなくなるんじゃねぇぞ》
「あぁ!」
俺は約束する。
瞬間、彼がふっと笑って――彼の機体が機能を停止する。
俺は彼の機体を受け止めて――膝を屈した。
「……ありがとな」
《全システム機能停止――作戦続行不可能》
光が消えてなくなる。
そうして、任務を失敗したとアナウンスが流れる。
コメントを見れば――それでいいと言ってくれていた。
【さぁ早く行ってあげな!】
「――はい!」
タライさんの言葉に返事を返す。
そうして、配信の終了を告げて――現実へと戻る。
「うし!!」
ベッドから飛び起き、そのまま外行き様の服に着替える。
鞄と財布を持って、急いで――スーパーへと向かった。
走って外に出る。
そして、エレベーターのボタンを押し――待ってられない!!
俺はすぐに階段を駆け下りて行く。
日雇いバイトで鍛えた体力が生きる時だ。
全力疾走であり、滑るように階段を降りて行く。
そんな中で端末を起動して時刻を見れば――夜の八時か!
「うぅ、約束って言ったけど。来てくれるかなぁ? ごめんよ、コウちゃん。俺ってやっぱり、ダメダメだぁ」
こんな夜更けに来る事自体難しい。
孤児院から近い場所に住んでいるのならまだいいが。
遠いのであれば、来れないだろう。
それなのに、勝手に約束を――いや、構わない。
コウちゃんたちは俺の事をずっと待ってたんだ。
ずっとずっと、待っていた。
だったら、俺が数時間でも数日でも待つことくらい――どうって事ない!!
「コウちゃん!! 今度こそ、約束――守るからね!!」
俺は階段を駆け下り――滑って転がる。
ガンガンと全身を打ちながら下へと降りる。
ズタボロの状態で、鼻血が噴き出し。
それを乱暴に拭い、俺はまた走る。
そうして、マンションの一階に着き。
そのまま自動ドアを潜って外に飛び出し。
俺は夜の街を走っていった。