底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:ロボワン
「……お待たせしました」
「いえいえ」
「ふ、ふ♡」
「……ぅ」
三者三様の反応だ。
が、俺は気にしない。
そのまま小さなテーブルの横を通り過ぎようとし――照明が消えた。
「「「……!」」」
全員が狼狽える。
が、俺はその隙にテーブルにあるものを――拝借する。
次の瞬間には、電気が再びついた。
みっちゃんたちは周りを見ていた。
オリアナさんだけが俺の方をジッと見ている。
俺は動揺したように装いながら、そのまま席へと戻っていった。
徐に鞄を掴み、中身を漁る。
そうして、探し物が無いように装い、そのまま鞄を開けた状態で机の上に置いた。
俺は自らのポケットを調べて――端末を出す。
「あ! あったあった。えっと時間は……もう9時かぁ。早いなぁ」
《……加賀様、ゲームを再開してもよろしいですか》
「え? あ、あぁ! すみません……それじゃ、再開しますね!」
「えぇ、お願いします」
俺は端末を裏向きにした状態で机に置く。
そうして、目の前に並ぶカードに手を伸ばす。
あの机の上から拝借したものは既に別のポケットに隠しておいた。
後は二回目を待つだけで――
#
手番は巡っていき、残りカード枚数――50枚。
「……ぅ、ぅぅ……」
「……ぅ、ぁ……」
此処まで粘っていたコウちゃんとみっちゃんだが。
コウちゃんは既に眠りにつき、みっちゃんも机に突っ伏していた。
みっちゃんのショット回数は6回で、コウちゃんは7回だ。
よく耐えた方だと思う。が、もうダメであり……此処からだ。
「……っ」
「加賀様、お疲れのようですね。どうぞ、横になってお休みください。朝になれば――全てが終わっていますよ」
オリアナさんは微笑む。
彼女を見つめていれば、彼女の姿が三重に見えていた。
俺自身も、ショットは回避しようと思ったが……無理だった。
既にスリーショットを決めていた。
睡魔に襲われており、気を抜けば意識は飛んでいってしまいそうだ。
根性で耐えているだけであり、俺は彼女を警戒する。
みっちゃんとコウちゃんの獲得枚数は24枚。
オリアナさんは72枚で、俺は42枚だ。
脱落した島月さんが8枚で……クソ。
17巡目が終わり、散々な結果だ。
それもその筈であり、オリアナさんが本気を出してきた。
8巡目では一組で終わらせていたところを。
彼女は次から二組を取るようになった。
最後では三組も取っていき、完全に仕留めに来ていた。
それも、俺が記憶できていた簡単なものを優先的に取っていくのだ。
結果、俺は三回連続でショットを決めて、みっちゃんたちもアルコールとショットの影響で集中力を失ってしまった。
非常にまずい。危険な状態だ。
このままでは脱落してしまう……いや、まだだ。
残り枚数50枚。
カードも歯抜けの状態で――勝負を決めるのなら、此処だッ!!
