超オタ公奮闘記! 作:平成生まれ、令和育ち
彩葉さんが抱えているものを知ってから、私の彩葉さんとの向き合い方は変わった。
バイト先の先輩という最初の接点は変えないまま、彩葉さんが身に付けているヤチヨグッズを切っ掛けに話を広げ、半ば強引にでも推し活仲間という関係性を構築する。
今までの人生において推し活仲間なる枠組みが存在しなかった彩葉さんにとって、この関係性はどんな距離感で付き合えばいいのか分からない未知の領域だ。ちょっと押し付けがましいことをしても、推し活仲間はこういうものなんですよで押し通してしまえばいい。
ヤチヨがコラボしたパンやらお菓子やらドリンクの消費を助けてもらう名目で食糧を進呈したり、一緒に推し活する時間を確保するためという名目でがっつりバイトのフォローをしたり、あの手この手を駆使して彩葉さんを支えた。
やり過ぎてしまうと距離を置かれかねないので見極めが大変だが、それでもどうにか彩葉さんが倒れるような展開は防ぐことができた。ツクヨミ公認広報ライバーの地位をフル活用して、ヤチヨに色んな企業とのコラボを提案した甲斐があったというもの。
代わりに犠牲になったのは私の時間。ただでさえ限界ギリギリなところにヤチヨのプロデュース染みた活動と彩葉さんのフォローが追加され、彩葉さんより先に私が倒れそう。というか倒れて既に再走しているまである。タイムリーパーでなかったら一発アウトだった。
学生生活、ツクヨミ公認広報ライバー活動、ヤチヨのコラボプロデュース、彩葉さんのフォロー、そして忘れてはいけないハッピーエンド探し。殺人的なタスクをこなしながら、どうにかこうにかかぐやが地球へ来訪する日まで時間を押し進めて──またもや輪廻崩壊、強制タイムリープが発生した。
今度の原因は何か? 原因を探るためにタイムリープを繰り返すこと十数回。判明した原因に私は思わず頭を抱えたくなった。
地球に到着したかぐやが迷子になって? 彩葉さんの住むアパート前に辿り着けずに輪廻崩壊? お願いだから寄り道せず真っ直ぐ彩葉さんの元へホールインワンしてよ、かぐやさぁん!!
どうすればいい? 私に宇宙から飛来するタケノコ宇宙船の誘導なんて真似はできない。流れ星にお祈りでもすればいいですか?
そもそも最初の頃は問題なく辿り着けていたはずなのに、どうして急に迷子になってしまうのか。今まではどうやって彩葉さんの住むアパートまで辿り着いていたのか。
誰かが道案内していた? 誰が……って、そんなことできるのはヤチヨくらいしかいないじゃん。でもかぐやが迷子になって輪廻崩壊している今、ヤチヨはかぐやの道案内をしていない、或いはできていないことになる。
何が原因で道案内ができなくなっているのか、考えてすぐに原因に思い至る。私があれこれ企業とのコラボやら持ち掛けたことでタスクが増え、かぐやの道案内まで手が回らなくなってしまっているのかもしれない。
調子に乗って提案し過ぎたかな。お菓子とパンとエナドリと、あとは生活雑貨系を幾つかだったけど、かぐやが彩葉さんの元に辿り着けなくなってしまっては元も子もない。コラボ企画の件数を少し抑え目にしよう。
あと、ヤチヨにも回っていた雑務を全部私が引き受ける。更にタスクが過密になってスケジュールがとんでもないことになっているけど、背に腹はかえられない。今なら私、アイドル百人でもプロデュースできる気がするよ……。
それと並行して、かぐやが地球に訪れる日が近付いたらそれとなくヤチヨに道案内するように示唆する。といっても、「かぐやが迷子にならないように道案内して」なんてドストレートに伝えることはできない。
「道に迷うって怖いよね〜。目的地に辿り着けないって不安で不安で堪らないわー(意訳)」と具体的な中身は一切抜きに、ツクヨミ広報特集やらでしつこく発信する。この発言がヤチヨに少しでも届けば、かぐやを彩葉さんの元まで導いてくれる……と、思いたい。
唐突な迷子注意喚起発言によってオタ公は方向音痴だとか迷子だとか風評被害が発生したものの、それくらい安いもんだ。それに、終わりのない輪廻の中で延々彷徨っていることを思えば、迷子扱いも強ち間違っていないとも言えるしね……。
オタ公方向音痴説の流布と引き換えにヤチヨによるかぐやの道案内は滞りなく実施された……多分。輪廻が崩壊しなかったので問題は解決されたのだろう。
これで一安心──する間もなく、再び輪廻崩壊からのタイムリープ。次はいったい何が原因ですか?
