底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:ロボワン

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第33話:奇跡の勝者(☆)

「……お待たせしました」

「いえいえ」

「ふ、ふ♡」

「……ぅ」

 

 三者三様の反応だ。

 が、俺は気にしない。

 そのまま小さなテーブルの横を通り過ぎようとし――照明が消えた。

 

「「「……!」」」

 

 全員が狼狽える。

 が、俺はその隙にテーブルにあるものを――拝借する。

 

 次の瞬間には、電気が再びついた。

 みっちゃんたちは周りを見ていた。

 オリアナさんだけが俺の方をジッと見ている。

 俺は動揺したように装いながら、そのまま席へと戻っていった。

 

 徐に鞄を掴み、中身を漁る。

 そうして、探し物が無いように装い、そのまま鞄を開けた状態で机の上に置いた。

 俺は自らのポケットを調べて――端末を出す。

 

「あ! あったあった。えっと時間は……もう9時かぁ。早いなぁ」

《……加賀様、ゲームを再開してもよろしいですか》

「え? あ、あぁ! すみません……それじゃ、再開しますね!」

「えぇ、お願いします」

 

 俺は端末を裏向きにした状態で机に置く。

 そうして、目の前に並ぶカードに手を伸ばす。

 あの机の上から拝借したものは既に別のポケットに隠しておいた。

 後は二回目を待つだけで――

 

 

 #

 

 

 手番は巡っていき、残りカード枚数――50枚。

 

「……ぅ、ぅぅ……」

「……ぅ、ぁ……」

 

 此処まで粘っていたコウちゃんとみっちゃんだが。

 コウちゃんは既に眠りにつき、みっちゃんも机に突っ伏していた。

 みっちゃんのショット回数は6回で、コウちゃんは7回だ。

 よく耐えた方だと思う。が、もうダメであり……此処からだ。

 

「……っ」

「加賀様、お疲れのようですね。どうぞ、横になってお休みください。朝になれば――全てが終わっていますよ」

 

 オリアナさんは微笑む。

 彼女を見つめていれば、彼女の姿が三重に見えていた。

 俺自身も、ショットは回避しようと思ったが……無理だった。

 

 既にスリーショットを決めていた。

 睡魔に襲われており、気を抜けば意識は飛んでいってしまいそうだ。

 根性で耐えているだけであり、俺は彼女を警戒する。

 

 みっちゃんとコウちゃんの獲得枚数は24枚。

 オリアナさんは72枚で、俺は42枚だ。

 脱落した島月さんが8枚で……クソ。

 

 17巡目が終わり、散々な結果だ。

 それもその筈であり、オリアナさんが本気を出してきた。

 

 8巡目では一組で終わらせていたところを。

 彼女は次から二組を取るようになった。

 最後では三組も取っていき、完全に仕留めに来ていた。

 それも、俺が記憶できていた簡単なものを優先的に取っていくのだ。

 結果、俺は三回連続でショットを決めて、みっちゃんたちもアルコールとショットの影響で集中力を失ってしまった。

 

 非常にまずい。危険な状態だ。

 このままでは脱落してしまう……いや、まだだ。

 

 残り枚数50枚。

 カードも歯抜けの状態で――勝負を決めるのなら、此処だッ!!

 

 オリアナさんの手番となる。

 彼女はカードを取ろうとする。

 一枚目を捲り、次のカードを選ぼうとし――声が響く。

 

 

「4番ルーム、3名様! チャーシュー麺、5人前です!!」

「……これに――!」

 

 

 彼女が手を伸ばす。

 が、俺も同時に手を伸ばす。

 瞬間、互いの手は一枚のカードの上で止まった。

 

「何のつもりでしょうか?」

「――ダウト、だよ」

 

 俺は笑う。

 瞬間、サンが俺に告発の内容を聞いて来る。

 

「告発の内容は――協力者によるカードの位置の特定だよ」

「……協力者? そのような存在はいませんよ。やはり、疲れているのでしょうか。ふふ」

「いや、いるよ。彼女の協力者は、店の従業員……いや、それに扮した彼女の身内だろうね」

「……証拠は?」

 

 オリアナさんが目を細めて薄い笑みを浮かべる。

 俺はすかさず端末を取り、録音データの一部を再生する。

 

 《4番ルーム、3名様! チャーシュー麺、5人前です!!》

「……? これが、何か? 注文を伝えているだけでは……?」

「あぁ普通はそう思うよ。現にメニュー表を調べたら、ちゃんとそのメニューは存在している」

「でしたら、この告発には意味など」

「――そう、日付が書かれた写真付きでね」

「……何がおっしゃりたいのですか」

 

