底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:オタリオン
タイタングリード内にある貸し出し用コンテナルーム内。
配信環境を整えて、俺はパイプ椅子に座る。
上には簡易的な照明がついており、前には簡素なデスクが一つ。
俺は配信開始のボタンを押した。
「ん、んー! ……えぇ皆さん。こんばんちゃーです」
【こんばんちゃー!】
【重大発表って何? めっちゃ気になって夜も眠れなかったよ!】
リスナーさんたちがぽつぽつと現れ始める。
事前にヌイッターで説明し、ちゃんと枠も作っていたが。
それなりに興味を引いていたようで、待機画面でもそわそわしているのが伝わってきていた。
俺はリスナーさんたちに対して集まってくれた事に対する礼を伝える。
そうして、早速、本題に入る事にした。
「えぇっとですね。実はですよ? ななな何と! この度! 私、根黒万太郎に対して――企業様から初の案件を頂きましたぁ!!」
【おぉ! ようやくかぁ!】
【遅すぎるくらいですねぇ。ま、おめでとう!】
【で、どんな案件なの?】
リスナーさんたちは気になっている様子だった。
俺は早速、どのような案件を説明する為に。
タイタングリード内にて先ずは先行販売を始める商品のパッケージを取り出した。
「えぇっとですねぇ。案件を出していただいた企業様についてはあの! 大手カレールー製造メーカーである“マサラハラハラ”様なんですよ! 私はマサラハラハラ様で新しく作るカレールーの商品とコラボする事になっておりまして……まぁ、今まで内緒にしていましたが。裏で話し合ったり、発表の時期などを決めてまして……具体的にいうと新発売のカレーのパッケージに私と機体が載り、カレーを食べて集めた懸賞シールで私が提案したグッズをゲットできるっていう……はい、そんな感じです!」
【へぇ割とちゃんとしてるじゃん……因みにグッズって?】
「あ、やっぱり気になります? ふふふ、幾つかグッズの種類があるんですが……はい、どーん!」
俺は指を鳴らして背後や机の上にグッズの全てを配置した。
それらはデフォルメされたイデアールの大きめのぬいぐるみであったり。
俺がホワイトレコード時代に使っていたデカールのアクリルパネルやグローブの完璧な複製品など。
他にもイデアールやフライハイトの限定プラモなどもある。
【おぉ豪華だなぁ……因みに、その黒いケースみたいなのは?】
「……あ、これはですねぇ。まぁ俺は需要はそんなにないんじゃないですかぁって言ったんですけどね……俺がヘブンフォール時代の“特訓の記録”ですね。対戦とかミッションとかじゃなくて。もう本当に裏で技量を上げる為にやっていた訓練の全てで……いらないですよねぇ。そんなに面白みも……ん?」
コメント欄が加速している。
一部のリスナーさんたちが戸惑っていたが。
コメントを止めて見れば……強くなれる方法?
【根黒氏……下手したらこれ、企業が狙ってくる代物じゃないですかねぇ?】
「え? いやぁただの修行の記録ですよ? 別にこれといって」
【素敵なグッズですね♡ 全て、我が国の国宝にしたいです♡】
「……何か見えた気が……そっとしておこう」
コメント欄は大いに盛り上がっていたが。
グッズはそれぞれのシールの枚数に応じて応募できるものが変わるという事だけ伝えておいた。
必ず当たる訳じゃなく、抽選であると念押ししておく。
「それにしても、このパッケージは中々に良いですよねぇ」
【確かに! 根黒の白い歯が輝いてるよ!】
俺はカレーのパッケージを見せながら解説する。
