底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:オタリオン

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第60話:ヌルゲーなんて真っ平御免!

 あれからずっとゲーム三昧。

 ゾンビゲーにパーティゲーに音ゲーに。

 締めには格ゲーなんかをした。

 彼女はヘッドギアを外してベッドから体を起こす。

 そうして、頬を赤く染めて目を細めて俺を見つめる。

 

「はぁ、楽しかったぁ……ふふ、加賀様ったらあんなに激しく私を硬くて長くて太い棒で攻めるから♡」

「――杖ね!? それと対戦だから!! 格ゲーだから!?」

「ふふ、初心なんですね♡」

「ほぁ!?」

 

 完全に玩具にされている。

 彼女の発言は王女様でありながらあまりにも肉食系で。

 隣の俺の部屋から何度も壁を殴る音が聞こえてくる。

 このままでは壁が破壊される恐れがあった。

 だからこそ、俺は彼女に友達も呼んできていいかと尋ねる。

 すると、彼女はニコニコと笑いながら首を傾げる。

 

「ご友人、ですか? 今からすぐに来られるのですか?」

「え? い、いや、隣の俺の部屋にさ……さっき見てなかった?」

 

 俺は宅配の格好をしたお兄さんが殴り飛ばした人たちの事だと伝える。

 すると、彼女は瞬き一つする事無く――

 

「アレはご友人ではなく――ペットでは?」

「はぇ?」

「加賀様のような選ばれた方のご友人としては少々知恵が足りていないように思えました。えぇ、だってそうでしょう? 私が加賀様へ“ご挨拶”をした時も武器を持って襲ってきましたし……あぁ、もしやあれらのご心配を? お優しいのですね。ご安心を、此処は私の国では無いので断罪など致しません。えぇ、知性無き獣が人に牙を剥く事はありふれた事。ですが、あまりにも度が過ぎるようであれば……調教、しなければなりませんが。ふふ♡」

「ちょ、調教かぁ。ふ、ふへ、へへ……やべぇ」

 

 彼女は笑っている。

 が、完全に目が笑っていなかった。

 どす黒く闇よりも暗い。

 底なしの殺意であり、これが王族なのかと恐怖する。

 

 俺は臆しそうになったが。

 それでも、大切な友人である事を伝えて彼女たちも此処へ呼んでほしいと頼む。

 すると、カトリーヌさんは暫く黙って――ニコっと微笑む。

 

「分かりました!」

「え、あ、ありがとうございます! それじゃ」

「――では、これを♡」

「え?」

 

 彼女は後ろから何かを取り出す。

 そうして、笑みを浮かべながらそれを俺の首に取り付けた。

 かちゃりと音がして、俺はだらだらと汗を流しながら首のそれに触れる。

 

 冷たく、硬い感触だ。

 が、圧迫感は無く、不快感も無い。

 まるで、人体に。否、俺に合うように作られたそれは――首輪だ。

 

「え、あ、えっと、あ、あの、これ?」

「――お守りです♡」

「え、あ、おまも、え、いや、ちが」

「――愛の、お守りです♡」

「……っ」

 

 彼女はにこにこと笑っている。

 が、その瞳には妖しい光が見えた。

 俺は生まれたての小鹿のように全身を震わせる。

 

 この人には敵わない。

 常識何てまるで通じない。

 俺の事を見ているが、俺の全てを――“見透かしている”。

 

 王族だから、次代の女王だから。

 自分の発言も行動も咎められる事はない。

 俺が彼女に対して否定的な意見を言わない。

 そう見透かされていて……い、言ってやる!

 

「ね、ねぇ!」

「……ん?」

 

 俺は拳を硬く握る。

 そうして、彼女を見つめながら口を動かそうとした。

 

 言うんだ、言ってやれ!

 俺も男だ。首輪なんて必要ない。

 俺は貴方の所有物じゃない。

 俺は加賀芳次で、根黒万太郎で、ホワイトレコードで……そうだ、そうだ!!

 

「あ、あの、あの……えっとね! そ、そのぉ!」

 

 

 言え、言え――言えェェェ!!!

