底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:オタリオン
蝋燭の火が点々と灯る部屋の中。
俺の血と墨を混ぜたそこに指を入れる。
そうして、粗悪な紙へと指を這わせて――“根黒万太郎”と書く。
「……」
出来上がった紙を持ち上げる。
そうして、薄く笑みを浮かべて――破り捨てる。
何度も何度も、同じことを繰り返す。
そう、何度もだ。奴へのイメージを払拭できるまで何度もやる。
絶対に勝てない、絶対に負ける。
そんな負のイメージを――ぶち壊すまでだ。
部屋中から視線を感じる。
全てのにやけ面が俺を見ていた。
何処を見ても、根黒万太郎がいる。
笑みを浮かべながらピースサインをしていて――俺の神経を苛立たせる。
憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い――ぶち殺したい。
奴への憎悪が湯水のように湧いて来る。
今までの比じゃない。
今の俺は憎悪の塊で……アイツのせいだ。
俺にカレーを喰わせようとしたアイツの目だ。
アイツの目には俺が映っていたが。
アイツの目の中の俺は俺では無かった。
アイツは俺を――敵として見ていない。
憎悪も怒りも、殺意すらない。
何処までも無警戒で、何処までも見下していやがった。
お前なんぞは警戒する必要はない。
お前なんかに俺の命は取れはしない、と……ふ、ふふふ。
「く、くく、くき、ききく……根黒、やっぱり、テメェは……俺に、殺されるべきなんだよ」
俺は笑う。
口角を上げて笑った。
笑わなければならい、笑っていなければ精神を保てない。
奴のにやけ面が頭の中でずっと浮かんでいて。
眠れば奴のイデアールに俺は木っ端みじんにされて……悪夢だよ。
決して醒めない悪夢だ。
俺が安心して眠る為には、何としても奴をこの手で――殺さなければならない。
その為に、俺は努力を惜しまない。
奴を殺せるのなら悪魔にも魂を売れる。
否、もう既に俺は悪魔に――“魂を売った”。
「……」
奴は気づかなかっただろう。
俺自身の体の変化には。
当然だ。今、知られたら何の意味もない。
奴との決戦の日はまだ先だ。
世界大会での優勝なんて今の俺にはどうでもいい。
俺はただ、根黒万太郎を殺すという願いの為に出場する。
そして、奴は必ず本選へと進むだろう。
何処であたるかは分からない。
が、確実に奴は勝ち進んでくる。
俺と奴の道が交わる時……その時が、テメェの終わりだ。
「く、くく、楽しみだ。テメェを殺して、俺はようやく、自由に、なれるんだ……ふ、はは、くはは!」
俺は両手で顔を覆いながら笑う。
あぁ楽しみさ。奴を殺せると思えば笑みが零れる。
奴だけを追って、奴だけを思ってここまで来た。
全ては奴を殺す為であり……だからよ。
「負けんじゃねぇぞ……負けたら、俺はテメェを一生呪ってやる」
これはアイツへの激励ではない。
奴の心なんざどうでもいい。
ただ俺の心の闇を晴らすためにも、奴には絶対に負けて欲しくない。
俺が勝てないんだ。他の奴らが敵う筈はない。
アイツを研究しているからこそ、俺はそう断言できる。
「……腹、減ったな」
どれだけの時間が経ったか。
リアルだからこそ腹も減る。
カレーの事なんざ思い出せば、自然とカレーが食べたくなる。
そう思っていれば――扉がノックされた。
「カタギリ、そろそろ出て来い……笹原がカレーを作った。食え……先に言っておくが、そのカレーは根黒万太郎が送って来たカレールーで作ったものだ。喰いたくないのなら良いが……」
「……分かった。今行く」
「……! そうか、皿は置いておくからな」
扉の前から社長がいなくなる。
俺は静かに息を漏らす……奴のカレーか。
気に食わない。
あんな間抜け面の送って来たものなんて喰いたくねぇ。
が、他でもない社長が食えと言うのなら食うさ。
それに、アイツへの復讐心がこれで跳ね上がるのなら……くく。
「あぁそうさ。奴の好意を受け取る訳じゃねぇ。奴への殺意を増幅させる為の儀式だ。絶対に、奴からの好意を受けとる訳じぇねぇ。勘違いすんじゃねぇぞ……何言ってんだ?」
