「では、これより稽古を始める。」
気を取り直して、直毘人による特訓がはじまった。
「まず直哉だが、術式による加速が直線的すぎる。方向転換と直進による加速、打撃を織り交ぜた運用を目指す。日頃から動きのイメージを行うように。ピアノも継続だ。」
「えー」
「直久、お前玉犬どれくらい出せる?」
「あー、んー。」
「どうした、呪力の減少量から感覚でわからんか?」
直毘人が訝しむが…減少と言ってもな…。
「攻撃用に追加で呪力を送ってる時以外は減ってる感じない…です。」
「…まてまてまて、お前の呪力量はたしかに多いが…。いや、直久。お前今の呪力は出し切った状態か?」
「…出し切るとは?」
「ふ、ははははは!」
本日何度目かの笑いである。
「直久、お前呪力切れにやるまで玉犬を出し続けろ。お前はまだ、お前を扱いきれてないぞ?」
呪力の制御が上手くできていないということだろうか。
確かに、何となくの感覚で体から出てる呪力しか使っていなかった。
「より、強く、より硬く…。」
玉犬に送る呪力を増強させる。量はもとより、より密度を高めるように。
直久の体を覆う呪力が増加する。立ち上る呪力は範囲を広げ、周囲にいる直哉や直毘人にも及び始める。
二匹の玉犬の体躯が大型犬のそれから、コンテナサイズまで上がる。
「…まさかこれほどとはな。」
「兄ちゃんはやっぱり天才や!」
この時直久の体を覆う呪力は一般の1級呪術師に比肩するどころか、
特級呪霊数体の比較してなお勝るほどの量へと至っていた。
「こいつは…五条家の六眼持ちよりも多いな…。」
揺蕩う呪力は蒸気か焔か。あるいはフレアか。
「…ダメだな。安定しない。親父殿、出せるは出せますが…、ロクに使えません。」
呪力のロスが特段意識しなくてもわかるほど出てしまっている。
式神使いであることが幸いし、身体強化に回せない分を玉犬に送ることで、ロスを減らすよう意識しているが、それでも今までより、無駄が多いのが、鍛錬を初めて日の浅い俺でもわかってしまう。
「直久、今はまだ修練を始めたばかりだ。そう落ち込むこともあるまい。ただなぁ、ここまでの呪力量となると…、アレをやる必要があるか…。」
直毘人は嬉しさ半分面倒半分と言ったような顔でつぶやく。
「親父殿、あれとは…。」
それは、呪術師の呪力操作において、それを経たかどうかで天と地程の差を産む。打撃と呪力の衝突誤差0.000001秒以内、そのほか気温湿度等の条件が成立した際、呪力は黒く爆ぜる。
「…黒閃だ。直久、お前には元服…15歳時に行う御三家間における顔見せまでに黒閃を経験すること、これを当主命令とする。」