底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす 作:オタリオン
ゲーム内の時刻は20:00。
リアルの時間を時計で確認すれば……およそ8時間のダイブか。
海沿いにある廃倉庫群。
その中の一つに入り、敵から奪ったリペアアイテムを使用した。
かれこれ3分ほどであり、ヘルメットを外しボトルを取って水を飲む。
コックピット内は熱気で蒸し暑くなっていた。
「……ん、ん……はぁぁ……きちぃ」
《リペア完了まで――残り1分》
「……エネルギーの補給もしたけど……どこもかしこも敵だらけだな」
「当たり前だろぉ? そもそも、配信なんてさっさとやめとけばよかったのにさぁ? 本当にお前って――馬鹿だよね?」
ピは短い脚で俺の頭を蹴って来た。
俺はそれを片手で払いのけて「まぁね」とだけ返す。
配信は既一時間ほど前に終了した。
そろそろ切り上げる頃であり、敵に位置がセーブポイントがバレては敵わないからな。
安地の獲得数は3つになったが……ノルマがきついな。
交戦した敵の数はざっと十六体ほどで。
ほとんどがチームとして活動していた。
罠を張ったり、偶然遭遇したりなど。
六体は逃げられてしまった。
流石に、予選まで来ただけはあり状況判断はプロ並みだ。
残りの十体は確実に仕留めたが、此方もそれなりに損傷を負った。
……安地の獲得もそうだけど、リペアも集めておいた方が良いな。
再びナンバーズとの交戦も考えられる。
あのレベルと戦うのであれば、此方もそれなりに覚悟がいる。
そのレベルであり、連戦も考えるのであればリペアは必須だ。
水を飲むのをやめてボトルを戻す。
そうして、指でモニターを操作しマッピング状況を確認する。
「東のエリアは……まぁ半分以下程度は分かったかな……此処と此処がエネルギーの補給ポイントで……アイテムボックスって復活するの?」
「しないけどぉ? そもそも、エネルギーの補給ポイントも時間経過で変わるし。ほとんどマッピングに意味なんて無いよ!」
「……なるほどねぇ。多分、芋る奴の対策かな? ランダムなら、また探す必要があるけど……取り敢えず、次は北に行くか」
東のエリアに俺が潜伏しているという情報は一日経過すれば知れ渡るだろう。
流石に、東のエリアの何処かは判別できない筈だ。
配信を切ってから敵との交戦は避けて出来るだけ移動したしな。
他の敵たちの動きを分析するとすれば……やっぱり北かな?
「……強い奴はこっちに来るかもねぇ。名を上げる為か、腕試しか……そそる展開ではあるけど、確実に本選に進むのなら……楽しみはお預けだな」
「……バトルジャンキーって思ったけど。案外、真面な事は考えられるんだな」
「見直した?」
「全然! けっ!」
そっぽを向かれてしまった。
俺は首を振り、明日から北のエリアに進出しようと考えた。
もし、別の人も配信しているのであればそれもチェックしておく。
「……武装はダブルショットガン……マガジンは補給できたけど、残り二本……肩部のニードルランチャーは……使えるかなぁ?」
偶々、撃墜されていた機体の残骸から回収したニードルランチャー。
これは、鉄針のようなものを高速で飛ばす射出武装だ。
以前、使った事があるニードルスパイクに似ているが。
これはあれよりも針を細くしている。
細くした分、貫通性能と弾速は飛躍的にあげられていた。
当たれば即死級のダメージにはなるが、当たればの話でしかない。
細い針のような武装であり、速度はかなりのものだが外しやすい。
射程距離も理論上は長距離でも対応できるが。
伸びれば伸びるほどに狙いはブレて貫通性能も落ちる。
世間一般の評価では、これを使うくらいならパイルバンカーを使うというのが一般的だ。
「ロマンはあるけど……まぁないよりはマシか」
「……ふっ」
ベテランたち相手にどこまでやれるか。
腕の試しどころであり、使いこなしてみせると闘志を燃やす。
取り敢えずは、ダブルショットガンを主体とした近接戦闘を主軸に。
相手の隙を誘って、ニードルスパイクによってとどめを刺す……事が出来たら気持ちいいなぁ。
「……変顔やめろ!」
「え? あぁごめんごめん……まぁ上手くいく事が稀だし。対策が練られる前には武装も変更して……あぁ、やる事が多すぎる!」
相手はほとんどがプロ並みだと考えた方が良い。
仕留めきれる敵ばかりじゃない。
天候や地形に、エネミーも利用してくる玄人もいるだろう。
そんな相手とやり合うのなら、固定の武装で挑む事は危険すぎる。
中でも、俺は配信しながらの戦闘で……でも、やめるつもりはない。
「……配信、続けるのか」
「……勿論! 俺は配信者として、根黒万太郎としてリスナーさんたちを――連れて行かなきゃ!」
応援してくれている人たちの為に。
そして、太陽のように輝く存在になる為に。
俺は本当のトップになって、友との約束を果たしに行く。
それが今の俺の――確かな目標だ。
「……本当に馬鹿だよ、お前……なら、良い事教えてやるよ」
「ん? 何?」
「……この特殊なエリアは時間経過によって崩壊していくんだけど……実は面白い仕掛けをパパが仕込んでるんだ」