頭がおかしくなったのか。
俺はため息を零し、立ち上がって全ての蝋燭の火を消して外へと出る。
光が差し込み、廊下がハッキリと見えた。
歩いて行けば、他の同期もいやがったが。
無視してそのまま食堂へ向かう。
歩いて、歩いて、歩いて……アレか。
食堂のテーブルの上に、カレーが置かれていた。
ご丁寧に俺の名前付きであり、俺はその前に座る。
ラップを取ってから、スプーンを持つ。
そうして、綺麗な黒色のカレーを掬って――食べる。
「……少し酸味があるが……美味いな」
嫌いじゃない味だ。
俺は久方ぶりの飯という事もあってどんどん食べて行く。
が、途中でハッとして奴の顔を想像する。
今も俺がカレーを食っている姿を想像し、奴はほくそ笑んでいるに違いない……いや、いい。
今はただ、美味い飯だという事だけでいい。
奴の事は無視であり、それを考えるのは食った後だ。
儀式ではあるが、今はただ……まぁ飯に感謝しよう。
「……出たら、買ってみるか……ふん」
俺はカレーを食べながら、家で作ってみるのもいいと考えて――
「ぐ、ぁ、ぁぁ、ぅ、ぐぁ!?」
現在、トイレの個室で――腹を下していた。
カレーを食った後であり、急な腹痛に襲われた。
さっきから出続けていて、止まる気配がしない。
何故だ、どうして、何が……あぁ、そうか。
「アイツ、この、俺に――毒、を!」
根黒万太郎のほくそ笑んだ顔がちらつく。
この前の仕返しであり、俺をまんまと嵌めやがった。
全て奴の計算の内であり……あぁ、最高だぜ。
アイツの企みのお陰で――新鮮な復讐心を手に入れた。
奴の粋な計らいが、俺の殺意を増幅させる。
やっぱりアイツは俺の敵だ。
俺の宿敵であり、絶対に殺さなければならない。
そうだ、他の奴らには渡さねぇ。
俺が、俺自身が……ぐ、あぁ!?
「ふ、ふぅ、ぅ、ぁぁ……ご、ごろ、ごろしてやるぅぅ根黒万太郎ぉぉぉ!!」
ぎゅるぎゅると腹を鳴らしながら、俺は奴への殺意を吐き続ける。
絶対に殺す、何が何でも殺す。
もしも出来なければ、それでも奴を殺してやる、と。
〇
事務所の廊下で、笹原と肩を並べて立つ。
小一時間ほどトイレからずっとうめき声が聞こえてくるが。
中にいるカタギリは出て来る気配がしない。
「……なぁ、カタギリはまだトイレから出ないのか?」
「あぁ、まだっすねぇ……何食ったんすか?」
「あぁ? カレーだよ。てか、笹原、テメェが作ったんだろ?」
「え? カレーって……え!? あれは昨日作ったもんすよ!?」
「……あ? 昨日? だったら別に」
笹原は説明する。
カレーを作れと言われて、昨日の朝に試作品を作ったと。
中々の出来ではあったが、寝かせればもっと美味くなると考えて冷蔵庫に入れようとしたが。
後から色々な用事を言われて、すっかり忘れてしまって常温で丸一日放置してしまったと。
俺には連絡を入れていたがつながらず。
仕方なく、事務の小西にコンロに置いてあるカレーは絶対に喰わせるなと俺に伝えるように指示し。
念には念を入れてメモもつけていたようだったが。
俺には小西から連絡はなく、鍋にも付箋は見当たらなかった……いや、今思えば床に付箋は落ちてたな?
そのまま笹原は材料を買い足しに向かった。
すぐに帰って来るつもりだったが、渋滞などで帰って来るのが遅れて……あぁ。
「……流石に常温で丸一日はねぇ……夏ですし」
「まぁそうだよな……救急に連絡しといてくれ」
「了解っす……カタギリ先輩もついてねぇっすね」
「……まぁ多分、また一段と根黒万太郎への殺意を……ある意味で、良い成長に繋がったか?」
「……かなりこじれてますけどね。アレはもう愛憎混じってますよ?」
「……そっとしておこう」
俺たちは遠くからうめき声の聞こえるトイレの扉を見つめる。
紫電のカタギリと呼ばれて天狗になっていたアイツ。
そんなアイツを負かして成長の機会を与えてくれた根黒万太郎。
感謝はしているが、同時に危うい気もしていた。
もしも、道を間違えれば……アイツ、ストーカーにはならないよな?
「ごぉぉろしてやるぅぅぅ」
「「……」」
息子同然のアイツが道を間違わないように。
影ながら見守ってやろうと俺は心に誓った。