底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:ロボワン
「……え?」
電車に乗って、母校の近くにあった昔馴染みの焼き肉屋――“
昔と全く変わらない外観。
武家屋敷のような立派な建物だが。
中はバリバリのアメリカンチックな内装で。
座敷とかはあるけど、ほんとどの置物や飾りつけはニューヨーク風だ。
そのアンバランスさが地元ではバカ受けで、店長のおっちゃんも色黒でムキムキでバンダナにサングラスで……違う。
入店し、名前を確認された。
焦った様子であり、女の店員さんの顔は引きつっていた。
そうして、通された座敷。
周りを見れば――誰もいない。
人っ子一人おらず。
何時もなら酔っぱらいたちの声でうるさいほどなのに。
どういう事なのかと激しく戸惑う。
すると、視線を感じて……おっちゃん?
厨房の方からこっちに手招きしている。
俺は何が何だか分からないまま、靴をもう一度履いておっちゃんの方に行き――おっちゃんが厨房から顔を出す。
「お、おい! ヨシ! お、お前! どういう事だよ!?」
「え、な、何がですか? てか、何で今日はお客さんが誰も」
「惚けんじゃねぇ! 今日お前、VIPが来られるんだよ! お前はそのゲスト!! 急に連絡があってこっちは大慌てだよ!」
「え、VIP? いやいや、今日は神崎……リュウの妹さんが来る筈で」
「――その妹様がVIPなの!! 新しいオーナー様で、出資者で!? 雲の上の――き、きたぁぁ!!」
おっちゃんのサングラスがパキリと割れる。
そうして、大慌ててシェービングクリームを塗りたくり髭を秒で剃る。
何時もは着ていない筈のフレンチのシェフのような白いコック服に帽子を被って。
店員さんと共に入口の方に走っていった。
俺も気になって、こっそりとついて行き……絶句した。
「「「いらっしゃいませ! オーナー!!」」」
「……へ?」
無数の黒塗りの車が停まっている。
一斉に扉が開いて、真ん中の高級車の扉を運転手が開けて――彼女は出て来た。
「……」
「お、おぉ」
黒のテーラードジャケットを着て、その下は黒いタンクトップ。
下は黒のパンツであり、全身黒尽くめのコーディネイト。
アクセサリーはゴールド系で固めているが、派手さは感じられない。
すらっとした身長は170を超える長身で、背中まで伸ばした白銀の髪はさらさらと風に揺れる。
切れ長の瞳は、海のように綺麗な青色で。
人形と思えるほどに恐ろしく整った顔は、まるで表情筋が息をしていない。
彼女は高そうなブーツをコツコツと鳴らしながら歩いて来て――俺の前で止まる。
「……」
「え、あ、えっと……ひ、久しぶりぃ」
「……」
「へ、へへ……な、何、かな、ふ、ふへ?」
彼女は無言で俺を見つめる。
怒っているのか、喜んでいるのか。
まるで彼女の心が分からない。
俺はただひたすらに汗を流しながら笑って――彼女は俺の横を通り過ぎる。
店の中へと入って行き――彼女が振り返る。
「何、してるの」
「え? あ、あぁ! そ、そうだよね! 食事、食事だ! ははは」
「……」
彼女はまたしても俺を無視して最初に案内された座敷へと向かう。
俺は何だかやり辛いと感じながらも、彼女の護衛らしい強面の黒服たちに圧をかけられる。
びくびくと怯えながら中へと入れば、店長や店員さんたちは肉の準備に向かう。
護衛の人たちは外で待機していて、俺はおずおずと彼女の対面に座る。
彼女はメニューも見ない。
ただ正座して座っている。
俺も何故か正座して座り……き、気まずい!
