超オタ公奮闘記!   作:平成生まれ、令和育ち

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多分、サブタイトルで大体察しがつく回。


カゲロウなデイズ

 かぐやの卒業ライブが始まる。月から月人が迎えにきて、そうはさせまいといろPたちが抗うライブだ。

 

 私にとって一番最初のターニングポイント。ヤチヨがいろP陣営に肩入れしたことで輪廻が崩壊し、終わりのないタイムリープが始まったある種のスタート地点。或いは、かぐやとヤチヨの輪廻の始まりとも言えるだろう。

 

 事この段階に至って、私は未だに何をするべきか決め切れていなかった。

 

 今までならば、輪廻崩壊の原因を特定して解消すれば良かった。でもこのライブに関しては、輪廻を押し進めることがそのままヤチヨの涙に繋がる。ヤチヨのハッピーエンドのためにここまで死に物狂いで戻ってきたのに、ヤチヨの想いが報われない未来へ進んでは意味がない。

 

 このライブで何かをしなければならない。でもそれが分からない。何をすればいいのか、分からないままに私はMC席でライブの司会進行を務めている。

 

 超新星かぐやの卒業ライブにツクヨミは大盛り上がり。卒業ライブの当事者たちがどんな想いを抱えているのかなんて露ほども知らないまま、ただただかぐやの引退を惜しんでいた。

 

 ツクヨミがファンたちの熱狂に包まれる中、かぐやの卒業ライブは幕を開けた。

 

 仮想の世界に月から来訪した月人が顕現する。その顔触れの中に、私にブレスレットを授けた月人を見つけて思わず懐かしんでしまった。その微笑み顔をもう一度見るまでに、私は何回タイムリープを繰り返したのだろうか。

 

 感慨に耽っている私を他所に、かぐや争奪戦は白熱。存在からして格上の月人に対していろPたちは必死に抗うも押され気味。ROKAとまみまみが落とされ、ブラックオニキスも雷と乃依が押されている。素で対抗できているのはいろPと帝の二人だけだ。

 

 ……今更だけど、なんであの二人はチート抜きで月人と対等にやり合えているのだろうか。色々おかしくない? 

 

 酒寄兄妹のハイスペック加減に心中で呆れていると、いよいよいろPたちの敗色が濃厚になってきた。今までなら、ここからヤチヨチートのブーストで押し返し、月人から勝利をもぎ取ってきた。

 

 私は今回、ヤチヨに何もしていない。もはや自分ではない、過去の自分が大切な人と共に居てほしいという願いを、ハッピーエンドの在処も見つけられていないのに邪魔できる筈がなかった。

 

 また、タイムリープをすることになるんだ。そんなことをぼんやりと考えた直後、チートの輝きが戦場を眩く照らした。

 

 チートを使用したのはいろPたち──ではなかった。使ったのはブラックオニキスだけ。いろPとROKAとまみまみのアバターは何も変わらないまま、今も本来の性能のままで月人と戦っている。

 

 これは、どういうこと? ヤチヨはブラックオニキスだけにチートを付与した? それとも……もしかして、ブラックオニキスのチート利用はヤチヨが関与していない、彼らの独断だった? 

 

 この世界線において、ヤチヨはチートを付与していない? だとしたら、どうして……ああ、いや。未来の分岐はほんの些細なことで起きる。私がここに辿り着くまでの道筋の間に起こした何かが、ヤチヨの行動や心情に影響を及ぼした可能性は十分にある。

 

 この世界線において、ヤチヨはかぐやを引き留めない道を選んだ。ただそれだけのことだ。

 

 ヤチヨのチートブーストがない以上、いろP陣営に勝ち目はない。月人の無茶苦茶なスペックと物量には、ヤチヨのチートがあって初めて対抗できるのだ。ブラックオニキスだけがチートを利用したところで、擦り潰されて負けるのが関の山だ。

 