オリアナさんの手番となる。
彼女はカードを取ろうとする。
一枚目を捲り、次のカードを選ぼうとし――声が響く。
「4番ルーム、3名様! チャーシュー麺、5人前です!!」
「……これに――!」
彼女が手を伸ばす。
が、俺も同時に手を伸ばす。
瞬間、互いの手は一枚のカードの上で止まった。
「何のつもりでしょうか?」
「――ダウト、だよ」
俺は笑う。
瞬間、サンが俺に告発の内容を聞いて来る。
「告発の内容は――協力者によるカードの位置の特定だよ」
「……協力者? そのような存在はいませんよ。やはり、疲れているのでしょうか。ふふ」
「いや、いるよ。彼女の協力者は、店の従業員……いや、それに扮した彼女の身内だろうね」
「……証拠は?」
オリアナさんが目を細めて薄い笑みを浮かべる。
俺はすかさず端末を取り、録音データの一部を再生する。
《4番ルーム、3名様! チャーシュー麺、5人前です!!》
「……? これが、何か? 注文を伝えているだけでは……?」
「あぁ普通はそう思うよ。現にメニュー表を調べたら、ちゃんとそのメニューは存在している」
「でしたら、この告発には意味など」
「――そう、日付が書かれた写真付きでね」
「……何がおっしゃりたいのですか」
俺は足元のメニュー表を取り出す。
そうして、それをオリアナさんに見えるように開ける。
チャーシュー麺は8ページ目の2行目に書かれている。
が、重要なのは写真が掲載されている事だ。
俺は小さく書かれた曜日付きの日付を指で示す。
「此処には2056年の8月18日金曜日と書かれているよね……これこそが、君に対して正しいペアを示す暗号さ」
「……ふふ、そうなのですか? 私にはさっぱり分かりませんが……他でもない貴方様の推理であればお聞きしましょう」
オリアナさんは余裕そうに微笑む。
俺はたらりと汗を流しながらも自らの考えを伝える。
「先ず、店員さんが言っていた部屋の番号。これは、それぞれを区切る部分。いわば、“数字の部屋”を指しているんだ。1番であれば年の個所を、2番であれば月を、3なら日で、4なら曜日だ。だけど、今までの店員さんの声から1は出てきていない。だからこそ、2から3こそが――カードの縦列の何番かを示すものなんだ」
「……つまり、2番でメニューの写真が5月なら、縦から5番目。3で日付で、そうですね……7日なら7番目といいたいのでしょうか……ですが、それなら曜日はどう説明を?」
「それは簡単な事だよ。月曜から日曜までを数字に変換すればいいだけさ。単純だよ。暗号を解くまでが面倒だけどね」
「……では、横は? どう考えても、3と5の数字ではつじつまが合いませんよ?」
オリアナさんはにやりと笑う。
恐らく、単純な計算では辿り着けない。
が、老紳士は日付が重要だと念押ししていた……つまり、だ。
「人数と何人前かのコールは、決まって上限は8。それ以上は存在しない。何故なら――いらないからだ」
「……ふふ」
「3名と5人も、人間としての数え方。つまり、それら自体には何の仕掛けも無い。単純にそれらは、どこの順番かを示す数字でしかないんだ……つまり、この日付の3番目と5番目、5と8で……足せば、13……つまり、今、君が取ろうとしたカードだ」
「……」
オリアナさんは沈黙する。
が、俺は畳みかけるように言葉を吐き続けた。
「お手洗いから帰ってから、全ての記録は取っておいたよ。少し焦ったのは、単純な足し引きだけじゃなく。掛ける事も割る事もしていたことだけどね。でも、そういう時は決まってコールの仕方が異なっていた……例えば、コールをする時の順番を変えたり、ね」
「……!」
俺は一つずつ再生し、答えを提示し。
彼女が取っていったカードの場所を指し示す。
全て覚えており、記憶に残していた。
写真は撮っていない。が、この場には俺以外にもサンや黒服たちもいる。
彼らが全員、彼女に買収されていたのならそれで終わりだが……それだけはあり得ない。
何故なら、彼女もゲームが大好きな人間で。
イカサマはしても、一方的なゲームなんて絶対にしないだろう。
ゲーマーならば、99パーセントの理不尽は愛せても。