 

 

「あ!」

「――愛しています」

「……へ?」

「心より、生まれたその日より――愛を向けさせていただいております」

 

 彼女は微笑む。

 意表を突かれて言葉が消えた。

 俺は彼女をジッと見つめる。

 彼女はそんな俺の首に手を添えた。

 彼女の手はひんやりとしていて、体が火照っている今は心地よく……。

 

「貴方を物だと思っていません。貴方は貴方であり、自由であるべきです……ですが、私が貴方の前にいるその時だけは――私だけを見てください」

「ふ、ぇ?」

「貴方の視界に映るのは私だけ。貴方の言葉を聞くのは私だけ。貴方の熱を感じるのは私だけ。私が貴方の全てを受け入れて、私は貴方の全てを成したい。この身は貴方の為のもので、我が国も、我が国の全ても――貴方のものです」

「へ、へ、へ、は、ぁ、ぇ?」

 

 俺は震える。

 その言葉はプロポーズのようで、実際はまるで違う。

 彼女の発言は子供の時にやったレトロゲームの――魔王の発言だ。

 

 世界の半分をやるから、人類を裏切れと。

 我が配下になれば、欲しいものをくれてやる。

 そういう類の言葉だ。違いがあるとすれば、世界の半分で無く――全てを与えるという点だ。

 

 領土も、民も、人権も何もかも。

 嘘だ。嘘だと思いたい。

 が、彼女の目を見て一瞬で分からされた――あ、マジじゃん。

 

 俺はガチガチと歯を鳴らす。

 恐怖。純粋な恐怖であり、得体の知れない存在が俺の心を赤子にしようとした。

 何処までも深く、底が見えない愛情。

 愛であり、心であり、もはやこれは呪いだろうか。

 

 怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い――玉がひゅんとした。

 

 ぷるぷると震える。

 そんな俺に対して、彼女は静かに指を動かしていく。

 それは俺の首をなぞり頬を伝って、ゆっくりと唇に触れて――

 

 

 

「私に貴方の人生を下さい。そうすれば――全ては貴方のものですよ♡」

「お、ぁ、ぁ、ぁぁ、ふ、ぁぁ」

 

 

 

 つ、強すぎる。

 権力があり、王族であり、絶対的な支配者の側だ。

 何時もであれば冗談だと笑い飛ばす。が、冗談とも全く思えない発言だ。

 凄味どころか、既に王者の風格すら感じた。

 この女からは、手に入れると決めたら絶対に手に入れるという――鋼鉄の意思を感じるッ!!

 

 俺は震える。

 脳をフルで回転しこの危機的状況の打開策を考える。

 彼女は間抜けな面を晒す俺をジッと見つめて――くすりと笑った。

 

「――冗談です♡」

「ふ、ぇ?」

 

 かちゃりと音がした。

 瞬間、俺の首にあった首輪が勝手に外れた。

 彼女はそれを回収し、くすくすと笑っていた……か、揶揄われた、のか?

 

 俺はドクドクと心臓を鼓動させる。

 彼女は楽しかったと言いたげに息を吐いた。

 

 

「……さて、それでは――本題に移りましょうか♡」

「え、何――ほぉぉぉぉ!!?」

 

 

 彼女が何かを言った瞬間に――壁が細切れになる。

 

 

「「「……」」」

「え、え、え、え? えぇぇぇ!?」

  

 さいころ上になった壁の残骸が転がる。

 見れば、特殊な機材を持った防護服のようなものを纏った男たちが立っていた。

 俺の部屋とこの部屋が繋がり、今まで見えなかった友人たちの様子が見えた。

 

「「「――!!」」」

「み、みんなぁ!?」

 

 見れば、三人とも縛られていた。

 縄でぐるぐるであり、口にはさるぐつわがある。

 俺はカトリーヌさんを睨み、今すぐに自由にしてくれと――三人の拘束が解かれる。

 

「へ? え、あ」

「――用が済めば、全て元に戻します。ですので、皆さまは私の言葉を聞いていてください。あ、ペットに発言権はありませんので♡」

「「「……っ」」」

 