 予想通り、いろP陣営は月人の軍勢に押され、一人また一人と消えていく。最後まで残ったのはいろPと帝だけ。その帝もチート利用の限界を迎えて力を失った。

 

 かぐや争奪戦は月人陣営に軍配が上がった。勝者たる月人の代表、あの微笑み仮面がライブを終えたかぐやの元へと現れる。

 

 一言二言、言葉を交わしてかぐやは月人たちと共に月へと戻ろうとする。その姿を私は、ツクヨミの大勢のユーザーは見送ることしかできなかった。

 

 かぐやは月へと帰り、輪廻は崩壊することなく繋がる。歴史の修正もタイムパラドックスも起きない。輪廻や歴史の修正力といった観点からすれば、これで物語はお終いなのだろう。

 

 でも、これじゃあダメだ。これじゃあヤチヨも、彩葉さんも、かぐやも幸せになれない。私が見つけると誓ったハッピーエンドはこれじゃない。

 

 だから私は手首のブレスレットに手を伸ばそうとして──唐突にいろPの元へと舞い戻ったかぐやに呆気を取られた。

 

 月人と共に月へと帰ろうとしたかぐや。しかしその姿は何故かいろPの目の前にある。側仕えのように月人たちが侍っている様子からして、我儘を言って振り切った訳ではなさそうだ。

 

 何をするつもりか。私を含めたツクヨミ中のユーザーが見守る中、かぐやはいろPに手を差し出した。

 

「──彩葉。一緒に、いこ?」

 

 無邪気な子供のように、愛しい人を誘うように、かぐやはいろPを月へと誘った。

 

「……え?」

 

 今、かぐやはなんと言った? 何をしようとしている? いろPを、彩葉さんを月へと連れて帰ろうとしている? 

 

 そんなことが、できるの? いや、そもそもそんなことをしたら輪廻が──それ以前に。その選択は彩葉さんとかぐやさんにとって、本当に正しい選択なの? 

 

「だめ、かぐや! それだけは絶対にだめ!」

 

 衝撃の展開に飛びかけていた意識を引き戻したのは、聞いたこともないヤチヨの叫び声。今まではツクヨミの天守閣からライブを見守っていたヤチヨが、焦燥に塗れた表情でその場に乱入していた。

 

 割り込んできたヤチヨに対してかぐやは罰が悪そうな顔をする。この行動が正しいものではないと分かっているのだ。それでも、伸ばした手を引っ込めることはない。

 

 かぐやの行動に戸惑っていたいろP。苦悩するように視線を泳がせ、言葉を返そうとしては呑み込んでを繰り返して──やがて、何処か諦観に満ちた微笑と共にかぐやの手を取ってしまった。

 

「だめだよ、かぐや。月がどんな場所なのか、分かっているでしょ?」

 

「……それでも、彩葉はかぐやと一緒を選んでくれた。ちゃんと、ハッピーエンドに連れてくよ」

 

「────」

 

 目を逸らしながらのかぐやの言葉に、ヤチヨは返す言葉を失って呆然と立ち尽くす。その瞳からはさめざめと涙が溢れ落ちて、過去の自分の選択に絶望している心情が手に取るように分かってしまった。

 

 これは、なに? こんな展開、知らない。かぐやといろPは一緒にいる道を選んだのに、どうして嬉しそうにしていないの? なんでヤチヨは、世界の終わりのような顔で泣いているの? 

 

 絶望と諦観と混沌が渦巻く戦場。事の成り行きを見守っていた多くのファンたちが困惑する中、やはり異変は訪れた。

 

 常夜のツクヨミを照らすミラーボールに亀裂が走る。亀裂は星降る夜空を覆い、あっという間に地上を呑み込んだ。そしてガラス細工のようにツクヨミは崩壊を始めた。

 

 輪廻の崩壊が確定した。つまり、彩葉さんを月へと連れ帰るかぐやの選択は、ヤチヨとかぐやの輪廻を破綻させるということだ。

 

