底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:ロボワン

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第40話:肉欲を断ち切りたい

 水の流れる音が聞こえる。

 雨のように、というよりは優しい大雨というべきか。

 ざぁざぁとふり続けて、髪を濡らし肌を伝って床の排水溝へと流れて……違う。

 

 俺は今、裸になっていた。

 全裸であり、雨と思おうとした現象はシャワーのそれだ。

 何故か、俺は自宅のものでもない超一流ホテルの広く清潔な白いシャワールームで……何でだろうか。

 

「……」

 

 分からない。何も分からない。

 俺はただ、神崎ソフィアさんに呼ばれたから会いに行っただけだ。

 15分前に現地の高級バーへと赴き、時間通りに現れた彼女と会話をしながら飲んでいた。

 そして、ものの三十分ほどで場所を変えようと言われて。

 彼女の運転手が乗り込んでいた車に乗らされて――現在に至る。

 

 場所を変えようというのは賛成した。

 場所がホテルとは聞いていなかったが、中のレストランで食事を取るのだろうと思っていた。

 が、彼女はスィートへと顔パスで進み。

 宇宙猫状態の俺を無視して先にシャワーを浴びてから、バスローブ姿で出てきて俺にも浴びろと言い……分からない。

 

 ――何も、分からない。

 

 理解しろというのが無理な話だ。

 年頃の女性が、俺というおじさんをホテルへと誘い。

 互いに、体が汚れても無いのにシャワーを浴びた。

 

 

 何で、どうして、どういう事で――さっぱりなんだ。

 

 

「……く、ぅ!」

 

 俺は雨に打たれながら、拳で軽く壁を叩く。

 こんな事をしても意味は無い。

 こんな事をしても“無様に起立する愚息”は収まらない。

 

 何を期待している。

 何を望んでいる。

 何がしたい、何が欲しい。

 

 否――俺の“心”は何も望んじゃいない。

 

 彼女は友人の妹だ。

 遂最近までは連絡も取っていなかった。

 彼女は絶世の美女と思えるほどに美しく。

 地位も、名誉も、全てを手にしていた。

 憧れるべき存在であり、芸能人や政治家よりも魅力的だろう。

 そんな相手にホテルに連れ込まれた。

 その事実だけで、俺の“本能”は何を期待しているんだ。

 

 ゲームでは味わえない本物の獣となる事か。

 汗と唾液に塗れて、情熱を吐き出す事か。

 頭がぱぁになるまで快楽に溺れる事か。

 

 ……分かっている。馬鹿な俺でも、意味くらいならな。

 

 ホテルに来たんだ。

 年頃の男女が、な。

 だったら、やる事は一つしかない――が、ダメだ。

 

 

『やっちゃえよぉ!! 今、此処でさぁ!!』

「……竜一!」

 

 

 頭の中の悪魔の竜一がほくそ笑んでいた。

 アイツなら絶対にそう言う。

 面白がって話のネタにするだろう。

 だからこそ、俺の脳内の悪魔竜一はオリジナルと一緒の考えで――ダメって言ってんだろぉぉ!

 

 恥を掻かせるな?

 女をそのまま帰らせるのか?

 

 違う、違う、違う違う違う違う違う――断ち切るんだ。

 

 奇妙な人間関係も、己の中にある薄汚れた肉欲も。

 神崎ソフィアからの狂った愛憎も、全てを。

 そうでなければ、俺は俺として――前に進めない。

 

「……よし」

 

 俺は決意を固めた。

 そうして、シャワーを止める。

 ガラス戸を開けてから外へと出て、置いてあったタオルで体を拭く。

 ふかふかのタオルであり、一瞬で水気は取れた。

 バスローブが置いてあったが、俺はそれを着ずに予めおいておいた私服に着替える。

 黒いシャツにジャケットとズボンを着てから、俺はシャワールームから出る。

 

「……遅い」

「ご、ごめん」

 

 彼女に怒られた。

 俺は思わず謝罪し、そのまま彼女の座るベッドの横に腰かけた。

 彼女はただ座っているだけであり、ちらりと見れば頬がまだ薄っすらと紅潮していた。

 互いに無言で、互いに少し距離を置き……どうする。

 

 離れている。

 が、彼女の息遣いがハッキリと聞こえる。

 彼女の纏うシャンプーの香りも漂って来ていた。

 頭がくらくらとし、収まってきていた筈の愚息が立ち上がろうとする。

 

 俺は必死に考える。

 考えて、考えて、考えて――

 

「ランキング……見た」

「え? ランキングって……えっと、イベントのやつかな?」

「……今朝の時点で23位だった」

「う、うん! 自分でもあそこまで行くなんて思わなったけどさ! 何とか」

 

 彼女はため息を零す。

 そうして、ハッキリと聞こえる声で――落胆を伝えて来た。

 

 

 

「――ガッカリした」

「……え?」

 

 

 