再び原因解明のためにタイムリープを繰り返すこと……何回かな? 今回ばかりは本当に原因が分からなくて、やけっぱちでこれかなと当てずっぽう気味に試したら確定した。
──かぐや、猫に遭遇しないと輪廻崩壊するってよ。
ちょっと何を言っているのか自分でも分からなかった。でも実際に輪廻崩壊するタイミングを虱潰しに追って、考えられる限りの可能性を全て確かめて排除していって、最後に残ったのがこれだったのだ。しかもかぐやと猫をご対面させたら一発で輪廻突破という、本人を目の前にして宇宙猫になってしまったよ。
何故猫なのか。そもそも猫との出会いが輪廻崩壊を左右するってどういうこと? ヤチヨにそれとなく猫が好きか聞いたものの、むしろ返ってきたのは犬のほうが好きという答え。
忠犬オタ公である私に面と向かってそれを言っちゃうんですね、はい。暫くはヤチヨの顔が見れそうにない。
猫との遭遇がどうなって輪廻の崩壊に繋がるかは不明なまま、しかし不確定要素を確実に排除するために私は猫を飼うことになった。ついでにかぐやと猫をご対面させるため、猫を抱えて彩葉さんの通う高校付近をうろつく不審者にならざるを得なくなってしまったのはコラテラルダメージとして受け入れよう。
ふふっ、忠犬オタ公がにゃんこを飼うって笑える。自分のことで手一杯なのに、ペットまで抱え込んで私はどこへ向かっているのだろうか。
目を輝かせて私の飼い猫をわしゃわしゃするかぐやを、私は遠い目で見守るのだった。
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かぐやがツクヨミにてヤチヨカップ参戦を高らかに宣言し、怒涛の快進撃を始める。太陽のように眩しい笑顔で人を惹きつけ、心の赴くままにやりたいことをやり尽くし、いろPプロデュースの歌と持ち前の歌唱力でのし上がっていく。
流石は超新星かぐやだと思う一方、このかぐやが八千年の時を歩んでヤチヨに至るのだと考えると複雑な気持ちになる。
輪廻の崩壊によって終わりのないタイムリープを繰り返し、その度に原因の解明と解消に奔走してきた。その甲斐あってツクヨミにかぐやがログインするところまで辿り着くことができたけど、求めるハッピーエンドが何処にあるのかは未だに分からない。
果たして私はキラキラのハッピーエンドを見つけることが本当にできるのか。ひたすらがむしゃらに走り続けることで目を逸らしていた不安が、今になってぶり返してきた。
大丈夫、大丈夫。ヤチヨも彩葉さんも笑って終われるハッピーエンドは必ずある。だって未来はほんの少しの切っ掛けで変化して、無数に枝分かれするのだから。二人が一緒に笑い合っている未来だって、何処かにあるはずだ。
そう自分に言い聞かせながら殺人的なタイムスケジュールをこなしていたある日のBAMBOO Cafeでのこと。すっかり板に着いた営業スマイルで接客していると焦り顔の店長がスタッフルームから飛び出してきた。
なんだか既視感のある光景に嫌な予感。話を聞けば彩葉さんが体調不良で急遽お休みになったそうで、スタッフが一人減ってしまうとのことだ。
彩葉さんが体調不良と聞いて思わず血の気が引いた。またぞろ倒れて病院に運び込まれたのかと思えば、なんでも同居人からお休みの連絡があったようだ。かぐやのことだろう。
今の彩葉さんは一人ではない。かぐやの家事能力がどれほどのものか少し不安ではあるけど、休みの連絡を入れることに気を回せるのなら大丈夫だと信じたい。
それはそれとして私からも一言二言メッセージを送っておこう。
休みの連絡が入った時は、すわ病院直行からの輪廻崩壊確定かと肝を冷やした。真っ先にその思考が出てきたことに自己嫌悪したけど、どうしてもあのタイムリープの日のことを思い出してしまうのだ。
幸いにもタイムリープは発生せず、一日で完全に体調を戻した彩葉さんは翌日には普通に出勤してきた。強い。
私の心配もなんのその、常と変わらない超人振りで忙しい店内を回していく彩葉さんは流石である。これで勉強とかぐやとの配信活動、作曲やライブの伴奏まで完璧にこなしているのだから凄い。人生何周目だったりします?
彩葉さんのハイスペックさに感心しながら、かぐや&いろPがヤチヨカップの順位を凄まじい勢いで上げていく様を見守る……だけではなく、割と私情駄々洩れで応援する。輪廻とかタイムリープと関係なく、私はかぐや&いろPの古参ファンですので。
順調に順位を上げ、無名のライバーから大躍進を果たし、ブラックオニキスとのコラボを決定打にしてかぐや&いろPはヤチヨカップで優勝の錦を飾った。
改めて思うけど、かぐや&いろPは凄いなぁ。私が妙な小細工をしなければ実力で並み居るツクヨミのライバーを抑えてヤチヨカップを優勝できてしまうのだから。ヤチヨカップ関連に関しては下手に介入しなくてもいいのが私の胃にとても優しくてありがたい。
月人との接触でちょっとばかりのケチがつきながらも、ヤチヨとのコラボライブは大盛況で終わる。ここからは既定路線。かぐやが引退宣言と卒業ライブを告知して、ツクヨミに大激震が走った。運命の日はもうすぐだ。
かぐやが月に帰る日。彩葉さんとお別れをする日。八千年という長い旅路に足を踏み入れる日。
避けようのないターニングポイントを目前に控えて、私はどうすればいいのかと自問自答を繰り返す。輪廻崩壊を防ぐにはかぐやを月に帰し、八千年の長い旅に送り出さなければならない。
でも、それは余りにも残酷なことだ。強く想い合っている彩葉さんとかぐやを引き離し、過去の自分と大切な人が一緒にいてほしいというヤチヨの
だから、探すんだ。キラキラのハッピーエンドを。ヤチヨも、彩葉さんも、かぐやも笑って終われる未来を。
ここからが正念場だと気合を入れて私はその日を迎えた。
油断していた。卒業ライブまで辿り着いたからと、後は望む結末を探すだけだと甘く見ていた。
私の願いがどれほど浅はかで傲慢で、叶えることが不可能なものなのか。終わりのないバッドエンドが立ち塞がることになるなんて、この時は想像すらできていなかったのだ。
──最悪のバッドエンドが、幕を開けた。