底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:ロボワン
俺の全てを懸けた戦いは――負けで終わった。
全力であり、切り札まで使った。
90秒の時間制限はあった。
でも、勝てる可能性はあった筈だ。
が、アイツには……アヴァロンには届かなかった。
仮想世界で死に、目覚めればベッドの上で汗まみれで。
結果を調べるまでもなく、俺は負けたのだと理解した。
悔しい気持ちはある。
自分の不甲斐なさにも腹が立った。
今にも部屋のもの全てをぶっ壊して、怒りに任せて叫んでやろう。
そう思ったが……出来なかった。
怒りも悲しみも、何もかもが……ゼロになってしまった。
あんなにもワクワクしたゲームが楽しめない。
暇さえあれば、アセンを考えて対戦をしていたのに。
三日間も部屋に閉じこもって、カーテンも閉め切っていた。
何も出来ない、何もしたくない。
アレから多くのメッセージが届いていた。
通知は鳴りっぱなしで、リリアンさんや月島さん。
みっちゃんにコウちゃんに……電源は消した。
今はただ、無駄に時間が流れて行くのをただジッと……何だよ。
「……」
毛布から顔を出す。
そうして、チャイムを何度も鳴らす馬鹿は誰なのかと思った。
宅配何て来る予定はない。
そもそも、まだ時刻は朝の5時ほどだ。
こんな時間に配達なんて来る筈がない。
こんな惨めな姿でも、最低限の買い物だけは行っている。
皆が寝静まった深夜に、コンビニでおにぎりなどを買うだけだ。
適当に売れ残ったものを二,三個買って、安いお茶で流し込んで……うるさいな。
全く帰る気配が無い。
それどころか、ガチャガチャとノブを弄り始めていた。
俺は毛布を頭まで被って、鬱陶しい何かが去るのを待ち――かちゃりと音がした。
「……ぇ?」
「おぉっす。死んでるのかぁ? おーい……んだよ、生きてんじゃねぇか」
無遠慮に入って来たのは久しぶりに見るリアルの竜一だった。
肌は小麦色に焼けていて、無精ひげを生やし。
黒い髪は短く切りそろえていて、黒いタンクトップにジャケットとジーンズだ。
鍛え上げられた肉体に、野性的な笑みからあの日以上に男らしくなっていると感じた。
竜一は、無様な姿を晒す俺を見ながら笑う。
その笑みからはこれっぽっちも馬鹿にするようなものはない。
ただ生きていて安心したと言いたげで……俺は目を伏せる。
「……再会は嬉しいけどさ……勝手に入るんじゃねぇよ」
「あぁ? テメェが居留守ぶっこいてるからだろ。たく……ほれ、行くぞ」
「は? え、行くって……え、何?」
俺は激しく戸惑う。
いきなり部屋に入って来て、説明も無しについて来いとはどういう事か。
俺が目を瞬かせていれば、アイツは背を向けて親指を立ててにっと笑う。
「何処って? そりゃ――“日本一の場所”だろ」
「は、ぇ?」
説明されたのにもっと訳が分からなくなった。
が、竜一は外で待っている言って出て行ってしまう。
俺は必死に呼び止めるが、奴は俺を無視して部屋から出る……か、勝手な奴めぇ。
「……くそ、何だよ……今はそんな気分じゃ……でも、遠路はるばる来てくれたし……はぁぁ」
ため息をつきながらものそのそと毛布から出る。
パジャマのままであり、気が進まないが着替えを始める。
すると、アイツが戻って来た。
「あ、服は適当で良いぞ。どうせ――店で着替えっからな」
「……え、いや……マジでどこ行く気だよ?」
「だぁかぁらぁ! 日本一の場所だよ! 分かんねぇか? ま、サプライズって事でいいけどよ!」
アイツはそれだけ伝えて今度こそ出て行った。
俺は何度目かのため息を零し、それならもうジャージで良いと手早く着替える。
日本の裏側からやって来た友人である竜一。
恐らくは、元気づけようとしてくれているんだろう。
が、俺に何を見せようともこんな陰鬱な気持ちが晴れるとは思えない。
何故ならば、全てを出し尽くした結果、俺は負けたんだからな。
「……」
頭がもやもやする。
思い出すだけでも体が重くなっていく。
それほどまでに、あの戦いは俺にとって……。
#
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……お、おい。お、お前さ、ま、マジで、ゆ、ゆるさない、から!」
「ははは! まだまだ元気じゃねぇか! ほら、頑張れ頑張れぇ!」
俺はトレッキングシューズを踏みならしながら、前を平気そうな顔で歩く男の背中を睨む。
高速バスにのってやってきたのは――“富士山”だ。
途中で装備を整えて、俺が嫌だと言っても無視。
そのまま麓からてっぺんまで歩きで行くと言い出して……く、クソぉ。
途中で帰れば良かった。
何度も帰ってやろうとした。
でも、アイツは全く後ろを見ない。
勝手に一人でずんずんと進んでいくんだ。
だからこそ、頂上に着いた時に俺がいないと分かったらアイツは悲しむんじゃないかと思った。
それゆえに、俺はアイツのアホみたいなペースに合わせて山を登っていった。
周りのベテランそうな登山者も驚いていた事から。
かなり、無茶なペース何だろうと思った。
ほぼランニングの域であり、俺は悪態をつきながらアイツを追っていく。
追って、追って、追って、追って…………お?