 三人の後ろには配達員の格好をしていたお兄さんが立っていた。

 糸目であり、今は黒いスーツに黒い手袋をはめていた。

 いつの間にかおしゃれな眼鏡を掛けていて……イケメンだなぁ。

 

 彼はニコニコと笑いながらも、三人に対して静かな殺気で警告していた。

 

「さて、それではホワイトレコード様。先ずは……此方を♡」

「え、あ、はい……って、これは?」

「招待状です。我が国、我が城へのです♡」

「あ、そ、そう……でも、悪いけど、大会が」

「――はい、大会に関係する事です♡」

「へ?」

 

 俺は目を点にする。

 すると、彼女の近くに待機していた男が近寄る。

 そうして、彼女の背後にボール状の機械を設置した。

 彼女が指を鳴らせば、その機械が起動し宙に浮き――空中に何かの情報が投映された。

 

 それはとても大きな建造物で。

 ドーム状であり、恐らくは何かのステージだ。

 説明文らしきものには……エルレック王国……“Eスポーツ国際競技場”?

 

「この度、我が国はセブンストリームが開催する世界大会の――正式なスポンサーとなりました」

「え!? う、嘘!?」

「ふふ、真実ですよ。我が国からは多額の資金と優秀な人材を派遣し、その見返りとして我々は大会の――“本選の舞台”の選定権を得ました」

「本選の、舞台……?」

 

 彼女は説明する。

 予選までは舞台は存在しないが。

 本選からは世界各国で舞台を用意し。

 決勝までの間で、様々な対戦形式によって試合を行うと。

 

 国際大会の期間中は、舞台となる国々にて多くの企業も参加し。

 専用のブースなども設けて、色々な催しも行うらしい。

 その経済効果は計り知れず。

 オリンピックを超えるものになる事は確実であると彼女は断言した。

 

「とてもグローバルな試みなのです。オリンピックを超えるEスポーツの為の世界大会。対戦に関しては全世界にて生中継される事も既に決定しています。舞台の工事も着々と進んでおり、予定通りであれば……いえ、この情報は早いですね。ふふ」

「……それを態々、俺たちに? まだ、予選に参加する資格も無いのに。何で、かな? まさか、それだけ俺たちを」

「――貴方様が間違いなく本選に進むからですよ♡」

「「「……!」」」

 

 彼女は真っすぐに俺を見つめる。

 その言葉には一切の不安が無い。

 勝って当然、負けるなんてあり得ない。

 それは信頼というにはあまりにも――狂気に満ちていた。

 

「……それを俺たちに伝えて、君にとって何か……利益があるんだね」

「ふふ、流石に理解がお早いですね……えぇ、勿論あります。何せ、貴方に本選へ進んで欲しい人間が――セブンストリームにいるのですから」

「……! 待ちなさい! 誰が彼を――っ!」

「――発言の許可、していませんよね?」

「お静かに、ね?」

 

 オリアナさんの発言。

 その瞬間に、背後に立っていたお兄さんが彼女の首にナイフを当てる。

 彼女は本物の殺気を浴びて口を噤む。

 俺はカトリーヌさんを見つめながら、それは誰かと尋ねた。

 

 彼女は少し間を置き……。

 

「彼との契約でそれを話す事は出来ません……が、貴方様が本選へと進む事が出来れば、彼の方から貴方様に接触を計るでしょう」

「……そっか。だったら、いいかな……多分、俺を勝たせる事で、君には俺が考えつかないようなメリットが……あるんだね?」

「ふふ、そうですね……セブンストリームの“秘蔵っ子”が使える、とだけ……さて、それでは――取引を致しましょうか」

 

 彼女は指を鳴らし、映像を止める。

 そうして、姿勢を正して俺を見つめた。

 笑っている。が、ここからの発言は気をつけた方がいいだろう。

 俺は何の取引かと身構えて――

 

 

「――この先で行われる対戦の全て。予選と本選全てのゲーム内容を明かします」

「……!」

「その代わり、貴方様が大会にて優勝した暁には――セブンストリームの全権を私に譲るように願って下さい」

「「「……!?」」」

 

 

 彼女の発言に俺を含めて友人たちも驚いていた。

 先ほど、俺が優勝する事によって喜ぶ人間がいると言っていたが。

 彼女の願いからして、会社そのものを乗っ取る事が最終的な目的だったのか。

 

 如何に次期女王といえど、セブンストリームを手中に収める事は出来ない。

 如何にセブンストリームが世界中に根を張っていても。

 一国家が独占を計る事は出来ないのだろう。

 今まで買収を計っていた企業は幾つもいたが。

 その全てが失敗していた。

 エルレック王国が一企業に固執する理由は不明だが……その“秘蔵っ子”とやらが関係しているのか?

