底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:オタリオン
グリード内にあるマイルーム。
ベッドの淵に腰を下ろし、濡れた頭をタオルで拭く。
冷たいシャワーを浴びて頭をすっきりさせたが。
体の内の熱は熱々であり……楽しみだな。
遂に始まる。
色々な条件を仲間たちと共にクリアし。
最後に待っている試練。
それを超えれば遂に――予選へと進める。
どんな戦いになるかは分からない。
いや、そもそも予選へと進む前の試練ですらもかなりの難度だろう。
「白き湖畔にて己を打ち倒す……己、か。ふふ」
十中八九が、その言葉通り己と戦う事になる。
コピー品であり、どれほどの完成度かは分からない。
が、試練の最後を飾るのであれば粗悪品なんて使わないだろう。
死闘は必須であり……燃えるじゃねぇか。
自分と戦えるんだ。
自分自身こそが最も高い壁であり、自分こそが最も強き敵。
あぁそうだ。己を乗り越えてこそ――傭兵だ。
俺はタオルを掴み乱暴に投げ捨てる。
そうして、両手の拳を強く打ち付けて笑う。
「絶対に――勝つッ!!」
負けられない。
コピーなんかに負けてられない。
俺は過去の俺を超えて更に強くなる。
傭兵とは常に成長し進化を続けて行くもの。
故にこそ、闘争の中で――俺たちは生きている。
闘志は十分。
仲間たちもそうだ……それにしても。
「先輩もだけど……神崎さんもいらないって言うとはなぁ……流石だなぁ」
データキーを余分に手に入れた。
だからこそ、友人たちにおすそ分けしようとした。
が、久遠先輩も神崎ソフィアさんもいらないと断ってきた。
理由を聞けば、彼女たちらしい理由だった。
『ふん! 甘く見ないで頂戴! この私が! おじさんからの施し何て受ける訳ないでしょ! そんな事も分からないなんて本当におじさんはぁ……ありがとう。でも、私は私の力で――上を目指すわ!』
『いらない。不必要。もしも必要なら――貴方を戦場で殺して奪うから』
「……ふふ」
久遠先輩の目は輝いていた。
一部の迷いも不安も無い。
星のように輝いていて……きっと彼女なら予選にも問題なく進めるだろうな。
神崎ソフィアさんは言い方こそ物騒ではあるが。
必要なら奪うという発想からして傭兵らしい。
そりゃそうだ。彼女たちは俺が想像する以上に強い。
それは技量だけでなく心もであり……戦いてぇな。
神崎さんは傭兵かどうかはまだ分からないが。
それでも、傭兵であるのなら戦いたい。
きっと彼女たちとのバトルは俺の心を熱く滾らせてくれる筈だ……あぁ、ダメだ。
「ふ、ふふ、ふふふ」
笑みが零れる。
笑い声が勝手に出た。
口元を片手で抑えるがにやけ面は収まらない。
想像しただけで嬉しくなる。
この先で待っている地獄のような戦闘が俺の心をワクワクさせる。
死ぬかもしれない。こっぴどく負けるかもしれない。
心が折れるほどの絶望を味わうのか。
それとも、頭の毛が全て抜け落ちるほどのストレスを感じさせられるのか。
「――最高、だな」
良いじゃないか。
すごく魅力的だ。
どんな絶望も、どんなストレスも。
困難も逆境も、戦いにおける全てを。
命を懸けた全身全霊の闘争を最高のものにする――スパイスさ。
楽しもう――全力で!
「……へっくしゅ! 先ずは髪を乾かさないとな」
風邪を引いたら元も子もない。
まぁ仮想世界だから風邪をひく事は万に一つも無いだろうが。
俺は指を動かして髪を乾かそうと――
#
輸送用のシップから飛び立ち暫く。
夜空の下を翔けて行く。
一定のスピードであり、周りにはリリアンさんたちの機体も飛んでいた。
レーダーを使えば、他にも多くの機体が同じエリアを飛行している。
が、攻撃してくる心配はない。
「……そろそろだよな?」
【いよいよだねぇ!】
【ドキドキですね!】
白き湖畔。
今回のイベントにおいて用意された特別なステージだ。
自由探索領域の一つを使ったエリアであり、この領域内での不用意な戦闘は許可されていない。
戦闘行動を取ろうとすれば機体のシステムが異常をきたし。
そのまま行動不能状態になってしまうらしい。
エネミーは一切配置されておらず。
白き湖畔の中心部にある湖までは安全に飛行できる。
まぁ輸送シップを使えるのは途中までで。
後は自力で行かなければならないがな。
レーダーを常に確認しつつ。
センサーを動かして地上の様子を探る。
少しだけ霧が掛かっており、エリアを埋め尽くすほどに木々が生い茂っている。
着地が出来る場所は少なく、戦闘になれば空中戦が主体となるだろうな。
そんな分析をしながらも、試練が突如、始まる事も想定し警戒する。
そんな事を考えていればリリアンさんから通信が繋がった。
《根黒様、もう間もなく湖へと到達します》
「ん、了解です……ん、あれ?」
《どうか……霧が、濃くなっている?》
【おろ?】
湖らしきものが見えた。
が、段々と霧が濃くなっているような気がした。
リリアンさんも気づいていて、みっちゃんたちも通信を繋いで報告して来た。
「……これはもしかして……気をつけて! 多分、始まるよ!」
《そのようですね……どうか皆さま……ご武運を》
《ふふ、全員でクリアして――祝杯ですよ♡》
《はっ! だったら、先生の奢りだぜ!》
《……っ。絶対に、勝って……私、だって!》
【3年後!! 居酒屋で!!】
【リリーもサラちんも、皆、頑張れー!!】
それぞれの想いを聞く。
すると、通信にノイズが走り始めた。
霧の濃さも急速に増していき。
遂にはすぐ近くにいたリリアンさんたちの機体も見えなくなった。
レーダーも使用不可と表示されている。
が、濃い霧の中では目の前で青い光を放つ何かが見えていた……ついて来いってか?