100パーセントの不可能だけは許せない。
そういう人間であり――サンは頷く。
《……オリアナ様。私の記憶でも、加賀様の申してくれたカードの位置は、確かに貴方様がお取りになったカードの位置と一致します……異議申し立てはありますか?》
「……ふ、ふふふ……いえ、ありませんわ。完璧なほどに――見抜かれてしまいました」
彼女は微笑む。
瞬間、待機していた黒服は何処かに連絡をする。
すると、廊下の方で女の人の慌てる声が聞こえて来た……これで、第一段階だ。
別の黒服が彼女のグラスにドリンクを注ぐ。
彼女はそれを両手で掴み、一気に飲んだ。
「……っ♡ ふふ、美味しいですね」
「……っ」
まだたったの一杯。
思考能力は落ちても、優秀な彼女なら十分だろう。
《それでは、不正を見抜いた加賀様には――10枚を進呈します》
「……よ、し!」
俺の総枚数はこれで52枚。
が、オリアナさんとの差は歴然だった。
彼女はそのまま自分の手番だからと、取ろうとしていたカードを捲る。
すると、そのカードはやはりペアのカードだった。
彼女は手を動かし、そのまま別のカードを捲っていき……失敗か。
「ふふ、それではお次を……あら」
「ぅ、ぅ、ふ……っ」
今にも眠ってしまいそうなみっちゃん。
彼女の体は揺れていて、手は震えていた。
が、何とか最後の力を振り絞って彼女はカードを捲ろうとし――体が倒れる。
「「……!」」
瞬間、何枚かのカードが捲れる。
俺はそれよりもみっちゃんの方へと駆け寄っていった。
彼女の体を抱き寄せて、顔を確認すれば……寝ている。
「……ん」
「……良かった……でも、これじゃ……」
みっちゃんは眠ってしまった。
俺はゆっくりと彼女を仰向けにする。
そうして、後の事は黒服の方に任せた。
《みっちゃん様――失格です》
「……サンさん。このカードは、どうなるんですか?」
俺は敢えて聞く。
次の順番はコウちゃんだが、コウちゃんは既に眠りについていた。
続行は不可能であり、自然と俺の手番となる。
既に十枚以上が見えていて、これでは完全に俺が有利だ。
命がけの戦いではあるが、フェアにいきたい。
そういうつもりで聞けば――オリアナさんは笑みを浮かべた。
「どうぞ、引いてください。これはゲームです。アクシデントでさえも、ゲームを盛り上げる要素ですよ」
「……後で後悔しても遅いからね」
「ふふ、さて、後悔をするのは私でしょうか?」
彼女は微笑む。
俺はそのまま席に戻る。
そのタイミングでコウちゃんの失格が宣告された。
俺の手番となれば、10枚以上のカードは戻される事も無く固定されていた。
俺はそれを見て、ペアになっているものを優先的に取っていく。
取って、取って、取って取って――
「……中々に、いい勝負、ですね……ふふ♡」
「あぁ全くだよ……は、はは」
彼女は呼吸を乱しながらも笑う。
俺も目を閉じながら、小さく微笑んだ。
場に残ったカードは――10枚だ。
ラッキータイムによって俺は16枚のカードを獲得。
そこからはワンショットもありながらも、カードを獲得していき。
互いのカード枚数は、俺が80枚。オリアナさん92枚だ。
俺は自らの分析力をフルに使って何とか1組を完成させていき、追加のショットは一回に留めた。
オリアナさんは果敢に2組を取っていき3組を獲得した瞬間もあったが。
攻め急ぐが故にミスも目立ち、合計で二回のショットを決めていた。
次はオリアナさんの手番。
現在の持ち札の数であれば、確実に俺は負けるだろう。
彼女のミスを狙うのもいい。
が、彼女が失敗する姿が――想像できない。
彼女は微笑む。
そうして、呼吸を乱しながらも札に手を伸ばし――俺は机の下で合図を送った。
「……!!」
瞬間、またしても照明が落ちた。
俺は瞬時に手を全力で動かす。
汗を指で拭い、ポケットからあるものを出し。
カードを動かして、僅かに布の擦れる音が響き――再び照明がつく。
「…………なるほど、お父様、ですか……全く……ふ、ふふ」
「……さぁオリアナさん――引きなよ」
俺は彼女に行動を促す。
すると、彼女は静かに頷き、カードに手を伸ばし――捲った。
1枚目を捲り、続いて2枚目を捲り――揃う。