「え、えっと、か、神崎さん? な、何か注文を」
「――極上セット10人前! お持ちしました! それとお水です!」
「はや!? え、注文はまだ……あ、先にしてたんだね。は、はは」
「……」
どんと肉が盛に盛られた大皿。
それと、キンキンに冷えた水が入ったコップが置かれた。
彼女は会話をしない。
見れば、既にコンロに火はついていた。
全て準備は整っていたようであり、彼女は無言でトングを持つ。
そうして、俺に何も聞かずに肉を焼き始めた。
じゅぅと音がし、肉の焼ける良い匂いが漂ってくる。
俺は少し頬が緩みそうになったが。
目の前の彼女の無言の眼差しですぐに頬は元に戻る。
が、このままではいけない。
俺は必死に笑みを作って、会話を試みる。
「わ、わぁ。い、良い匂いだなぁ。お腹、空いて来るなぁ。か、神崎さんも焼肉好きだったよねぇ? お、俺は特にカルビが好きだなぁ。は、ははは」
「……そう」
「へ、へへ、そ、そう、か。ふ、ふへ」
彼女はそれだけ呟き、黙々と肉を焼く。
俺は既にもう家に帰りたい気持ちで一杯だった。
あんな事言わなければ良かったと後悔し――
「――何で、フライハイトに乗らないの」
「え? ふ、フライハイトって……何で知ってるの?」
「……」
「あ、答えてくれないんだ……え、えっと、フライハイトはそもそももう作れないし。あ、でも、それっぽいものは作ってもらえたんだけど……やっぱり、俺たち三人の原点っていうのかな? それで、挑戦したくなったから、かな。はは」
何でタイタングリードの話に繋がったのかは分からないが。
彼女なりに話題をくれたので俺は答える。
すると、彼女は肉をひっくり返して――
「くだらない」
「……え?」
彼女はハッキリと俺たちを否定した。
何故、そんな事を言うのか。
俺が質問しようとすれば、小皿に肉を置かれた。
「え、い、いや、その……いただきます」
「……」
彼女は俺の皿と自分の皿に肉を置く。
そうして、無言で食う様に圧を掛けて来た。
俺は溜まらず、先に肉を食おうと箸を持つ。
たれの中につけてから、ゆっくりと肉を口へと入れて――美味い!
「んー! これこれ! このしっかりとした肉感! やっぱりこれだねぇ!」
「……」
俺が嬉しそうに喋れば、彼女は小さく頷く。
そして、自らも肉を食べ始めた。
髪を白く細長い指でかき上げて、小さな口で頬張る。
上品に咀嚼してから、彼女は肉を飲み込んで……無言でトングを持つ。
「の、ノーリアクションって……いや! それよりも、くだらないってどういう事?」
「……そのままの意味……合理性に欠けている。弱い機体を使う事に意味なんて無い」
「い、意味って……い、いや! そもそも、ゲームは楽しむ為であってね!?」
「――違う」
「ち、ちが……ぇ?」
また否定された。
訳が分からない。
そういった目で見れば、彼女はまた焼けた肉を俺と自分の皿に置く。
俺は無言で肉を食べる。
彼女も食べて、また肉を焼き始めた。
互いに無言。
彼女はジッと俺を見つめて来る。
俺も負けじと見つめ返し――
「私は勝つ為に存在している」
「……どういう意味?」
「そのまま。勝つ事が全て、当然の結果。負ける事は許されない。負ける事は恥。だからこそ――貴方を殺す」
「こ、殺すってさ。ぶ、物騒な事、い、言わないでよぉ。お、俺、君に恨まれるような事したぁ?」
俺は笑みを引きつらせる。
恐らく、眼には涙が浮かんでいるだろう。
彼女はそんな情けない俺を見ながら首を傾げる。
「恨んでいない。寧ろ――愛している」
「へ?」
「殺したいほど愛している。だから、殺す」
「ちょ、ちょっと待ってよ!? い、意味が分からないよ!?」
俺は手を必死に動かし彼女の言動を正そうとする。
が、彼女は至極冷静で、黙々と肉を焼いていた。
「……私の人生は順風満帆。完璧で、何不自由なく――退屈だった」
「あ、う、うん。そ、そうなの?」
