底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:ロボワン
戦いが終わった。
全ての敵を屠り、戦場にて俺だけが立っていた。
無数の鉄くずたちの上で、俺は血を吐き出して――意識を喪失した。
次の瞬間には、俺はシミュの中だった。
死んだんだろう。本当の死ではない。
ゲーム的な死であるが、現実に近い肉体構造にしているのであれば実質的な死だ。
やはり、アレに近い性能だ。
限りなく近いもの……しかし、本物ではない。
本物のフライハイトであれば、こんなに呆気なく死ぬことは無い。
地獄のような苦痛を伴っても、俺は死ぬ事は無かった。
何年も操縦していたからという理由もあるが。
アレは実際には、パイロットとして殺すものだった。
そう、物理的な死ではなく、精神的な意味での死……まぁ廃人といったところだ。
長く続けていれば、人間としての感覚は死ぬだろう。
それほどまでに、アレはいかれていた。
速さも、強度も、何もかもが常軌を逸していた。
だからこそ、理不尽な世界で唯一存在する――自由の象徴だった。
「……ふふ」
手を見れば、少し震えている。
偽物でも、感覚でアイツの気配を感じた。
だからこそ、武者震いしている。
俺はギュッと拳を握り、そのままシミュの中から出た。
すると、リリアンさんと小麦色の肌のスキンヘッドの男が立っていた。
俺は少し考えて……あれについて質問する。
「アレは、俺の愛機……それをベースに作ったものですか?」
「はい……といっても、残念ながらオリジナルには遠く及びませんが」
「……アレは不完全なんです。装甲は未熟で、速度に対しての強度は確保できても、外部からの一瞬の強い衝撃には弱い。燃料の消費も激しく、我々がグリードで開発した新型のコアである“アルテミス”でもなければ十分の戦闘時間も稼げません。更に、もっとも脆弱なのが戦闘システムであり、全てのリソースを機体の制御に回した結果、パイロットの生命維持に関して絶望的なほどに無意味となってしまった。要するに、アレはパイロットを消耗品と捉えて作った……欠陥品です。悔しいですがね……あぁ、自己紹介がまだでしたね。私は開発主任の武田です。よろしくお願いします」
「あ、どうも。根黒万太郎です」
握手に応じる。
そうして、先ほどの会話からある事を考える。
それは、俺のかつての愛機フライハイトを――作製した男についてだ。
「……アレはあいつにしか作れない……そう断言できるほどには、いかれた作りですからね」
「アレは根黒様がくみ上げたのではないのですか?」
「え? あぁまぁある意味で作った事にはなるんですが……基本的な設計思想とカスタムは俺で、骨組みとかシステムそのものはアイツが作ってくれました」
俺は昔を懐かしむようにアイツの事を思い出す。
学生時代の友人。
いや、腐れ縁に近いものだった。
共同開発者の名前は――
アイツとは幼稚園からの付き合いだ。
アイツも俺もお世辞にも良い生徒では無かったが。
特に関りなんて無かった。
が、ある一件で当時は不本意な事だったが関りを持ち。
ゲームが互いに好きであるだけで付き合いを続けて。
そうして、子供でありながらアイツがメカニックとして凄まじい知識と経験を持っていて。
趣味でロボットの開発研究をしていると知って、ヘブンフォールに誘った。
アイツはすぐにヘブンフォールの現実と夢の混じり合った世界を気に入り。
俺の専属メカニックとして、多くのメックの開発をしていた。
当時は、まだ小学生だった。
明らかに対象年齢ではない俺たちはヘブンフォールにのめり込んでいた。
そうして、でかい夢を持つ事になり、その夢を叶える為の機体を作ろうと……。
《ばっかお前! スラスターをぽんぽんつけりゃ良いってもんじゃねぇんだよ! はぁぁこれだからスピード狂いは》
《はぁぁぁ!? だったらお前、この無駄な翼は何だよ!? 色も金ぴかにしてさぁ!? 派手過ぎだろ!! 趣味悪いよ!!》
《あぁぁん!? んだとこらぁ!?》
《何だよぉぉぉ!!》
騒がしくも楽しい日々。
何時も思い出すのはアイツの子供みたいにキラキラとした目だった。
昔を思い出していれば、リリアンさんはアイツの事を聞いてきた。
「その方は、今は何処に?」
「……遠くに、行きました……もう会う事は無いかもしれませんね。はは」
「……っ! 申し訳ありません。お辛いでしょうに、私ったら」
彼女は俺の言葉にハッとした。
哀しそうな顔であり、彼女は自分を責めていた……ん?
「死んではいないですからね?」
「「……え?」」
「いや、遠くというのは地球の裏側という意味で……今もきっと学校の先生をしてると思いますよ?」
俺がそう伝えれば、何故かリリアンさんは目を細めて俺を……え?
