底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす   作:オタリオン

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第89話:負け犬の叫び(☆)

 空から雨が降り注ぐ。

 機体に激しく打ち付けられて、私は最後のリペアを使用した。

 リペアが完了するまで息を潜めて待つ。

 

 待って、待って、待って…………完了した。

 

「……う、うぅ……っ」

 

 涙が出る。

 悲しいからじゃない。

 悔しくて、悔しくて堪らない。

 

 助けてくれた先生を恨んではいない。

 いらぬ世話なんて言えやしない。

 ただ、自分自身の――弱さに涙が出る。

 

 予選に参加するまでもそうだ。

 私は助けられてばかりだった。

 先生たちの手間を増やし、私はあの人たちに助けてもらった。

 ただ同じ空間でいただけで、私は予選に参加する事が出来た。

 

 予選では全員が敵同士。

 助け合いは無しで……でも、私は……っ。

 

 頑張った。

 必死になって頑張った。

 プロとしての腕があれば予選も楽勝だと思っていた。

 でも、実際にはまるで違っていた。

 

 最初の内は何とか勝てていた。

 でも、日を追うごとにプレイヤーの強さは上がっていく。

 真面に戦えば歯が立たなくなっていた。

 だからこそ、私はVtuberとしての役目を放棄して……卑怯な手を多用した。

 

 身を隠して敵を待ち。

 手負いの人間を積極的に狩った。

 少しでも部が悪いと思ったら逃げ出し。

 ハイエナのように他の手負いのプレイヤーだけに狙いを定めた。

 

 それでも、あの人たちは強かった。

 最期まで食らいついてきた。

 だからこそ、私は同じようなハイエナたちと協力関係を結んで……この様だ。

 

 アイツらは理解していた。

 もうすぐこの予選も終わるのだと。

 だからこそ、最後に私というそこそこ名の通ったプレイヤーを狩って本選に行くつもりだった。

 アイツらは私のファンでもなければVtuberなんてものは知らない。

 でも、私自身のグリード内での戦績を知っていた……それだけだ。

 

 結局、汚い手を使った私は殺されかけた。

 他の皆がどうなったかは分からない。

 私なんかよりも強い人たちだ。

 多分、本戦にも行けて、私なんかよりも応援されて……それで……。

 

「……何、考えてんだろう……私は、ただ先生と一緒に……!」

 

 レーダーから敵の接近を知らされた。

 すぐにコアを稼働させて機体を起き上がらせた。

 周囲をサーチして――上!

 

 私はすぐにその場から後ろへと飛ぶ。

 瞬間、空から無数のミサイルが降り注ぐ。

 咄嗟にエネルギーシールドを展開し何とか被害を最小限に抑える。

 手を振って煙を払えば――五体の敵が浮遊していた。

 

《情報通りだな。ダメージは回復させたようだが……もうリペアは無いんだろう?》

「……! てめぇら、アイツらの仲間かッ!」

《仲間? 違うな。アイツらは俺たちが金で雇ったハイエナ。そしてお前は――ただの抹殺対象だ》

「抹殺対象……? 待てよ。テメェら私に何の」

《おしゃべりは終わりだ――さぁ、死んでくれ》

 

 奴らが武器を向ける。

 私は純粋な殺気を受けて体が硬直した。

 殺される。逃げる事は出来ない。

 確実に、追い詰められて――瞬間、リーダーらしき敵の機体の胸から何かが生えた。

 

《――は、ぁ?》

「――ぇ」

 

 金属音が鳴り、敵の胸を貫いた刃が抜かれる。

 リーダーらしき男の機体はセンサーから光を消して落下した。

 雨の中で姿を現したのは――錆の巨人だった。

 

《――――》

《こいつは――散開ッ!!》

 

 敵たちが散開する。

 そうして、突然現れた敵に対して攻撃を開始した。

 

 無言で浮遊するそれが――三つ目のセンサーを真っ赤に発光させた。

 

 爆発音。それが響き渡りそれが消えた。

 何が起きたのかと思っていれば――通信機から悲鳴が聞こえた。

 

「――!」

 

 一瞬だ。

 一瞬で謎の重量級の機体が移動して――敵の機体を両断した。

 

 バラバラと敵の機体の残骸が舞う。

 謎の敵はチェーンブレードの音を響かせていた。

 

《このぉ!!》

 

 敵が背後を取る。

 謎の敵はその場から動く事無く――発砲。

 

