底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:ロボワン

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第43話:魔王の誕生(☆)

 機体を加速させて、混沌の空を舞う。

 一瞬で迫る障害をひらりと躱し、寸分の狂いもなく殺意の籠った攻撃をはじき返す。

 敵が砕けて残骸が舞い、それらを機体の装甲で弾き――更に加速。

 

 感じる――無数の怒りを、殺意を。

 

 この俺を殺し喰らう亡者の本能を感じる。

 牙を剥き獰猛に襲い来る殺意に穢れたメックたち。

 俺は薄く開いた目でそれを見つめながら、静かに両の手を合わせて――目をカッと見開く。

 

 瞬間、俺の思考とリンクした全反射が起動し。

 全ての穢れを――吹き飛ばす。

 

()()()()()()

 「……六根清浄」

 

 時間にして、僅か0.001秒。

 人間が反応できる限界を超え。

 奇跡とも思える瞬間を連発する。

 全反射にリキャストは存在しない。

 無制限であり、タイミングさえ合わせれば――無敵の盾と矛になる。

 

 一気に二十の穢れを打ち払う。

 バラバラと残骸が宙を舞い、その中を突っ切った。

 それでも尚、空を覆い尽くすほどの穢れたちが俺を狙って襲い来る。

 俺は思考のみで機体を操作し。

 縦横無尽に空を舞いながら、銃弾もブレードも。

 一つ一つのタイミングを“無意識のまま”――全て弾き返す。

 

 銃弾で風穴を開け、ブレードの衝撃で腕が破壊し。

 砲弾は周囲の敵を巻き込み爆裂し、ミサイルは衝撃のみを後ろへと流す。

 

 スローモーションに感じる中。

 獣たちの残骸を静かに見つめながら、俺はただ――祈る。

 

「――」

 

 意識の外での出来事。

 己自身の体によって行われない無意識での行動。

 システムのみが感知する脳波のみを武器に俺はメックを駆る。

 

 

 そう、目的はただ一人の――“生きる伝説”。

 

 

 純白の機体であり、右腕には一体化したかのような長大な砲が取り付けてある。

 何時ものような機動力重視のアセンではない。

 が、此方の攻撃を回避しながら、他の敵の攻撃も華麗に避けて見せていた――見事。

 

 寸分の狂いもなく、音速飛行状態において敵を避けて行く。

 装甲を薄く掠めるギリギリを攻め。

 時折、腕に仕込んだバルカン砲で敵をけん制し。

 僅かな空間の隙間を生み出し、その中をノンストップで翔けて行く。

 

 速い。尋常じゃない速さ――が、今なら届く。

 

 俺は祈りを強めて奴を追走。

 奴以上のギリギリを攻めて。

 此方に敵意を向けて来る存在のみを木っ端みじんに吹き飛ばす。

 最短最速の飛行であり、徐々に距離は縮まっていく。

 が、それでも奴は一欠けらのミスも無く殺意の波を泳いでいく……流石だぜ。

 

「それでこそ、この俺の――宿敵だ」

《……!》

 

 俺は薄く笑う。

 そうして、無の心で祈りを捧げながら。

 全ての敵の攻撃を――反射する。

 

 殺意に塗れた獣たちは、己が力の倍以上の攻撃を喰らう。

 全てが砕けてバラバラになり、落下していった。

 俺は白面を操り、トップスピードで翔けながら根黒万太郎を追う。

 

 混戦状態の戦場。

 傭兵と闘争に身を焦がした獣たちが空を埋め尽くす。

 黒煙が立ち昇り、コックピッドの中でも分かるほどに濃厚な硝煙の臭い。

 空間を震わすほどの爆発があちらこちらで起きて。

 常に視界には、メックやシップが存在していた。

 

 全てのメックを警戒するだけじゃねぇ。

 傭兵や敵のシップからの攻撃も警戒する。

 僅かでも、殺意を感じとれば――右へと連続ブースト。

 

 体に強い負荷がかかるが、その場を一気に離れる。

 ギリギリのタイミングにて遥か彼方からエネルギーの線が走っていった。

 艦砲射撃であり、それによって500を優に超えるメックが灰となった。

 オープン回線の声を聞けば、傭兵たちが文句を言っている。

 フレンドリーファイヤであり、恐らくは金だけあるド素人の攻撃だ。

 チラリと見れば、そのシップには制裁として別のシップから一声砲火を喰らって――爆散。

 

