底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:ロボワン

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第6話:期待の眼差しは狂気的

 見慣れた仮想世界の配信部屋――が、今日は違う。

 

 綺麗に部屋に飾り付けをし。

 花なんて飾った事が無いのに、赤い薔薇なんかを置いている。

 仮想世界で悪臭なんてものは自然発生しないけども。

 匂いのパラメーターを少し弄って、お日様の香りをほんのりとさせていた。

 全てが全て、お客様用のものであり、サカさんとのコラボと同じように……いや、それ以上に気合を入れた。

 

 時刻は午後七時丁度であり、約束の配信時間になっていた。

 すぐに待機状態から画面を切り替えれば。

 待ってましたと言わばかりにリスナーの方々がコメントを書いてくれていた。

 その中には、見慣れない方々も多く……いや、ほとんどの人があちらさんのリスナーだ。

 

【星見さんとのコラボ楽しみにしてましたー!】

【根黒さん緊張してるー?】

【深呼吸ー!】

「ふ、ふひ」

 

 今日の俺のアバターは黒いスーツを着ていた。

 ピカピカの新衣装であり、粗相があってはならないと特注で用意した。

 コラボはコラボでも、あのトップVtuberである星見リリアンさんとのコラボで……き、緊張する!

 

 マイクを握りながら、必死に笑みを作る……は、吐きそうぅ。

 

「へ、へへ……うぷ!」

【吐くなよぉ】

 

 タライさんが不安げであった。

 配信を始めたもの、アバターの笑みは引きつっているだろう。

 一応、先ほども確認したが本人の準備は万端らしく。

 俺は肝心の最初の挨拶に望む事にした。

 

 「こ、こんばんちゃー! きょ、今日はぁ皆さんも知っていると思いますがぁ……あ、あの大人気Vtuberの方とのコラボになります! 身に余る光栄で全身が震えておりますが……あ、そうですね。お待たせしているので、早速、ご登場を……ど、どうぞ!」

 

 コメントにせかされた。

 俺は早速、星見さんを呼び――彼女のアバターが光となって現れる。

 

「こんばんは! アルテミス所属一期生の星見リリアンです。根黒万太郎様、本日はお招き頂きありがとうございます」

「あ、あ! そ、その……こ、此方こそ来ていただき誠にありがとうごいましゅ!」

【噛んだな】

【噛んでますね】

【うぅ! 見てるこっちが緊張しますよ!】

 

 リスナーさん方のコメントに顔を赤くする。

 すると、リリアンさんは上品な仕草でくすりと笑う……綺麗だなぁ。

 

 彼女のアバターを一言で表すのであれば――“お姫様”。

 

 青を基調としたドレスを纏い。

 肌の露出はほとんど無いものの、大人の女性としての色気を感じる。

 長いプラチナブロンド髪は、アニメの騎士の如く纏められていて。

 ぱっちりとした青い目に、背筋もピンとしていた。

 ドレスの裾をその細い指で摘まんで、本物の御姫様のように優雅なお辞儀をし……うん、凄い。

 

 これがもしも、中の人が違っていれば。

 俺はこれほどまでに彼女に圧倒される事は無かっただろう。

 間違いなく、星見リリアンと言う存在を彼女は上手く表現している。

 それほどまでに完成された仕草や言動で。

 やはり、プロは全く違うと感心し――

 

「――様。根黒様!」

「ひゃひゃい! 何でしょうか!?」

 

 至近距離にリリアンさんの整ったお顔が迫る。

 俺は思わず変な声を出して三歩も後退した。

 すると、リリアンさんは心配そうな顔で俺の体調を……い、いけない!

 

「は、はは! す、すみません。本物のリリアンさんがあまりにもキラキラとしていたので、つ、遂、圧倒されました……だ、大丈夫です! 楽しみ過ぎて二時間しか寝れてないですが! いけます!」

「に、二時間だけですか!? それはまぁ」

「え、えぇ! 二時間です! す、凄いでしょ!?」

「わ、わぁ!」

【引かれてるじゃねぇか!】

【根黒氏、空回るの巻】

【ウチの根黒が申し訳ございません!】

 

 お母さん気質のリスナーさんたちが謝る。

 すると、訓練された星見さんのリスナーさんたちは仕方なしと言ってくれた……あったかい。

 

「え、えっと、そ、それじゃ。早速、リリアンさんのご希望だったタイタングリードでの共闘ということで」

「――はい。是非、よろしくお願いいたします」

「は、はい!」

 

 何故か、リリアンさんは食い気味に言ってくる。

 その圧に若干押されながらも、俺たちはゲームの起動を音声コマンドで告げて――転送が終了する。

 

 目を開ければ、何時もの狭い自室ではなく。

 何処かの待合所のような場所に出ていた。

 俺の姿は何時ものヘルメットに全身灰色のパイロットスーツで……あ!

