底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:ロボワン
「……」
「ボス、もう少しで到着します……ボス?」
「……あぁ」
車の中で、窓の外を見つめる。
変わらない。同じ景色だ。
あの時と同じ――色褪せた街だ。
俺という人間が育った街。
親の愛を知らず、暴力の世界で生きていたあの頃。
クソッたれ共が捕まり、俺は天馬財団の孤児院に引き取られた。
誰も信じない、誰も必要としない。
俺はずっと一人で――先生だけは俺を見放さなかった。
『コウちゃんって呼んでいい?』
『……死ね』
『ひぃ、そ、そんな言葉は使っちゃだめだよ?』
『うぜぇんだよ。消えろ』
『うぅ! い、一緒にゲームしようよ!』
歳が上なだけの男。
びくびくとしていて、頼りなさげで。
職員でも無ければ、孤児院の人間でもないのに出入りしている変質者。
最初はそう思っていて、嫌いな大人たちと同じような対応をした。
すぐに去っていく、そう思っていたのに……先生はずっとそばにいてくれた。
孤立している俺の手を引いて。
傷だらけになっても一歩も引かず。
ただ一緒にゲームをしようと言ってきて……一回だけのつもりだった。
『……!』
『あぁ惜しい! 後少しだったね。でも、コウちゃん――センスあるよ!』
『え?』
『絶対に上手くなる! プロだって夢じゃないよ! 俺が保証する!』
『……っ!』
初めてだった。
初めて、あんなにも真っすぐな目で――認めてくれた。
嬉しかった。凄く凄く。
一番の思い出であり、それから俺はタイタンヘブンフォールにはまった。
我ながら単純だ。認められたからこそ好きになって。
それ以上に、あの人と一緒に過ごす時間がなによりも愛おしかった。
好きだ……どうしようもなく、あの人を好いていた。
誕生日を祝ってくれた。
クリスマスも一緒に過ごした。
買い物にも付き合ったし、遊び過ぎて婆さんたちに怒られた。
全部、全部。
俺にとってかけがえのない思い出だ。
だからこそ……あの人が来なくなってからが辛かった。
ぱたりと来なくなった。
何の前触れもなく姿を消した。
婆さんたちに聞いても、連絡も無かったと言って。
何処にいるのかも知らないと言われて……腹が立ったよ。
高校を卒業したら、それっきりなのかと。
大人になれば、ガキの相手はしないのかと。
ムカついて、悔しくて……声を押し殺して泣いていた。
会いたい。会いたい。
毎日毎日、あの人の夢を見て……だからだろうな。
唯一の繋がりであるヘブンフォールをずっとプレイしていた。
あの人を忘れないように、あの人との繋がりを断ち切らせない為に。
未練がましく、ずっと引きずっていた。
そうして、グリードが出ると聞いてすぐにプレイした。
その理由は……もしかしたら、ゲームの中で再会できるんじゃないかと思ったからだ。
強くなって、名を上げて。
俺は此処にいるぞと示して。
デッドブックだけのコミュを作り、多くの傭兵を殺して……やっと会えた。
ホワイトレコードの復活。
あの人しか出来ないような技を使った根黒万太郎なる男。
確信した。間違いなく、兄ちゃんだって。
だからこそ、あの人の配信を見てランクマッチに乱入し……変わっていなかった。
おどおどとしていて、ひどく頼りない。
でも、やる時はやるそんな人で。
俺と正面から向き合ってくれて……約束、したんだよな。
『……コウちゃん。あの場所で待っている……約束だ』
「……いなかったら……絶対に見つけ出して殺してやる……俺も死んでやるからな」
ぼそりと呟けば、運転している部下がくすりと笑う……後で覚えていろよ。
そんな事を考えていれば、車はゆっくりと止まる。
視線を向ければ、そこには……あぁ変わってないな。
「ボス、帰りは」
「――いらねぇよ」
俺はそれだけ言って外に出る。
部下は窓越しに不服そうな顔をしていやがった。
俺は軽く窓を叩いて、さっさと帰る様に促す。
すると、部下である国枝はそのまま走り去る……ふっ。
「天使の園……ふざけた名前も変わってないな」
孤児院の表札を一瞥し、そのまま真っ暗な孤児院内に入ろうとした。
鉄柵に触れれば、鍵は掛かっていなかった。
鍵を掛け忘れた可能性もあるが……信じてやるよ。