「……パパ?」
「そこはどうでもいいんだよ! 良いから聞けって! たく……その仕掛けってのは、一瞬で場所を移動できる転移装置だ。東のエリアには少なくとも三つが設置してある……運が良ければ、中心に近い場所に出る。完全に運だから、利に繋がるかは保証できないけど……ふふ、どうだ?」
ピは腕を組んで得意げな顔をする。
俺はその話を聞いて首を傾げた。
「……何が?」
「……いや、一瞬で移動できるんだぞ? 中心の……あぁもう! どうせ、他のアドバイザーたちも言ってるだろうから言うけどさ! 中心部の方が色々と便利な武器とかアイテムが転がってるの! 速攻で中心に行きさえすれば、お宝取り放題! 分かるぅ?」
「……まぁ、それなら、確かに……でも、俺はまだそこには行かないよ」
「……何でぇ?」
ピは理解できないと言った顔をする。
確かに、お宝があるのであればすぐに向かうべきだ。
が、今の話を他のプレイヤーたちが聞いているのであれば、確実に腕自慢が集まるだろう。
殺し合いは必須であり、態々、そこに向かってまでお宝を奪い合う必要はない。
「……まぁ時間経過でエリアが崩壊していくって情報は重要だったな。ありがとう!」
「……まぁ別にいいけど……エリアが完全に縮小されたら、確実に最後は中心地でのバトルだからね? それだけは覚悟しておけよ? 絶対に僕のせいにするなよ!」
「分かってるよ! 全く……って、リペア完了してんじゃんか」
俺は機体のチェックをして、コアの稼働を停止する。
ピを見れば「もう帰るのか」と聞いてきた。
「うん。今日は此処までにするよ……ありがとな」
「何がだよ?」
「……一人だとな。まんねりになっちゃうから、お前がいてくれて助かったよ。口は悪いけど、楽しかった!」
「……変な奴。へっ、さっさと帰れよ。僕もお前の荒い操縦で体中が痛いんだ。はぁぁ、ねむねむ」
「はは、そうかよ……じゃ、また明日!」
「……またね」
俺は手を振る。
そうして、安地を起動し――――…………
…………――――ゆっくりと目を開ける。
「ふぅ…………は?」
装置から体を起き上がらせて、横を見る。
すると、何故か別のVR装置が設置されていて――かしゅりと音がした。
冷気のようなものが出てきて、中からぴっりとした黒いスーツを着た――神崎ソフィアさんが出て来た。
「え、あ、え、あ……え?」
「……何」
「え、あ、いや……え?」
理解が追いつかない。
正に理解不能だった。
俺が放心していれば、神崎ソフィアさんは奥の部屋へ――奥!?
「え!? またぶちぬかれてるぅ!! えぇぇ!?」
「……うるさい」
「あ、すみません……って、違うぅぅぅぅ!!」
俺は頭を抱えて心を乱す。
神崎ソフィアさんはぶち抜かれた部屋の奥に移動し。
そこに置いてある白いタンスから寝間着やタオルを取っていた。
何処に向かうのかと思えば、風呂場で……いや、待ってよ!?
「え、住むの!? へぁ!?」
「……?」
「いや、何言ってんだって顔止めて! おかしいのは君だからね!?」
「……何れはこうなる。予定が早まっただけ……ちゃんと稼ぎは入れる。料理も作る」
「あぁなら問題ないか――ってなるわけないでしょぉぉぉ!?」
俺は目を血走らせながらこれは問題ありだと伝える。
ちゃっかり大きなダブルベッドを用意し。
意味ありげなライトにアロマまで焚いて。
自分の家具まで持ち込んでいて――護衛の人たちはなにやってんの!?
「え、見てないの!? 助けは!? エルレックさぁぁぁん!!」
「……来ない。契約したから」
「け、契約!? え、何の!?」
俺はいよいよ神崎ソフィアさんが別の世界の人間ではないかと思い始めた。
彼女は面倒そうな顔をしながらも説明してくれた。
曰く、この部屋で住む権利を得る為に色々とエルレックさんに提供したと。
一番喜ばれたのが、ブラックレコードの戦闘データだ。
その上に、絶対に俺に対して手を出さないという誓約を結んだらしい。
「あぁなら安心か――ちっがぁぁぁぁうぅぅぅぅぅ!」
「私からは手を出さない。そう、私からは……ふっ」
「え、今の笑いは何? え、ちょ怖いんだけど。え、待って待って、風呂に行かないで!」
「……入りたい?」
「まぁ男としては――――嘘だから!? ジョークだから! その目はやめて!?」
「……チッ」
舌打ちされた。
彼女はそのまま風呂へと向かってしまった。
俺は膝から崩れ落ちて頭を抱えて震える。
どうして、俺ばかり、こんな目に遭うのか。
「竜一、俺は、どうすれば!」」
《――兄さん!》
「殺すぞぉぉぉぉ!!」
イマジナリー竜一の邪悪な笑みが頭に浮かんだ。
俺は必死にアイツが兄と呼んでくる未来をかき消す。
頭を何度も床に叩きつけて、俺は呼吸を乱し――視線を感じた。
ハッとして見れば、バスタオルを巻いた神崎ソフィアさんが扉に隠れながら此方を見ていて――
「鍵は開けておく」
「――閉めなさい!!!」
「……意気地なし」
「はぇ!?」
神崎ソフィアさんはぼそりと呟き風呂に戻る。
俺は額から血を流しながら、俺にとっての本選は今始まったんだと確信した。