底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:オタリオン

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第77話:老師の天命と王女の野望(☆)

 レースが終わり、外はすっかり暗くなっていた。

 リアルでの時間もそれなりに経っているだろうが……か、解放されるのか?

 

 現在、場所を移動し何処かの高級ホテルの一室。

 最上階であり、夜のスカイリゾートを一望できるほどに眺めが良い。

 フーロンさんは足を組んで豪華な椅子に座っている。

 彼女は俺を正座させて、ずっとキセルを噴かせていた。

 彼女の傍には黒い中華の民族衣装を着た強そうな人間たちが立っている。

 顔は険しく皺だらけであり、衣装の下は筋肉の塊なのだろう。

 少しでも妙な真似をすれば腰に帯剣した得物で細切れにされるのか……へ、へへ。

 

 沈黙が続く中で……俺はゆっくりとフーロンさんに声を掛ける。

 

「あ、あのぉ」

「……」

「――!!?」

 

 フーロンさんは俺を無視する。

 が、ふがふがという謎の声とじたばたと音が響く。

 そして、別の方向を見ればワンチンさんがガムテープでぐるぐるに巻かれていた。

 

 俺は何時になれば解放されるのかとその時を待ち――扉が開かれた。

 

「お、お兄ちゃん!」

「く、久遠先輩! よ、良かったぁ! 無事だったんですね!」

「それはこっちのセリフよ! もぉ心配したんだからね!」

 

 久遠先輩が走って来る。

 水着ではなく、青いチャイナドレス姿で。

 彼女は俺の体を確認し、ホッと胸を撫でおろしていた。

 扉の方に目を向ければ、またしても強そうな人間が数人立っていて……アレは、ハイリンさん?

 

「……っ」

 

 中華の民族衣装……確か、長袍 《チャンパオ》と呼ばれるものだったか?

 

 青を基調としたそれを着たハイリンさんが現れた。

 その顔は顔面蒼白で、今にも胃の中のものを吐き出しそうなほどひどい顔だった。

 

 彼は黒いチャンパオを着た強そうな人に押されて部屋の中に入る。

 苛立ってはいるが、それ以上に恐怖しているのが分かる。

 ジッと彼を見ていれば、彼は顔を上げて走り出す。

 そうして、フーロンさんの前で座っていた俺たちを押しのけてフーロンさんの前で跪き手を組んで頭を下げた。

 

「師よ!! 偉大なる雷芙蓉 ( レイフーロン)老師!! どうかご再考を!! もう一度、約束を果たす機会をこの私に! 次こそは必ず!! 必ずやご期待に!!」

 

 彼は必死に頭を下げる。

 

「――次? 何故、私がお前に次をやる必要が?」

「……ッ! 私は貴方に尽くしてきた!! 貴方様の名声を高める為に、身を粉にして働いた! どんな難題も解き、この身一つで成果を上げて来ました! それをたった一度の失敗で……ご再考を! 老師!! どうか!!」

 

 ハイリンさんは必死に頭を下げていた。

 が、フーロンさんは煙を彼へと吐く。

 彼はせき込みながら、涙目で俺の事を睨んできた。

 

「お前のせいで、俺は!」

「え、えぇぇ……俺だって巻き込まれただけなんですけど」

「黙れッ! お前がいなければ、俺は今頃は!!」

「今頃は――何だ?」

「……っ! 老師、そ、それは……っ」

 

 ハイリンさんを見るフーロンさんの目はひどく冷たかった。

 全くといっていいほど愛が感じられない。

 目の前で必死に頭を下げる男に対して、欠片も情を抱いていなかった。

 師匠と弟子の関係でありながら、温かな縁をこれっぽっちも感じられない。

 

 フーロンさんは淡々と事実だけを伝えていった。

 

「我が六大天において、失敗は許されない。十の功績、百の成果を上げようとも。一の失敗、一の敗北。それ即ち――名に泥を塗る行為であると知れ」

「……! 分かっています! 分かっていますが! これはあまりにも横暴では!?」

「横暴? 違うな。私はお前に提示した。この戦いが望む結果で終われば、お前に相応しい地位を与えると。その代わり、無様な結果であれば、如何なる理由があろうとも、お前には沙汰を下すと」

「ぅ、で、ですが」

「黙れ。言い訳など無意味だ。お前は承諾し、全てを懸けて勝負に臨んだ。それとも、お前は命と誇りを懸けた戦いにおいて、勝者に対して命乞いをするのか? 今のように膝を屈し、頭を下げるのか? ならば、今、そこで間抜け面を晒している勝者に対して、命乞いをしろ。さすれば、お前のつけた汚点に対して不問にしてやってもいいだろう」