 俺は足元のメニュー表を取り出す。

 そうして、それをオリアナさんに見えるように開ける。

 

 チャーシュー麺は8ページ目の2行目に書かれている。

 が、重要なのは写真が掲載されている事だ。

 俺は小さく書かれた曜日付きの日付を指で示す。

 

「此処には2056年の8月18日金曜日と書かれているよね……これこそが、君に対して正しいペアを示す暗号さ」

「……ふふ、そうなのですか? 私にはさっぱり分かりませんが……他でもない貴方様の推理であればお聞きしましょう」

 

 オリアナさんは余裕そうに微笑む。

 俺はたらりと汗を流しながらも自らの考えを伝える。

 

「先ず、店員さんが言っていた部屋の番号。これは、それぞれを区切る部分。いわば、“数字の部屋”を指しているんだ。1番であれば年の個所を、2番であれば月を、3なら日で、4なら曜日だ。だけど、今までの店員さんの声から1は出てきていない。だからこそ、2から3こそが――カードの縦列の何番かを示すものなんだ」

「……つまり、2番でメニューの写真が5月なら、縦から5番目。3で日付で、そうですね……7日なら7番目といいたいのでしょうか……ですが、それなら曜日はどう説明を?」

「それは簡単な事だよ。月曜から日曜までを数字に変換すればいいだけさ。単純だよ。暗号を解くまでが面倒だけどね」

「……では、横は? どう考えても、3と5の数字ではつじつまが合いませんよ?」

 

 オリアナさんはにやりと笑う。

 恐らく、単純な計算では辿り着けない。

 が、老紳士は日付が重要だと念押ししていた……つまり、だ。

 

「人数と何人前かのコールは、決まって上限は8。それ以上は存在しない。何故なら――いらないからだ」

「……ふふ」

「3名と5人も、人間としての数え方。つまり、それら自体には何の仕掛けも無い。単純にそれらは、どこの順番かを示す数字でしかないんだ……つまり、この日付の3番目と5番目、5と8で……足せば、13……つまり、今、君が取ろうとしたカードだ」

「……」

 

 オリアナさんは沈黙する。

 が、俺は畳みかけるように言葉を吐き続けた。

 

「お手洗いから帰ってから、全ての記録は取っておいたよ。少し焦ったのは、単純な足し引きだけじゃなく。掛ける事も割る事もしていたことだけどね。でも、そういう時は決まってコールの仕方が異なっていた……例えば、コールをする時の順番を変えたり、ね」

「……!」

 

 俺は一つずつ再生し、答えを提示し。

 彼女が取っていったカードの場所を指し示す。

 全て覚えており、記憶に残していた。

 写真は撮っていない。が、この場には俺以外にもサンや黒服たちもいる。

 彼らが全員、彼女に買収されていたのならそれで終わりだが……それだけはあり得ない。

 

 何故なら、彼女もゲームが大好きな人間で。

 イカサマはしても、一方的なゲームなんて絶対にしないだろう。

 ゲーマーならば、99パーセントの理不尽は愛せても。

 100パーセントの不可能だけは許せない。

 そういう人間であり――サンは頷く。

 

《……オリアナ様。私の記憶でも、加賀様の申してくれたカードの位置は、確かに貴方様がお取りになったカードの位置と一致します……異議申し立てはありますか?》

「……ふ、ふふふ……いえ、ありませんわ。完璧なほどに――見抜かれてしまいました」

 

 彼女は微笑む。

 瞬間、待機していた黒服は何処かに連絡をする。

 すると、廊下の方で女の人の慌てる声が聞こえて来た……これで、第一段階だ。

 

 別の黒服が彼女のグラスにドリンクを注ぐ。

 彼女はそれを両手で掴み、一気に飲んだ。

 

「……っ♡ ふふ、美味しいですね」

「……っ」

 

 まだたったの一杯。

 思考能力は落ちても、優秀な彼女なら十分だろう。

 

《それでは、不正を見抜いた加賀様には――10枚を進呈します》

「……よ、し!」

 

 俺の総枚数はこれで52枚。

 が、オリアナさんとの差は歴然だった。

 

 彼女はそのまま自分の手番だからと、取ろうとしていたカードを捲る。

 すると、そのカードはやはりペアのカードだった。

 彼女は手を動かし、そのまま別のカードを捲っていき……失敗か。

 