 

「リリアンさん! こちら、で……す?」

「「「……」」」

 

 リリアンさんらしき人を見つけて手を振り――固まる。

 

 リリアンさんのゲーム内のアバターは少し趣向が違った。

 お姫様のような煌びやかな衣装ではなく。

 肩で切りそろえた短い金髪に鋭い青い目で。

 ドレスではなくアーマー付きのコンバットスーツのようなものを着ている。

 ヘルメットを小脇に抱えながら歩み寄って来た彼女の周りには――ごつい男たちが立っている。

 

 でかい。

 身長190はありそうだ。

 肌も浅黒く、サングラスを掛けている。

 その装いは迷彩柄の軍服で統一されている。

 よく見れば、リリアンさんに群がろうとした人間を止める別の人間もいた。

 総勢で二十名ばかりの大所帯で……す、スタッフさんかな?

 

「あ、あのぉ……こ、この方々は?」

「ん? あぁ、彼らは……私のリスナーです」

「「どうも」」

 

 彼らは虚空を見つめながら小さく挨拶をする。

 俺は納得しつつも、あれら全員、リスナーなのかと驚く。

 かなり練度の高そうな方々であり。

 統率のとれた動きは完全に軍人のそれだった。

 

「え、えっと、それじゃ、この方々も一緒に……?」

「えぇ、数合わせですのであまり深くお考えにならないでください。貴方様の戦場を穢す事は絶対にさせませんので」

「……け、穢す? えっと……そ、それじゃ! よろしくお願いしますね! えっと、ヴィンセント・ホークアイズさんとジャッジメント・ブリンガーさ」

「――ポチとシロです」

「…………へ?」

 

 俺は何を言ったのかと戸惑う。

 すると、リリアンさんは笑みを浮かべながら「そうよね?」と彼らに聞き――

 

「ポチです」

「シロです」

「え、え、え? い、いや、その……え?」

「――AとBにしましょうか?」

「あ、いいいいえ!! ポチさんとシロさんですね! よろしくお願いします!」

「「はい」」

 

 彼らは曇り無き眼で笑みを浮かべる。

 既に名前を変えていて、彼らのプレイヤーネームはポチとシロになっていた。

 恐る恐る、コメント欄を見て……ひぃ!

 

【姫様より名を賜るなんて……何て光栄な事なんだ!!】

【俺も早く親衛隊の方々のように名を頂きたい!!】

【あぁ姫様!! 今日もお美しいぃぃぃ!!】

【……調教されてる?】

【真面なのは僕だけか!?】

【平常運転です】

「……す、すご」

 

 リリアンさんのリスナーさんたちは理性的な人たちが多いと思っていた。

 この前は、ムッコロスなんて書かれていたけど。

 本番当日にはそんな事を言う人は一人もいなかった。

 が、その理由についてようやく分かったような気がする……しつけられてるんだ。

 

 まるで、飼い主が飼い犬をしつけるように。

 彼らはリリアンさんよって調教されていた。

 俺のところのリスナーさんのような自由な感じではない。

 あくまで、トップであるリリアンさんを主軸に全ての流れが整っている。

 だからこそ、彼女が何かをしようとすれば、リスナーである彼らが道を造り出すんだ……こ、これがトップ!

 

「……? どうかされましたか?」

「あ、いえ。リリアンさんってやっぱり凄いなぁって思って……あ、憧れちゃうなぁ」

「――私のようなカスよりも、貴方様の方が何億倍も素晴らしいですよ」

「……へ?」

「……ん?」

 

 い、今、自分の事をカスって……き、気のせいだよな?

 

 リリアンさんは微笑むだけで何も言わない。

 俺は気を取り直して、依頼の受注所へと行く。

 

 此処は、多くの傭兵が利用するであろう“傭兵協会”の受付所だ。

 此処にはNPCからの依頼であったり、プレイヤーたちの依頼だったりが集まって来る。

 NPCの依頼は主に、敵性エネミーの駆除であったり素材の収集で。

 プレイヤーからの依頼であれば、“デッドブック”と呼ばれる指名手配犯の排除や。

 それぞれのコミュニティーにとって邪魔な障害を取り除いたりする依頼が主だ。

 