罠か。それとも……乗ってやらぁ。
俺は光を追いかける。
青い光は動く事無くそこにあった。
スピードを上げて追い掛ければ光は強くなっていく。
すぐそこまで近づいている。
そう感じながら光を目指して飛び――“水の音を聞いた”。
「……!?」
まるで、水の中へと突っ込んだかのような音。
それと共に光は消えて、その代わりに周りの景色がハッキリと見えるようになった。
見れば眼前には白い大地が広がっている。
方向感覚が狂ったが、すぐにズレを修正し。
空を舞ってから、ゆっくりと地面となる白い大理石のような場所に着地した。
「……此処は……」
【おぉ、それっぽいステージだ】
【へぇこうなってんのかぁ】
周囲を見る。
すると、空は水面のように揺れていて。
青白く発光する大きな月が浮かんでいた。
巨大なステージであり、遮蔽物も一切ない円形のステージだ。
リスナーさんたちは興味津々といった様子だ。
俺は彼らに対して、戦闘が始まれば余裕はなくなるかもしれないと告げる。
【気にしないよ! そもそも、普通は喋りながら戦うなんて無理だしさ!】
【根黒は戦いに集中! 絶対に勝ってね!】
【応援してるぞー!】
「皆さん……ありがとうございます! 絶対に勝ちま……おぉ?」
リスナーさんたちの声援に応えようとした。
が、その前に異変を察知した。
自由に戦闘を行う為に設計されたような広い特別なステージ。
その上にある不思議な空から――大きな黒い水滴が落ちて来た。
それは俺の遥か前方に落ちて。
ばしゃりと音を立てて水滴は広がり……ぐにゅぐにゅと動き始める。
それはやがて一か所へと集まり。
水がぼこぼこと沸き上がって形をなしていく。
人型であり、段々と見慣れたシルエットになっていき――真っ赤にセンサーが光る。
少しだけ色が黒に近いイデアール。
白いオーラもようなものが漏れ出している。
ゆらゆらと揺れ動き、正面を向けばコピーとは思えない“本物の殺気”を感じた。
武装は俺と同じエネルギーブレードにショットライフル。
肩部にキャノンとミニガンだ。
「やっぱりな……はは、コピーか。予想通りだけど……楽しめるかな?」
《……》
【ホワイトレコードのコピー……俺の想像した世界が!! 今、目の前に!!】
【根黒が勝つ方に全財産を賭けるぜ!】
【どっちも根黒だろぉぉ!!】
奴は何かを呟くように音を漏らす。
それを聞きながら互いに構える事無く立つ。
リスナーさんたちも盛り上がっている様子だ……ふふ。
ゴングも何も無い。
ただ無言で互いに見つめて相対し――瞬で間合いを詰めた。
「――ッ!」
互いにゴーストジャンプで接近。
一瞬でエネルギーブレードを展開し振りかざせば、相手もそれを下から振っていた。
青白いエネルギーがぶつかり合いバチバチと閃光。
激しい衝突音を響かせながら、互いにギリギリと腕の出力を上げる。
が、スペックは全く同じで――横へと同時にブースト。
「……!」
《……》
相手も同じ方向へとブーストした。
俺は敵へとショットライフルを構えて放つ。
が、奴は分かっていたかのように攻撃のコンマ数秒で回避行動を取る。
そのまま俺の死角へと回り――回避。
轟音と共に奴のキャノンが火を噴く。
が、予想通りであり俺は難なくそれを回避した。
俺はそのまま機体を激しく回転させながら奴へと迫る。
奴は上へと上昇し、センサーを此方に向ける。
俺はエネルギーの粒子を放出し、奴に攻撃の機動を読ませないようかく乱し――ブーストによって死角に回る。
奴は此方を見ていない。
俺はそんな奴に対してエネルギーブレードを――振らない。
一瞬でブースト。
奴が此方を振り向く前に場所を変える。
そうして、そのままショットライフルを奴の下から構えて――放つ。
「――!?」
が――当たらない。
奴はブーストによって此方の攻撃を回避した。
あり得ない、あり得ないだろう。
あの時の動きで、奴のレーダーは間違いなく俺の残像を捉えていた筈だ。
一瞬で移動しショットライフルでの攻撃であれば、認識できる筈がない。
が、奴は最初から分かっていたように回避した。
