底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:ロボワン
半壊した建物の一室。
徐に置かれたごく普通の木の椅子に――男は座っていた。
兵士の服装に身を包み。
日本のメーカーが作った紙煙草を咥えた男。
名もなき傭兵の一人であり――伝説を知るただの傭兵だった。
「……あぁ、アイツの事か……知ってるよ。この目で見たからな」
私は記者として、男に対して質問する。
その質問の内容は、遂三日前に現れた伝説の存在についてだった。
――根黒氏はホワイトレコードなのでしょうか?
私の率直な質問に、男は小さく笑う。
「その質問に対しては……分からない、とだけ答えるよ」
――分からないとは、どういう事ですか?
「……そのままの意味さ……ホワイトレコードは謎多き傭兵だ。年齢も性別も、何もかもが不明……ただ一つ、奴が伝説であると誰もが認識しているのは……奴が現在でも破られる事のない“
――知っています。達成率1パーセント未満の超高難易度の達成記録ですね。
「あぁそうさ。ヘブンフォールってゲームは、今のゲームとは比べ物にならないほどに――理不尽だった」
男は語る。
アレはおよそ善良なゲーマーたちが楽しむためのものではないと。
ドエムと呼ばれる存在たちでさえも、裸足で逃げ出すほどのクソゲーであると。
「誤魔化しが効かないんだ。一つのプレイミスが、そのまま死に直結する。メンテだろうとも気は抜けない。武装の選択でさえも、判断を誤れば雑魚のエネミーにさえ殺されちまう。戦闘で一々残り燃料を考えて、それぞれの計器にも目を配り、専門用語を学んでは、現実世界では何の役にも立たない知識を……まぁクソの中のクソだよ。プレイヤーに寄り添う気なんて更々ない。下手である事が罪であり、天才だけが理不尽を楽しめる……が、あぁいうゲームを好んでプレイする変態も多かった……アレは俺たちにとっての黄金だった。誰しもが、頂点を目指して熱狂し……そうして、そんな変態共の頂点に立ったのがホワイトレコードだった」
彼はまた語り始める。
その目はキラキラと輝き。
まるで、白馬の王子について語る乙女のようであった。
「決して破られる事のない記録。塗り替えられる事のない白。だからこそ、俺たちは彼に敬意を表して……ホワイトレコードと呼んだ……彼は俺たちにとっての憧れであり、倒すべき宿敵であり、目指すべき頂きなんだよ……彼の名を騙るクズは多い。自らを伝説であると騙っては、変態たちの玩具にされていたっけな……まぁ今回は違うみてぇだがな」
――やはり本物であると?
「……断言は出来ねぇよ……ただ、あの動きは明らかに異常だろう。プロのような真面な道なんて進んでねぇ。トライアンドエラーの繰り返しで、狂気に満ちた世界でただこうすればいいっていう思い込みだけで成り立った操縦技術……あんなの狂ってなきゃ出来ねぇさ。そういう意味では、アイツは一番……近いかもしれねぇ」
彼は瞳に光を灯す。
ギラギラと輝く闘志の炎だ。
今の彼はただのゲーマーでも無ければ、プロのアスリートでもない。
正真正銘、本物に挑もうとする――傭兵だった。
――貴方も、彼と戦うつもりなんですか?
「……ハッ! 馬鹿言うんじゃねぇよ。ホワイトレコードとなんざ戦う気はねぇ。少なくとも、今はな……そもそも、俺にはそんな資格はねぇよ」
彼は悲し気に呟く。
彼は強い。ネームドと呼ばれる存在だからこそ断言できる。
が、そんな彼でさえもホワイトレコードに挑む資格は無いと言うのか。
私は驚きに近い悲しみを抱きながらも。
それならば、誰が最初に彼を倒すのかという質問をした。
すると、彼は少しだけ驚いたような顔をして……にやりと笑う。
「さぁな。神のみぞ知るってやつさ……現最強であるブラックレコードか。或いは、最近、噂になっている“サンドブルーム”か。デッドブックのクズどもの誰かか……面白れぇよな。こんなに愉快なイベントは滅多にねぇよ。くくく」
――楽しそうですね。伝説が倒されるのが見たいんですか?
「……はは、ちげぇよ。それも良いかもしれねぇが……俺は見たいんだよ。本物の伝説が、もっとすげぇ伝説を作る――瞬間をな」
彼は微笑む。
その表情に不覚にも私は心臓をとくりと跳ねさせた。
慌てて咳払いし、取材はこれで終了する事を伝える。
すると、彼は最後にカメラマンの持つカメラに指を指す。
「これ、後で流すんだろう?」
――えぇそのつもりです。
「そうか、なら……よぉ、ホワイトレコード、見てるか? アンタは俺の事なんざ知らないだろう。当然だ。会った事も無ければ、話した事もねぇ。偶々、同じ依頼で共闘した程度さ。ほとんどの奴はアンタを記録と映像でしか知らねぇだろうな……だが、これだけは言わせてくれよ」
彼は姿勢を正す。
そうして、煙草を指で挟み口からのける。
真っすぐな綺麗な青い瞳を画面の向こうの彼へと向けて――
「おかえり、戦友――戦場で、また会おうぜ」
「「……!」」
彼はそれだけ伝えた。
敬礼何てしていない、敬語だって使ってはいない。
が、彼の視線と言動からは並々ならぬ敬意を感じる。
ただのゲームの関係。
偽物の戦場での記録……が、それは違う。
タイタングリードは世界で熱狂するゲームだ。
仮想世界での戦争は、決してチープな箱庭物語ではない。
そこで生きるNPCは本物であり、そこで戦う傭兵たちもその世界では本物だ。
この男も、ゲームだと認識しながらも自らの心を震わせる存在に――心を奪われた。
全ての人間が熱中し。
全ての人間たちが限られた時間をそれに費やす。
最早、ただの遊びなんかじゃない。
タイタングリードは本当の闘争であり――ホワイトレコードの登場は、世界を大きく動かすだろう。
私はカメラを止めさせる。
そうして、彼に対してお礼を伝えて足早に部屋を去る。
書きたい。早く帰って記事にしたい。
一ゲーム情報雑誌の記者であるが。
この瞬間ばかりは、世界の中心にいるような気がした。
彼らにとっての黄金。
そんな世界で、ただ一人の伝説となった存在。
ホワイトレコード……いや、根黒万太郎。
ありふれたVtuberが伝説の傭兵なんて誰が想像できた。
これほどの逸材が埋もれていたなんて笑い話にもならない。
一体、彼は何の目的があって今までタイタングリードを遊ばなかったのか。
ここまで隠していたのに、急に正体を明かしたのは何故か……知りたい。
記者として、この特ダネを――私は心の底から暴きたくなった。