「ふふ、それではお次を……あら」

「ぅ、ぅ、ふ……っ」

 

 今にも眠ってしまいそうなみっちゃん。

 彼女の体は揺れていて、手は震えていた。

 が、何とか最後の力を振り絞って彼女はカードを捲ろうとし――体が倒れる。

 

「「……!」」

 

 瞬間、何枚かのカードが捲れる。

 俺はそれよりもみっちゃんの方へと駆け寄っていった。

 彼女の体を抱き寄せて、顔を確認すれば……寝ている。

 

「……ん」

「……良かった……でも、これじゃ……」

 

 みっちゃんは眠ってしまった。

 俺はゆっくりと彼女を仰向けにする。

 そうして、後の事は黒服の方に任せた。

 

《みっちゃん様――失格です》

「……サンさん。このカードは、どうなるんですか?」

 

 俺は敢えて聞く。

 次の順番はコウちゃんだが、コウちゃんは既に眠りについていた。

 続行は不可能であり、自然と俺の手番となる。

 既に十枚以上が見えていて、これでは完全に俺が有利だ。

 命がけの戦いではあるが、フェアにいきたい。

 そういうつもりで聞けば――オリアナさんは笑みを浮かべた。

 

「どうぞ、引いてください。これはゲームです。アクシデントでさえも、ゲームを盛り上げる要素ですよ」

「……後で後悔しても遅いからね」

「ふふ、さて、後悔をするのは私でしょうか?」

 

 彼女は微笑む。

 俺はそのまま席に戻る。

 そのタイミングでコウちゃんの失格が宣告された。

 俺の手番となれば、10枚以上のカードは戻される事も無く固定されていた。

 

 俺はそれを見て、ペアになっているものを優先的に取っていく。

 取って、取って、取って取って――

 

 

 

「……中々に、いい勝負、ですね……ふふ♡」

「あぁ全くだよ……は、はは」

 

 彼女は呼吸を乱しながらも笑う。

 俺も目を閉じながら、小さく微笑んだ。

 場に残ったカードは――10枚だ。

 

 ラッキータイムによって俺は16枚のカードを獲得。

 そこからはワンショットもありながらも、カードを獲得していき。

 互いのカード枚数は、俺が80枚。オリアナさん92枚だ。 

 俺は自らの分析力をフルに使って何とか1組を完成させていき、追加のショットは一回に留めた。

 オリアナさんは果敢に2組を取っていき3組を獲得した瞬間もあったが。

 攻め急ぐが故にミスも目立ち、合計で二回のショットを決めていた。

 

 次はオリアナさんの手番。

 現在の持ち札の数であれば、確実に俺は負けるだろう。

 彼女のミスを狙うのもいい。

 が、彼女が失敗する姿が――想像できない。

 

 彼女は微笑む。

 そうして、呼吸を乱しながらも札に手を伸ばし――俺は机の下で合図を送った。

 

「……!!」

 

 瞬間、またしても照明が落ちた。

 俺は瞬時に手を全力で動かす。

 汗を指で拭い、ポケットからあるものを出し。

 カードを動かして、僅かに布の擦れる音が響き――再び照明がつく。

 

「…………なるほど、お父様、ですか……全く……ふ、ふふ」

「……さぁオリアナさん――引きなよ」

 

 俺は彼女に行動を促す。

 すると、彼女は静かに頷き、カードに手を伸ばし――捲った。

 

 

 1枚目を捲り、続いて2枚目を捲り――揃う。

 

 

「加賀様、いえ、ホワイトレコード様……やはり、貴方は素晴らしい方でした」

「……どうも」

 

 

 彼女は続いて3枚目を捲り、4枚目を捲って――また、揃った。

 

 

「だからこそ、このような結末は私自身認めたくありません。貴方なら、どんな逆境であろうとも……ですが、認める他ありません。今宵、貴方様は――私に敗北する」

 

 

 5枚目を捲り、6枚目を捲って――揃う。

 

 

「……随分と、運が良いんだね」

「ふふ、幸運の女神が微笑んでいる……信じられないのなら、ダウトを宣言してくださいね?」

「自身ありってか。はは――でも、断るよ」

 

 

 俺はきっぱりと断った。

 すると、彼女は小さくため息を吐き――ペアを揃えた。

 

 

「さぁ残すカードは2枚。何が残っているかは――分かりますね?」

「……いや、まだ、分からないよ。捲ってみたら?」

 