「……分かりました。では、連絡を取ろうと思えば、取れるのでしょうか?」
「え、えぇ、まぁ? ……アイツにフライハイトの事を聞くんですか?」
「根黒様がお許しになってくださるのであればですが……これは個人的な願いです。不完全な紛い物ではなく、フライハイトをもう一度完全に蘇らせて、貴方様を――ホワイトレコード様を完全に復活させる、と」
リリアンさんは真っすぐな目で強く願う。
俺はそれを見て――くすりと笑う。
「……分かりました。でも……フライハイトは、恐らく……」
「……?」
「あ、いえ……アイツから言わせた方が早いでしょうね」
俺はそう呟き、近くに置いてあった木箱の上に座る。
そうして、連絡はここから取れるのかとゲームのように虚空で指を動かす。
すると、色々なバーが出現し……あ、連絡、これだな。
俺はそれを押して、番号を入力していく。
そうして、通話のボタンを押してからスピーカーにした。
コール音が静かに響く。
ワンコール、ツーコール、スリーコール……忙しかったかな?
出ないかもしれない。
俺がそう伝えようとして――繋がった。
《おっす! どうしたぁ? お前から掛けて来るなんて珍しいじゃねぇか。なんかあったか?》
「はは、相変わらずだな。急に掛けて、何年も話していないってのに、ついこの間みたいに……ふふ」
《……あぁ? 喧嘩売ってんのかぁ。おうおう上等だ。かってやるよ……と、言いてぇが。それはまた今度にしといてやるよ! たははは!》
「……忙しいよな。何せ、あそこの教師はお前だけだし」
《まぁなぁ! ガキ共は群がってはぼこすか殴って来るしよぉ。たく、とんだクソガキ共だよ……でも、この仕事は気に入ってるんでな! 心配してくれて、ありがとよ!》
アイツはそう言って親指をあげている。
見えてなくとも、何となく分かる。
学生の頃に戻ったような感覚を覚えながらも、リリアンさんの顔を見て用件を伝える事にした。
「……それで、電話を掛けた事についてだけど……フライハイト、覚えてるか?」
《あたりまえだろ! ありゃ俺とお前の傑作だ! 忘れる訳ねぇよ! ……フライハイトがどうした?》
「実はさ。それについて色々と聞きたい人がいてな……話し、聞いてくれるか?」
《お? 構わねぇよ。そこにいるんだな? おーい! 誰か知らねぇが何が知りてぇんだ?》
アイツは全く警戒心を持つ事無くリリアンさんに声をかける。
彼女は静かに頷き一歩前に出る。
「……初めまして、私、ホワイトレコード様の事を信仰させていただいております。リリアンと申します」
《し、信仰ぉ? おまえ、まぁた厄介な奴に……あ、わ、悪い! 遂うっかり》
「構いません。ホワイトレコード様に群がる羽虫は多いので、警戒されるのはごもっともです。ですが、私はホワイトレコード様に対しては一切、敵意も悪意も無く。忠誠心と信仰心のみである事をご理解ご納得を」
《わわぁったわぁった! は、話だろ? な、何が聞きてぇんだ?》
「……フライハイトの設計図をお持ちですか? 出来れば、それをご提供いただきたいのです。もしくは、我々に協力し、共にフライハイトを蘇らせる気持ちはありませんか?」
リリアンさんはストレートな頼みを伝える。
すると、アイツは少し考えて――
《うん、嫌だ!!》
「……理由を聞いても?」
《簡単だよ。フライハイトは――役目を終えたんだ》
「役目を、終えた?」
リリアンさんは信じられないと言いたげだ。
俺はまぁそう言うだろうと思っていた。
《……アレはな。そこにいるホワイトレコードって呼ばれている奴が――ある目的を達成する為に作ったもんだからよ》
「ある目的……それは一体」
《――月だ!》
「「……は?」」
二人は目を点にする。
俺はくすりと笑って昔の記憶を思い出す。
世界最速の機体を生み出す願い。
そして、かつて月面へと着陸した有人宇宙船への憧れ。
そこから生み出したのが、理論上は月まで行くことが可能な機体――フライハイトだ。
アイツはそれを懇切丁寧に説明する。
そもそもが、宇宙で活動できるレベルまで機体をアップグレードしなければあそこまで加速はしない。
本物のフライハイトは、光の速度……までは行かずとも、全ての限界を超えた速度にも耐えられる魔の機体だと。
“無限加速”に、それに耐えうる“特殊合金装甲”。
一撃で全てを屠る“ロストウェポン”を装備し。
音速を超えた速度であろうとも、完全に対応した“戦闘システム”。
無敵にも等しい力を得ていた。