 コミュニティーによっては、勿論、全く異なる依頼もあるらしい。

 原生生物の調査であったり、観光をするからその護衛であったり。

 自由度が高いからこそ、様々な依頼が此処には集まって来る。

 それらの依頼は、AIによってランクが定められており。

 大体の依頼が適正価格に見合った難易度となっていると情報サイトには書かれていた。

 

 ……まぁ金欠のコミュであれば、お金が出せずに無茶な依頼を出す事もあるらしい。

 

 協会側への手数料も考えないといけないらしいからね。

 中々にシビアな作りだと思いながらも。

 俺は受付に立っている機械人のお姉さんにおすすめを――

 

「根黒様。お待ちを」

「え、な、何でしょう?」

 

 リリアンさんが待ったを掛けて来た。

 トイレかと思いながら振り返れば……何かを持っている。

 

 それは依頼書だ。

 俺は無言で渡されたそれを受け取り内容を確認する……へぇ。

 

「……新型メックの輸送船団の襲撃。新型一機を強奪し、指定の座標まで運ぶ、か……面白そうですね!」

「そうですよね!! 根黒様ならそう言って下さると思っていました! では、此方を受けましょう!」

「あ、はい! 分かりました!」

「では、私が手続きをしてきますので少々お待ちを」

「はぁい……ふぅ……ん? 何だ?」

 

 コメント欄が何やらざわついていた。

 気になって一時的に止めたりして内容を読めば……えぇ?

 

【新型メックの強奪って……確か、定期的に出されてるあれだよな?】

【そうじゃねぇ? デッドブックのNPCが出してるっていうハイリスクのいかれた依頼だよな】

【そうそう! 成功すれば、ばかうまな報酬だけど。失敗すれば、即時、デッドブックに登録されるっていうね】

【デッドブックに登録されるのはいたいよなぁ。よほどの手練れでもない限り、借金漬けにされて引退がオチだろ?】

【デッドブックの利点なんて協会への会費その他諸々がゼロになるのと領域への侵入が無制限になる事くらいだしなぁ】

【領域への侵入無制限なんて襲撃者と略奪者にしか旨味ねぇよ……リリーは何考えてんだぁ?】

「……」

 

 コメントを見ていれば、だらだらと汗が流れて行く。

 心臓の鼓動が速くなっていて。

 嫌な緊張感が走っていた。

 

 リリアンさんは知っているのか。

 知っていて、これを受けに行ったのか。

 成功する自信があるのか。

 それとも、罠に嵌められそうになって――

 

「お待たせしました」

「ひゃぁ!?」

「……どうかされましたか? 顔色が、その……ひどく悪く見えますが?」

「え、え? そ、そうですかねぇ? は、ははは……リリアンさん!」

 

 俺は我慢できずに彼女に言葉を掛ける。

 すると、彼女は微笑みながら首を傾げた。

 

「はい、何でしょうか?」

「あ、あのですね。落ち着いて聞いて欲しいんですが……あ、あの依頼って失敗したらデッドブックに」

「――えぇ、知っていますよ」

「……ふぇ?」

 

 俺は驚いて固まる。

 どういう事なのかと彼女を見れば、眼を細めて笑っていた。

 

「失敗すれば、そうなりますが……失敗などありえませんよ」

「え、え、え?」

「私たちだけならいざ知らず。此処には他でもない――貴方様がいるのですから」

「え、え、え、え、ぇ?」

「安心してください。私も責任を負います。地獄に落ちる時は――私も共に」

「え、え、え、え?」

 

 彼女は三日月のように口を歪める。

 そうして、薄っすらと頬を赤らめていた。

 何時もなら、どきりとするその表情と声も――俺の背筋をぞくぞくさせるだけだった。

 

【ヤンデレキター!】

【こえぇよ。初対面でこの距離の詰め方は異常だろ】

【姫様の辞書に恐れも後退も存在せんのだよ、若造】

【ガンガン行こうぜ!!】

【こぉれはホワイトレコードの狂信者で間違いないですねぇ!】

 

 俺は戸惑う。

 何故に、此処まで俺は彼女に期待されているのかと。

 気にはなったが……聞かない方が良いだろう。

 

「……それでは、参りましょう。我々は貴方様のバックアップに徹します。それでよろしいですか?」

「あ、はい。お願いします」

「……それでは、戦場にて貴方様の活躍。この目に焼き付けさせていただきます――ホワイトレコード様」

「根黒万太郎です」

 

 またしても、ホワイト何がしの名が出た。

 彼女は俺の言葉など聞いてはいない。

 そのままお付きの人たちと共に機体のチェックへと向かう。

 俺は頬を掻きながら、大御所というものの個性とやらにただただ圧倒されていた。

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