かなり良い感じに仕上がっていて、高級感のある黒に金字だ。
俺のアバターのイラストに関しては120%ほど美化されているように感じる。
「……ま、取り敢えず。企業様からは応募で手に入るグッズの紹介と一緒に、カレーを食べて感想を聞かせてくれとおっしゃられたので……場所はもう抑えていて、ゲストをお一人だけ呼ぶ予定です! あ、勿論! リスナーさんたちの参加も許可されています! 是非、皆さんも“観光街ルブリエ”にある中央広場までお越しください!」
【おぉ! 楽しみぃ!】
【ゲストって誰かなぁ?】
【リリーとさらちんは配信してたし……誰だろうなぁ?】
コメント欄を見れば、月島さんやリリアンさんの名前もあるが。
彼女たちは予定が入っていて今日は来れない。
血の涙を流すほどに残念がっていたし。
みっちゃんとコウちゃんも行けないけど、後でアーカイブを見ると約束してくれた。
……まぁ実はゲストはカタギリさんなんだけどね。
「……はい! それでは、今回お呼びするゲストはぁ……カタギリさんです! まぁこの事は秘密だったので、今から誘う事にはなるんですがね! まぁ向こうも都合があるので断られたら、諦めてカレーを二杯食べますね!」
【はーい!】
【りょ!】
俺は早速、カタギリさんにメッセージを飛ばした。
サプライズであり、驚かせたい。
初めての企業案件であり、コラボ商品であるからこそだ。
思えば、カタギリさんとの戦いがあったからこそ今がある。
底辺から脱却し、そこそこの登録者数も獲得出来た。
人気も出て来ていて、話題にもちょくちょく上がるくらいにはなっている。
あの人には直接言ってはいないが、心の中では感謝していて……うん、カタギリさんで良かったんだろうな。
「……ふふ、カレー好きかなぁ……お! 返事が来ました……どうやら、待ち合わせの場所に来てくれるようです! 皆さんにも待ち合わせの場所をお知らせしておきます! 来てくれたら、皆さんにもカレーをご馳走しますよ! あ、でも、カタギリさんの格好とか姿の真似とかはやめてくださいね! 出来たら、分かりやすい格好で来てください!」
【分かりやすい格好……女装か?】
【女装っすね! 了解!】
「え、女装? ま、まぁいいですけど」
俺は何で女装なのかと思ったが。
リスナーさんたちはノリノリであった。
俺はすぐに予め用意しておいたカレー食事会の招待状を取り出す。
これを渡して企業案件でのコラボ商品を彼に打ち明ける。
きっと驚いてくれるだろう。
俺はそう思いながら、すぐにファストトラベルを開始し――
「……来ないなぁ」
「遅いっすねぇ?」
「来ないんじゃねぇのかしらぁ?」
「またがすぅすぅしますわぁ」
「スケベの野郎、ドタキャンでございますざますかぁ?」
【地獄絵図で草】
【魑魅魍魎じゃねぇか!】
カタギリさんとの待ち合わせ場所。
観光街の一つであり、観光スポットでもある中央噴水広場。
巨大なムキムキマッチョマンの石像と大きな噴水であり、デートでの待ち合わせ場所でも定番らしい。
目立つからこそ迷う事は無いと此処を選択し。
ギャラリーとしてリスナーさんたちも集まって来た。
ゲーム内の時刻は夜であり、空には星が浮かんでいた。
観光客やらプレイヤーたちがカメラを此方に向けてきゃぴきゃぴしていた。
俺はエプロンをつけた状態で、テーブルの前で座っている。
リスナーさんたちは全員が女装をしていて見るも無残な厚化粧をしていた。
ムキムキで髭面や胸毛やらで化け物としかいいようがないが。
全員良い人たちであり、頑張って集まってくれていた……沢山食べて貰わないとな!
