底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:オタリオン
グリード内、自由探索領域が一つ――“旧工業都市”。
さび付いた都市を飛び回り、壁や土管に張り付きレーザーを放つ蜘蛛型のエネミーたち。
ぎょろぎょろと赤い目玉のようなセンサーを動かし、執拗に俺を狙う。
その攻撃を紙一重で回避しながら、アサルトライフルの弾丸で一体ずつ屠っていく。
破壊音が響き、残骸が飛び散っていく。
連続して爆発音が響き、飛び掛かって来る奴をゼロ距離で破壊。
そのまま煙を払い突き進み、レーダーを確認する……ふぅ。
俺はかれこれ三時間ほどこの作業を続けていた。
近くにいた敵をまた一体屠り、レーダーから敵の反応が消失。
俺はそのままレバーを動かし、機体を地上へと降下させていった。
オイルに塗れた地面を滑り、炎を巻き上げながら停止する。
周囲を確認し、今までのエネミーからドロップしたものを確認し……はぁ。
「……ないなぁ。嘘だろぉ?」
俺は何度もドロップしたものを確認する。
が、ドロップしたアイテムの中にデータキーは存在しない。
素材と金だけであり、全くと言っていいほど収穫無しだ。
仲間たちとも共同で探している。
同じエリア内であり、流石に三時間もいれば一つくらいは見つかると思ったが。
連絡が無いという事は向こうも見つかっていないんだろう。
俺はどうしたものかと考えて……一旦、街に戻るかぁ。
このまま無策に探しても意味はない。
そう思って、俺は皆に通信を繋ごうとした。
コール音が響き……繋がった。
《先生! 見つかりましたか!?》
「あ、まだなんだよねぇ……えっと、リリアンさんたちは?」
《残念ながら収穫はありません》
《私もですぅ》
《俺もだ……なぁ、別の方法を探さねぇか?》
コウちゃんの言葉に俺は同意する。
その為にも、一旦このエリアから離脱し。
街にあるバーで合流しようと提案した。
すると、四人は同意してくれた……よし!
「それじゃ、また後で!」
通信を切り、俺はその場を離れようと――警報が鳴る。
レーダーを見れば、何かが高速で接近している。
煤汚れた煙が空を覆ているからこそ遠くまで見えないが、移動速度からして手練れか。
俺はその場に留まり、両手のアサルトライフルを敵へと構えた。
一瞬で煙を突き抜けて現れた敵機体。
空から降り立ったのは……“紫色の機体”だった。
重量級の多脚型であり、戦車のようなごつい形状に背中から突き出す大型のスラスター類。
六つの脚部のサブスラスターからエネルギーを放出しながらそれは地面に降り立つ。
頭部は箱状であり、センサーは複眼型であり黄色く発光していた。
手にはあまり見た事が無い形状の銃を携行している……特殊か?
肩には毒蛇のようなデカールを貼っている。
恐らくは、ネームドであり、気配からして油断ならない。
複眼センサーが回転しており、目の前に降り立ったそいつはすぐに両手を上にあげる。
《待って待って! 敵じゃないよぉ。ほら、降参降参!》
「……女性ですか? えっと何の用でしょうか」
目の前に降り立った女性と思わしき傭兵。
声が高かったからそう判断しただけで確証はないが。
彼女は否定する事もせずこほんと咳払いをし、自己紹介を始めた。
《初めましてだね。私はラン。毒蛇のランって名に聞き覚えは?》
「……! つい最近、友人からその名を聞きました。用心しろって」
《はは! それは良い友人だね! アンタも正直者だ! 気に入ったよ……さて、単刀直入に言うけど――どうだい、私と手を組まないか?》
「……それはデータキーを手に入れる為に……銀行を襲撃しろと?」
全て聞いている。
カトリーヌさんからの助言だ。
何でも、プレイヤーの中で銀行の襲撃を企んでいる傭兵たちがいて。
掲示板内で既に多くの傭兵が参加を表明しているらしい。
その中の一部の人間たちが俺を仲間に引き入れようとしていると。
その中でも、Sランクの傭兵であるネームドプレイヤーの……毒蛇のランが俺を狙っているとな。
俺の言葉にランさんは笑った……違うのか?