 炎を上げながら、無数の残骸が落下していく。

 それを見ながらも、死角から襲い来る敵の攻撃を反射。

 そのままため息を零しながら、距離を取っていった根黒万太郎の気配を探り――発見した。

 

「そこか!」

 

 根黒万太郎を追う。

 邪魔な障害を破壊し避けながら、奴の元へと急ぐ。

 すると、無数のメックの中で洗練された動きによって音速で空を舞う白き機体を発見し――“違和感”。

 

《――よし》

「……」

 

 奴は何かを探している。

 敵の攻撃を回避し、ギリギリで機体を避けて。

 スピードを落とす事無く、この混乱の中を翔けていた。

 俺も白面を操り奴を追う。

 

 無数のメックが存在し、殺意なき攻撃も存在している。

 それらは俺への殺意ではないからこそ、俺自身は感じる事は出来ない。

 それらにだけ注意を払い、丁寧に避けて行く。

 完全なる思考制御による機体の操作において、雑念と集中力の乱れは――死を意味する。

 

「……」

 

 目を細めて、視界に映る全てを見る。

 心は晴れの日の水面のように静かで。

 そこに触れた殺意と怒りが波紋を広げる。

 心が感じ取った波紋こそが、俺の全反射を動かす。

 ただそれだけであり、無に至りし我が心が――全ての悪意を浄化する。

 

 翔ける。

 戦場を自由に、大空を鳥となって――羽ばたく。

 

 流れ弾を回避し、炎と共に突っ込んできた敵を反射し。

 残骸を弾きながら、ブーストして加速。

 そのまま攻撃を仕掛けて来た敵の弾丸を返して破壊。

 スピードを緩める事無く、根黒万太郎の白き機体を追い続ける。

 

 機動力では此方が上だ。

 その距離は確実に縮まっている。

 全力で機体をぶつけて、こちらの領域に奴を触れさせれば勝ちだ。

 此方の体当たりの衝撃を、そのまま奴へと倍にして繰り出す。

 攻防一体の究極のシステムであり、アイツを倒すが為に俺はこのアセンを極めた。

 

 苦しく長い修行だった。

 仮想世界でのみ行える常軌を逸した過酷な修行。

 一日の時間が、一年の時と感じる特殊な白い空間において。

 俺は自らの怒りと憎悪を超える為に、ただひたすらにお経を唱えた。

 

 三日の時で、限界が近かった。

 十日も来れば、精神が崩壊しそうになった。

 一月の時では、最早、自分自身が何をしているのかも曖昧になっていた。

 が、それでも俺はお経を唱え続けた。

 消えて行く自我の中でも、確かに俺の心には宿敵の顔が――根黒万太郎のにやけ面が見えていた。

 

 

 憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い――が、時が全てを無に帰した。

 

 

『――』

 

 

 疑似的な一年の時の中で、俺の中にあった激しい怒りも強い憎悪も無となった。

 確かに己には根黒万太郎を倒すという強い意志がある。

 が、そこに己が感情は存在しない。

 ただ己が生きる上での使命であると認識しているだけだ。

 

 そこから、“暴を捨て去った白面”を手に入れた。

 装甲をそぎ落とし、機動力のみの機体。

 多くの傭兵を乗せて戦い、役目を終えて倉庫に眠っていた古き機体。

 戦場の爪痕を残すその機体を買い取り、専属のメカニックの手によって改造を施した。

 完全なる思考による制御を可能とした操作システムに、全反射にのみ特化したチューンを施した。

 役目を終えて、スクラップを待つだけの老兵。

 が、今この瞬間は俺の心と一つとなった――我が半身。

 

 殺意と怒りを精確に捉える事が出来るようになったお陰で。

 俺は全ての心ある存在の攻撃に対して――寸分の狂いもない反射を可能とした。

 

《ひゃひゃひゃ!!! 死ねやおらぁぁぁ!!!》

「――諸行無常」

 

 悪意の塊が高速で迫る。

 死角から迫ったそれが高速で回転するチェンソーを振りかぶる。

 俺はそれを見る事無く――弾き飛ばす。

 