「加賀様、いえ、ホワイトレコード様……やはり、貴方は素晴らしい方でした」
「……どうも」
彼女は続いて3枚目を捲り、4枚目を捲って――また、揃った。
「だからこそ、このような結末は私自身認めたくありません。貴方なら、どんな逆境であろうとも……ですが、認める他ありません。今宵、貴方様は――私に敗北する」
5枚目を捲り、6枚目を捲って――揃う。
「……随分と、運が良いんだね」
「ふふ、幸運の女神が微笑んでいる……信じられないのなら、ダウトを宣言してくださいね?」
「自身ありってか。はは――でも、断るよ」
俺はきっぱりと断った。
すると、彼女は小さくため息を吐き――ペアを揃えた。
「さぁ残すカードは2枚。何が残っているかは――分かりますね?」
「……いや、まだ、分からないよ。捲ってみたら?」
俺は彼女を挑発する。
すると、彼女は微笑みながらカードに手を伸ばし――
「サン、質問があります。一度捲ったカードが――不正に加えられたカードの場合、どうなりますか?」
《……不正を行った人間が分かれば、ダウトを宣言してください。正解であれば、ルール通りに進行し、実際に捲る筈だったカードが不正な品であれば手番の消費はありません。が、分からない場合は、カードを捲った時点でそれらは除外。手番は失います》
「――と、いう訳です。ですので――ダウト♡」
彼女はにこりと笑う。
ダウトの宣言に対して俺はたらりと汗を流す。
瞬間、サンが告発の内容を聞く前に――彼女がカードを掴んだ。
「加賀様、このような仕掛けを施すなんて――悪いお人ですね」
「……!」
彼女はそう言って、爪でカードを――“剥がす”。
一枚のカードだと思わせたものは実際には2枚。
彼女は裏を向けたまま2枚を置き、続いてもう1枚の方にも手を伸ばす。
それも、彼女の力によって簡単にはがされた。
彼女は微笑みながら、片割れを掴んでオープンする。
それらの絵柄は、どれも最初の黒服の方たちが使っていたものに酷似していた。
「サン、これらは不正な品であっていますか?」
《――確認しました。不正なもので間違いございません。そして、証拠は加賀様の指紋ですね?》
「……!」
「ふふ、えぇ、そうです。タイミングは停電直後、残された指紋は――カードに残されています」
その発言と同時に、扉を開けて別の黒服たちが入って来る。
彼らは白い手袋を嵌めていて、専用の道具でカードを調べる。
そうして、何かの資料を確認し――黒服が頷く。
《調査の結果――加賀様が不正を行った人物であると結果が出ました。よって、ペナルティとオリアナ様へのカードの進呈を行います》
「く、ぅ!」
彼女には追加の10枚が。
そして、俺にはドリンクが注がれる……まだだ。
まだ、倒れる訳にはいかない。
此処で負ければ、全てが無駄になる。
俺は何とか勇気を振りしぼり――飲み干す。
「ぅ!」
瞬間、どっと眠気が襲ってきた。
意識は完全に千切れかけていた。
一瞬で気を失いそうであり――唇を噛み切る。
鋭い痛みが走り、口内に血の味が広がった。
噴き出した血が口から少し垂れていた。
痛みによって何とか意識を保つ俺。
すると、オリアナさんが――悲し気な声を出す。
「……そこまで……嫌ですか」
「あぁ嫌だよ。絶対に、死んでも嫌だね」
「……っ」
彼女は唇をきゅっと噛む。
俺は血を垂らしながら笑みを浮かべる。
「間違いで結んだ関係なんて――真実の愛じゃない、からね!」
「……!」
俺は血を拭う。
そうして、ゲームを続けようと彼女を促す。
彼女は目を丸くしていたが、すぐに微笑み。
1枚目を捲る。すると、当然ながら、それは――ジョーカーだ。
書かれている絵柄は、俺の愛機であったフライハイトに似ている。
切り札なんて中々に味な真似だ。
そう思っていれば、彼女はもう1枚に触れる。
それを捲れば、全てが終わる。
勝者と敗者が決まり、ゲームに幕は閉じる。
俺は心臓をどくどくと鼓動させながら、彼女の動きを見つめて――
「――なぁんちゃって♡」
「……ぁ?」
彼女は捲るのを辞めた。
そうして、再び――ダウトを宣言する。
「サン、このカードは――不正です」
「……!」