俺はそのまま柵を開けて中に入る。
孤児院の庭には遊具であったり、ガキ共が植えた花がある。
今頃は眠っている頃で、こんな時間に呼び出すなんて相変わらずだとは思った。
俺はそのまま、懐かしい景色を見ながら孤児院の入口に立つ。
「……」
この先に待っているのか。
もしも、鍵が閉まったままならどうする。
まだ来ていない可能性もある。
待っていればいいんだろう……嫌だよ。
開いていて欲しい。
そう願いながら、取っ手を掴んで引っ張り――開かなかった。
「…………だろうな。ハハ、そりゃそうだ……もう、11時過ぎてんだ。いる訳ねぇ……っ」
俺は取ってから手を離す。
そうして、心が凍り付いていく感覚を抱いて――光がつく。
「え……矢印?」
光がして横を見れば、矢印がついていた。
扉から離れて、横へと進む。
すると、他にも矢印が見えた。
俺は期待しながら、矢印を辿っていく。
進んで、進んで……孤児院の裏口につく。
「……入れってか」
職員が使う扉だ。
寝ているガキ共を起こさない為の別の入口。
職員たちが寝泊りする為の部屋に繋がっていて。
この先は飯を食う為のキッチンと共同スペースで……俺はノブを握る。
「……開いてる」
扉を開けて中に入り――――大きく目を見開く。
「コウちゃ………………ぇ」
「兄ちゃん……っ。は、はは、兄ちゃんだ」
扉の先に立っていたのは――困惑した表情を浮かべる兄ちゃんだ。
身長は伸びて180を超えている。
高校生だった時も格好良かったが。
大人になった兄ちゃんはもっと格好良くなっていた。
職員の婆さんが使っていたピンクのエプロンをつけているが。
何でも似合うと思えるほどにスタイルが良い。
優しい瞳に、短く切りそろえた黒髪。
分かるさ。時が経っても、兄ちゃんは兄ちゃんで……兄ちゃんはハッとする。
「こ、コウちゃん! あの、誕生日のこと、本当にごめんね! そ、その、お詫びといっては何なんだけど……こ、これ! 食べてくれないかな?」
「……ハンバーグ」
「そ、そう! えっと、贈り物って聞いてさ。俺って、子供たちに大したもの渡してなくてさ……ま、毎回毎回、アホみたいなハンバーグばっかり作ってたって思い出して……ご、ごめんね! こんな時間にこんなの食べられ」
「――食べる」
「へ? あ、ぅ、うん……どうぞ!」
兄ちゃんはハンバーグが置かれた席に俺を誘導する。
軽く椅子を引いてくれて座れば、ガキの頃に食べたハンバーグと変わりない。
一人では食べきれないほどに大きくて、ちょっと焦げている。
おめでとうとケチャップで書いているが、字が汚い。
ウサギの絵を描いていると言ったが、今見てもウサギには見えないそれ……心が温かくなる。
「ちょっと冷めちゃってるけど……あ、チンしよう――あぁ!」
兄ちゃんの言葉も待たずにナイフとフォークを掴む。
そうして、ハンバーグにナイフを刺して切り分けて。
フォークで刺して、口の中に放り込む。
味わう様に何度も何度も噛む。
何度も何度も。そうして、ゆっくりと飲み込む……美味いな。
「……コウちゃん?」
「……美味いよ……本当に、美味い……今まで食った。どんな料理よりも……美味いなぁ」
俺はハンバーグを食べ続ける。
思い出のままであり、死ぬほど食べたかった味だ。
もう二度と食べられないと思っていたハンバーグ。
誕生日の時にだけ食べられる特別なハンバーグで――でも、しょっぱいなぁ。
視界がひどく滲んでいた。
鼻も垂れていて、涙が混じってすごくしょっぱい。
それでも、この味は本物で。
どんな高級料理も、どんな希少な食べ物よりも。
ずっとずっと――価値のあるものだ。
「……ごちそうさま」
「ふふ」
気が付けば、大きかったハンバーグをぺろりと平らげていた。
兄ちゃんは俺の対面に座っている。
嬉しそうであり、無言でハンカチを渡された。
俺は泣いていた姿を見られた事が恥ずかしくて思わず顔を背ける。
……大人になってチンピラたちをまとめ上げた会社を作っても……兄ちゃんには敵わないな。
武闘派を束ねるボス。
“関東の龍”なんて呼ばれて恐れられていたが。
俺なんてこの人にとっては……ふふ。
俺はハンカチで顔を拭う。
そうして、兄ちゃんに視線を向けた。
「兄ちゃん……その……ありがとう。色々、言いたい事はあるけどよ……また、会えて……嬉しいよ」
