底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:オタリオン
私たちは急ぐ。
が、道中で最初の罠以外にも数々のトラップが設置されていた。
……恐らくは、あの支援部隊が仕掛けたもの。
あの部隊と契約したのは毒蛇だ。
だとするのなら、罠の設置も依頼内容の内だったのだろう。
道が違うからこそ、確認のしようがなかった。
してやられた。
そう思いながらも、道中の爆弾などを処理し。
急いで先生の元へと向かった。
「先生、どうか無事で」
《……! あそこか!》
コウの言葉にカメラをズームさせる。
すると、隠しエリアの入口らしきものが見えた。
開いていて、微かに部屋の中で何かが立っているのが見えた。
私たちはスピードを上げて、そのまま入口から中に入り……!
ゆっくりと降下する。
全員が息を呑んだ。
広い空間の中心で立っていた機体は――イデアールだ。
「先生……っ!」
《……》
満身創痍。
機体の全身がボロボロで、両腕は半ばから切断されていた。
バチバチとスパークしていて、生きているのが不思議なほどの損傷だ。
当然だ。
ボスエネミーと戦闘し、エネルギーなどを消費し。
疲弊した状態で、攻略不能のエネミーと戦闘したんだ。
先生であっても生きているのが不思議なくらいで……!
「……アレは、データキー……そんな、まさか」
《……3本か……つまり、先生は……一体でも超高難度レベルの化け物を……同時に3体も相手取ったのか》
《……せ、先生……凄い! 凄すぎます!!! かっけぇぇぇ!!!》
《あぁ、やはり、私のホワイトレコード様は……っ! そんな事よりも、根黒様! 応答してください!》
全員がハッとする。
そうして、データキーを回収しながら先生の機体に近づく。
すると、通信が繋がり――
《……あ……ごめん……ちょっと……寝てた》
「ね、て……?」
《は、はは、流石に、疲れちゃってね……気絶してたのかな? へ、へへ》
《……流石にねぇだろ……ねぇよな?》
「ふ、ふふ……お疲れ様です。毒蛇の裏切りは知っています。今は兎に角、此処から離脱を……エネルギー残量はいけますか?」
《え? あ、ちょっと待ってね……あぁ、ダメっぽいね。相当に暴れたから……補給、頼める?》
「えぇ、勿論♡」
私は機体のコンソールを表示し。
先生が開けてくれた機体の給光口に機体から伸ばしたパイプを繋げる。
私たちはバリケードの内側から攻撃していたのでエネルギー残量は十分だった。
敵との戦闘を避けて帰るだけならば問題はない。
暫くエネルギーを先生へと送り――
《あ、もう大丈夫! ありがとう!》
「いえいえ……さて、それでは、帰還しましょうか」
《……裏切りは許せませんが、データキー自体は手に入りました……して、数は?》
《えっとねぇ。十本だったよ!》
《……てことは、全員に配っても……半分も余るのかよ。売るのか?》
先生は給光口を自動で閉じる。
そうして、スラスターを調整し。
先頭を私たちに託して、共に来た道を引き返した。
安全飛行で此方が手配した潜水艇へと向かいながら。
余った5本についてどうするかを話し合う。
《普通に考えるのであれば、売る事しかありませんが……転売ヤーと同じで良い気はしませんが》
《うーん。まぁ捨てるよりかは実益に繋がりますけどねぇ……あ、そういえば月島さんのお友達……グループのメンバーたちは予選に進むんですか?》
《え、あぁ、アイツらは……そこまで本気じゃないっすからねぇ。前にグループ活動の話し合いで聞いたんすけど、絶対に本選には進めないからって言って、私とリリアン先輩のバックアップするって言ってましたよ……それに、麻衣とミーニャは最近はメカニックとして活動してますから。知ってます? ゲーム内でベンチャー企業みたいなもんも作っちゃったんですよ? ネモとニモもある企業の公式インフルエンサーになってますし……ほんと、スゲェ奴らですよね。はは》
月島さんは少し寂し気に語る。
それは同期が遠い存在に感じたからか。それとも……。
《……月島さんも凄いですよ。努力家で、熱血で……絶対に本選に進みましょう!》
《……! へ、へへ……オッス!》
「……ふふ♡」
やっぱり、先生は先生だった。
そう思いながら、敵のいない道を進んでいく。
《……先生の知り合いには、誰かいないのか? ほら、世話になったフレンドとかさ》
《そうです。この作戦においての功労者は根黒様です。であれば、根黒様がしたいようにしてください》
「私もそれでいいと思いますよぉ」
まぁ渡すとすれば、あのカタギリという変態ストーカーくらいか。
私はそう勝手に思い込む。
《え、そう、ですか? だったら……あ! “白銀院先輩”と“神崎さん”に聞いてみようかなぁ》
《……え?》
《……あ?》
《……ふぅ》
「……ん?」
先生の口から出た――“女の名前”。
白銀院は知っている。
前に喫茶店であっているところを“偶然見た”から。
幼子であり、それほど警戒はしていない。
が、その後に出た――神崎なる者はナニ?
