超オタ公奮闘記! 作:平成生まれ、令和育ち
ちなみに各話タイトルは考えている時もあれば、あんまり考えていない時もあります。これはあんまり考えてないです。
──その日、私は運命を見つけた。
世界の何処にでもいる平凡モブ女子。古臭い名前と引っ込み思案な性格が災いして灰色の青春時代を送り、既定路線のように殻に閉じこもって引き籠るまでにそう時間はかからなかった。
将来への期待も、未来への展望もない。息苦しい
そんなある日のこと。殆ど惰性で続けていたネットサーフィンの最中、私は偶然にもそのお姫様を見つけた。
──
おとぎ話に登場する乙姫のような着物姿の女性のAIライバー。AIなのに八千歳というとんでも設定で、いつでも優しい笑顔を絶やさず、AIとは到底思えない巧みなトークと人の心を掴んで離さない歌唱力を併せ持った、いわばネットのアイドル。
電子の世界ではなく現実の世界にいたのなら、世界中の人々を虜にしていただろうこと間違いなしのAIライバー。中の人なんていないよと公言しながら、血の通った人間としか思えない電子のお姫様に私の心はあっという間に虜にされた。
ヤチヨのブログを追って、配信や歌ってみたを見て、生放送は可能な限りリアルタイムで視聴して。ライバー自体がまだまだ黎明期の産物で視聴者も少なく、コメントをしたらダイレクトに返してくれるのが嬉しくて堪らなかった。
我が事ながら厄介リスナーになりつつあるような気がして、気味が悪くないかなって自己嫌悪したり。でもそんな私を、私以外のリスナーも、ヤチヨはお姫様みたいに優しく笑いながら受け入れてくれる。
今この時が楽しくて、幸せで、嬉しくて堪らないといつも口にして憚らず、私たちに元気と希望を与えてくれる。ヤチヨが画面の中で笑っているだけで、こっちまで幸せな気持ちになれて、なんだか頑張ろうかなって思えてくる。
だからだろうか。私は意を決してチャットの相談アプリでヤチヨに悩みを打ち明けていた。
AIであっても、生身の人の心を持っているとしか思えないヤチヨなら。どんな時でも優しい笑顔でリスナーを受け入れてくれるヤチヨに背中を押してもらえたなら。勇気を出して一歩を踏み出せるんじゃないかって思えたから。
震える指で相談内容を打ち込んで、相談アプリでヤチヨに送る。私なんかの相談に応えてくれるのか、そもそも気付いてもらえるのか。不安と恐怖に震えながら待っていると、軽快な音と共に返信がきた。
返信の内容は私だけの秘密。ただ、ヤチヨの言葉はAIとは到底思えない、私の悩みに寄り添ってくれたもので、引っ込み思案な私に溢れんばかりの勇気をくれた。
ヤチヨの言葉に背中を押されて私は閉じ籠っていた部屋を出て、再び外の世界へと足を踏み出した。
引っ込み思案な性格は変わらないし、古臭い名前も変えられない。クラスメイトたちからの奇異な視線や囁き声に心がぽっきり折れてしまいそうな時もあった。
それでも歯を食いしばって、俯きながらでも歩き続けられたのはヤチヨがいたから。ヤチヨの笑顔と歌と言葉が、挫けそうな心をいつでも支えてくれたからだ。
月日は経って中学を卒業して高校に進学した。相変わらずクラスでは根暗のぼっち街道を突き進んでいるけれど、必要に迫られれば中学の頃よりは他人と話すようになった。これも全てヤチヨのおかげだ。
高校生になってアルバイトも始めた。理由は推し活の軍資金を集めるため。引き篭もり時代の私が見れば目を疑ったことだろう。まあバイトの内容はおじいちゃんの古本屋で接客と本の整理、お茶を飲みながらおじいちゃんの話し相手をするだけなんだけどね……。
それでもバイトはバイト。自分で働いて稼いだお金で初めて買ったヤチヨグッズは、私の部屋の一角に造られた祭壇に家宝として飾られている。