 彼女はゆっくりと俺に視線を向けて来る。

 その青い瞳は何時も通り綺麗であったが。

 ひどく失望の色が見て取れた。

 彼女のその視線に俺は少し怯えながらも、どうしてガッカリしたのかと聞いた。

 すると、彼女は真顔のまま淡々と自らの考えを明かす。

 

「貴方は伝説。ホワイトレコード、他の誰でもない。唯一無二の存在。であれば、一位にいるべきはブラックレコードではなく、貴方である筈。たかがイベント、それで伝説の力を計る事なんて出来はしない。それでも、貴方であれば余裕で一位にいるだろうと思った……でも、貴方は1位どころか10番台にも入っていない。どういう事かと確認の為に呼んで――理解した」

 

 彼女は立ち上がる。

 そうして、ゆっくりと俺の前に立つ。

 彼女は冷ややかな目で俺を見下ろしながら――

 

「今の貴方には――相手を殺し尽くすだけの闘争心が欠如している」

「……ぇ」

「あの頃の貴方は、ただ上を目指し目的を達成する強い覚悟があった。今のようなオンライン対戦機能は無くとも、自らの足で対戦に出かけて、あの男と一緒になって機体の性能を向上させていた。ただ目的を成す為に、戦い続けていた。全てをヘブンフォールに捧げていたからこそ――貴方は伝説になった」

 

 彼女は語る。

 仮想世界で月に行ったのは他の誰も知らないだろうと。

 その事実を知る自分自身と、多くの人間が知る破られない記録。

 その二つを知る自分自身だからこそ、あの時の俺は誰よりも眩しく輝いていたと知っていると。

 

「……今の貴方に、あの時の輝きは無い……全てを白く染めるほどの強烈な光……今の貴方はただの燃料を求めるだけの火でしかない。ただ、流れるままに遊びに興じ。ただ、ちやほやされたいから技を披露する……私は考えた。どうすれば、昔の貴方に会えるのかを……だから、こうすべきだと悟った」

「え?」

 

 

 彼女はそういってバスローブの紐に手を掛けて――解いた。

 

 目の前には白い肌に黄金比のような完璧なプロポーションの――俺は叫ぶ。

 

 

「なななななな何してんだぁぁぁぁ!!!?」

「……? 何で目を隠すの?」

「は、はぁぁぁぁ!!? おま、おま――来るなぁぁぁぁ!!!」

 

 俺は両手で目を隠す。

 そして、ドバドバと鼻血を出す。

 彼女が近づいて来るのが音で分かった。

 俺は目を閉じながら、必死になって手を動かし――柔らかいものを掴んだ。

 

「……ん、それでいい。さぁ」

「ほぉぉぉぉぉ!!!」

 

 彼女は俺の手に自らの手を這わす。

 俺は更に鼻血を噴き出して――覚醒する。

 

 俺は目にも留まらぬ速さで動く。

 そうして、眼を閉じたままで部屋に置いてあるシーツなどを掴む。

 それを彼女の体に巻き付けて、そのままカーテンのバンドで彼女の体を拘束し――ベッドに転がす。

 

「……! 凄い……やっぱり、私は正しかった」

「はぁ! はぁ! はぁ! 何、言ってんだよ!?」

 

 俺は鼻血を手で拭う。

 そうして、置いてあった高級ティッシュを鼻に突っ込む。

 彼女は簀巻きされた状態で薄い笑みを浮かべていた。

 

「貴方に必要なものは――心が狂うほどに愛する存在」

「え、あ、え?」

「守るべきもの、支配するべき存在、寵愛を与える者こそが――貴方の闘争に火をつける」

「え、ぁ、ぇ、え? あ、あぁ……え?」

 

 彼女の飛躍する考えに目を白黒させる。

 すると、彼女は体を動かして簀巻きからあっという間に逃れた。

 俺は身構えるが、彼女はバスローブを巻いた状態になっていたからこそホッとした。

 

「……もしも、貴方が私を愛していたのなら……貴方には強い怒りと殺意が宿っていた筈」

「……あの、全然、話が見えてこないんだけど? ど、どういう?」

「ふふ、そう。貴方は知らなかった。だったら、教えてあげる――私は、ブラックレコードを知っている」

「……!」

 

 彼女の言葉に驚愕する。

 ブラックレコードを知っている。

 それはつまり、謎の存在について彼女だけが秘密を知っているという事だ。

 何故、それを俺にカミングアウトしたのかと聞けば――彼女は今まで見た事が無いような妖艶な微笑みを浮かべた。

 

「知っている、という事は……私は彼にとって――“愛する存在”という事よ?」

「……うん」

 

 愛する存在……そうなのか。

 

「……愛する存在という事は、色々な事をされてきたという事。あんな事も、こんな事も、そんな事も……どう?」

「……ん? どうって……何が?」

 

 俺は彼女の質問の意図が理解できなかった。

 取り敢えず、分かった事はブラックレコードが男らしいということで。

 彼女は恋人のような関係なんだということだ。

 それを明かされて、どうと聞かれれば……そうだな。

 