 一切視線を向ける事無く。

 装備していたキャノン砲の照準を後方へ向けていた。

 敵は避ける暇さえなく機体を爆散させた。

 

 速い。

 機体そのものの動きもそうだが、その反応速度は人間のそれじゃない。

 明らかに機械がしているほどの処理速度だ。

 

 敵たちは狼狽える。

 瞬間、また連続で爆発音が鳴り――残っていた敵たちが一瞬でバラバラにされた。

 

「……ぁ」

 

 分からなかった。

 何をどうしたのか。

 理解するよりも早くに全てが終わり――奴が私の前に降りて来た。

 

《――》

「ぁ、ぁ、ぁぁ……ぃ、ぁ」

 

 錆に塗れた機体。

 機体全体が赤茶色の錆に塗れていた。

 角ばった頭部のセンサーには三つのセンサーが動いていた。

 

 大きい。

 並みのメックを超えた大きさだ。

 全長にすれば20……いや、25メートルはあるかもしれない。

 

 脚部にはプレート状の装甲をつけて。

 足には三つの爪のようなものが伸びて攻撃的だ。

 両腕の他に四つの腕が伸びていて、それぞれが異なる高火力の武装を装備していた。

 重武装の上に重装甲だ。

 背中に装備されたスラスターは機体ほどの大きさで。

 三つのプロペラントタンクに六つのノズルが伸びた異様なものだ。

 噴射口は見えない。その代わりに、装甲から露出するように銀色の小さな球体状の何かを各部に取り付けていた。

 

 怪物だ。

 こんな異様な機体は見た事が無い。

 機体そのものもそうだけど、中にいるパイロットからプレッシャーを感じる。

 感じた事が無い冷たさだ。

 まるで、全てに絶望し全てを呪っているみたいな……。

 

《……お前は、根黒万太郎の……弟子、だな》

「……! 何で私の……いや、その声、まさか……紫電のカタギリか?」

 

 私はようやく気付いた。

 この機体の主はあの紫電のカタギリだと。

 声で気づき、その異様な空気も理解した。

 

 先生に何度も挑み破れた男。

 こいつは先生に対して並々ならぬ想いを抱いていた。

 ただの雑魚だと私は侮っていた。

 でも、今のこいつを見てそんな感情は出てこない。

 

 凄まじい執念。

 何がこいつをここまでの怪物にしたのか。

 途方もない時間を掛けて、狂気の海に魂を沈めて……恐ろしい。

 

 勝てない。

 今の私では、こいつには歯が立たない。

 本能で理解した。

 目の前の怪物との圧倒的な力の差を。

 

 逃げろ。逃げるんだ――体が動かない。

 

「……っ……動け、動け」

 

 私は掠れる声で必死に体に命令を送る。

 でも、私の体は震えるだけで動かない。

 紫電のカタギリはそんな私をジッと見つめる。

 

 殺される。

 確実に、こいつは私を殺す。

 私は何の抵抗も出来ずに、さっきの奴らのように消されるんだ。

 

 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――死にたくない。

 

 汚い手を使った。

 先生たちにいえないような手段で生き残った。

 それは本選に出る為だ。

 先生に褒めてもらって、一緒に輝ける舞台で戦う為だ。

 先生の弟子として胸を張れるように。

 

「私は、先生と……先生に、まだ、褒めて……私、は!」

 

 勝とうとは思っていない。

 先生に私が勝てるわけがない。

 そんな事は理解している。

 だからこそ、先生と本選で戦って善戦して、それで――

 

 

 

《――だから、お前は弱いんだよ》

「…………ぇ」

 

 

 

 奴は私の心を理解し――侮辱した。

 

 

 

《お前は負け犬だ。強者に挑む気概なんかねぇ。あの男に勝つという意志すらない。どこまでもお遊びで、どこまでも女で……だから、お前は認められねぇんだよ》

「……ふざ、けるな……お前に、お前なんかに……何がッ!!」

《分かるさ。俺もお前と――同じだったからな》

「……!」

 

 奴は笑った。

 そうして――一瞬で私の手足をもぐ。

 

「うぁ!?」

《俺はプロだ。自信と誇りに満ちて輝く人生だった。負けたっていい。勝ちが多ければ、多くの人間に賞賛される……でもな。気づかされた。俺の腕は結局、“金”の為で、あの男……根黒万太郎の腕は“人生”だってな》