学校で勉強して、アルバイトをして、推し活に励む。彩りに満ちた、充実した毎日を送っていたある日のことだった。ヤチヨが、リスナーみんなが集まって交流できる仮想空間『ツクヨミ』を造り上げると配信で宣言したのだ。
仮想空間、VRはここ数年で目覚ましく発展していた分野だ。クラスのゲーム好きな男子たちが興奮気味によく話していたし、ヤチヨ自身も配信で話題に挙げていたからなんとなくは知っている。
でも詳しいことは何も分からなくて、意を決して私は校内でも有名なゲーマーの先輩に話を聞いてみた。
先輩は受験を控える時期に突入してなおゲームに没頭していて、進路はプロのゲーマーと公言して憚らず、クラスメイトや先生たちからも呆れられてしまっているような人だった。私とは別ベクトルで教室で浮いている人だ。
正直、話しかけるのにもかなりの勇気が必要だった。でもヤチヨのためを思えば、二学年上の教室に突撃するのだって怖くない……やっぱり怖かったです、はい。
先輩は話しかけられたことに驚きながらも、VRについて詳しく教えてくれた。好きなゲームに関わる話だからか、先輩は嬉々として聞いてないことまで事細かに教えてくれた。
曰く、仮想空間はインターネット上に構築された三次元のデジタル空間。インターネットの掲示板のように不特定多数の誰かと繋がり、言葉を交わし、遊んだりすることができる広場のようなもの。
最近はVR業界の発展が凄まじくて、有名アーティストが仮想空間でライブを行ったり、アイドルがファンとの交流に利用したり、様々な業界や企業が注目しているらしい。
色々と難しい専門用語を早口で並べられて混乱気味ではあるけど、要するにヤチヨのご尊顔を画面越しではなくリアルのように面と向かって見ることができた上で、生歌やライブを臨場感増し増しで楽しむことができるでOK?
要点だけを無理やりに纏めた確認に先輩は呆れながらも肯定をくれた。それが分かれば十分。ヤチヨが生み出す仮想空間ツクヨミに馳せ参じるために、必要なものを揃えなければならない。
そうと決まればと走り出そうとした私の出鼻を挫いたのは、VRについて熱弁してくれた彼。先輩は憐れむような同情するような目で、最低限必要なVR機材一式に掛かるだろう費用を告げた。
……にじゅうまん? VRゴーグルとPC合わせて、最低でそれ? まぁじで?
無理だ。今まで貯めたバイト代とお小遣い、お年玉含めても全然届かない。そもそもそんな大金、学費以外で聞いたことない。
親の庇護下でぬくぬく学生生活を送っているオタク女子には天地が引っ繰り返っても捻出できない金額だ。親へのおねだりでどうにかなる範囲も優に飛び越えている。諦めるしか、ないのか……。
……いや、いやだ。ヤチヨに直接会える、推しで恩人でもあるヤチヨが降臨する瞬間を見逃したくない。
諦めないと決めた以上、私は即座に行動に移る。驚く先輩にお礼を言って、ヤチヨに直接会うために全力で走り出した。
まず私はおじいちゃんに頼み込んでバイトのシフトを増やしてもらった。理由を説明すれば、ヤチヨやVR云々は理解できていなかったけど快く許可してもらえた。
次に私は両親に交渉を挑んだ。
交渉材料は学校の成績向上と地元の有名私立大学への進学誓約、その上で入試で特待生を取ることを宣言する。その大学は入試で優秀な成績を収めると入学金が免除され、初年度の学費が安くなるのだ。此処で浮いたお金を、前借りするような形でVR機材一式を揃える資金に充てる。
幸いなことに定期試験が目前に迫っている。まずはそこで結果を出して口先だけではないことを証明する。次に校外模試を受験して私の本気度合いを見せつける。それでどうでしょうか?