……読まれている。それも、完全に。
相手は音速で飛行し。
そのまま旋回して向かってくる。
俺は横へと軌道を変えて、奴のショットライフルの攻撃を回避。
奴は連続してブーストし俺の横へと迫った。
そのまま奴はエネルギーブレードを展開し――が、奴はミニガンにて攻撃を放ってきた。
俺はエネルギーブレードを盾のように展開。
実体弾を防ぎながら、迫って来る奴の意表をつくように逆噴射。
奴はそのまま俺の前へと――飛んでいない。
「――!?」
その場に留まっていた。
反応した。否、読まれていた。
奴はエネルギーブレードを振るう。
俺はその攻撃を半身をずらして回避。
奴は大振りの攻撃にてコンマ数秒、硬直していた。
そのまま隙だらけの奴に対して肩のキャノンを向けて――放つ。
ほぼゼロ距離、絶対に当たる――否、当たらない。
「嘘だろ!?」
《……》
【すげぇ全く同じじゃん!!】
【こりゃすげぇ戦いだぞ!!】
奴は攻撃をしたモーションのまま俺の機体スレスレを通過。
ゴーストジャンプであり、そのまま奴は直角で何度もブーストし強引に曲がり迫って来る。
通常のブースト程度なら当たっていた。
が、ゴーストジャンプによって完全に回避していた。
分かっていなければ出来ない芸当で。
やはり、此方の動きは読まれている――いや、それはこっちもだ。
俺はその場から移動しながら、迫って来る奴を睨む。
背後につけた奴は機体を揺らしながら俺の攻撃を誘っていた。
俺は背面飛行によって奴へとライフルとミニガンの銃口を向ける。
そうして、間髪入れずに放てば奴は機体を回転させながら攻撃を回避。
此方の一瞬の隙を見つけてブーストによって迫り死角に回る。
レーダーが警告を発し、回避を告げるが――俺は動かない。
攻撃が来るであろう一瞬――僅かなスラスターの音を聞く。
俺はその瞬間にサブスラスターを調整し機体の姿勢を崩す。
瞬間、轟音が鳴り響き機体のすれすらを砲弾が通過していったのが感覚で分かった。
俺はそのままサブスラスターによるエネルギーの噴射で進行方向を変える。
そうして、ブーストによって一気にその場を離れた。
一瞬遅れてショットライフルの弾丸を放つ音が聞こえた。
分かる、分かるさ。
俺ならばフェイントを混ぜて攻撃。
外れれば相手が逃げる前に仕留めようとする。
その時の武器の選択は十中八九が射撃兵装だろうか。
相手が俺の動きを理解しているように。
俺自身も奴の動きを認識できている。
普通に考えれば、絶対に攻略不可能な相手だ。
動きを完全に読まれているのであれば、この戦いの勝敗は絶対に決まらない。
恐らくは特殊な条件を満たす事によって勝敗を決めるのだろう。
ポイントとなるのは幾つかある。
一つは――“攻撃が当たらない”。
二つ目は――“此方も意識していれば死ぬ事はない”。
三つめは――“時間の制限”。
一時間の間しかこの試練を受けられないのであれば一時間でこの空間からも追い出されるだろう。
明らかに、エネルギーの残量が底を尽きる未来が濃厚な戦闘で。
確実な勝利を決める方法とは何か――いや、違う。
俺はにやりと笑う。
そうして、機体のリミッターを解除した。
フルコン状態に入り、鋭敏になった感覚で相手を見つめる。
「正攻法? 正しい勝ち方がある? はは、関係ねぇ――ぶっ殺せばそれで決まりだろォ!!」
《……》
【それでこそ根黒万太郎だァ!! やったれぇ!!】
【強い奴が勝つ!! シンプルでいいねぇ!!】
限界まで集中しろ。
殻を破って成長しろ。
過去の己を超えて、今の俺が――最強だ。
思考を読まれようが、完全な複製体だろうが関係ねぇ。
狂気の中で成長し、命を燃やして進化する。
奴の雰囲気も変わる。
リミッターを解除し、フルコン状態の俺と同じ状態になったのか。
面白いギミックであり、心が燃えて来る展開で――俺は笑った。
「さぁ踊ろうや!!! 死ぬまで!!! いや!!! 達するまでなァ!!!」
《……》
互いにブーストする。
機体を交錯させながらショットライフルの弾丸を放つ。
弾丸が装甲を掠めて行くのを感じながら――己を狂気で染め上げて行った。