確実に男の呼び方ではない。
女としての勘が、敵であると告げていた。
先生は空気が悪くなった事に気づいていない。
べらべらと神崎なる女の事を言っていた。
竜一、女性、焼き肉の御礼、ホテルでの詫び……ふ、ふふ♡
《あぁでも、神崎さんは傭兵なのかなぁ? ブラックレコードは絶対にもう手に入れてるだろうし……あの、本当に俺が》
「先生♡」
《え、何?》
「後で、二人っきりでぇ――お話、しましょう♡」
《…………ぇ》
先生が戸惑う。
が、リリーたちはそれはダメだと――全員で話をしようと提案して来た。
《……ふ、ぇ?》
「お店は決めておきますねぇ。あ、月島さんは大丈夫ですかぁ?」
《大丈夫です。“今”、空けました》
「そうですかぁ♡」
《…………俺、何か…………あ、あの、そ、その?》
先生は何かを言っている。
が、私たちは無視して機体を加速させた。
先生は必死に謝りながら私たちを追いかけて来る。
誰もが無言で、誰もがこの後の楽しい話し合いを考えて――“黒い炎”を滾らていた。
○
ゲームからログアウトし、現実世界の都内にある寂れたバー。
私は先ほどまでの楽しい仕事を思い出しくすりと笑う。
馬鹿な童貞を騙し、まんまと欲しいものが手に入った。
金は掛かったが、収穫は十分だ。
クライアントから受けていた依頼も達成し、懐は潤っている。
ボスエネミーの討伐で得た金。
ゲーム内通貨の一部をトレーダーに回し、現実の金へと変えれば……ふふ♡
「はぁ、疲れたぁ……サンキュ、根黒っち♡」
私はウイスキーの入ったグラスを揺らし、そのまま静かに飲む。
上物であり、安物とは別格の深みと味わいだ。
静かに息を吐き、クライアントはまだかと腕時計を確認し――カラカラとドアのベルが鳴る。
視線を向ければ全身黒尽くめの美女が立っていた。
帽子を目深く被っていても美女であることは立ち姿で明白。
さらさらと流れる白銀の髪は、まるで女神様のようだ。
女として嫉妬を覚えそうになるが、クライアントである事を考慮し我慢する。
女は私の隣に座り、視線だけでマスターの男に品を出させる。
「慣れてるねぇ? 常連?」
「……品を出して」
「えぇ? ちょっとはトークしようよぉ。折角の縁なんだからさぁ」
「無いのなら話は終わり。私はすぐに帰る」
女はマスターの驚く顔も無視して席を立とうとした。
私は慌ててそれを止めて、ポケットからデータの入ったチップのケースを渡す。
彼女は氷のように冷たい目でそれを見て、席に座り直す……冗談の通じない女だなぁ。
女は、私からチップのケースを取る。
そうして、ケースを開いてそのチップを首につけたチョーカー型のデバイスに差し込んだ。
躊躇いが無い。もしも、ウイルスを仕込んでいたらとは思わないのか?