 

「……多分だけどさ。それって……裏切り、じゃないの?」

「ふふ、裏切り。そうかもしれませんが……ホワイトレコード様には関係のない話ですよ?」

「……そうだね。俺には関係ない話だ……でも、俺自身の願いは分かってるよね?」

「勿論、あの存在との再戦。それも、私の願いが叶えば……簡単に叶えられますよ♡」

 

 彼女は笑う。

 今までの妖艶な笑みじゃない。

 邪悪な笑みであり、俺を利用しようとしている。

 王者としての圧があり、有無を言わせぬ迫力で……さぁてぇ。

 

 どうしたものか。

 発言を誤れば、どうなるかは分からない。

 が、こんな内情を暴露したのであれば確実に命の危険が生まれる。

 たかがゲームの世界大会と思うかもしれないが。

 国家を巻き込んだイベントであれば、それぞれのメンツだってある。

 彼女以外にもスポンサーとなっている国はあるだろう。

 世界を巻き込んだイベントであるからこそ、多くの思惑が存在している。

 もしかしたら、どんな願いも叶うというあの発言……プレイヤーよりも、国の方が理解しているのか?

 

 分からない。

 何も狙いが見えない。

 断れる雰囲気じゃない――が、答えは決まってる。

 

 俺はため息を零し、顔を床に向けながら首を左右に振る。

 そうして、ゆっくりと頭を上げてカトリーヌさんに視線を向けて――二ッと笑う。

 

 

「ごめん――嫌だ!」

「……!」

 

 

 俺は彼女の目を見てハッキリと断った。

 瞬間、少しだけ場の空気がぴりつく。

 本物の殺気であり、恐怖で体が震えそうだった。

 死にたくない。まだまだやりたいゲームは沢山ある。

 それでも、俺はこの提案だけは――死んでも受け入れられない。

 

 カトリーヌさんは目を細める。

 そうして、少しだけ低い声で俺に問いを投げて来た。

 

「……何故ですか。実力がある貴方であれば、試合の内容さえ分かっていれば、準備をし確実に勝ち進める……傭兵であれば、どんな手を使ってでも勝つ事を望むものでは? 試合も、ゲームも、勝ってこそ」

「――あぁ、それさ、違うよ? 傭兵ってのはどんな手を使っても勝ちたい――でも、確実な勝利何て嬉しくないんだよ!」

「……?」

 

 彼女は首を傾げる。

 伝わっていない様子だ。

 俺はどう伝えようかと腕を組んで悩み……よし!

 

「例えばさ! 初見で挑むボスと、攻略サイトで弱点も攻撃パターンも全部理解してから挑むボス……どっちが楽しいと思う?」

「……初見、ですか?」

「そう、それ!! 何も分からない、負けるかもしれない! 負け続けてゲロ吐きそうで、物に当たってさ! むしゃくしゃしながらも、試行錯誤で挑みまくって! 負けて負けて負け続けて! それでも勝ちたいって言う意地だけで強い奴に挑み続ける! そういう緊張感がさ! あるからこそ、100回も1000回も負けたって、たった一度の勝利が堪らなく嬉しくて、楽しくて――だから、傭兵、やってるんじゃないかな?」

「……!」

「確実な勝利、100%勝てる戦い……そんなのってあり得ねぇでしょう?」

「ですが、貴方には、目的が……果たすべき約束があるのでは? 負けたら、その約束は永遠に」

「――でも、俺は楽しみたいッ!! 目的があって、果たすべき約束はある! でもね、それを理由にして最高のゲームをただの作業なヌルゲーにしたくないね!! ゲームが大好きで、ゲーマーに青春を捧げたんだ! 俺は大人になった今でも、夢中になって全力で――ゲームを楽しみたいんだ!!」

「……っ!」

 

 俺は親指を立てて笑う。

 そうさ、雄吾との約束はあるが。

 それを理由にして、最高のゲームをつまらなくして良い筈がない。

 もしも、待っていてくれているアイツが、俺がヌルゲー状態でへらへらと笑ってやってきたらどう思う?