娘の交渉とは名ばかりのプレゼンに両親は呆気を取られていたが、条件付きでこれを承諾。定期試験と校外模試の結果次第でお小遣いをくれることを約束してくれた。
その条件は、進学する大学は知名度や特待生制度で決めず、自分のやりたいことで選ぶ、だった。普通に私の将来のことを考えてくれた上での条件だった。
思えば、私が不登校かまして部屋に引き篭もっていた時も、両親は無理やり私を外に連れ出すようなことをしなかった。優しく声を掛けて、私の孤独に寄り添おうとしてくれていた。ただ私が気付かなかっただけで。
改めて私は恵まれていたんだなぁと実感した。いつかちゃんと、親孝行をしなくちゃとも思った。
それはそれとしてヤチヨである。両親との交渉に成功した以上、私は死ぬ気で勉強した。
元々、クラスメイトとの交流関係が壊滅していた私は、学校での取り柄が真面目に勉強するくらいしかなかった。成績も割と良い方で、今時点で学年上位をキープしている。
しかし学年上位では足りない。両親に宣言した以上、取るなら完全無欠のトップだ。日陰者の分際でとか陰口を言われるのが怖くて妥協していたけど、ヤチヨのためならばもう何も怖くない……!
一切の手抜きを排除し、休み時間も放課後も全て予習復習、模試と受験対策に費やして、断腸の思いで推し活を控えながら、睡眠時間も削って勉学に励んだ。
その甲斐あって私は定期試験で文字通り学年首位を掴み取った。先生たちにはびっくりするくらい褒めちぎられ、不登校時代の私を知っているクラスメイトからの目が色々な意味で変わったけど、私には気にしている余裕も気を抜いている余裕もない。
ヤチヨが、ツクヨミのサービス開始日時を告知したのだ。運命の日は一月後。校外模試が来週で、結果の発表がオンラインで二週間。ぎりぎり間に合うけど、ここを落とせばゲームオーバーだ。
もはや一刻の猶予もない以上、私は立ち止まることもなく模試に向けて走り続けた。
定期考査が終わっても死に物狂いで勉強を続ける私にクラスメイトたちはドン引き。今までとは別の理由で遠巻きにされるようになったし、いつの間にかガリ勉だとか図書子とか妙なあだ名を付けられていたけど、一切気にしない。
あ、でもVRについて教えてくれた先輩は素直に褒めてくれた。私が死ぬ気で頑張ってる理由を知っているからだ。とりあえず、お礼は言っておいた。
根暗地味子から根暗ガリ勉図書子にクラスチェンジしながら、死ぬ気で勉強して迎えた模試。今できる全てを出し尽くし、燃え尽きたぜ……真っ白に。
やれることはやった。帰ってからの自己採点も悪くなかった。久方振りの開放感に浸りながら、ペースを少し落として勉強を続け、アルバイトと推し活に励む日々に戻る。
そして迎えた結果発表の日。オンラインにて発表された結果は、私の望んだ通りのもの。暫定で選んだ大学の合格判定はAだ。此処に、条件は満たされた。
達成感に満たされながら私は両親に報告。大層驚きながらも両親は模試の結果を喜び、約束通りお小遣いをたんまりと貰えた。これにバイト代と親戚から貰ったお年玉を合わせれば、いける……!
VR機材を揃えるにあたって必要な軍資金は貯まった。後は機材を揃えるだけ……でも、PCやゴーグルとかに関して私の知識は乏しい。メモリとかグラボとか、要求スペックとかさっぱり分からない。
なので先輩、助けて〜。
いっそ図々しい私のヘルプコールを、先輩は呆れながらも承諾。休みの日に都心のPCショップで諸々の機材選びを手伝ってくれた。
予算が幾らと伝えたら、ぴったりになるよう店員さんと話しながら見繕ってくれた。横でセットアップのやり方とか聞いていたけど、私一人ではここまでスムーズに話を進められなかっただろう。
でも店員の人が勧めてくれたコラボPC? なるものを全力でお断りしていたのは何故だろう。おっことぬしみたい名前の人がコラボしたPCだったみたいだけど、「それだけはなしで」って凄い顔で拒否してた。
それはともかく、先輩のお陰でPCとVR機材を無事に揃えることができた。高い買い物だった。なんならVRゴーグルはより高いスマコンなるものに擦り代わっていたけども、ギリギリ予算内で納まったのでよしとしよう。
先輩にお礼としてお昼をご馳走して、その日は解散。二日後には家に届いたPCとスマコンのセットアップを、これまた先輩にトークアプリで助けてもらいながら完遂。後は運命の夜を待つだけとなった。
──そしてついに、その日を迎える。
主人公の名前はいつか、おいおいということで……しばらくは出ないかも。
あと、書き溜めはあんまりないです……。