「……っ! そ、それは、で、ですが……く、うぅ」

「え、えぇ、また勝手にそんな……」

 

 俺は何が何だか分からずに戸惑う。

 久遠先輩も血の涙を流さんばかりに睨んでくるハイリンさんに怯えていた。

 彼はジッと俺を睨む。

 睨むだけで何もしない。

 ただ時が流れて、彼がこちらへと体を向けようとしているのが分かった。

 

 が、少し動いただけで何もしない。

 頭を下げる事も、謝罪を口にする事も無い。

 

 昔の歴史の授業で、中華の事を先生から聞いたことがあったが。

 彼らには日本人のように膝をついて額を地面にあてる土下座というものが理解できないらしい。

 そもそも、謝罪というものの認識が違うようで。

 彼らは気軽に頭を下げたり、膝をつくような真似は早々しない。

 それは別に謝りたくないとか謝罪という文化が無い訳じゃなく……きついよなぁ。

 

 一生で膝をつく回数も2,3回だったかな。

 それほどまでに、彼の今の行為は重い意味だと俺は受け取った。

 俺ならへらへらと笑って頭を下げているかもしれないが。

 彼には誇りがあり、今まで積み上げてきたものがある。

 文化の違いといえばそれまでだが、俺が想像する以上に彼らにとっての謝罪は辛く苦しいものだろう。

 

 ハイリンさんは顔に血管が浮かぶほどに顔に力を入れていた。

 必死に俺の方を向こうとしていて、手を組もうとしていた。

 が、完全に此方には向かず。

 頭も下げられていなかった。

 謝罪が口から出る事もなく、苦しそうな息だけが聞こえてきて――灰皿をキセルで叩いた音が響く。

 

 視線を向ければ、フーロンさんが氷のような目でハイリンさんを見下していた。

 

「もうよい。出来ない事を今すぐに出来るようにするなど、神にも不可能だ」

「……っ! 老師!! それでも、私は!! 貴方様に!!」

「くどい。私を老師などと呼ぶな。痴れ者が」

「……っ! そ、そんな」

 

 彼の横顔を見れば、顔色は土気色になっていた。

 組んだ手は震えていて、歯をガチガチと鳴らしている。

 完全に恐怖し、耳を塞ぎそうなほどに怯えていた。

 そんな彼に対して、フーロンさんは――冷酷な宣言をした。

 

 

「お前は私を失望させた。故に――お前は破門だ」

「……!! ふざ、けるな……ッ!! ふざけるなぁ!!! 黙って聞いていればこのぉ!!」

 

 

 ハイリンさんは隠し持っていた拳銃を引き抜く。

 俺は咄嗟に彼を取り押さえようとした――乾いた銃声が響き渡る。

 

「は、ぁ?」

「――お前如きが、私を殺せるとでも? 戯けが」

 

 ハイリンさんがばたりと仰向けに倒れる。

 その眉間には穴が空いていた。

 恐る恐るフーロンさんを見れば、年代物の変わった拳銃を握っていた。

 

 何処から出した。

 いや、撃つ瞬間が見えなかった。

 早業であり、近距離であっても見事な射撃の腕前だった。

 

「片付けろ」

「「ハッ!」」

 

 フーロンさんは傍に控えていた男たちに命じる。

 男たちはそれに応じて、ハイリンさんの死体を持ち上げる。

 俺は冷汗を掻きながら、警察が飛んでくるんじゃないかと質問する。

 すると、彼女は目を細めて「来ない」とだけ言ってきた……へ?

 

 目をぱちぱちさせていれば、久遠先輩が耳打ちをしてきた。

 

「多分、このホテル……この人の所有物じゃないかしら? ほら、プレイヤーにも土地や建物を買う権利はあるし……それに、屋上で防音もばっちりしてそうだし……抜かりは無いって事よ」

「な、なるほど……マフィア?」

 

 俺は先輩の言葉に心臓をバクバクさせる。

 彼女は祖国では影響力が強いのだろうが。

 まさか、ゲーム内でも強い権力を持ってるとはな。

 敵に回せば恐ろしい相手であり、ここは穏便に事を運んで帰った方が良いだろう。

 

 俺はもみ手で笑みを浮かべながら、先輩と共に立ち上がる。

 