 チェンソーもろとも腕がバラバラに吹き飛ぶ。

 悪は叫び声をあげて、そのままリビングデッドに串刺しにされた。

 俺は世の無常を思いながら、目的の為に根黒を追う。

 

 回避、ブースト、回避回避、上昇、下降――連続ブースト。

 

《――くっ! しつこいですよ!!》

「……恐れるな――天に召される時が来ただけだ」

 

 全て俺の思考によるものだ。

 が、そこに俺自身の心は無い。

 俺はただ本能のままに思考を操り――穢れを弾いているだけだ。

 

 見える、感じる――全てを理解した。

 

 俺は空を一直線に翔ける。

 リビングデッドがブレードを振るえば弾いて腕を弾き飛ばし。

 別の傭兵たちが砲撃をすれば、砲弾を弾いて吹き飛ばす。

 シールドを展開し俺の道を防ぐのならば、シールドに触れる直前でシールド事、敵を吹き飛ばす。

 

 我が道を塞ぐ全ては――それ即ち穢れ也。

 

 祓う、祓う、祓う祓う祓う祓う祓う祓う祓う祓う――全てを無に帰す。

 

 俺は祈る。

 神への祈りではない。

 これは己が無くした“心”への祈り。

 全てを“俺”へと託し、代償として天へと召された“己”への祈りだ。

 

「色即是空――変化を受け入れろ」

 

 俺は祈る。

 祈って、祈って、祈って――機体をブーストさせる。

 

 連続して音が鳴り、全てを屠りっていく。

 敵の血が機体を黒く染め、命の残滓が機体を煤に塗れさせる。

 びりびりと命の慟哭が機体を揺らし、感情の熱気が機体内を灼熱にする。

 

 熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い――これこそが、俺の闘争。

 

 両手に力を込めて、連続ブーストを敢行。

 爆発的な加速により、獣たちの僅かな隙間をすり抜ける。

 俺は一気に死角から根黒万太郎へと接近し――奴が腕を此方へと向ける。

 

《このぉ!!》

 

 奴はバルカン砲を放ち。

 俺はそれを精確にはじき返した。

 瞬間、倍の力で奴の機体に確かなダメージが入った――足りない。

 

「根黒万太郎。何故、もう一つの武器を使わない? それは飾りじゃないだろう?」

《……使いたいですけど。まだ、使えないんですよ》

「そうか。なら――使えるようにしてやろうか」

 

 俺はそう言って更に連続してブーストする。

 そうして、変則機動によってリビングデッドや他の傭兵たちの機体に紛れる。

 奴は俺の姿を見失っていた。

 俺は器用に他の敵を避けながら、奴の隙を伺う。

 

 奴は常に高速で飛行しながら、リビングデッドを豆鉄砲で牽制し。

 回避に徹しながら、何かの気を伺っていた。

 恐らくは、あの長大な砲が関係しているんだろう……問題ない。

 

 何を企んでいようとも、俺には関係ない。

 奴がそれを使わないのならそれまでだ。

 俺は俺として、自分自身の――使命を果たす。

 

 俺は更に機体を加速させる。

 奴から距離を置きながら、常に奴の機体を視界に収めて。

 意識外からの攻撃を弾きながら、奴の隙を探る。

 

 奴の動きが乱れ始める。

 奴の心を読み、焦りと僅かな恐怖を感じ取った。

 俺は機体を操作しジグザグに動きながら適当な敵へと体当たりしに行き――反射で吹き飛ばす。

 

《……!?》

 

 奴が此方を察知した。

 が、既にそこに俺はいない。

 

 俺は機動力を高めながら、出鱈目な動きで次々と敵を破壊していく。

 奴はその破壊音に反応し、機体の動きを止めて周囲を見ていた。

 が、今の奴の機体では俺の動きを精確に捉える事は――不可能だ。

 

 奴が得意とする機動力によるかく乱。

 今、俺は奴の十八番を奪っていた。

 極限まで装甲を削り、全反射のみを搭載した究極のアセン。

 一撃でも貰えば即死でありながら、俺は臆する事無く敵へと突っ込む。

 