「な、に、を……っ」

 

 奴は私の機体を踏みつける。

 奴の機体の重みで機体が軋んでいった。

 

《本物を知っちまった。だからこそ、俺の心は――復讐に染まった》

「ぅ、ぁぁ!」

《怒りだ。奴は俺をコケにして、俺の誇りと自信を傷つけた。いや、それ以上に奴の――敵とすら思っていない目に虫唾が走った》

「や、め……ぅぁ!?」

 

 べきべきと音が鳴る。

 コックピットは今にも潰れそうだった。

 私は歯をガチガチと鳴らして涙を流す。

 

 嫌だ。こんなところで、こんな形で負けるなんて、絶対に……っ!

 

《だからこそ、俺は誓った。プロである自分はもういない。俺は俺として、根黒万太郎を殺す為に――全てを捧げるってな》

「ぁ、ぁぁ!」

 

 モニターから光が消える。

 そうして、ハッチが割れて目の前に残骸が迫って来る。

 私は叫ぶ。

 叫びながら、奴の声を聞いて――

 

《俺は奴を殺す。必ず殺す。そして、昔の俺のような半端者は――生かす事にしてんだよ》

「……ぇ?」

 

 残骸が迫っていたが……ピタリと止まった。

 

 何が起きたのか。

 そう思っていれば、リペアを使用した音が聞こえた。

 機体がゆっくりと修復されて行く。

 迫っていた残骸が元に戻っていき、モニターの映像が復活する。

 見れば雨に濡れた奴の機体が――私に背を向けた。

 

「……! 待て、待て!! テメェ、私を……何の、つもりだぁ!!」

《あぁ、良いねぇ。その反応……アイツを思い出せる。あの日、あの時も、アイツはこの俺を――見逃したなぁ》

「……!? 何を言って……っ」

 

 奴は急に笑い出す。

 狂ったように笑っていた。

 その声は怒りに満ちていながら、どこか嬉しそうにも聞こえる。

 ひどくちぐはぐで、ひどく不快で……奴が動きを止める。

 

《お前は弱い。俺にとっても、根黒万太郎にとっても雑魚でしかねぇ……だが、もしも、お前が俺に生かされた現実が気に食わねぇってんなら……上がって来いよ》

「……ッ!」

 

 奴は此方を見ない。

 スラスターを点火して飛び立とうとしていた。

 奴は背中を向けたまま――私を嘲る。

 

《お前は俺に生かされた。お前は俺を殺しに来る。そして、お前は必ず俺と戦う。そして、根黒万太郎の前で――お前は俺に無様に殺されるんだよ》

「……てん、めぇ!!」

《ハハハハハ!! あぁ楽しみだなぁ。可愛い弟子を、この俺が、殺すんだ。アイツはどんな目で俺を見てくれるんだろうなぁ。怒るのか、呪うのか、恨むのかぁ……だからよぉ。必ず来いよ? 最高になったアイツを俺がこの手で殺せるように、な?》

 

 奴は飛び立つ。

 一方的に話しをして気持ちよくなって去っていく。

 私は歯を食いしばり、遠くなっていく奴の機体を目に焼き付ける。

 

「アイツ、私を、先生と戦う為に……ざけんなよ。ざけんじゃねぇよ。クソ、クソ、クソォ!!!」

 

 私はモニターを殴りつける。

 修復中のモニターに罅が入る。

 そうして、グローブ越しに血が流れていった。

 

 私の心は怒りに染まる。

 私は弱い。私は負け犬だ。

 勝つ気が無かった。勝てないと最初から考えていた。

 

 弟子ですらない。

 ただのゴミで……殺してやる。

 

 私は唇をかみしめる。

 皮が破れて血が流れる。

 それでも噛み続けた。

 

 涙が勝手に流れていく。

 目を大きく見開きながら、私はただ――強くなりたい。

 

「……ッ!!」

 

 殺してやる。

 カタギリの野郎も、リリアンさんたちも。

 尊敬する先生ですらも――私が殺す。

 

 もう二度と負け犬とは呼ばせない。

 プロとしてじゃない。

 傭兵として、この世界で戦う者として――

 

「殺すッ!! 全部、何もかも――殺してやるッ!!」

「……ひぃ」

 

 アドバイザーが声を殺して震える。

 私はただ怒りと復讐で涙を流す。

 ざぁざぁと振り続ける雨の中、私は感情を――口から吐き出した。

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