 

「きっと、俺の友達なら……腰抜けチキン野郎なんか、勇者とは呼ばないよ……って言うかもね?」

「……ふふ」

 

 彼女は俺の発言に思わず笑った。

 その笑顔は今までの圧を感じない純粋な笑顔だ。

 それを見れただけでも満足だ。

 俺は姿勢を正して――深く頭を下げた。

 

「だから、ごめんなさい! お国の願いかもしれないけどさ。俺は俺のやり方で――優勝、したいんだ」

 

 俺は頭を上げる。

 そうして、誠意を伝える為に正直に思いをぶつける。

 決して彼女の目から視線をそらさず、真剣な目でカトリーヌさんを見つめる。

 これだけは譲れない。

 ゲーマーとして、ゲームを楽しむ心だけは失いたくない。

 どんなクソゲーも、どんなストレスゲーでも。

 楽しむ事が出来るのなら、俺は全力で楽しみたい。

 

 彼女はジッと俺を見つめる。

 彼女は笑みを消して、細めた目で俺を見つめる。

 空気がぴりつき、控えていた人間たちも懐に手を伸ばす。

 

「そう、ですか。それならば……仕方、ありませんね」

「……っ」

 

 一触即発の空気。

 次の瞬間には、頭を弾丸で撃ちぬかれているヴィジョンすら見えた。

 

 間違えた。判断を誤った。

 何かが起きる。一瞬で終わる。

 俺は拳を握る。

 言いたい事は言った。

 自分の心に嘘をつかなかった。

 後はなるようになれであり、せめて一矢報いる覚悟を決めて――彼女は昂然とした表情で自らの両頬を抑える。

 

 

 

「あ、あぁぁぁ――――素敵、ですぅ♡」

「へ、ぇ?」

 

 

 

 俺は目を点にし――パチパチと手を叩く音が聞こえた。

 

 周りを見れば、控えていた人間たちが手を叩いていた。

 拍手であり、中には涙を流している人間もいる。

 俺は驚きながら、カトリーヌさんを見て――彼女は俺の手をそっと掴む。

 

「感動しました! やはり、私の目に狂いはありませんでした! 貴方は紛れもなくホワイトレコード様です! 私が心から愛するお方……ふぁぁぁ♡」

「え、え、え、え? え、いや、さっきの、は?」

「……ふふ、申し訳ありません。少々――試させてもらいました♡」

 

 彼女は微笑む。

 そうして、全てを明かしてくれた。

 

 そもそも、彼女は試合の全てなんて知らされていない。

 此処に来たのは、俺に会う為であり。

 予選を突破する事を前提にした招待状の手渡しと別の要件を伝える為だった。

 が、彼女のイタズラ心が働いて。

 俺が本物のホワイトレコードである事を護衛たちに証明する為に一芝居をうった、と……ひぇぇ。

 

「貴方様が私如きの戯言に耳を貸す事など考えていませんでした。真のゲーマーであり、我らが神である貴方様であれば、必ず、誇りと気高さに満ち溢れたお言葉を言って下さると思っていました……が、想像以上に、こぅ、胸や、ここが……キュンと♡」

「は、はぁ? えっと、その……もし、受けていたら?」

「ん? それはありえません……が、もしも、受けていたのであれば……これを使っていました」

 

 彼女はそう言って、またしても何処からかサングラスとカメラを出す。

 それは何かと聞けば、記憶処理をする特殊な機械、と……え?