《何か勘違いしているようだけどね……私、襲撃には参加しないよ?》
「え? い、いや、でも、名前が出ていたんじゃ?」
《あぁ、あれ? 名前だけだから! ほら、名前だけ貸して欲しいってのはこの業界じゃざらじゃん? Sランクも参加しますよぉって言っておけば、協力者がほいほい釣れるらしいし。どうせ、一々挨拶しようだなんて殊勝な奴もいないしぃ? ま、私はお金さえ貰えれば何でもいいけどねぇ。ひひひ》
「え、えぇぇ……それ、詐欺じゃないんですか?」
《ハハハ! 知らない知らない! 困るのは名前を借りた奴だから! 私は多少敵が増える程度! って、こんな話はどうでもよくて……ねぇ、一緒にデータキーを手に入れない? 勿論、お仲間の分も手に入るよ。確実にね》
ランさんは魅力的な提案をしてくる。
協力してくれれば、絶対に人数分のデータキーを手に入れられると。
確実な方法を知っているようであり、俺が望めばすぐに情報も開示するという。
このゲームでも情報は何よりも重要であり、情報屋がいるくらいだからデータキーの情報ともなれば高くつくだろう。
そんな情報を俺が協力を承諾すれば開示するという……うーん。
魅力的だ。
本当に協力する気があれば、だがな。
「……騙すとか、そういう気持ちは?」
《んー? ここで私が騙しませんって言ってさ……信じられる?》
「……無理ですね。はい」
《はは! やっぱ正直だ! まぁそうだろうね。だからこそ、信じる信じないはこの際抜きにして、取り敢えず話だけ聞いてみるってのはどうよ? 勿論、お仲間と話して決めていいからさ! この後、時間ある?》
「……ありますけど……何で態々、俺なんかを?」
俺は思わず聞いてしまう。
腕利きが欲しければもっと他にもいたんじゃないかと。
すると、彼女はふっと鼻で笑った。
《……アンタ、自分自身の事、軽視しすぎでしょ? この私が選んだんだ――アンタ以外に、適任はいないってね》
「……そこまで俺の腕を買ってくれるんですね……まぁ話だけなら」
どうせ、このままでも進展はない。
そういった気持ちは隠して、彼女にこの後、俺たちが合流する街のバーを教える。
すると、ランさんは嬉しそうに笑ってそのまま何処かへ飛び去ってしまった。
《期待してるよ! もし受けてくれたらぁ――んーとサービスしてあげるからさ♡》
「……へ?」
投げキッスでもするような音が聞こえた。
俺は小さくなっていくランさんの機体を見つめながら。
この後、どう仲間たちに説明するかを考えてだらだらと汗を流した。
#
「……で?」
「え、でって……いや、だから、その……離れて下さいよ!」
「えぇぇいいじゃん? 減るもんじゃないしぃ。うりうり♡」
「「「……」」」
観光都市の一角にあるバー。
青を基調とし、海の中をイメージした内装で。
金さえ払えば個室も用意してくれる内緒話にうってつけの店だ。
そこで友人たちと集合し……人殺しのような目を向けられている。
それもその筈であり、個室にてふらりとグラスと酒のボトルを持って現れた謎の美女。
入るが否や俺の隣に座り、腕を組んで胸を押し付けて来た。
腕や頬には謎のタトゥーを入れていて、耳にシルバーのピアスをしている。
剃り込みがあり、俺から見て左目が隠れるように濃い紫色の髪を流し。
へそ出しのスタイルに加えて、黒いチューブトップスであり谷間が丸見えだ。
肩出しのジャケットにダメージ加工のパンツが完全にパンク風。
目の色は青であり、右手と右足が機械式の義手と義足になっていた。
彼女は優雅に紙煙草を噴かせながら、俺の反応を楽しむように体を密着させる。
彼女が猫のように笑えば、四人からの殺気が増し今にも殺されそうで……はぁ。
俺は彼女の肩を掴み、強引に引き剥がす。
彼女は残念そうな顔をしながらも俺の真剣な顔を見て煙草を灰皿で消した。
「……それで、さっきの話ですけど……本当に人数分のデータキーが確保できるんですか? 銀行襲撃は無しですからね?」
「分かってるってぇ……ま、この情報はここだけにってことで、いいかな?」
「……テメェも傭兵なら分かんだろ? そんな脅しに意味はねぇって」
「ちょコウちゃん!」
「はは、その目、私がよぉく知っている奴らの目だ……ま、別に話したって構わないけど。そしたら、アンタらもデータキーは手に入らなくなるってだけだし?」
「「「……」」」
全員が沈黙する。
今の話で、お互いに誰かに喋って良い事は無いと理解できた。
だからこそ、ランさんはグラスにスコッチを注ぎ、それをロックで飲み始めた。
「はぁ……ま、気楽に聞いてよ。どうせ、他の連中が聞いたって手に入る訳ねぇしさ。そこに入る為のパスなんてどうせ分かんないだろうしさぁ」
「……というと、やっぱり一筋縄ではいかないんですね?」
「はは、そりゃそうよぉ! 勿論、私だけでも絶対に無理! だから、アンタらの……いや、天下のホワイトレコード様にお願いしてる訳♡」
「……で、具体的には我々に何をさせようと?」
リリアンさんがさっさと話せと目で訴える。
すると、ランさんはグラスを置いてから虚空で指を動かす。
彼女の目の前には丸められた紙が出て来た。
それを彼女は全員が見えるようにテーブルで広げて……地図?