 

 俺は彼女を挑発する。

 すると、彼女は微笑みながらカードに手を伸ばし――

 

 

「サン、質問があります。一度捲ったカードが――不正に加えられたカードの場合、どうなりますか?」

《……不正を行った人間が分かれば、ダウトを宣言してください。正解であれば、ルール通りに進行し、実際に捲る筈だったカードが不正な品であれば手番の消費はありません。が、分からない場合は、カードを捲った時点でそれらは除外。手番は失います》

「――と、いう訳です。ですので――ダウト♡」

 

 彼女はにこりと笑う。

 ダウトの宣言に対して俺はたらりと汗を流す。

 瞬間、サンが告発の内容を聞く前に――彼女がカードを掴んだ。

 

「加賀様、このような仕掛けを施すなんて――悪いお人ですね」

「……!」

 

 彼女はそう言って、爪でカードを――“剥がす”。

 

 一枚のカードだと思わせたものは実際には2枚。

 彼女は裏を向けたまま2枚を置き、続いてもう1枚の方にも手を伸ばす。

 それも、彼女の力によって簡単にはがされた。

 彼女は微笑みながら、片割れを掴んでオープンする。

 それらの絵柄は、どれも最初の黒服の方たちが使っていたものに酷似していた。

 

「サン、これらは不正な品であっていますか?」

《――確認しました。不正なもので間違いございません。そして、証拠は加賀様の指紋ですね?》

「……!」

「ふふ、えぇ、そうです。タイミングは停電直後、残された指紋は――カードに残されています」

 

 その発言と同時に、扉を開けて別の黒服たちが入って来る。

 彼らは白い手袋を嵌めていて、専用の道具でカードを調べる。

 そうして、何かの資料を確認し――黒服が頷く。

 

《調査の結果――加賀様が不正を行った人物であると結果が出ました。よって、ペナルティとオリアナ様へのカードの進呈を行います》

「く、ぅ!」

 

 彼女には追加の10枚が。

 そして、俺にはドリンクが注がれる……まだだ。

 

 まだ、倒れる訳にはいかない。

 此処で負ければ、全てが無駄になる。

 俺は何とか勇気を振りしぼり――飲み干す。

 

「ぅ!」

 

 瞬間、どっと眠気が襲ってきた。

 意識は完全に千切れかけていた。

 一瞬で気を失いそうであり――唇を噛み切る。

 

 鋭い痛みが走り、口内に血の味が広がった。

 噴き出した血が口から少し垂れていた。

 痛みによって何とか意識を保つ俺。

 すると、オリアナさんが――悲し気な声を出す。

 

「……そこまで……嫌ですか」

「あぁ嫌だよ。絶対に、死んでも嫌だね」

「……っ」

 

 彼女は唇をきゅっと噛む。

 俺は血を垂らしながら笑みを浮かべる。

 

 

「間違いで結んだ関係なんて――真実の愛じゃない、からね!」

「……!」

 

 

 俺は血を拭う。

 そうして、ゲームを続けようと彼女を促す。

 彼女は目を丸くしていたが、すぐに微笑み。

 1枚目を捲る。すると、当然ながら、それは――ジョーカーだ。

 

 書かれている絵柄は、俺の愛機であったフライハイトに似ている。

 切り札なんて中々に味な真似だ。

 そう思っていれば、彼女はもう1枚に触れる。

 それを捲れば、全てが終わる。

 勝者と敗者が決まり、ゲームに幕は閉じる。

 

 

 俺は心臓をどくどくと鼓動させながら、彼女の動きを見つめて――

 

 

 

「――なぁんちゃって♡」

「……ぁ?」

 

 

 

 彼女は捲るのを辞めた。

 そうして、再び――ダウトを宣言する。

 

「サン、このカードは――不正です」

「……!」

《……なるほど。まだ、存在していたのですか……では、オープン!》

 

 サンの言葉と共にカードは開かれた。

 すると、その絵柄は――醜い豚だった。

 

《――不正であると断定。調べなさい》

 

 残っていた黒服たちが調べる。

 結果は当然ながら俺のクロで――ドリンクが注がれる。

 

「……く、そ」

「ふふ、何故、分かったのか。そうお思いですね? ならば、特別に――種を明かしましょう」

 

 彼女はそう言って、自らの目に触れる。

 瞬間、彼女の目は――色を変えた。

 

「……! それは」

「えぇ、これは――義眼です」

 