マサラハラハラさんの社員であるジャイさんを始めとした調理スタッフさんたちは既に調理を終えていた。
給食センターとかで見るような大きな鍋の中ではカレーがことことと煮こまれている。
香ばしいスパイスの香りが広場中に広がっていて。
観光客の人たちもお腹を鳴らして涎を垂らしている人もいた。
今回のカレーのレシピは、マサラハラハラで古くから伝わっているレシピのものをベースに。
そこにジャイさんがアレンジを利かせた半オリジナルレシピとなる。
今回の発表と同時にカレーのレシピも公開する予定だ。
「……皆さん、大丈夫ですか? お腹空いてたら先に食べて貰っても」
「何言ってるんすか! 主役たちより先に俺たちが食べるなんておかしいっすよ! 待つっすよ!」
「そうよぉ! 腹を空かせた方がよりおいしいに決まってんじゃねぇかざます!」
「「おほほほ!!」」
皆さんは気を遣ってくれていた。
俺はそれに感謝し――誰かが転移して来た。
「……! カタギリさん!」
「……」
現れたのは全身黒尽くめでフルフェイスの変わった仮面をつけた――カタギリさんだ。
ボロボロのコートに、腕や足には黒い包帯を巻きつけていた。
彼が一歩踏み出せば機械の駆動音のようなものが聞こえて。
足音だけでかなりの重量だと分かる。
身長が少し高くなっていて、フルフェイスに開けられた穴からは真っ赤な光が見えていた。
すぐに分かった。
殺意に満ちていて、ぴりぴりとしていた。
前に会った時以上にがたいが良くなっているが。
間違いなくカタギリさんだと分かる。
彼は俺を見つめながら歩み寄って来た。
俺も椅子から腰を上げて彼の前に走る。
彼は俺の前で止まり、じっと俺を見つめる。
空気のもれる音が一定の感覚で聞こえて、周りで見守っているリスナーさんたちも無言になっていた。
緊張する。ドキドキしている。
が、彼は俺のメッセージに返事をしてくれて此処に来てくれた。
彼は俺の事を目の敵にしているような感じだったが。
それでも来てくれたのなら、きっと俺と話がしたかったに違いない。
俺は深呼吸をし、笑みを浮かべる。
そうして、ギャラリーたちが見守る中で彼の為に用意しておいた手作りの招待状を渡した。
「これ、今回の食事会の招待状です! カタギリさんには本当にお世話になったので……う、受け取ってください!」
「「「おほほほほ」」」
ギャラリーたちがパチパチと手を叩く。
心からの礼であり、彼に対して俺は微塵も――“敵意は無い”。
「……」
「へ、へへへ」
カタギリさんは徐に手を伸ばして俺の招待状を受け取る。
俺は招待状から手を離し、中にある手紙を読んで欲しいと伝えた。
彼はゆっくりと両端を両手で掴んで――破り捨てた。
「……ぇ?」
俺は目を点にする。
呆けていれば、破り捨てられた招待状はひらひらと地面に落ちる。
彼は足を上げて、それを勢いよく振り下ろす。
地面に軽く亀裂が走り、彼は招待状をぐりぐりと踏みつける。
「ひ、ひでぇざます」
「さ、流石でございますわぁ」
「おほ?」
俺は目を瞬かせる。
どうして、何故、何で、嘘だ。
俺は彼に対して“殺意も敵意も無かった”。
“友人として彼と接していた”筈だ。
それなのに、何でこなひどい事を……っ。
俺は顔を上げようとした。
そうして、何故、破ったのかを聞こうとし――腹に重い衝撃を受けた。
「おごぉ!?」
「……」
メリメリと拳が腹にめり込む。
俺は肺から空気を吐き捨てた。
そうして、そのまま地面に膝を屈する。
痛い、苦しい、吐きそうだ。
何が起きたのかと頭が混乱する。
必死に腹を押させて滝のように汗を掻く。
魚のように口を動かして呼吸をしていれば――彼が手を差し伸べて来た。
「か、カタギリ、さん?」
「……」
俺は小さく笑う。
そうして、彼の手を掴む。
そうだ、これはただの挨拶だ。
何時もの彼の激しめの挨拶だ。
彼なりの友情の表現であり、この後は普通にカレーを食べてくれるんだ。
彼は俺の手を引いて立たせてくれて――耳元に顔を近づける。
「――お前をぶち殺す」
「……!?」
カタギリさんの殺意を受けた。
彼はそのまま俺の手を払いのけて。
そのまま無言で踵を返して去っていく。
ギャラリーたちは去っていくカタギリの背中をジッと見つめていた。
彼は振り返らない。彼はもう俺とは言葉を交わさない。
彼は殺意と怒りに満ちていて、ただ俺を殺そうとしているのだろうか。
これは宣戦布告であり、彼から俺に対する――挑戦状だ。
そう、友としてではない。
絶対的な敵として、彼なりに俺との縁にくさびを打った。
理解した。理解しながらも、俺の心は激しく戸惑う。
俺はただただ茫然と群衆の中に消えて行く彼の背中を見つめて――
「カレー……食べて下さいよ」
「……食べるかざます」
「耳元で殺すって……スケベな野郎ざます」
「カタギリ×根黒か……良いじゃん」
「……お前、ガチの女か?」
「うほ!」
カタギリさんは平常運転だった。
彼はまだ怒っているようで。
そんな彼に許される日は来るのかと俺は想像し――お腹が空いたので考えるのをやめた。