「おぉ、そろそろかぁ。もうちょいだぜ?」
「ふ、ふぅ――俺が先だァ!!」
「あ、てめ! 待てこら!!」
俺は奴を追いこして走り出す。
馬鹿は慌てながらも俺を追いかけて来た。
もうほとんど体力は残っていないが。
馬鹿の慌てる顔が見たくて俺は走って――辿り着いた。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ…………此処が、富士山の、頂上!」
「……どうだ? 綺麗だろ。これが――日本一の景色ってやつだ」
雲が自分たちの下にあり、隙間から見えるのは山や家々だ。
彼方まで続いている青色に、太陽がいつも以上に眩しい。
今まで見た事がないほどに壮大で美しい景色で……これが、日本一の景色か。
風が冷たく、周りの声も聞こえなくなるほど見惚れてしまう。
初めて見る富士山の頂上の景色に圧倒されて……。
「よっこらせっと……ほら、座れよ」
「……おぅ」
竜一は邪魔にならないところで胡坐をかく。
俺も奴の近くで胡坐をかく。
すると、アイツはリュックから水筒を取り出した。
自動の温度調整機能があるようで、かちゃりと蓋を回せば短い機械音がなる。
取り外したコップに中身を注げば、湯気がたっていた。
「ほれ」
「あ、ありがとう」
受け取ったものは黒い水だ。
匂いで何となく分かったからこそ飲んでみれば……やっぱり、コーヒーだ。
あったかい。
頂上で飲むからこそ、また味わいが違う気がする。
ほっと息を吐いていれば、竜一はコップを奪って自分の分を注ぐ。
そうして、豪快に飲んでから――酒でも飲んだかのような息を吐いた。
「はぁぁ! うめぇぇ!」
「……酔っぱらいかよ。はは」
俺は思わず笑った。
すると、竜一は俺に指を向けてきて――
「やっと、笑ったな」
「あ……やっぱり、俺を元気づける為に?」
「あぁ? あぁ……ま、それもあったが……何となく、お前にこの景色を見せてやりたかった。それだけだ!」
竜一はにしりと笑う。
長い付き合いだからこそ、本当にそれだけなんだとは分かった。
分かったからこそ、俺はおかしくって笑ってしまった。
竜一もがははと笑っていて……何だろうなぁ。
俺は両手を地面について、壮大な景色を眺める。
あんなにも陰鬱で、あんなにも体が重かったのに……不思議だなぁ。
「……此処にいたら、自然と嫌な考えが消えちまったな……体も軽いし、忘れられたのかな。ははは」
「……忘れたって? おいおい、そいつは――ちげぇだろ」
「え? な、何が――うぶぅ!?」
竜一は俺の顔を片手で挟む。
何するんだと言おうとしたが――竜一の顔は真剣そのものだ。
「お前、本気で忘れる気か? あの戦いを、アイツの事を――本当に、それがテメェの望みか?」
「……違う。絶対に……でも、もう、終わった事じゃんか。どうする事も」
「――テメェのいうゲーマーってのは、たった一度の失敗で全ておしまいにしちまうもんなのかよ」
「……!」
竜一は笑う。
笑いながらも、自らの想いを口に出す。
「失敗が何だ。全部水に流されたんなら、また一からやりゃ良い。セーブデータが消えちまっても、冒険は何度だって出来んだよ。そんな事で、そこから始まる物語を見ずに、それで満たされた気になるなんざお笑いだぜ。テメェは俺に言ったよな? 例え、ワゴンセールのクソゲーだって、最後までやったらやって良かったって思える事はあるって……もう一度言うぜ、お前は此処で諦めて……それで満足か」