「いや、冷静に考えたら付き合っている人がいるのに別の男をホテルに誘うのはダメじゃない? 良くないと思うよ、うん」

「………………それ、だけ?」

「それだけ? って、えぇっと……ま、まぁ、ちょっと言い辛いけど……子供を作る予定が無いなら、避妊とかはね、う、うん!」

 

 俺は親指を立てて精一杯のアドバイスをする。

 童貞が何を言っているんだと突っ込まれると思ったが。

 彼女は小さく口を開けたまま固まって――真っ赤になる。

 

「………………っ!!!!」

 

 氷のように無表情だった彼女は、頬を膨らませてゆでだこのように真っ赤になる。

 目には涙が滲んでいて、明らかに逆鱗に触れたのは確かだった。

 俺は顔面蒼白になり、必死に何かを言おうとし――

 

「帰る!!!」

「え!? な、何!? 体調が」

「黙れ!!! 絶対に――殺してやる!!」

「ふぇぇ!?」

 

 彼女はめちゃめちゃ怒っていた。

 そうして、あっと言う間に着替えてから出て行こうとする。

 俺は彼女に手を伸ばす。

 が、彼女は部屋の扉を開けて――振り返る。

 

 彼女の目に光は無い。

 憎悪と強い愛に満ちた目だ。

 その中には、強烈な殺意も宿っていて、全身の毛が逆立つほどの恐怖が俺を襲い――

 

 

 

「私が貴方を殺してあげる――だから、伝説になって」

「……っ!」

 

 

 

 彼女はそれだけ言って扉を閉じた。

 何故に、彼女がそれほどにホワイトレコードに拘るのか。

 自らの道を狂わせた存在だからこそ憎いのは分かる。

 愛しているの部分はよく分からないが。

 それだけ感情がぐちゃぐちゃになるほどに、俺の事を常に考えている事は分かった。

 

 まぁそれにしても――

 

「まさか、ブラックレコードと付き合ってただなんて――めでたいなぁ! ははは! ――うぇ!?」

 

 竜一にこっそり教えてやろうと思えば。

 ホテル全体が揺れるほどの衝撃が走る。

 地震かと思っていれば、一瞬であり……な、何だったんだ?

 

 俺は激しく戸惑う。

 が、ブラックレコードやらが彼女の近しい人間で。

 彼女が俺に会いに来たという事は……向こうも俺を意識しているんだろう。

 

 互いにレコードの名を持っているんだ。

 嫌でも意識するのは当然で……待っている、ってか。

 

 俺から1位の座を奪ってみろということか。

 中々に闘争心のある男であり……上等だ。

 

 俺は端末を取り出す。

 そうして、竜一のアドレスに掛けて――繋がる。

 

《ほいほぉい! どうしたぁ?》

「……拡張兵装のアップデートの件だけどさ……明日までに出来ないか?」

《……どうしたよ。らしくねぇな……別に、しなくたって問題ねぇんじゃねぇか?》

 

 竜一は俺を心配して来た。

 拡張兵装のアップデート。

 それは今回のイベントにて収集した戦闘データを元に行われる予定であったものだ。

 次回のイベント用のものであり、段階を踏んでから、やるべき事であった。

 が、俺はそれを速めてこのタイミングでやるべきだと告げた。

 

 驚くのも心配するのも無理はない……が、今なんだ。

 

「……ブラックレコード……奴が俺を待っているらしいんだよ」

《……へぇ、なるほどねぇ……なら、仕方ねぇな!》

 

 竜一は今の言葉で納得した。

 互いに、青春を犠牲にしてでもゲームで偉業を成したんだ。

 熱意も覚悟も他のプレイヤーとは比較にならない。

 

 売られた喧嘩は買う。

 戦いたいって言うんだったら――望むところだ。

 

《でも、覚悟しろよ? 戦闘データは少ねぇんだ。アップデートすりゃ嫌でもお前の脳への負担は増すぜ。セーフティをつけてもいいが、そんなもんあったらお前は自由に飛べねぇ……それでもいいんだな?》

「あぁ、覚悟の上さ――やってくれ」

《分かった! じゃ、待ってろよぉ。明日の朝までには間に合わせるからよ! じゃあな!》

 

 竜一は約束し、通話を切る。

 俺は静かに吐息を零し……小さく笑う。

 

 昔のようだ。

 学生の頃に戻ったようで……アイツも、いてくれたらな。

 

 

『二人の意見は素敵だけどさ――なら、こういう風にしたら?』

『『おぉ!』』

 

 

 今は亡き友の言葉。

 ロマンだらけの俺たちを上手く纏めていてくれた男。

 アイツがいなければ、フライハイトは完成しなかった。

 叶う事なら、一緒に仮想世界の月に……後悔だな。

 

「……雄吾(ゆうご)

 

 友の名を呟いても、アイツの声は聞こえない。

 俺は静かに拳を握る。

 そうして、気持ちを切り替えてブラックレコードからの挑戦に――静かに闘志を燃やした。

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