 反射、反射、反射反射反射反射反射反射――全てを反射だ。

 

《くそ!? 見えない!?》

「……ふふ」

 

 奴は確かに恐怖していた。

 今の俺には奴の心の動きが手に取るように分かる。

 残骸が空を舞い、煙が立ち込めていき。

 奴は混戦状態の戦場にて無様に停止し。

 周囲の攻撃を回避する事に専念していた。

 

 俺は速度を限界まで高める。

 音速であり、無数の敵が機体に触れる直前に弾き飛ばす。

 全てが無意識の攻撃であり、破壊された無数のメックが爆散し黒煙を上げる。

 奴の周囲は濃い煙が漂い。

 音と光を奴は目で追うが、そこには俺の影も無い。

 

 全力での飛行。

 ノンストップの変則機動。

 変幻自在に空を翔けて、奴を逃げさぬ包囲の陣を築く。

 奴の僅かな息遣いを聞きながら、俺は目を細めて行く。

 

 

 俺はそんな奴を観察し――“隙を見つけた”。

 

 

「――無有恐怖(むうくふ)

《――ッ!!》

 

 

 俺は瞬時にブースト。

 限界を超えて、全力で空を翔ける。

 塞ぐもの全てを蹴散らしながら、スピードを緩める事無く奴の死角から迫る。

 が、奴は驚異的な反応速度で此方を見る――遅い。

 

 俺は祈りを強める。

 そうして、奴が回避しようとする中で更にブーストをし――甲高い音が鳴り響く。

 

《ぐあああぁぁ!!?》

「――あぁ!」

 

 確かな感触。

 奴の装甲の残骸が飛び散る。

 それは腕の残骸であり、奴の機体は真横へと吹き飛んでいた。

 やった、遂に俺は根黒万太郎に――大ダメージを与えた。

 

 

 その事実が俺の失った心に――“歓喜を齎した”。

 

 

「……?」

 

 一瞬、機体に衝撃が走る。

 残骸が当たったのか。

 分からないが、ダメージは無い。

 俺はそのまま奴にとどめを刺そうとし――奴がいない。

 

「何処に――ッ!」

 

 レーダーが強く警告を発する。

 それは無数の敵が――俺をロックオンしたという知らせだ。

 

 俺はすぐに祈りを捧げて完全防御態勢を取る。

 瞬間、無数の弾丸が降り注ぎ――全てを精確に弾く。

 

 リビングデッドや傭兵たちに風穴が開く。

 それを確認し、根黒万太郎を探そうとし――次の波が押し寄せる。

 

「――っ!!」

 

 焦りが出て来る。

 が、俺は冷静に全ての攻撃を弾く。

 寸分の狂いもないタイミングであり、完璧な操作で――奴は何処にッ!!

 

 俺は波のように押し寄せる敵の攻撃をその場で弾きながら。

 微かに見える敵と敵の隙間に意識を向けて――発見した。

 

 奴の機体だ。

 見れば、遠くまで退避している。

 片腕を失いながらも、まだ息があり――砂粒ほどまで小さくなった奴が振り返る。

 

 奴は俺との通信を繋いだままだ。

 俺は機体のカメラをズームしながら、片腕を失った奴の機体を見つめる。

 俺は敵の群れに対処しながら、奴に対して言葉を――

 

 

 

《カタギリさん――貴方がいてくれて、本当に良かった》

「……あぁ?」

 

 

 

 奴は今、何と言った……俺がいて、良かった?

 

 

 

 どういう意味だ。

 何のつもりだ。

 それを考えていれば、奴はゆっくりと砲を此方へと向けて来た。

 

《カタギリさんのお陰で計画は完璧なものになりました。だからこそ、貴方にだけは全てを話しましょう》

「何を、言って……待て、その武装は……何をしようと!!」

 

 俺は奴を見つめる。

 今すぐにでも奴を止めたい。

 が、おびただしい数の敵が俺へと襲い掛かって来る。

 如何に全反射があろうとも、大津波のように押し寄せ敵を動きながらは対処できない。

 その場にとどまり、対処しなければ確実に――死ぬ。

 

「……! まさか、それすらも、計算に……あり得ない。あり得る筈が!!」

 

 俺は奴を見つめる。

 奴はくつくつと笑って――

 