……いや、ウイルス如きでは何も起きないってか。笑えねぇ。
私はクライアントの言葉を待つ。
マスターは彼女の前に、酒ではなくオレンジジュースをグラスに注いでいた。
バーには不釣り合いな飲み物。
が、オレンジジュースが入っていたのは瓶であり。
明らかに高級志向のものだと分かった……金持ちめぇ。
「……確認した。報酬は口座に振り込んだ」
「え? もう? えぇっと……うわ、マジじゃん! サンキュー! ちょー助かるよぉ! キスしちゃおうかなぁ。むぅ!」
「死にたいの?」
「……はい、すんません。調子に乗りました」
真顔で死にたいのかと言われれば、流石の私も危機を感じる。
この女の素性は何から何まで不明だ。
依頼を受けたのだって、裏のコミュでも格式のあるところを通してだ。
会員制の“合法な賭場”を仕切っているような連中で。
そこで依頼を出すともなればそれなりに社会的地位の高い連中だと相場は決まっている。
タイタングリードでなくとも、あらゆるゲームにおいて傭兵は存在する。
誰しもが純粋にゲームを楽しんでいる訳じゃない。
世界的にEスポーツが流行っている現代では、有力な選手の心を折ったり。
プライベートで遊んでいるところをストーキングして情報を仕入れたり。
果ては、金持ちのボンボンの為に入手難易度が高い装備を調達したりなど……まぁ依頼には事欠かないね。
ゲームに本気なんて出すな――そんな時代は古いよ。
今じゃゲームにマジになれる奴がこの世界では強い。
ゲームの腕自体が社会的なステータスとして認められていて。
仮想世界で強い人間は、現実世界でも大体成功している。
当然だ。今や仮想現実世界は、リアルと比べてもそれほどの差はない。
第二の世界であり、誰であってマジであり、誰であっても――上を目指している。
「……アンタ、あそこのデータが欲しいって言ってたけど……それ、どうすんのさ?」
「言う必要があるの?」
「んー? 言いたくないのならいいけどさ……じゃ、せめて、一つ教えてよ! ね、ね!」
「……何」
女はオレンジジュースを飲みながら話して見ろと言った。
私は氷の女王様に礼を伝えながら、聞きたい事を聞く。
「そのデータの中に――本当に欲しいものはあったの?」
「……無かった……でも、きっかけにはなる。貴方はいい仕事をした。それじゃ」
「うん! またねぇ! 今後ともごひいきにぃ」
女王様はそれだけ言って立ち上がる。
慣れた手つきで高級ブランドの財布を出し、机の上には万札を五枚も置いていた。
カツカツとブーツの音を鳴らし、カラカラとベルを鳴らして出て行った。
マスターがチラリと私を見て来る……ふふ、良い奴だなぁ。
「マスター! 新しいボトル出してよ! お金は女王様が出してくれたからねぇ!」
「……承知しました」
私は机を叩きながら、今日は宴だと喜ぶ。
謎の富豪の正体は結局分からなかったが。
その目的らしきものは何となく見えた気がした。
「……そもそも、アイツを嵌めろって言ったのもあの女だし……歪んだ愛情だねぇ」
確実に言えるのは、あの女は根黒っちを始末しようなんて思っていない。
そもそも、私が依頼されたのはデータの回収とアイツを罠に嵌める事だけだ。
なるべく、死のリスクを感じさせる方法なんて事も言われたけど。
殺せとは言われていなかった。
つまり、アレは根黒っちに対しての修行……いや、教訓とでもいうのかなぁ?
私のような女に騙されないように。
そして、理不尽な状況であっても負ける事の無いように……モテモテじゃん!
マスターは新しいボトルを持ってきた。
蓋を開けてくれたそれを私はひったくる。
そうして、コップにも注がず直接飲む。
「うぐ、うぐ、うぐ……ぷはぁぁ!! きくぅぅぅ!」
「……体、壊しますよ」
「えぇ? いいっていいってぇ。若いんだからぁ、ねぇぇぇ?」
「……はぁ」
頭をくらくらとさせながら、モテモテ男子に嫉妬する。
あんな美女に愛されて、他の女にも好意を向けられて……何で手を出さないんだぁ?