 機械的な色になった目。

 義眼であり、機械化された目だった。

 つまり、今までの失敗も、それまでの仕込みも――全てフェイク。

 

《オリアナ様。自ら種を明かされたのであれば……よろしいのですね》

「えぇ、当然――ワンショットですね」

 

 彼女は微笑む。

 そうして、彼女のグラスにもドリンクが注がれる。

 彼女はグラスを両手で持ち、目の前に掲げる。

 微笑んでいる。が、その目はギラギラとしていた。

 

 野生の目、獣の目だ。

 獲物を前にして涎を垂らしている。

 そういう類の危険な目で……俺は震える手でグラスを持つ。

 

 

「それでは、真実の愛というものを得る為に――乾杯♡」

「ふ、ふ、か、かん、ぱ、ぃ」

 

 

 互いにグラスを軽く当てた。

 そうして、中身を呷る。

 瞬間、今までの比ではない眠気が俺を襲ってきた。

 俺は一瞬で意識が持って行かれそうに、な、り――――…………

 

 

 ○

 

 

「……終わり、ですね」

「……」

 

 加賀様は……いえ、ホワイトレコード様は眠りについた。

 

 机の上に倒れて、そのまま静かになった。

 私はこのような形で手に入れてしまった勝利に悲しみを覚える。

 誰であろうとも夢に見た勝利。

 生身であろうとも、私よりも遥かに格上のこの方に勝てたのだ。

 普通なら泣いて喜ぶべき瞬間なのに……でも、構いません。

 

 他のケダモノたちを出し抜いた。

 そして、私こそがこの方にもっとも相応しいパートナーであることを――証明した。

 

 他の誰でもない。

 私こそがホワイトレコード様の隣に立つに相応しい伴侶。

 死ぬほど焦がれた席であり、この後はそのまま私たちを待っているお母様の元へと……ふふ。

 

《……オリアナ様。ゲームの続きを》

「あら? その必要はもう……いえ、そうね。途中で投げ出すのは……真のゲーマーではないわね」

 

 私は納得し、そのまま彼が隠した――鞄の下のカードを取る。

 

 上手く隠したつもりでしょう。

 彼の作戦は、不正に入手した2枚をジョーカーの下につける事。

 が、実際にはカードは3枚入手していて。

 1枚だけを私の近くにあるジョーカーに被せて偽装。

 残り2枚を繋げる事で、罠を仕掛けていた。

 そのまま油断した私を嵌めて、不正のカードを捲らせる。

 その瞬間に、私は手番を失い。

 彼は何食わぬ顔で、カードが鞄の下に入っていたと嘘をつく。

 勿論、ワンショットのリスクはあった。

 が、確実にその手番で勝つ事が出来ていただろう。

 

「肉を切らせて骨を断つ……流石です。でも、私には、一歩――届きませんでした」

 

 サンが何かを言っている。

 が、私の耳にそれは届かない。

 不正も、何もかも、どうでもいい。

 今はただ、このカードを捲り、全てを終わらせたい。

 

 勝利を掴み。

 臨んだ席を手に入れて、私は誰よりも早く幸せになるんだ。

 

 

「あぁ、ホワイトレコード様。きっと、私は、貴方様に相応しい存在に――」

 

 

 私はゆっくりとカードを捲る。

 

 

 そうして、書かれている栄光のフライハイトを、この目で――手が止まる。

 

 

 

「………………ぇ」

 

 

 

 捲られたカード。

 そのカードは――――“胡散臭い顔のキツネ”だ。

 

 

「え、ぁ、ぇ、ぃ、ぁ、どう、し……ぇ?」

《……どうやら、それは“間違って混入したもの”のようですね》

「ちが!? これは不正に!!」

《――例えそうであっても、貴方は宣言しなかった。それが全てです》

「……っ! だったら、カードは、ジョーカーは何処に!? 加賀様!!」

「……」

 

 

 激しく混乱した。

 が、彼は答えない。

 サンは私の手番は終わったと加賀様に繋ぐ……いや、まだよ。

 

 加賀様は完全に眠っている。

 あの状態から目覚める事は不可能。

 外部からの刺激でもない限り、絶対に彼が起きる事は――気づいた。

 

 

 彼の頭の位置。

 いえ、精確には耳の辺りに――端末が置かれていた。

 

 

 何故、そこに、いやどうして――タイマーが見える。

 

 

「……まず!」

 

 

 私は動く。

 が、僅かな差で――タイマーが起動。

 

 