《……なるほど。まだ、存在していたのですか……では、オープン!》
サンの言葉と共にカードは開かれた。
すると、その絵柄は――醜い豚だった。
《――不正であると断定。調べなさい》
残っていた黒服たちが調べる。
結果は当然ながら俺のクロで――ドリンクが注がれる。
「……く、そ」
「ふふ、何故、分かったのか。そうお思いですね? ならば、特別に――種を明かしましょう」
彼女はそう言って、自らの目に触れる。
瞬間、彼女の目は――色を変えた。
「……! それは」
「えぇ、これは――義眼です」
機械的な色になった目。
義眼であり、機械化された目だった。
つまり、今までの失敗も、それまでの仕込みも――全てフェイク。
《オリアナ様。自ら種を明かされたのであれば……よろしいのですね》
「えぇ、当然――ワンショットですね」
彼女は微笑む。
そうして、彼女のグラスにもドリンクが注がれる。
彼女はグラスを両手で持ち、目の前に掲げる。
微笑んでいる。が、その目はギラギラとしていた。
野生の目、獣の目だ。
獲物を前にして涎を垂らしている。
そういう類の危険な目で……俺は震える手でグラスを持つ。
「それでは、真実の愛というものを得る為に――乾杯♡」
「ふ、ふ、か、かん、ぱ、ぃ」
互いにグラスを軽く当てた。
そうして、中身を呷る。
瞬間、今までの比ではない眠気が俺を襲ってきた。
俺は一瞬で意識が持って行かれそうに、な、り――――…………
○
「……終わり、ですね」
「……」
加賀様は……いえ、ホワイトレコード様は眠りについた。
机の上に倒れて、そのまま静かになった。
私はこのような形で手に入れてしまった勝利に悲しみを覚える。
誰であろうとも夢に見た勝利。
生身であろうとも、私よりも遥かに格上のこの方に勝てたのだ。
普通なら泣いて喜ぶべき瞬間なのに……でも、構いません。
他のケダモノたちを出し抜いた。
そして、私こそがこの方にもっとも相応しいパートナーであることを――証明した。
他の誰でもない。
私こそがホワイトレコード様の隣に立つに相応しい伴侶。
死ぬほど焦がれた席であり、この後はそのまま私たちを待っているお母様の元へと……ふふ。
《……オリアナ様。ゲームの続きを》
「あら? その必要はもう……いえ、そうね。途中で投げ出すのは……真のゲーマーではないわね」
私は納得し、そのまま彼が隠した――鞄の下のカードを取る。
上手く隠したつもりでしょう。
彼の作戦は、不正に入手した2枚をジョーカーの下につける事。
が、実際にはカードは3枚入手していて。
1枚だけを私の近くにあるジョーカーに被せて偽装。
残り2枚を繋げる事で、罠を仕掛けていた。
そのまま油断した私を嵌めて、不正のカードを捲らせる。
その瞬間に、私は手番を失い。
彼は何食わぬ顔で、カードが鞄の下に入っていたと嘘をつく。
勿論、ワンショットのリスクはあった。
が、確実にその手番で勝つ事が出来ていただろう。
「肉を切らせて骨を断つ……流石です。でも、私には、一歩――届きませんでした」
サンが何かを言っている。
が、私の耳にそれは届かない。
不正も、何もかも、どうでもいい。
今はただ、このカードを捲り、全てを終わらせたい。
勝利を掴み。
臨んだ席を手に入れて、私は誰よりも早く幸せになるんだ。
「あぁ、ホワイトレコード様。きっと、私は、貴方様に相応しい存在に――」
私はゆっくりとカードを捲る。
そうして、書かれている栄光のフライハイトを、この目で――手が止まる。
「………………ぇ」
捲られたカード。
そのカードは――――“胡散臭い顔のキツネ”だ。
「え、ぁ、ぇ、ぃ、ぁ、どう、し……ぇ?」
《……どうやら、それは“間違って混入したもの”のようですね》
「ちが!? これは不正に!!」
《――例えそうであっても、貴方は宣言しなかった。それが全てです》
「……っ! だったら、カードは、ジョーカーは何処に!? 加賀様!!」
「……」
激しく混乱した。
が、彼は答えない。
サンは私の手番は終わったと加賀様に繋ぐ……いや、まだよ。
加賀様は完全に眠っている。
あの状態から目覚める事は不可能。
外部からの刺激でもない限り、絶対に彼が起きる事は――気づいた。