ヘブンフォールの世界で最も強大な力を持っていたとさえ俺たちは思っていた。
それほどの機体であり、この世に二つとない存在だ。
「そ、そんなもの作れる訳が! どういう理論で!? そもそも、そんなものが人の手に」
《――あぁ無理だな。人の手には余るもんだ。そこの馬鹿以外にはぜってぇに使えねぇ。あれはパイロットを生かすものでも成長させるものでもねぇ。パイロットを早死にさせるだけのある意味で欠陥品だな……まぁそれでも、だ。そこの男はそれで伝説なんざになっちまいやがった。そして、俺たちの夢だった仮想世界での月への到達を叶えた瞬間に、そいつの伝説は終わったんだよ》
「……まさか、そんな理由で……で、ですが、ヘブンフォールでは動いていたのなら」
リリアンさんは引き下がらない。
すると、アイツは小さくため息を吐く。
《……あれはな。ほとんど偶然の産物なんだよ。作った俺でも、何で動いているのか意味不明なんだ。メカニックなんかを自称している癖になんだって話だがよ……全てが上手く噛みあって、ヘブンフォール内で唯一無二の強さを誇っていたが……全部、奇跡だったのさ》
アイツはこうも語る。
夢で見たお告げ、そこから不眠不休の頭でくみ上げたシステム。
そうして、装甲に関しても莫大なゲーム内通貨を使いまくった結果、手に入れた超絶レアの逸品だったと。
同じものを作れと言われても、それはもう二度と作れない。
天文学的な数値で生み出せただけの奇跡の合金だ。
所謂、ソシャゲのガチャのようなものだが、合金を作るだけでも中学の青春は死んだ。
そうして、乗り手が俺であったからこそホワイトレコードは伝説となった。
《……だからよ。アイツはもう二度と、蘇りはしない。夢はいつかは醒めちまう。奇跡は二度も起きねぇんだよ》
「……あの、それは理解しました……ですが、設計図は残っていますよね?」
リリアンさんは至極真面目な質問をする。
すると、アイツはため息を吐きライターの火をつけた音をさせた……煙草か。
《ふぅ……夢は醒めちまうんだよ。奇跡は》
「――設計図は?」
《…………失くした! はは!》
「「――――」」
二人は絶句していた。
フライハイトほどの神がかった機体。
その設計図であれば、何処へ出しても高額で取引される。
とても貴重なものだが……そう、こいつはそれを失くした。
《……今思い出しても不思議だよなぁ。気づいたら、完全に消えちまっててよぉ。覚えてるか?》
「そりゃまぁ……めっちゃ焦ったけど。一機作れたらいいかって事になって……そっれきりだったよな?」
《そうそう! あの後、妹にもそれ伝えたら無言で電話切られてよぉ。ははは!》
「ふふふ!」
「わ、笑い事ではないですよ!?」
「……いえ、仕方ありません。無いものは、どうしようも……くっ」
主任さんは大いに焦り、リリアンさんは血の涙を流す。
俺たちは笑い合う。
アイツは用件はそれだけかと聞いてきた。
「あぁ、それだけ……ありがとな。また、こっちに帰ってきたら飯でも奢るよ」
《お! じゃ、あの焼き肉屋だな! 妹も呼んで……いや、無理だったな。はぁ……と、そういや妹とは連絡取り合ってねぇのか?》
「……いや、する訳ないだろ? どうして、お前の妹と裏で……はぁ」
《あぁ? いやいや! お前たち仲良かったじゃんか! アイツは俺とは違って天才で、俺の事は眼中になかったけどよ。お前にはめっちゃ話しかけてたし!》
「……そうかな? 覚えてる事といえば、めっちゃ勝負挑まれてた事くらいだけど……あの子、凄く操縦が上手いから。毎回ひやひやしてたよ。あと何回かやってたら負けてたかもねぇ」
昔を思い出す。
アイツとは正反対の氷のような女性で。
すらっとした身長に、モデルのような体系で。
アイツの両親は互いに再婚で、母方のDNAを色濃く受け継いだ妹さんは北欧美人だった。
恐ろしく整った容姿であるが、その目はひどく無感情で。
笑った顔なんて一度も見た事は無い。
アイツの話では周りを見下し、興味がない相手は見もしないという。
正に、思い描く天才そのものの生き方だった。
彼女はまごう事なき天才。
が、天才という言葉でひとくくりに出来ないほどに無限の才能を秘めていた。
文学、武道、科学、様々な分野で結果を残していたからな。
完璧超人であり、6歳で既に高校卒業資格まで得ていたらしい。
スポーツも万能であり、オリンピック選手並みで。
多くの企業やら何やらにスカウトされていたようだ。
アイツの両親は将来は影の支配者にでもなるのかと恐れていて……結局、どうなったんだろう?