 

 ○

 

 

 計画の鍵となる存在は――“カタギリさんだった”。

 

 

 

 片腕を犠牲にしたが。

 彼の無の心とやらに確かな感情を芽生えさせた。

 その隙を使って、彼の機体に――ビーコンを撃ち込んだ。

 

 特別製のビーコンであり、その効果は――“エリアに存在する全てのリビングデッドを引き寄せる”ものだ。

 

 今、彼は己に撃ち込まれたビーコンについて何も知らない。

 ただ無数のリビングデッドに襲われて、対処しているだけだ。

 彼の全反射は驚異的であり、その場に留まれば恐らくはどれだけの物量であろうとも――無傷。

 

 彼の為に感情を抑えたかったが――笑みがこぼれてしまう。

 

「く、くふ、くく……あぁ、完璧だ。完璧ですよ。これは正に――運命だったんですよ」

《……! 何を、ほざいて……何をしようと!!》

 

 俺は静かに息を吸い――音声コマンドを起動する。

 

「音声コマンド入力。コード1198」

《音声コマンド認証――受諾しました》

 

 コマンドによって、コックピット内のライトが赤く染まる。

 そして、中心部からレバー付きの台座が出て来た。

 俺はレバーを握り、硬いそれを右へと全力で回す。

 ガチャリと音がし全力で押し込む。

 瞬間、台座は元に戻っていき、右手の武装からガチャガチャとロックを解除する音が響く。

 

 砲の装甲が展開されて、その長さが更に増す。

 装甲の隙間から、青白い光が発せられていて。

 重いそれを前にやっていれば、核融合炉の出力が上昇していく。

 

《セーフティを解除――最終ロックの解除の為に、暗号コードの入力を》

「暗号コード入力――“Dead End”」

《暗号コードを認証しました――ハルマゲドン、発射可能です》

 

 

 厳重な封印が今この瞬間に――“解かれた”。

 

 

《おい!! お前、何をしていやがる!! おい!!》

 

 カタギリさんは叫ぶ。

 彼の心は冷静さを失っていた。

 が、それでも彼は生き残っており、やはり俺の判断は正しかったと――笑った。

 

 笑いながら、静かに頬を濡らす。

 リスナーさんたちはコメントが出来ていない。

 ただ黙って見ているだけだった。

 

 核融合炉の出力は上昇していき、砲弾内部のエネルギーも活性化していく。

 莫大なエネルギーによって射出とエネルギーの活性化を促すこれ。

 少しの衝撃であろうとも大惨事を招くからこそ厳重な封印を施した。

 発射されれば最期であり――“戦争が、終わる”。

 

《核融合炉の出力――100%に到達》

「……」

 

 俺はハルマゲドンの出力を上げながら、全てのポッドに思考で命令を下す。

 ポッド全ては無事であり、ポイントへの配置は完了している。

 モニターに映っている円の中には、網膜に投影されたサークル内にはほぼ全てのリビングデッドが集まっていた。

 

 ポッドたちは俺の命令を受け取って、内部に蓄えていた遅速粉煙(ちそくふんえん)と白煙を同時噴射。

 全てのポッドがリビングデッドの集まる場所を包囲するように粉の散布を開始した。

 一部の余裕のある傭兵たちは異変に気付いていた。

 戸惑っている者、何かを確認している者。

 熟練者だけが退避を開始していた。

 新米に至っては、リビングデッドが踊り食いであるからこそ攻撃を続けている。

 

「あぁ、すみ、ません。本当に、すみません。俺は今から――とんでもない事を、して、く、うぅ! ――しまうん、です」

 

 勝手に涙が流れる。

 が、何故か笑いもこみ上げてくる。

 ぐちゃぐちゃの感情の中で――カタギリさんの叫びが響いた。

 

《根黒万太郎!!! やめろ!!! お前が何をするのかは知らない!!! でもな!!! 俺はお前に勝負を挑んだ!!! お前は言った筈だ!! 誰からの挑戦も受けると!!! お前が傭兵であるのなら、ゲームを愛する存在なら!!! 俺がどれだけの覚悟を持ってこの場に望んだか理解できる筈だ!!!! お前はそれを理解してなお、この俺の覚悟を!!! 心を!!! 踏みにじる気か!!!! 何とか言え!!!! おい!!! 根黒万太郎ォォォォ!!!》