 

「まぁまだ試作段階ですので。副作用がありましたが……ふふ♡」

「へ、へぇ、へ、へへ……うぷ!」

 

 恐怖で吐き気を催す。

 恐ろしい。これが王族の力なのか。

 

 俺が恐れおののいていれば、カトリーヌさんは本来の要件を話し始めた。

 

「さて、それでは本当の事を話します……これから、我が国のエージェントを貴方様の傍に配置させていただきます」

「え? な、何で?」

「……貴方様はホワイトレコード様。伝説のお方です……先ず間違いなく、今回の大会において貴方様が筆頭優勝候補でしょう……であれば、貴方様を狙う者も多いのです。セブンストリームのCEOとの秘密裏の話し合いの結果、優勝候補となるプレイヤーに関して、自衛の手段をもちえない方々に対して、信頼のおける護衛をつける事が決定しました。勿論、事前に護衛の件に関して話し合いの場は設けます。特に、ホワイトレコード様の護衛に関しては賄……厳正なる話し合いの結果、エルレックのエージェントが請け負う事になりましたので、えぇ!」

「…………それって、国、とかも……その、狙ってくる、とか?」

「断言は出来ません。が……セブンストリームの秘密を知っているのであれば、可能性はあります」

「秘密……あ、いや、聞きませんよ! 絶対危ないですし」

「ふふ、助かります……エルレック王国は、貴方様を信仰する人間で溢れています。ですので、セブンストリームにいる貴方様が実力で優勝してくれる事を願うお方は我々を信頼し、その護衛を秘密裏に願ってきました……まぁ多少は、お金の力もありましたが……勿論、対等である為に我々もそれ相応の要求はしました……ですが、我々も貴方様が優勝してくださることこそが望みです。この言葉に噓偽りはありません」

 

 カトリーヌさんは微笑む。

 その言葉に嘘は無いだろう。

 が、世界大会であれば彼女の国の人間も参加するのではないか。

 それを聞けば、彼女は肯定した。

 

「確かに、我が国の精鋭も参加します。恐らく、本選に進む人間もいるでしょう。勿論、王族として民を応援しない筈はありません……が、我々は貴方様の力を知っています。我々にとって、我が国の民が貴方様に挑む事。それ即ち――試練なのです」

「し、れん……?」

「そう、神からの試練。勝っていけないのではありません。勝つ気で挑むからこそ試練。負ければ研鑽を積み、勝てば人間から神に昇格する。ただそれだけなのです」

 

 カトリーヌさんの言葉に戸惑う。

 が、それほどまでに俺を高く買ってくれている事だけは分かった。

 俺は取り敢えず納得し、護衛は見えるところにいるのかと聞く。

 

「えぇ見える範囲にはいます。が、基本的には一般人として振舞い貴方様には接触致しません。当然、日常生活においてプライベートを侵害する事も無いとお約束します」

「……因みに、プレゼントがばっちしのタイミングで届いていたのは?」

「――愛の力です♡」

「ほぉぉぉ……ま、いっか!」

 

 俺は現実から目を背ける。

 そうして、全てを理解し立ち上がる。

 

「まぁ色々あったけど。助けてくれるのなら、ありがたいね……改めて! 加賀芳次です! よろしくね!」

「はい! カトリーヌ・エルレックです! よろしくお願いします――永遠に♡」

「……ふへ!」

「「「……チッ」」」

 

 

 彼女はにんまりと笑う。

 その目は相変わらず深海の如き光の無さだが。

 取り敢えずは信じていいんだろうと思って……何か、ゴミ箱漁ってね?

 

 掃除をしている風を装って防護服の人たちがゴミ箱を漁っている。

 何故か、ティッシュとか割り箸を袋に一つずつ入れていた。

 俺は無言でその人に指を向ける。

 すると、カトリーヌさんをゆっくりとその人を見て――端末を取り出す。

 

「連絡先の交換、しましょうか♡」

「え? あ、いや、あ、あれ?」

「送りますねぇ♡ あ、私はもう登録しているのでぇ♡」

「……つ、ツッコミが追いつかねぇ……や、やべぇ」

 

 俺はがくがくと震える。

 彼女は微笑むだけで何も言わない。

 俺は初めて会う王族の圧を味わいながら、この先でもっと凄い存在と会うのかと想像し……少しだけ楽しみに思った。

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