「学校の人間は全て私より劣っていた。大人たちの言う事すら、聞く事すら無駄だと判断していた。高校卒業資格の認定を取った時も、別に苦労は無かった。気まぐれで大学に行っても、得るものは何もない。小学三年の時点で、投資のやり方は理解していた。母を合理的に説得し資金を得て、それを元手に企業に投資し。増えて行く資産をより円滑に回して――」
「お、お、おぉ?」
彼女は急に饒舌になる。
その全ては俺には理解できない内容だった。
子供ながらに天才で、小学校の時点で実は大富豪。
勉強せずとも大学レベルの事はおちゃのこさいさい。
今では複数の会社を経営し、自らが言わずとも円滑に回して行ける高性能AIを開発したらしい。
グループの総裁であり、竜一の両親の心配は当たっていた……か、影の支配者ぁ。
俺はただ笑う。
すると、彼女は――薄く笑った。
「でも、貴方が――私の道を狂わせた」
「へ?」
「……初めてだった。たかがゲーム。うるさい虫を黙らせる為、ただそれだけの理由でヘブンフォールで貴方と対戦して――完敗した」
俺は直感で――あ、やべと思った。
「悔しかった。死ぬほどに屈辱だった。初めて自分自身の心に無様な言い訳をして、ヘブンフォールの全てを一日で理解し。再び貴方に挑んで――手も足も出なかった」
「う、うん! それは仕方ないよ! 神崎さんは“初心者”だからね! ふ、ふへ」
俺は必死に軌道修正を計る。
“初心者ならば、慣れている俺に負けるのは普通”だと。
“悔しいかもしれないけど、全然普通の事”だと彼女をフォローし……。
「……それだよ」
「う、うん?」
「この私を初心者だと――“貴方だけは見下した”」
彼女の目にハイライトは無い。
綺麗な海のような瞳は深海のようで。
彼女の口角はどんどん上がっていく……やべ!
「あ、に、肉! 焼けてるよ! ほ、ほら!」
「凡人のように研究し、練習し、知識を深めて、最適なカスタマイズをして――私は一度も貴方に勝てなかった」
「う、うんうん! そうだねぇ。そうだったかなぁ? と、トング貸して――と、取れないぃぃ!!」
彼女の手からトングを取ろうとする。
が、恐ろしい握力で握り込まれていた。
俺はもうダメだとあちあちといながら手で肉を摘まんでいく。
「あち! あち! ふぅぅ……お、お! あつぅ!」
「……貴方だけ、私の道を塞いで、私の障害となれるのは、貴方しかいない……でも、貴方はヘブンフォールを去り、あの機体も消えてなくなった。もう二度と、貴方は私を狂わせてはくれない……絶望だった。この世の終わりと言ってもいい……でも、私は待ち続けた。貴方なら必ず、戻って来ると。だからこそ、私は――“伝説を染め上げる存在”になった」
「へ、へぇ、ほ、ほうなんらぁ……あ、焦げてる」
彼女は完全にトリップしていた。
が、俺は食事がしたいので必死になって肉を食べる。
黒焦げの肉を回収し食べれば、彼女はトングを静かに置く。
俺はすかさずトングを回収して、肉を焼き始めた。
「……聞かないの」
「え、何が?」
「私が誰で、私がどんな存在か……知りたい?」
「――え、別に」
「……ふ、ふふふ」
俺は肉を食うモードに入っている。
だからこそ、彼女には悪いが肉を焼く事に集中し――バキリと音がした。
「え!? あ、あ! こ、コップが! コップが粉々に!? え!?」
「……貴方は変わらない。今も私なんて――眼中にない」
「え、い、いや、そんな事はないよ? 神崎さんはほら、えっと……が、頑張ってるなぁ!」
「……それでいいよ。そのままでいて……絶対に、私が、貴方を――殺してあげるから」
「あ、うん! 頑張ってね……あ、肉焼けるよ! どんどん食べて……え、ちょ!?」
神崎さんは席を立つ。
そうして、彼女は何も言う事無く去っていく。
「また誘う。絶対に貴方は来る。貴方は私を無視できない。お互いに時と場所が揃ったら――“殺し愛ましょう”」
「え!? いや、食べてないじゃん! 10人前何て食べきれないよ!! ね、ねぇ!! ちょっとーー!!」
神崎さんは一人自分の世界に入ったまま、店を出て行く。
俺は盛りに盛られた10人前の大皿を見て……みっちゃんかコウちゃん来てくれるかな?