「カタ、ギリ、さん……あぁ、そうだ。カタギリさんは、俺の、為に……っ」

 

 彼の魂の叫び。

 それは正しく真っすぐで、今までの努力も理解していた。

 血のにじむ努力であり、彼は俺と戦う為にそれを続けていた。

 

 眩しいよ。太陽のように輝いている。

 ねじ曲がった思いであろうとも、その根底は心が通っている。

 今の俺の心には、彼の熱い言葉が確かに響いていた。

 だからこそ、ボタンにかけた指が僅かに離れる。

 

「……そう、ですよね」

《……! 根黒! 分かって》

 

 彼は俺の言葉に少し安堵していた。

 分かる、分かるさ。

 ゲーマーとして、誰の挑戦でも受けるつもりだった。

 闘争こそが傭兵の生きる意味であり、闘争こそがこのゲームの華だと……でも、違うんだカタギリさん。

 

《……ぅ!》

 

 俺は彼の機体を――ロックオンする。

 

 彼のメックのシステムがそれを検知したのは分かった。

 彼は声を震わせながら、静かに殺意を漲らせる。

 

 発射すれば、後はビーコンが誘導してくれる。

 俺は涙を流しながら、口角を上げて――“満面の笑みを浮かべた”。

 

 

 

「騙して悪いですけどね――これが俺の配信(しごと)なんですよォ! ハハハハハ!!!」

《――根黒ォォォォォォォォ万太郎ォォォォォォォォォォ!!!!!!!!》

 

 

 

 俺はボタンに指を掛けて――“押し込む”。

 

 

 

 瞬間、砲は激しく火を吹く。

 蓄えられたエネルギーが凄まじい轟音と共に発射されて。

 巨大な砲弾が音速で一直線に飛んでいった。

 俺は機体を激しく回転させながらも、何とか姿勢を制御し。

 全てが終わるその瞬間を――眺めた。

 

 ハルマゲドンの砲弾は、特殊な装甲によって守られている。

 だからこそ、一部の傭兵がそれを攻撃しようとも破壊する事は不可能。

 そのまま砲弾は突き進み、装甲内部の推進装置によって軌道を修正。

 ビーコンを持つカタギリさんを目指し進んでいく。

 彼はあれを反射するつもりだろうが――それに意味は無い。

 

 ハルマゲドンはカタギリさんまでの道を塞ぐ全ての敵を蹴散らす。

 そうして、そのまま壁を突破しカタギリさんの機体に触れる前に装甲をパージ。

 中には特殊装甲ガラスに守られた特別製の赤いエネルギー粒子が入っている。

 カタギリさんはそれを反射し――ガラスは砕けた。

 

《何だ!?》

「――始まりますよ」

 

 中の特別なエネルギーが周囲に飛び散る。

 それらはリビングデッドやカタギリさんの機体に触れた。

 瞬間、ポッドから散布された粉や煙はサークル内に存在する全てを包み込んだ――“計画、完了”。

 

《え? 何?》

《さっきの音は……?》

《あれ? 動きが?》

《おい!! 何も見えねぇぞ!! これどうするんだよ!?》

 

 オープン回線に繋げば、白煙の中で、全ての傭兵たちが戸惑っている声が聞こえた。

 カタギリさんも戸惑っていて――瞬間、彼はシステムの異常に気づいた。

 

《まさか!!! お前は、お前は、こんな事を!!!! こんな最悪を!!!! お前はぁぁぁぁ!!!!》

 

 彼は叫ぶ。

 が、その叫びは最後まで響く事無く――光に包まれた。

 

 最初に発生した幾つかの光。

 それは爆発であり、段々と光の数は増えて行く。

 10から100、100から1000、1000から――連鎖だ。

 

《あああぁぁぁぁ!!!!》

《出力が勝手にぃぃぃぃ!!!?》

《誰か助けてぇぇぇ!!!!!》

《嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁ!!!!》

《まだ機体のローンが残ってぇぇぇ!!!!》

 