俺は気になったからこそ、あの子がどの道に進んだのかと聞く。
すると、アイツは言い辛そうにして……?
《あぁ、その、何だ……実は、俺、聞いてねぇんだよ》
「え? 何で?」
《いやぁ着信拒否されててよぉ。親父たちにも聞いたんだが、知らされてないって……ただ、毎月、えらい額の金が振り込まれてるから、一応は何かして稼いでるらしいぜ?》
「おいおい、大丈夫なのか? それ」
《いやぁ、まぁアイツだし、犯罪だけはしねぇと思うけど……もし良かったら、連絡してやってくれよ! 番号、送っておくからよ!》
「……まぁ覚えてたらな……それじゃ、頑張れよ」
《おう! またな!》
久しぶりの会話を終えた。
ウィンドウを閉じてから、俺は小さくため息を吐く。
すると、リリアンさんはある事を聞いて来る。
「……ヘブンフォールには、フライハイトは……いえ、ありませんよね」
「……多分、知ってると思いますけど……アレはヘブンフォールで俺の最後の依頼で……完全に破壊しました」
「知っています。依頼名、“亡き戦友への手向け”……ですが、何故、フライハイトを……別の機体でも……っ」
リリアンさんは辛そうな顔をする。
彼女にとってホワイトレコードと同じようにフライハイトも大きな存在だったんだろう。
俺と竜一にとってもそうだったが……俺たちは最初から決めていた。
月へ到達したのならば、役目を終えたのであれば……最後は“天国にいるアイツ”に送ってやろうと。
俺と竜一。
そして、もう一人いた大切な友人。
共に青春をヘブンフォールで過ごした大切な戦友で……悔いはなかった。
俺はそれを思い出しくすりと笑う。
リリアンさんは理由を知りたいだろう。
が、これだけは話す事は出来ない。
美談にするつもりも、アイツを理由として語る事もしたくない。
これは俺と竜一だけの想いだ。
「……ま! いいじゃないですか! 無いものは無い! 仕方ないですよ。それよりも、俺はグリードで新しい機体を見つけないとなぁ」
「……根黒様。このような紛い物で申し訳ないのですが――どうか、これを使ってはいただけないでしょうか?」
「……まぁ、そうなりますよね。何となく、そんな気はしてました」
俺は少しだけ困る。
彼女は紛い物というが、此処まで再現されているものは他に無いだろう。
俺自身がアレを操縦してフライハイトを感じたのだから、完全な偽物ではないと断言できる。
だからこそ、役目を終えたアレに似たものを使うというのは……でも、断っても引き下がらないよなぁ。
彼女の熱意は本物だ。
俺が高価なものだとか、勿体ないとか言っても無意味だろう。
ここまで俺の為にしてくれたのならば、受け取るのが筋とも言える……それなら。
俺は手を叩く。
「それじゃ、申し訳ないんですが……俺からの要望を聞いてもらう事、できますかね?」
「……要望ですか……それは一体?」
「フライハイトに似せたアレをそのまま使うのは俺の心が許さないので――プロトタイプの設計図を少し流用させてもらえませんか?」
「「……!!」
武田さんとリリアンさんは大きく目を見開く。
プロトタイプというのはかっこいい言い方だが。
実際には、学生である俺たち三人がロマンやら何やら言い合って考えた最初の設計図だ。
中学生であり、俺はロマンだけで碌な知識は無かった。
ほとんどが竜一とアイツのお陰で、俺はアイデアだけを出し続けていた。
プロトタイプは、フライハイトのような完成された性能は無い。
圧倒的な力も無ければ、自由の象徴とも呼べないだろう。
が、アレこそが俺たち三人の原点だった。
だからこそ、新たな戦場で使うのなら――“最初からがいい”。
初めの一歩、原点への回帰。
言い方は何でもあるが、俺は友人たちの意思を受け継ぐ。
それが、一度は引退し、再びグリードの世界へと戻って来た――俺の役目だ!
「全力でゲームを楽しみたい。だから、フライハイトじゃなくて、プロトタイプが良い! ロマン塗れの無駄だらけの穴だらけで――俺たちって感じのね!」
「……よく分かりませんが……分かりました。それでは、武田。根黒様の指示に従いなさい」
「りょ、了解しました。それでは根黒様、お時間が頂けるのであれば早速これから打ち合わせを」
「はい! よろしくお願いします!」
俺は深々と頭を下げる。
今日は良い日だ。
フライハイトを思い出し、竜一とも久しぶりに話せた。
それに、アイツの事も思い出せた……そうだな。
新たな機体が出来たのなら。
アイツに報告する意味も含めて墓参りに行こう。
アイツの大好きな大福を持ってさ。
きっと喜んでくれる。
俺は根拠もなくそんな事を想いながら、武田さんと共に新機体のコンセプトを――