 瞬間――凄まじい爆音で下手な歌声が部屋中に響き渡る。

 

 

《ぼえぼえぼぇぇぇぇああぼえぇぇぇ!!!!!》

「う、ぁああ!? な、に、これはぁ!!?」

 

 

 私は思わず両耳を塞ぐ。

 眠っていた人たちも苦しそうに呻き声を上げていた。

 私はハッとして加賀様を見る。

 すると、彼はゆっくりと体を起き上がらせて――鞄の中に手を入れた。

 

「――予想、していた」

「え!?」

「君は、俺が会った人間の中でも、トップクラスに優秀な人間だ」

 

 彼は私を褒める。

 気づけば、殺人級の歌声は止まっていた。

 鞄の中を探る彼、取り出したのは――小さなポーチだ。

 

「それ、は……! まさか!?」

「優秀である君が、無策のまま、この戦いに望む筈がない。一手潰されても――二手、三手を用意している筈だ」

 

 彼は告げる。

 もしも、カードの内容が分かるとすれば。

 それは機械的な何かを使ったトリックであると。

 

「可能性は低かったよ。でも、みっちゃんの時と同じように――電波による特定以外に考えられない」

「……中から、カードが!?」

 

 彼はポーチを開ける。

 瞬間、薄っすらと見えていたカードの電波が一気に解放される。

 

 車のスマートキーや端末の電波の漏洩を防ぐ目的で開発された特殊防波バック。

 ハッキングによるサイバー犯罪。

 中でも、リレーによって車が盗難されないように作られたもの。

 その特性は中にある電子機器の電波を外部に漏らさない為のもの……なるほど。

 

「鞄の下にあったカード。その電波が完全に見えず。混ざり合ったように見えたのは、それのせいでしたか……ふ、ふふ、ははは!」

「……やっぱり、君は優秀だ。こんな事でもしなければ、知恵比べでは君には勝てなかっただろうさ……だからこそ、伝えるよ――ありがとう」

 

 彼はカードを掴む。

 そうして、天へと掲げた。

 

 

 

「君との戦争(ゲーム)は最高に――楽しかったよッ!!!」

「……!」

 

 

 

 彼はそう宣言し、カードを机に叩きつける。

 掌をどければ、そこには――フライハイトの絵が。

 

《……! おぉ、おぉ! 素晴らしい!! 今宵の神経衰弱。その決め手は、ラストのジョーカーの成立!!! よって、ゲームの勝者は――加賀芳次様となります!!!》

「うぅ、おぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 彼は両手を天高く掲げる。

 その姿は雄々しく、どんな英雄よりも輝いていて――彼の腕がだらりと下がる。

 

「……加賀様? 加賀様……まさか」

 

 私はふらふらしながも立ち上がる。

 そうして、彼の顔を確認して……立ったまま、気絶している。

 

「――」

「……凄い。流石……いえ、想像を遥かに超えていました」

 

 私は微笑む。

 自然と笑みが浮かんでくる。

 私は負けた。

 最高の結果を得られなかったのに……無性に嬉しい。

 

 清々しい敗北。

 こんなにも気持ちよく負けられる日が来ようとは。

 私は小さく息を吐き……扉が開かれた。

 

「……! お母様。それと……お父様?」

「……負けたのね。それも逆転されて」

「……お、オリアナ、す、すまない。ぱ、パパを、ゆるして……ひぃ」

 

 お母様は持っていたセンスをぱたりと閉じる。

 顔中がぼこぼこになっているお父様は怯えた声を出していた。

 秘書であるキミエは黙ったままで……。

 

「……帰りますよ」

「……! いいのですか? 私は負けて……」

「ふっ、山城の女は一度の敗北で諦めるのですか? 違うでしょう――リベンジなさい」

「……! はい!」

「……キミエ、ご友人の方々の送迎は任せます。特に、婿殿は丁重に帝王ホテルのスィートへ」

「かしこまりました」

「え? べ、別にカプセルホテルでも」

「――では、アナタは今日はそこで反省してください」

「えぇぇ!? そ、それは……はぃ」

 

 お母様は踵を返す。

 そうして、三人は先に外へと行ってしまった。

 サンもいつの間にか消えていて、私も言われた通り帰ろうとし――加賀様に近づく。

 

 ゆっくりと顔を近づける。

 そして、頬に唇を……私はそのまま小走りに去る。

 

「……ふふ」

 

 何時の日か、リベンジを――山城の女は諦めない。 

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