「……俺は、俺は……諦めたくねぇよ。アレが最後だって言っても、俺はまた、アイツと……雄吾と」
「――だったら! 腹から声を出せ! せまい部屋で閉じこもるな! 台パンでも発狂でもすりゃいい! 思った事、全部吐き出せや!!」
「……ッ!!」
俺は立ち上がる。
そうして、山の先に立ち――叫ぶ。
「クソッたれェェェェ!!!! 俺はまだ諦めてねぇぞォォォォ!!!!! 勝ち逃げ何て許さねェェェ!!!!! どんな手を使ってでも、俺はお前にリベンジしてやるぅぅぅぅ!!!!! 最後に勝つのはこの俺だぁぁぁぁぁ!!!!! この俺ともういっぺん勝負しろやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ははは! 良いじゃねぇか! 最高に気持ちが良いぜ!」
周りの人は驚いていた。
すごく恥ずかしいし、すごく迷惑なんだろう。
でも、何故か、叫んでいたら――闘志が湧いて来る。
諦めていた心が、消えていた火が――再び燃え上がる。
まだ、俺には戦う力が残っている。
たった一回、負けたからなんだ。
例え、99%再戦する未来が無かったとしても、俺は1%に懸けてやる。
そうだ、それがゲーマーだ。
99%の理不尽に立ち向かって、1%の勝利を掴む。
それが俺であり、俺という傭兵で……よし。
「竜一! 帰るぞ!」
「え、お前、登って来たばっかじゃんか。ちっと休憩をだな」
「うるせぇ! やる事が一杯なんだ! それに、明日には生配信だしな!」
「……え? お前、準備してんのかよ?」
「いや、全く!」
「だぁぁ! この馬鹿野郎がぁぁ……しゃあねぇな。スピーチとかあんだろ? 一緒に考えてやるよ」
竜一は腰を上げる。
そうして、共に下山を始めた。
アイツは俺の肩に手を回して、スピーチの原稿を勝手に考え始めた。
「いや、スピーチって……まぁでも、言いたい事はあるけどな」
「お? 何だよ。愛の告白か? お前も遂に結婚を」
「――ちげぇよ! 相手なんていねぇのに……って、そうじゃなくてさ!」
俺はアイツの耳に伝えるべき内容を言った。
すると、アイツはにやりと笑う。
「はは、良いじゃねぇか! 言ってやれ! 運営の奴ら、それを聞いちまったら嫌でも準備するだろうよ」
「……少しでも可能性を上げてやらねぇとな。もう一度だ。次があったら……必ず俺は勝つぜ」
「おぅ。信じてるさ。何せ、お前にはこの竜一様というスーパー天才メカニックがついてんだからなぁ! がはは!」
「……そこは否定しねぇけどよ。あんまりはめ外すと……消させるぞ」
「……まぁ、そこは……な?」
竜一は乾いた笑みを零す。
俺はため息を零しながらも笑った。
すると、俺と竜一の腹は同時になり始める。
俺たちは互いに顔を見合わせて――にしりと笑う。
「「先ずは飯だ!!」」
腹が減っては戦は出来ない。
俺たちの利害は一致した。
互いに上手い飯屋を求めて勢いよく山を下りて行く。
かけがえのない友人と再会し、再び戦う力が戻って来た。
……日本一の景色は最高だったが……俺が見たいのは“世界一”だ。
アヴァロンの言葉は知っている。
いや、正確に言うのであれば――“雄吾の言葉”だ。
『頂点に至れ。真なる伝説となり――――“命と誇りを懸けて戦おう。友よ”』
「……あぁ至ってやるよ。頂点ってやつにな……それまで、もうちょっとだけ待っていろよ」
「……くく」
竜一は腕に力を込める。
こいつもやる気だ。
俺たちは闘志を燃やしながら――“親友との約束を果たす事を誓った”。