「これ、自由探索領域の一つ。“深海に沈みし古代移動都市”の全体マップね……データキーは此処にあんのよ」
「……此処は……え、でもマップには何も書かれてませんよ?」
「本当だ。此処だけ不自然に何もねぇじゃん……どういう事?」
俺と月島さんは首を傾げる。
すると、みっちゃんは何かを思い出したように声を出す。
「“隠しエリア”ですか。それも、今も見つかっていないのであれば未踏破エリアですね」
「そ! 流石は――執行官様だねぇ」
「……ふふ、何の事でしょうか?」
「んー? しら切るなんて意味ねぇと思うけど……まぁ兎に角よ。このエリア内に、データキーが少なくとも十個はある筈なのよ」
「……やけに具体的じゃねぇか。それはどこの情報だぁ?」
コウちゃんはランさんを疑いの目で見つめる。
すると、ランさんは「信用できる伝手だよ」と言った……胡散臭いなぁ。
「そいつは、セブンストリームに所属している人間で、中でもAI様が稀に出すバグなんかの修正を担当してんのよ。そいつが言うには、自分は会社ではそれなりに重宝されてて、ちょこっと手を加えるだけでマップの情報くらいなら見れるらしくてねぇ。中でも、この未踏破エリアにはデータキー以外にもお宝が山ほどあるって言うじゃない! これはもう銀行よりもこっちの方に行くっきゃねぇでしょ!」
「……それ、言っていいの? いや、そもそも、どうやって聞き出したんですか?」
「んー? そんなの簡単簡単、リアルで会ってちょこっと胸でも尻でももませりゃ……童貞なんていちころよ♡」
「……ビッチ」
「お子様には刺激が強い話だったかなぁ?」
「あぁん!? やんのかテメェ!」
「はは、怒んないでよぉ。ちょっとした軽口じゃん。気楽に中指立てようぜぇ」
ランさんはケラケラと笑う。
雲のような人であり、まるで掴み処がない。
が、今の話を聞く限り、彼女の目的はデータキーとそのお宝だろう。
……いや、何方かといえばお宝も方が重要なのかな?
俺は彼女をジッと見つめる。
すると、彼女は俺の視線に気づいて――投げキッスされた。
「「「チッ!」」」
「へあ!?」
「ふふ、やっぱ童貞じゃん♡ ま、どうでもいいけどぉ……やってもらいたい事は大きく2つ。一つは交戦する事になる敵部隊の陽動。もう一つは隠しエリアに待ち構えているボスエネミーの討伐ね」
「……敵部隊の陽動? 待ってください。そもそも、ボスエネミーとは?」
「勿論、話すよぉ。えっとね、ボスエネミーってのはこの隠しエリア内に存在する警備用のメックの事ね。流石に詳細なデータは聞き出せなかったけど、相当に強い上に飛行能力を奪ってくるらしくてねぇ。地上戦になる上に、長期戦になれば無限に他のエネミーを引き寄せるらしくてね? ホワイトレコードには私と一緒にこの警備用メックの討伐をして欲しくて、アンタらガールズには集まって来る敵部隊の陽動をして欲しいって訳」
「……ていうと、部隊を二つに分けるって事か……妙だな」
「妙? 何がぁ? 私にはさっぱりなんだけどぉ?」
「惚けるなよ。二つに部隊を別けて、自分と先生でボスを倒す。互いに仕事があるなら気軽に助けにはいけねぇ状況だ……これ、お前が裏切りやすい状況じゃねぇか?」
コウちゃんの言葉にそれはそうだと俺も思った。
少なくとも、全員が一緒であれば逃げる事は出来ない。
しかし、二人であれば、敵が俺に攻撃を集中すれば彼女は逃走が可能になる。
ヘイトだけを俺に向けさせて、自分はお宝を取る事に集中する。
誰であれそう思う作戦で……ランさんは頷く。
「まぁそうだよねぇ。うんうん、真面な思考だねぇ……ま、その為に、こういうものも用意してきたからさ」
彼女はそう言って、指を動かしまた何かの紙を出す。
俺へと投げ渡されたそれを開いてみれば……“契約書”か。
