底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:オタリオン

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第83話:本能のままに生きる幸せを知った天才

 一夜が明けて、午前7時。

 机一つを隔てて、互いに向き合う形で椅子に座る。

 神崎ソフィアさんは瞬きもせずにじっと俺を見つめて来る。

 その装いは高そうな濃い青色のパジャマ姿で。

 俺は独身男性の定番であるスエット姿だった……そんな事はどうでもいい。

 

「……」

「……っ……」

 

 彼女は何も言わない。

 ただ無言で、俺の事を見つめて来る。

 まるで、俺の質問を待っているかのようで……よし。

 

「……神崎、さん……どうして……何で、俺の、家に……?」

「――同棲」

「ぇ、ぁ、ぁぁ、ぅ」

 

 俺は頭を抱えて激しく混乱する。

 同棲というものは付き合っているカップルがするものだ。

 結婚を前提の同居であり、結婚前の準備のようなものだ。

 が、俺の記憶が正しければ神崎ソフィアさんと恋仲になった記憶はない。

 

 俺の知らない記憶が存在するのか。

 それとも、神崎家ではこれが普通なのか。

 

 分からない。何も理解できない。

 俺がおかしいのか、俺が間違っているのか。

 神が存在するのであれば、何故に俺にこのような難題を与えるのか。

 

 神崎ソフィアさんを見る。

 曇り無き眼であり、まるで動じていない。

 嘘発見器でもあれば、一切針は動かないだろう。

 

 因みに、竜一に真夜中にこの事をメッセで聞けば――

 

《なにそれ。こわ》

《何とかしてくれよ!》

《うーん。何とかしてって言われてもなぁ――悪ぃ! 無理!》

《薄情者ぉぉぉぉ!!!》

 

 奴は早々にこの事態の収拾を諦めた。

 俺は必死になって考える。

 どうすれば帰ってくれるのか。

 いや、そもそも、彼女の誤った認識を正すにはどうすればいいのか。

 

 彼女は美人だ。

 それはもう100人中100人が美女であると答えるほどには。

 そんな女性が間違っても恋仲でもない男の家で住んでいい筈がない。

 いや、そもそも勝手に作っている鍵も返して欲しい。

 そもそも、どうやって家具を運んだのかも教えて欲しい。マジでだ。

 

 彼女にはブラックレコードという恋人がいるんだ。

 彼氏が知れば俺は絶対に殺されるだろう。

 俺が同じ立場でも相手を殺しに行くと思うからな。

 

 俺は咳払いをする。

 そうして、先ず手始めにと幾つか質問を試みた。

 

「えっと、うん。取り敢えず、家具とかいろいろ持って来てるけど……い、何時までいようと」

「ずっと」

「あ、はは、そっか……あの、ブラックレコードさんは知ってるの?」

「……はぁ……知ってる」

「知ってるの!? 嘘でしょ! え、そういう趣味があるの!?」

「……チッ」

「え、舌打ち?」

 

 機嫌が急に悪くなった。

 それを見て、俺は少し理解できた……喧嘩してるんだ。

 

 ブラックレコードさんは今、頑張って予選で戦っている。

 すごくピリピリしているかもしれない。

 そんな彼の空気が嫌になって、些細な事で喧嘩に発展した。

 神崎ソフィアさんは彼氏に構ってもらいたい一心で、こんな真似をしたんだ。

 

 俺は合点がいったと少し安心した。

 

「そっか。うん、喧嘩なら仕方ないよね」

「……?」

「でも、ブラックレコードさんも真剣なんだよ。本選に進んで、優勝するつもりだろうからね。その気持ちは分かるよ」

「何を言ってるの?」

「ん? だから、ブラックレコードさんと喧嘩したんだよね? それで、彼に構ってもらいたくて俺の家にほわぁ!?」

「……」

 

 彼女が机を思い切り叩いた。

 凄まじい破壊音であり、玉がひゅんとなった。

 頑丈だと思っていた机にはデカいクレーターが出来上がっていた。

 彼女が持ち上げた拳からパラパラと欠片が舞う。

 俺は心臓をどくどくとさせながら、命の危機を常に感じていた。

 

 暫く、彼女は俺を睨んでいた。

 が、舌を打ってから席を立った。

 

「あ、あの、何方へ?」

「……お手洗い」

「あ、ごめん」

 

 彼女はそのままトイレの方に行った。

 パタパタとスリッパの音が響く。

 そうして、扉が開いて閉じられて……俺はため息を零す。

 

「……女の人の考えてる事が分からない。はぁぁ」

 

 暫くは帰ってくれそうにないだろう。

 が、俺もこのまま奇妙な同棲生活を送る気はない。

 

 万が一だよ?