 傭兵たちの悲痛な叫び。

 全てが白い光に包まれて消えて行く。

 やがて、光は視界を潰すほどの光量となり。

 轟音が遠く離れた此処まで届き、激しく空間を揺らしていた。

 

 

 ハルマゲドン。否、正式名称――“無限連鎖エネルギー粒子膨張特殊砲弾”。

 

 

 特別製の赤いエネルギー粒子に触れた機体の内部エネルギーを膨張させて、機体を暴走状態にし。

 そのまま無限の出力によって機体を爆発。

 その爆発によって、特別なエネルギー粒子は他の機体へと感染。

 感染範囲は狭いが、触れたものは絶対に暴走状態に入り――爆散する。

 

 俺の目の前には無数の光が広がっている。

 無数の機体の爆発が、巨大な真っ白な光を、輝きを生み出している。

 

 死んだ、死んだ、死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ――俺が、殺した。

 

 気づいて逃れようとする者は存在する。

 中心から離れている傭兵は本来なら救われていた。

 が、俺がばらまいた遅速粉煙と視界を奪う白い煙によって。

 彼らの動きはスロー状態になり、身動きも取れない。

 だからこそ、逃げられる筈の彼らでさえも――綺麗な光になった。

 

 パチパチと、無数の白い光が咲いていた。

 花であり、日本人が愛する花火で……へ、へは。

 

 たった一発の砲弾で、未来ある初心者を。

 ゲームを愛する人たちを、俺が、この、手で……う、ぐぅ、うぁああ。

 

 

 俺は――笑った。

 

 

 笑って、笑って、笑って――涙を流す。

 

 

「どうですか? 皆さん――綺麗な花火だと、思いませんか?」

 

 

 俺は配信を続ける。

 光が無いであろう瞳で眼前の光景を見つめながら。

 愛するリスナーさんたちに向けてコメントを求める。

 すると、ぽつぽつとコメントが流れていき――

 

【ね、根黒……お前、お前……こんな事が!!】

【やり、やがった! 遂に、遂に――やりやがった!!!】

【一瞬で、10万以上はいた機体が……う、美しいぃ】

【は、ははは……アンタ、マジでさ……最高だよ!】

【悪夢だ。こんな光景、今まで一度も……あぁ、綺麗ですね】

【ホワイトレコード様……感服、致しましたぁ!】

 

 コメントは加速していく。

 アンチやスパムも混じり、荒れに荒れていた。

 俺は涙を流しながら笑う。

 そうして、全ての傭兵たちの叫びを聞きながら……く、くふ。

 

「く、く、くく、くき、きく……あははははは!!!!!」

【……!?】

 

 俺はレバーから手を離す。

 そうして、両手で顔に触れた。

 ヘルメットのバイザーを展開し顔がよく見えるようにする。

 天を仰ぎ見て笑いながら、流れ落ちる涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにした。

 

 

「俺が、この、俺が、これを、この光景を!!! 他でもない俺がァ!!!!! ひ、はははははは!!!」

【こ、壊れた?】

【お、おい。だ、大丈夫、か?】

 

 俺は笑う。

 笑うしかない。

 笑っていなければいけない。

 こんなにも、残酷で無慈悲で最悪の光景を作ってしまったんだから――笑わないといけない。

 

「あ、あああ、あああぁぁぁ、ああああぁぁぁ!!!…………はぁぁ、さいっっっっこうだぁぁぁ!!!!」

【ひぃ】

【こ、怖い】

 

 俺は演じる。

 最悪を作った存在として相応しいロールを。

 ゲームを全力で楽しむ為なら、俺は悪党にだってなる。

 これで道は決まった。

 茨の道であり、修羅の道で――タライさんがコメントをした。

 

 

 

【あぁ、祝うべきなのかな――魔王の誕生を】

「魔王……ふふ、いいじゃないですか……今の俺にこそ――相応しい」

 

 

 

 俺は笑う。

 魔王として声高らかに笑った。

 

 無数の命の輝きを、花火のように眺める。

 今までにないゲームプレイであり、刺激に飢えていたリスナーさんたちも喜んでいる。

 アンチの数も増大しただろうが、確かな手応えを感じていた。

 ポイントは恐ろしいほど増加していき、同接数もかつてないほどに跳ね上がっていくのを見て……“俺は、バズった事を確信した”。

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