「う、うん。その、色々と本当にごめんね。ほ、本当に皆の事が嫌いになった訳じゃなくてね!? あ、あの、俺ってVtuberで底辺で、収入がほとんどなくて、社会的なあれが」
「――あぁ、分かってるよ。兄ちゃんだから、くだらない理由だとは思ってたよ」
「く、くだらない!? い、いや! 俺は、皆にとって格好いい俺でありたくてね!?」
「――格好いいだろう?」
「へ?」
兄ちゃんは俺の言葉に面食らう……言わないと分かんねぇのかよ。
「……格好良いって言ったんだよ……別に、どんなことしていたって。兄ちゃんは兄ちゃんだ……俺の憧れで、俺の恩人で……大好きだよ」
「……! こ、コウちゃん……お、俺も! コウちゃんの事、大好きだよ!」
「…………それ、どういう意味?」
「え、い、いや、弟のように」
「弟? おい、待てよ……そういや、驚いたような顔して……まさか!?」
「い、いや!? ゲームでは男の人の声だったしさ!?」
「あんなの誰だって出来るだろ!? 女が男の声で、男が女の声で……兄ちゃん」
俺は兄ちゃんを問い詰める。
過去の俺をどう見ていたのかと聞けば。
兄ちゃんはだらだらと汗を流し始める。
そうして、眼を泳がせて指を突き合わせて――
「……短髪だったし、俺って言ってたし……げ、元気な男の子だなぁって。ふ、ふへ」
「……ふーん。あ、そ……じゃ、今は違うんだな?」
「へ!? い、いや、そ、そりゃ色々と立派になって――な、何言わせるの!?」
俺はにやりと笑う。
そうして、スーツ越しに邪魔なだけだと思っていた乳を両腕を組んで抱える。
これみよがしに見せれば、兄ちゃんは赤面し口を魚のように動かす。
「兄ちゃんが望むなら……好きにしていいぞ?」
「え、あ、え、あ、え!? い、いや!」
「……嫌なのか?」
「い、嫌じゃないよ! 大好物ああぁぁぁ!!」
兄ちゃんは口を押えながら叫ぶ。
俺は初めて兄ちゃんを誘惑できた事に……快感を覚えた。
舌で唇を舐めて、席から立ち上がる。
そうして、姉貴のように兄ちゃんを誘惑する。
傍に立ち、兄ちゃんの手を取って胸に当てて――
「わ、わぁ!?」
「……っ」
俺はそのまま固まり……ハズイ。
姉貴は素面でこんな事が出来るのか。
孤児院の時から兄ちゃんを揶揄っていたからな。
年季が違うのは確かだが……やるしかねぇ。
俺は兄ちゃんの頬に手を添える。
そうして、ゆっくりと顔を近づけて行く。
兄ちゃんは必死に目を泳がせている。
抵抗はしない。成すがままで、俺はそんな兄ちゃんに……!
「……あらぁ、まぁまぁ……ごめんなさいねぇ。ほほほ」
「「……っ!」」
足音がして見れば――院長の婆さんが立っていた。
皺だらけの顔だが、昔と変わらず菩薩のような顔で。
今はピンクの寝間着を着ている。
パタパタと猫のスリッパを鳴らしながら、冷蔵庫から水を取り出す。
ペットボトルの水であり、それを軽く飲んでから婆さんは去っていき――振り返る。
「ごゆっくりぃ。ふふふ」
「「……っ」」
婆さんはそれだけ言って部屋に戻る。
俺たちは互いに気まずい空気で……クソ。
「……コウちゃん。コウちゃんはもう立派な大人のお姉さんだ……昔のようには、接する事が出来ないかもしれない……でも、もし良かったらさ。俺と一緒に――ゲームしない?」
「兄ちゃん……うん、しよう。歳も性別も関係ねぇ。俺は兄ちゃんと一緒にするゲームが――好きなんだ!」
俺は笑う。
兄ちゃんも笑っていた。
色褪せた世界に色が戻っていく。
もうあの日々のような苦しさは感じない。
強がらなくていい。
男のように振舞わなくてもいいんだ。
この人の前では、ありのままの自分でいられる。
あの頃のように、純粋にゲームを楽しめる。
兄ちゃんはバックからソフトを出し。
それを嬉しそうに解説していた。
俺はそんな兄ちゃんの話をずっと聞いて――
―補足説明―
塩崎光(しおざきこう):コウちゃん
赤毛のポニーテールで、外国人とのハーフ。
ハイライトの無い黒い瞳で、兄ちゃんといる時は光がある。
ぼんきゅっぼん。巨乳。身長172㎝。でかぁい!
チンピラたちをまとめ上げて、ボディーガードの仕事を斡旋している。
普段から黒いスーツにコートを羽織っていて、鬼強い。