「へ、へへ、そ、それじゃ、俺たちはこの辺でぇ。た、楽しかったですぅ。そ、それではぁ」

「「……」」

「へ、へへ、す、すみません。と、通してくれませんか……あ、あのぉ」

「「…………」」

「へ、へへへ、へへへ……も、戻りまぁす」

 

 扉の前で立つ屈強な男たち。

 マシーンのような無表情で視線を一切此方に向けない。

 此方の言葉そのものを認識していなかった。

 もしも、強引に外に出ようとすれば絶対に無事じゃすまない。

 だからこそ、俺は涙を流しながら元の場所へと戻っていった。

 

 フーロンさんは何も言わない。

 黙ったままであり、俺はどうすればいいかを考えて――

 

「見事だった」

「……へ? あ、ありがとう、ございま、す?」

 

 フーロンさんから出た言葉は――賞賛だった。

 

 急に褒められたので俺はびっくりしたが。

 素直に賛辞を受け取っておく。

 彼女はゆっくりとキセルを灰皿に置く。

 頭に刺していた黄金の簪を一つ抜いた。

 

「褒美よ。受け取りなさい」

「え? い、いや! 悪いですよぉそんなって思ったけど受け取りまぁす!!」

 

 拒否しようとすれば明らかに周りから殺気を受けた。

 俺はだらだらと汗を流しながら簪を受け取った。

 

 両手で受け取れば、しっかりとした黄金で。

 棒のようになっているが、細かい彫刻が彫られていた。

 先端の花の形も花びら一枚まで見事な作りだ。

 ゲーム内で作ったものであってもさぞや高いんだろうと思いながらマジマジと見つめて――

 

 

「お前は今日から――私の弟子よ」

「あぁ弟子ですかぁ…………え?」

「「「……!!」」」

 

 

 

 弟子という言葉に俺は驚く。

 顔を上げれば、いつの間にかフーロンさんが目の前に立っていた。

 高身長であり、大人の女性の端正な顔立ちで。

 彼女は目を細めて妖艶に微笑む。

 すさまじ色香であり、上品な香水の香りとほのかな煙草の香りで頭がくらくらとした。

 

 至近距離の彼女の美しい顔。

 それを直視してどぎまぎとしていれば、フーロンさんの白く細長い指が俺の顎を掴む。

 そうして、静かに唇を――俺の額にあてた。

 

「ぅぁあ!?」

「……へ?」

 

 先輩が顔を真っ赤にして両手で顔を覆う。

 俺は何が起きたのかと思考が停止していた。

 が、フーロンさんは薄く笑みを浮かべるだけだった。

 

「これでお前は私のものよ。六大天……いえ、我が天命の為にその命を燃やして貰うわ」

「………へ?」

 

 フーロンさんは勝手に何かを語っていた。

 が、俺は彼女の行動に今だに思考停止していた。

 

 何が何だか分からない。

 彼女はそんな俺をおいて部屋から出て行こうとした。

 見れば、ワンチンさんも男たちが抱えている。

 俺はそのタイミングでハッとして、出て行こうとした彼女を呼び止める。

 

「ま、待って下さい!! 俺の名前は根黒万太郎で!! 世界大会の予選にも!!」

「知っている。だからこそ、お前を見定めて――弟子にした」

「……え?」

「我らの道は何れ交わる。師と弟子であるが、戦いは避けられない……が、それでいい」

 

 彼女は微笑む。

 その笑みは愛というよりは――殺意と闘争心に塗れていた。

 

「強き者が頂点へ至る。私でも、お前でも良い。六大天こそが至るのであれば――過程も方法も問題ない」

「……ま、まさか、弟子にしたのって……ほ、保険?」

「否、保険ではない――我が天命の為よ」

「て、天命……? そ、それって何――ちょ!?」

「話す事はない。弟子になったのならそれで用は済んだ」

 

 彼女はそれだけ言って去っていく。

 彼女の弟子であろう男たちも出ていき扉が閉められる。

 残された俺と先輩は戸惑いながら見つめ合う。

 

「何だったんだ?」

「さ、さぁ……でも、あの人は間違いなく、ナンバーズよ……お兄ちゃん。また厄介な人に目をつけられたわよ」

「は、はは、そ、そんなぁ……ぇ?」

 

 端末が鳴る。

 何かと思って出せば、相手は登録されていない人間だった。

 恐る恐る出れば――

 

《これからは端末でやり取りをする。師としてお前を鍛える。修練に励み、良き英雄になりなさい》

「え、いや、そんな勝手に!? ……き、切られた。な、何なんだよ」

 

 俺は勝手な師匠さんに面食らう。

 すると、早速、メッセージで修業の内容らしきものが送られてきて……ふぇ?