「……ED? いや、違うよな。あの時は……そっちの気が? いやいや、私には反応して……不思議な奴だなぁ」
根黒万太郎。またの名をホワイトレコード。
タイタンシリーズにおいて伝説的存在。
世界大会の本選への出場も確実であり、世界各国からも注目されている人物。
もしも、Eスポーツのチームに所属していれば、それなりのポストが約束されていただろう。
が、アイツは最近までは底辺のVtuberで、私ですらも存在を知らなかった。
……何で、今になって帰って来たのか。いや、そもそも、今まで離れていた理由は?
気になる。とっても興味がある。
が、もしも、会いに行こうものなら熱心なファンたちに蜂の巣にされる。
あの童貞君は許してくれても、キリングマシーンのような女たちは許してくれない。
きっとあの男との縁があれば、美味しい場面が何度もあるだろう。
ホワイトレコードの情報は貴重で、ホワイトレコードの名も金になる。
今回は高い報酬があったからこそ、ちょっとした悪戯をしてしまったけど。
誠心誠意謝って、一度寝てあげればきっと……いや、無理無理。
「絶対に殺されるねぇ。なぁんかあの女たちは、やばいっていうかぁ……マスター、厄介な女の丸め方教えてぇ」
「……お水を飲むのはいかがでしょうか?」
「えぇ? あ、頭冷やせってぇ! ぎゃははは、何それぇウケるぅ……ぷはぁ、でぇもダメダメぇ」
「……はぁ」
マスターはコップを磨きながらため息を零す。
勿体ない事をしたかと思いつつも、どうすれば仲直りが出来るかを考える。
「んーどうしよっかなぁ。私も本選まで進むかぁ? いやぁ、めんどいしなぁ……あ、そうだ」
私は端末を取り出す。
そうして、リア友である情報屋に掛けた。
コール音が続き……出ねぇなぁ。
私はジッと待つ。
そろそろ、スタンプ爆撃に入ろうかと思考し――繋がった。
《はぁぁぁんだよぉぉ殺すぞぉぉぉ? はぁぁぁ》
「なっちん。声ガラガラじゃん。まぁたハシゴしてたの?」
《うっせぇよぉぉ仕事だよ仕事ぉぉあぁぁ頭いでぇぇ酒酒ぇぇ。うぐ、うぐ、うぐ……はぁぁぁ》
「……私が言うのもあれだけど……死ぬよ?」
《あぁぁ? 死ぬときゃ酒樽の中だなぁ。ききき》
アル中過ぎると思いつつ、私はある事を依頼する。
「あのさ。調べて欲しい人がいるんだけど! Vtuberの根黒万太郎っていうんだけどさ!」
《あぁ? ブイチューバーだぁ? ……いや、待て、そいつぁあのホワイトレコードか? おいおい、嘘だろぉ?》
「ついさっき仕事をしたんだけどねぇ。私がちょぉっとイタズラ。いや、ドッキリ? しちゃってぇ」
《……どうせ、また金に目が眩んで嵌めたんだろ? お前、その内リアルで刺されんぞ?》
「いや悪かったと思ってるよ! でも仕方ないじゃんかぁ。傭兵ってそういうもんでしょう? って、説教は良くて……調べれるの?」
私が出来るか出来ないのかを言えと伝えれば。
なっちんはカタカタとPCのキーボードを叩き始めた。
《……何が知りてぇんだ? リアルの名前? 住所? 交際歴?》
「うーん。取り敢えず、名前と住んでるところかなぁ」
《りょうか……あぁ? んだこりゃ?》
「どうしたの?」
《……悪い。無理かもしれねぇ。そいつの情報、盗るのは……リスクがデカい》
「……! へぇ、じゃあそれだけ重要な人間になってるって事だねぇ」
《……伝説って言っても、これじゃ国の重要人物レベルだぞ? どんだけ期待されてんだ?》
なっちんは少し興奮していた。
私もそれを聞いて、やっぱりあの男は――金のなる木だと思った。
私は酒を飲む。
そうして、舌で唇を舐める。
「ふふ、どんな手を使ってでも……フレンドになってやるぞぉ♡」
体でも、金でも、何でもだ。
あの男の近くにいるだけで大金が手に入る。
そういう未来がハッキリと見えていた。
私は火照りを感じながら、億万長者になる夢を見て――口角を上げていった。