「そこには私の名前はもう書いてあるから。後はアンタらが承諾して名前を書けば、“ビジネスの堅い絆”が生まれるって訳。契約書の事は知ってるでしょ? 裏切りが許されない、この世界で最も信用できるやり取り。もしも裏切れば、裏切った者には罰が下る……勿論、条件は対等にだけどねぇ。ふふ」
「……知ってますよ。此処に書いてある事が本当なら……貴方のグリード内の全財産を俺たちに譲渡するって事ですね?」
「そ! それだけ私は本気って事……どう? 信用したかなぁ? んー?」
ランさんはニコニコと笑う。
コウちゃんたちに視線を向ければ、紙を寄越すように手を向けて来た。
俺はコウちゃんに紙を渡し、彼女が確認を終えるのを暫く待つ。
「……怪しい所はねぇな。気になるとすれば、この契約はボスエネミーの討伐までって事か? それと、データキーは俺たちに一人一つを譲渡し、テメェは残りとお宝を持っていくってとこだが」
「そりゃそうよ! ボスさえ倒せば他の敵は集まって来ない! そして、アンタらはデータキーを人数分だけ欲しい! お宝が欲しい? それなら、この話は無かったことにするだけだよぉ」
「……先生はどうしたい?」
ランさんは目を細めて試すような事を言う。
これだけの情報を得たとしても、隠しエリアに俺たちが入る事は出来ない。
そのパスワードなるものが無ければ意味が無いんだろう。
それを確かめる術はないが、ここまで強気であるのなら完全に否定は出来ない。
コウちゃんやリリアンさんたちは俺の意思に従うといいたげで……まぁ、そうだな。
「……俺はお宝はいらないよ。そもそも、何があるのかなんて分からないしね。データキーがあるなら……そもそも、この情報を教えてくれたのはランさんだ。彼女の取り分が多いのは当然だと思うし……皆はどう?」
「……先生が、そう仰るのなら……こいつは信用できませんけど!」
「私も構いません。いざという時は契約書がありますから」
「先生が行くのなら私は何処へでも行きますよ♡」
「……決まりってか……ま、俺も文句はねぇよ」
話が纏まった。
俺が視線をランさんに向ければ、彼女はにまにまと笑っていた。
「んー! アンタいい人だね! 好きだよ、そういう馬鹿正直な男! 安心してよ! この契約が終わるまでは味方さ! 背中を預け合って、お互いに気持ちの良い仕事をするだけ! そうだろ?」
ランさんは空のグラスを取り、氷を入れる。
そうして、ボトルを傾けてスコッチを注ぐ。
俺の前に酒が並々と入ったグラスを置いて、彼女は自分自身のグラスにも酒を注ぐ。
「……裏切りは無し。嘘が無いのは分かりました……でも、これだけじゃ俺たちは動けない。言っている意味、分かりますよね?」
「……ふふ、あくまでも傭兵として仕事を受けたいって事ね……分かった。それじゃ、正式に依頼を出すよ。勿論、依頼料も払う。それでお互いに――ビジネスパートナーってね?」
「えぇ、金で繋がる縁ですが。それで俺たちは――仕事が出来る」
結局は金だ。
傭兵として、無償の奉仕なんてあり得ない。
例え、データキーを手に入れられたとしても。
手を組むのであれば、依頼として受けるべきだ。
契約書も、酒の席も必要ない。
依頼を出し、金を払えば――それで縁が生まれる。
この世界では傭兵なんだ。
ロールプレイしてこそだ。
これもゲームを楽しむ事の一つ。
ランさんもそれをよく理解していた。
「契約書は預かります。依頼を受ければ、すぐに名前を書きますよ。お互いに、気持ちよく仕事が出来るように」
「ふふ、それじゃ私は――今後も縁が続きますように」
互いにグラスを持つ。
そうして、軽く打ち合わせてから一気に呷った。
濃厚なアルコールが喉を通り、体が一気に熱を持つ。
強い酒であり、すぐに気分が高揚する。
俺は静かにグラスを置く。
ランさんを見れば、眼を細めて笑っていた。
その瞳には妖しい光が宿っている。
それは俺に向けられていて――背筋がぞくりとした。