 

「こ、これ、ほとんどリアルの肉体を鍛えるメニューじゃ? せ、精神統一系もあるけど?」

【仮想世界では現実の能力も反映される。心技体を鍛えれば、お前は更に強き戦士となれるわ。場所については、此方が用意する。金は取らない。予選が終われば本格的な修行も開始する】

「よ、予選が終わればって……ま、まさか、本選に関する情報を掴んで……いやいや、まさかぁ……あ、あり得る」

 

 何処まで知りえているのか。

 いや、何処までの事を計画しているのか。

 俺は会ったばかりで勝手に師弟関係を結んできたナンバーズに対し――“凄味”を感じるしかなかった。

 

 

 〇

 

 

 丸い球体状のVR装置。

 六大天が開発した一般には流通していない最新のものだ。

 特殊な液体を満たす事によって仮想世界での五感の完全同調と肉体の完全再現を可能としたものだ。

 味覚も鋭敏になり、液体内であるからこそ長時間の稼働でも肉体への疲労感はほとんどない。

 欠点とすれば痛覚もリアルとなる事で……私にとってはそれが気に入っている。

 

《排水作業を開始します》

「……」

 

 装置から液体を抜き、扉が完全に解放された。

 自動で接続装置が外れて、私は裸で外へと出る。

 瞬間、システムが私が出た事を感知し体の洗浄と乾燥を始めた。

 ものの数分足らずで全てが完了し、控えていたロボットメイドたちが私に服を着させる。

 

 服が着終われば、メイドたちは頭を下げて下がる。

 私は髪を少しあげてチョーカー型の万能端末を首につける。

 そうして、長い髪を服の外に出してから静かに息を吐く。

 

「……ふぅ」

 

 ヒールを鳴らしながら、VR専用ルームから出る。

 すると、部屋の外では我が弟子たちが待ち構えていた。

 奴らは一斉に手を組み礼をする。

 

「「「老師!!! お疲れ様です!!」」」

「……あぁ」

 

 手を上げて、楽にするように伝える。

 が、奴らは見えていないからこそ礼を続けた。

 否、見えているが私を恐れて礼を解かない。

 

 老師と私を呼んではいても、尊敬というよりは恐怖の感情が大きいか……度し難いな。

 

 私は今更、奴らに掛ける言葉はないと歩き出す。

 ヒールの音が静かに響き、私は執務室を目指して歩いて行った。

 すると、奥からどたどたと走って来る無礼者が見えて来た……はぁ。

 

「頭目ぅぅぅぅぅ!!!」

 

 ワンチンであり、鬼気迫る顔だった。

 その顔は欲望に塗れていて、奴の次の行動が手に取るように分かる。

 奴がいやらしく抱き着いて来る事を予測。

 私は一瞬で一歩下がり、奴がすぐそこに迫るギリギリを見極めて――ひらりと躱す。

 

「ふぇ!?」

「――甘い」

 

 私はそのまま回転を利用し、奴の背中を蹴りつけた。

 奴は情けない声を上げながら、そのままVR装置がある部屋へと繋がる扉まで転がっていった。

 私は蹴りの姿勢から足を戻し、静かに息を吐く……騒々しい。

 

 私はケダモノを無視して再び歩いていく。

 すると、後方から奴が走って来た。

 今度は抱き着こうとせず、後ろに控えて歩いている。

 チラリと見れば鼻血を出して気色の悪いにやけ面だった。

 

「ぐへ、ぐへへ……それにしても、何故、あの男を弟子に!? 私への相談も無く!」

「……気まぐれよ。腕とセンスが良いから、弟子にとった。これからはお前にとっては弟分よ。仲良くしなさい」

「うぐ、そ、それは……は、はい」

 

 不服そうであったが納得したようだった。

 別に納得せずとも私の考えは変わらない。

 

 最初は、“協力者”から言われて少し試すつもりだったが。

 予想を超える程度には面白い存在だと分かった。

 故にこそ、弟子として育成した方が互いの利になると判断した。

 

「……」

「……?」

 

 首に手を当てて、着信が入った事を確認。

 ワンチンは首を傾げているが無視。

 私はワンチンを部屋の外に待たせて、執務室の中へと入る。

 そうして、そのままデスクの方へと歩いていき椅子に座った。

 