 それは、それは──余りにも残酷なことだ。

 

 ただ大切な人と一緒に居たい。そんな有りふれた願いですら世界は、輪廻は認めてくれない。許してくれない。お前たちの進むべき道は一つしかないのだと、笑っているようものだ。

 

 同時にそれは、私自身にも向けられているような気がした。

 

 かぐやに彩葉さんと一緒に居てほしいと願ったヤチヨ。

 

 彩葉さんと一緒にいたいと願って月へ連れ帰ろうとしたかぐや。

 

 かぐやの願いに応え、現世を捨ててまでその手を取った彩葉さん。

 

 三人の願いは決して叶うことがないのだと。輪廻の崩壊がそれを無慈悲に残酷に証明してしまっていた。

 

 ヤチヨと彩葉さんとかぐやが笑顔で終わるハッピーエンドなんて何処にも存在しない。輪廻の崩壊とタイムリープを際限なく繰り返してきたからこそ、直感的に悟ってしまった。

 

 でも、でもそんなのって──

 

「──認めない」

 

 あの日、ヤチヨのハッピーエンドのために走り出した想いを捨てられる訳がない。倒れるまで一人で頑張り続ける彩葉さんの想いを無碍にできない。大切な人と何処までも一緒にいたいというかぐやの願いを否定したくない。

 

「私は諦めない、絶対に……!」

 

 崩れ落ちるツクヨミの真っ只中、私は自らの意志でブレスレットを起動させた。

 

 

 ▼

 

 

 それから私は数え切れないほどのタイムリープを繰り返した。

 

 ヤチヨと彩葉さんとかぐや、三人の願いが叶うハッピーエンドを探して、三人が笑顔で笑い合える未来を見つけ出すために。

 

 輪廻崩壊の原因を特定して解消する今までのタイムリープとは違う。存在すら不確定のハッピーエンドを見つけ出すために、終わりのない無限円環の中で考え得る限りの可能性を試しては失敗して、それの繰り返し。

 

 かぐやが彩葉さんを月に連れ帰ろうとする──輪廻崩壊。

 

 彩葉さんがかぐやに帰らないでと想いを言葉にして引き留める──輪廻崩壊。

 

 ヤチヨがかぐやに代わって月へ向かおうとする──輪廻崩壊。

 

 かぐやと彩葉さんが卒業ライブを行わず、月人の迎えを拒絶しようとする──輪廻崩壊。

 

 ヤチヨが──かぐやが────輪廻崩壊。

 

 彩葉さんが──ヤチヨが────輪廻崩壊。

 

 かぐやが──彩葉さんが────輪廻崩壊。

 

 何回、何十回、タイムリープを繰り返しても輪廻が全てを台無しにする。有り得たかもしれないIfの結末も、輪廻の崩壊が嘲笑うように奪い去っていく。

 

 繰り返して何巡目? 多分、今まで積み重ねてきた繰り返しの数はとうに超えてしまった。超えてなお、私の探し求めているハッピーエンドは見つからない。

 

 それどころか、どんなエンディングも輪廻の崩壊によって否定される。この輪廻の中に救いなどないのだと、幸福な結末など存在しないのだと突き付けられているような気分だった。

 

 ……否定しているのは、本当に輪廻なのか。タイムリープをしている私こそが、ヤチヨと彩葉さんとかぐやの願いを否定しているのではないか。何もかもなかったことにして、ありもしない幻想を追い続けているのではないのか。

 

 出口のない迷宮を彷徨い続けた末にそんな考えが過り始め、私の心は降り積もる絶望に折れかけていた。

 

 もう何をどうすればいいのかも分からなくて、ふらふらと彷徨っていると──

 

「──あれ、猫のお姉さんじゃん。顔色真っ青だけど、どしたん?」

 

 輪廻崩壊の中心人物が一人、かぐやと出会した。

 

 

 

 

 

 

 




職場が変わってバタバタしているので、毎日は厳しいかもぉ……。
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