彼の頭の位置。
いえ、精確には耳の辺りに――端末が置かれていた。
何故、そこに、いやどうして――タイマーが見える。
「……まず!」
私は動く。
が、僅かな差で――タイマーが起動。
瞬間――凄まじい爆音で下手な歌声が部屋中に響き渡る。
《ぼえぼえぼぇぇぇぇああぼえぇぇぇ!!!!!》
「う、ぁああ!? な、に、これはぁ!!?」
私は思わず両耳を塞ぐ。
眠っていた人たちも苦しそうに呻き声を上げていた。
私はハッとして加賀様を見る。
すると、彼はゆっくりと体を起き上がらせて――鞄の中に手を入れた。
「――予想、していた」
「え!?」
「君は、俺が会った人間の中でも、トップクラスに優秀な人間だ」
彼は私を褒める。
気づけば、殺人級の歌声は止まっていた。
鞄の中を探る彼、取り出したのは――小さなポーチだ。
「それ、は……! まさか!?」
「優秀である君が、無策のまま、この戦いに望む筈がない。一手潰されても――二手、三手を用意している筈だ」
彼は告げる。
もしも、カードの内容が分かるとすれば。
それは機械的な何かを使ったトリックであると。
「可能性は低かったよ。でも、みっちゃんの時と同じように――電波による特定以外に考えられない」
「……中から、カードが!?」
彼はポーチを開ける。
瞬間、薄っすらと見えていたカードの電波が一気に解放される。
車のスマートキーや端末の電波の漏洩を防ぐ目的で開発された特殊防波バック。
ハッキングによるサイバー犯罪。
中でも、リレーによって車が盗難されないように作られたもの。
その特性は中にある電子機器の電波を外部に漏らさない為のもの……なるほど。
「鞄の下にあったカード。その電波が完全に見えず。混ざり合ったように見えたのは、それのせいでしたか……ふ、ふふ、ははは!」
「……やっぱり、君は優秀だ。こんな事でもしなければ、知恵比べでは君には勝てなかっただろうさ……だからこそ、伝えるよ――ありがとう」
彼はカードを掴む。
そうして、天へと掲げた。
「君との
「……!」
彼はそう宣言し、カードを机に叩きつける。
掌をどければ、そこには――フライハイトの絵が。
《……! おぉ、おぉ! 素晴らしい!! 今宵の神経衰弱。その決め手は、ラストのジョーカーの成立!!! よって、ゲームの勝者は――加賀芳次様となります!!!》
「うぅ、おぉぉぉぉぉ!!!!」
彼は両手を天高く掲げる。
その姿は雄々しく、どんな英雄よりも輝いていて――彼の腕がだらりと下がる。
「……加賀様? 加賀様……まさか」
私はふらふらしながも立ち上がる。
そうして、彼の顔を確認して……立ったまま、気絶している。
「――」
「……凄い。流石……いえ、想像を遥かに超えていました」
私は微笑む。
自然と笑みが浮かんでくる。
私は負けた。
最高の結果を得られなかったのに……無性に嬉しい。
清々しい敗北。
こんなにも気持ちよく負けられる日が来ようとは。
私は小さく息を吐き……扉が開かれた。
「……! お母様。それと……お父様?」
「……負けたのね。それも逆転されて」
「……お、オリアナ、す、すまない。ぱ、パパを、ゆるして……ひぃ」
お母様は持っていたセンスをぱたりと閉じる。
顔中がぼこぼこになっているお父様は怯えた声を出していた。
秘書であるキミエは黙ったままで……。
「……帰りますよ」
「……! いいのですか? 私は負けて……」
「ふっ、山城の女は一度の敗北で諦めるのですか? 違うでしょう――リベンジなさい」
「……! はい!」
「……キミエ、ご友人の方々の送迎は任せます。特に、婿殿は丁重に帝王ホテルのスィートへ」
「かしこまりました」
「え? べ、別にカプセルホテルでも」
「――では、アナタは今日はそこで反省してください」
「えぇぇ!? そ、それは……はぃ」
お母様は踵を返す。
そうして、三人は先に外へと行ってしまった。
サンもいつの間にか消えていて、私も言われた通り帰ろうとし――加賀様に近づく。
ゆっくりと顔を近づける。
そして、頬に唇を……私はそのまま小走りに去る。
「……ふふ」
何時の日か、リベンジを――山城の女は諦めない。