《……用件は?》

《あらあら、随分と淡泊ですねぇ♡ 折角、あの方の事を聞こうと思っていましたのに♡》

《無用な話は意味がない。さっさと話しなさい》

 

 協力者である――カトリーヌ・エルレックからの通話だ。

 

 関係自体は数年前に構築済み。

 互いに、Eスポーツにおいての協力関係を結んでいた。

 奴らからはVR装置やAIのシステムの構築を学び。

 我らはEスポーツにおける指導を行える人材を派遣し、今までの研究に基づく指導法に関する資料を提供した。

 

 奴らの機械分野における造詣は深い。

 中でも、VR装置や仮想世界における理解は日本にも匹敵するほどだ。

 事、軍事や医療における転用に関してであれば、日本をも超えているだろう。

 そして、此方のEスポーツにおける戦略や指導方法に関しては奴らは高く評価している。

 奴らとて、折角のVR技術を活かせる人材を求めていた。

 我が六大天の力あれば、奴らが数年掛かる育成をたった一年……いや、半年で完了できる。

 

 互いに、自らの長所を売り込んだ結果の交易だ。

 損はなく、利があるからこそ友好的だ。

 

 そんな重要な取引を行っている協力者が――ホワイトレコードの情報を数日前に渡してきた。

 

《話すも何も、貴方様の方が話すべきでは? 特に……あの方を弟子にした事について♡》

《……監視の目には気づかなかったけど……そうね。その事に関しては、話すべきでしょう》

《えぇ、当然ですよ! 何せ、あの方は我々にとっての神様ですから! そんなお方を弟子にするなど……本来であれば、不敬罪で極刑ですよ♡》

 

 奴は明るい声で我が国でも恐れる事を平然と言う。

 私は鼻で笑い、どの口が言うと伝えた。

 

《そもそも、最初からそう仕向けさせたのでしょう? 私が奴を気に入り弟子に取る……お前であれば、その未来は見えていた筈よ。違うかしら?》

《ふふ、さぁ、それはそれは……ですが、他の馬の骨であれば見過ごせませんが……他でもない、六大天の老師様であれば……必ずやあの方の糧になると思ったのは事実ですよ♡》

《……ふふ……この私を糧と見るなんて、世界広しと言えども貴方以外にいないでしょうね……気に入ったわ。えぇ、益々、あの男を鍛える事に――そして、この手で殺してやる事にね》

 

 私は自らの闘志を燃やす。

 久方ぶりの熱であり、あのブラックレコードに抱いた感情に似ている。

 アイツは“女”であり、私の天命には関りは無いが。

 ホワイトレコードは“男”で……アイツは我が天命を果たす存在に至れるのか。

 

《楽しみですか? 彼が貴方様を殺してくれるかもしれない事が》

《えぇ、そうね。楽しみよ。“英雄を殺して得られる優越感”と“英雄に殺されて辱められる快楽”……そのどちらが、私の辿る未来かを想像する事がね》

《ふ、ふふふ、ふふふ……あぁ、でも、念の為に警告はしておきますがぁ――独占、しないで下さいね?》

《……ふっ、口約束なんて、意味は無いでしょう?》

《ふふふ♡》

 

 互いに笑う。

 その心の中は互いに真っ黒だ。

 利益だけを考えて、協力者でありながら腹の内は完全に晒さない。

 

 私は私の天命を果たす為に奴を利用する。

 そして、奴も奴の国の為……いや、自らの欲求を満たす為に私を利用する。

 

 今はまだ、火の粉が舞う事はない。

 が、もしも、禊を別つ事になれば、その時は――全力で喰らってやろう。

 

《あの方がより強くなれば我が国の未来も明るい。貴方様が私欲に走らない限りは、此方も全力でサポート致します。ですので、今後ともお互いに――仲良く致しましょう。フーちゃん♡》

《えぇ、次は上等な酒と最高の料理を用意しておくわ。互いの良き未来の為に、ね?》

 

 私は椅子に背中を預けながらほくそ笑む。

 真っ黒だ。どす黒いほどの欲望に塗れている。

 が、ひどく理知的であり、目的も明確だった。

 ただ勝たせたい。あの男を頂点にしたい。

 それだけであり、その他の事はおまけでしかない。

 

 好きだの愛だのは理解しがたい。

 が、欲望のままに欲しいものを手に入れようとする心は――良く理解できる。

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