 俺の心に魔が差して大いなる責任が発生する可能性だって存在する。

 そうならない為には、事前に対策を練っておく必要があるんだ。

 

「でもなぁ。対策を練るにしても何を……あのベッドに入ってはいけない事は確かだけど……いや、そもそも何で神崎さんは俺なんかの家に? 殺すとか愛してるとか言ってたけど……あぁ、分かったぞ!」

 

 俺はぽんと手を叩いてようやく納得できる理由を思いついた。

 

「寂しいんだ! 兄である竜一は海外で、ご両親とあう時間も無い! だからこそ、一番ひましてそうな俺を頼って此処に来たんだ! あぁ、なぁんだ! そっかそっかぁ! まぁそりゃそうだよなぁ! あの神崎さんが俺とどうこうなりたいなんて思う訳ないじゃん! きっと今までの発言も構って欲しいから出た言葉で……なぁんだ! そっかそっかぁ! だったら、お兄ちゃんのような心で接してあげればうぉぉぉ!?」

 

 急に爆発音が聞こえた。

 マンション全体が大きく揺れるほどの爆発。

 何事かと思っていれば、ギギィと音がしてゆっくりとトイレの扉が開かれる。

 

 姿を現したのは――闇のような目をした神崎ソフィアさん。

 

「――」

「え、え、ぇ、ぁ、ぅ……ふ、ふへ」

 

 殺される。真っ先に死のヴィジョンが見えた。

 俺はガタガタと震えながら涙を流す。

 すると、神崎ソフィアさんは俺を無視して……鉄アレイ?

 

 俺が通販で買っていた10キロの鉄アレイを軽々と持ちあげる。

 何をするのかと見ていれば――握り潰し始めた。

 

「……へ?」

「――」

 

 まるで、おにぎりでも握るようににぎにぎとしていた。

 鉄アレイがどんどん小さくなっていく。

 俺は口を大きく開けて目ん玉をかっぴらく。

 

 凄まじい光景はものの数分で終わる。

 彼女はこっちへ歩いて来て……ごとりと鉄アレイだった何かを机の上においた。

 

「…………あまり、私を…………怒らせない方が良い」

「へ、あ、へ、へ、あ、へ?」

「これ以上、意味不明な事を考えたら――こうするから」

「――」

 

 彼女は闇のような目を俺に向けながら口を三日月のように曲げる。

 俺は鼻水を垂らしながら絶句する。

 

 勝てない、恐ろしい。

 ナニコレ、ゴリラだったのか。

 人間じゃねぇ、フィジカルゴリラウーマン。

 

 

 純粋な恐怖が――俺の心を支配する。

 

 

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ!」

「…………」

 

 

 何も言わなければ殺される。

 が、何かを言っても殺される。

 

 

 間違えて死ぬか、何も出来ず死ぬか。

 俺の脳細胞がフルで稼働し――

 

 

「好きだァ!!」

「……………………へぇ」

 

 俺は椅子を弾き飛ばしてその場に跪く。

 そうして、涙と鼻水を垂らしながら説得を試みる。

 

「俺は、俺はぁ……神崎さんに間違って欲しくないんだ! 俺だって、俺だって――君の事が好きなんだ!」

「――! そう……それは、異性として」

「――妹のように君を思ってるんだ!」

「――ぺっ」

 

 彼女から秒で唾を吐かれた。

 俺の頬に命中であり、彼女は汚物を見るような目で俺を見下ろしていた。

 

「どんな目で見られたって構わない! 俺は君とちゃんとした関係でいたい!」

「――私は違う」

「そう! 私は……い、いや! 何言ってんだよ!?」

 

 俺は激しく動揺する。

 ポーカーフェイスであり、一切よどみなく変態染みた事を言う神崎ソフィアさん。

 発情期なのかと思いつつ、俺は彼女のズボンを掴んだ。

 

「ダメなんだ。ダメなんだよ……俺は、何の経験もない、童貞なんだ……女性との接し方も、君の意味ありげな言葉の意味も、俺には、理解してあげる事がぁ。揶揄わないでくれよぉ、俺は素人で、恋愛経験ゼロで、君の真意を気づいて」

「――セ〇クス」

「いい加減にしてくださいよぉぉぉぉぉ!!」

 

 本気で叫ぶ。

 毒電波でも受けたのかと心配になってきた。

 彼女を見上げれば、目を細めて俺の事を見つめていた。

 

 野生の獣だ。

 ごちそうを前にして目を血走らせるケダモノ。

 神崎ソフィアという天才は――アホだったのかもしれない。

 

「……分かるよ。焦ってるんだよね」

「何?」

「その、いい年齢だからさ……婚期をね?」

「――それ以上言ったら殺す」

「はい、すみませんでしたぁぁ!!!」

 

 手をごきごきされて秒で土下座する。

 これも違うのであれば、もう何も分からない。

 俺はもう分かったと立ちあがる。

 

「住んでもいいよ……ただし! 絶対に……みだらな事はしない事!」

「――具体的には?」

「え!? い、いや……分かるでしょ!?」

「分からない。何も……教えて欲しい」

 

 彼女は一歩前に出る。

 俺は一歩後退する。

 彼女は更に近寄って来て、耳元に顔を近づけて来た。

 

「手は出さない……でも、理性を壊す方法なんて――幾らでもある」

「――」

「タイタングリードで貴方を殺す。私の人生を捻じ曲げた代償を支払わせる……そして、現実では、貴方の理性を殺す」

「な、何で? 何が、君を」

「愛しているの、それだけ……絶対に責任を取らせる……獣のように乱れる貴方の姿を――楽しみにしている」

「やめないか!!」

 

 俺は彼女を引き離す。

 呼吸が乱れていて、滝のように汗が噴き出す。

 

 彼女は目を細めて舌なめずりをした。

 頬は紅潮しており、完全に獲物を狙う肉食獣のそれで――俺は叫ぶ。

 

「ああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 家から飛び出して逃げる。

 スエットのまま走り出し、階段を駆け下りて行った。

 そうして、そのまま遅れていた朝のトレーニングを開始する。

 

 早朝のランニングであり、終わるのは――煩悩が完全に消えるまでだ。

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