超オタ公奮闘記!   作:平成生まれ、令和育ち

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ここからはオタ公以外の視点でも物語が紡がれます。

……あの、酒寄所長。芦花さんに対してもう少し手心というか、人の心とかないんか?


私は、ヤチヨの事が好き

 

 今日は待ちに待ったツクヨミのサービス開始日だ。

 

 ここまで漕ぎ着けるのに色んな苦労があった。辛い思いも、苦しい思いもたくさんした。でもやっと、肉体のない私でもみんなと触れ合い、直接言葉を交わし、歌を届けることができる世界を作り上げられた。

 

 今はサービス開始に伴って初日からログインしてくれるユーザーのみんなをお出迎えしている。久方振りの仮想空間だけど、フルパワーで分身してお出迎えしちゃう。私のために、初日から駆け付けてくれた大切なユーザーだ。蔑ろになんかできない。

 

 来てくれてありがとう。本当に嬉しいんだよ。今日のライブ、楽しんでいってね。

 

 このツクヨミで無数の星々のように輝いてくれますようにと祈りを込めて、ユーザーたちを一人、また一人と送り出していく。それだけのことなのに、楽しくて堪らない。

 

 さあさあ、お次は誰かな? 誰であっても大丈夫。おめかしして、ばっちり送り出してあげるから。

 

 そうしてユーザーをお出迎えしていると、一人の女の子がログインしてきた。初期アバターで比較的現実の容姿に近いだろうその女の子は、私を見るやにっこりと微笑んだ。なんだろう、ちょっぴり珍しい反応だった。

 

 とはいえ、やる事は決まっている。お出迎えの台詞の読み上げとチュートリアルの実施、そしてアバターのカスタマイズだ。

 

 女の子はやけに手際良くアバターのカスタマイズを進めていき──待って。え? もしかして……。

 

 淡い光に包まれると初期アバターからカスタマイズされたツクヨミのアバターへと切り替わった。その姿は八千年前、ツクヨミで路上ライブの頃からかぐや(わたし)を追っかけてくれていたアバターと全く同じで──

 

「──今日も元気にわんわんおー! ヤチヨをおっかけて三千里、時空の果てだろうと時をかけて最高速度で駆け付けまーす! 忠犬オタ公、ここに爆☆誕!」

 

 畳み掛けるような口上とポージングに意識が吹っ飛んだ。

 

 おぉ、オタ公って最初からこんなキャラだったんだ。八千年前から割と大胆な格好でツクヨミを盛り上げていたけど、ツクヨミ最初期から居てくれたんだなぁ。

 

 なんて感慨に耽っていたら、いつの間にか目と鼻の先にまで近づいていたオタ公に両手を取られていた。

 

「ヤチヨ! ツクヨミを作ってくれてほんとにありがと! 今日のライブ、マジで楽しみにしてるから。それじゃ、お先ー!」

 

「え、え? あ、ゆっくりしていってね~♪」

 

 感謝の言葉を告げるだけ告げて、オタ公は駆け足に赤い鳥居の中へと飛び込んでいってしまった。嵐のようというか、アバターネーム通りにはしゃぐワンコのような勢いだった。名は体を現すというやつかな。

 

 少しの間呆然と立ち尽くしてしまったけど、まだまだツクヨミにログインしてくるユーザーは有難いことにたくさんいる。いつまでも呆けているわけにはいかない。

 

 意識を切り替え、オタ公のことは一旦隅に置いて私はお出迎え業務を再開した。

 

 

 ▼

 

 

 ツクヨミサービス開始日の単独ライブは無事に終わった。ログインしてくれたユーザーの数は八千年前の記憶にあるツクヨミと比べるととても少なかったけれど、それでもヤッチョのために駆け付けてくれた大切な輝きだ。一人一人、大切に慈しもう。

 

 それはそれとして、もっとたくさんの人にツクヨミを訪れてほしい。でもツクヨミの知名度はまだまだ低い。VR業界自体がまだまだ発展が始まったばかりの現状もあって、ユーザー数を増やすのはそう簡単な話ではなかった。

 

 そもそもVR機器自体が高価な代物で敷居がかなり高い。昔から配信を見てくれているリスナーの中には興味を持っていても手を伸ばせないという声もたくさんあった。そもそもVRには興味がないという人も結構な数いる。

 

 八千年前の記憶にあるツクヨミと同じくらい、キラキラに満ちたツクヨミにしたい。でも私の願いに反してユーザー数の上昇は芳しくない。このままだと彩葉がツクヨミに来てくれないのではないか、なんて不安すら脳裏を擡げた時だった。

 

 オタ公が私の元へと突撃してきた。

 

 目をキラキラと輝かせて自信に満ち溢れた表情で訪ねてきたオタ公は、ツクヨミの情報の発信とライブの生配信の許可が欲しいと言った。

 

 別にそれくらい許可なんて取らなくてもやってもいいよー。むしろ私はこのツクヨミで自由に、あるがままに煌めくみんなの輝きを見たいのだから、よほど規定とかに抵触しない限りは好きにしていいんだよ~。

 

 と、そんな旨を伝えるとオタ公は言質は取ったとばかりに行動を始めて──ツクヨミの広報を専門としたライバーとして東奔西走を始めた。

 

 活動の具体的な内容はツクヨミで起きたことや注目のライバー・アーティストを情報番組風に纏めて配信したり、私が開催する生ライブの同時視聴をしたり、更にはそれらの内容をツクヨミ外部へと発信するなど。やれることは全部やって、ツクヨミへの導入を凄まじい勢いで増やしていく。

 

 もっとツクヨミを見て。もっとヤチヨを知って。もっと、もっと、もっと──

 

 オタ公がライバーとして活動を始めるやツクヨミの知名度は急上昇。オタ公のマーケティング能力は驚くほどに高くて、芳しくなかったユーザー登録数は鰻登り。今まで私に興味のなかった人や業界、企業までもが私とツクヨミへ注目を集め始めた。

 

 待って、待ってオタ公。どうして今まで見向きもしてくれなかった企業からコラボのオファーとか、スポンサーの申し出が来るの? どうして?

 

「ヤチヨとツクヨミの魅力にやっと気付いたってやつですねー。ささっ、次はこの絶賛伸びしろありありの企業にこっちから話持ち掛けちゃおう!」

 

 公認ツクヨミ広報担当という地位だけでは飽き足らず、いつの間にか私のプロデューサーみたいなこともし始めたオタ公。AIライバーという設定の私に代わって現実(リアル)で直接企業に出向いて営業染みたことまで始めた時は本気で高校生なのか疑った。

 

 そもそも私が知っている高校生って彩葉しかり芦花と真実しかりスペック高かったけど、世の女子高生ってみんなこんな感じだったかな……絶対に何か間違っているような気がするよ。

 

 彩葉、ねえ彩葉? かぐやが色々はちゃめちゃやってた時の彩葉の気持ちが今なら分かるよ。ついにはスケジュール管理やら雑務の解消にまで手を伸ばし始めたオタ公を見て、私は彩葉に心の底から申し訳ないと思うのだった。

 

 とはいえオタ公の活動のお陰でツクヨミのユーザー登録数は右肩上がり。VR技術が一般へ浸透し始めた後押しも受けて、僅か二年半ほどでユーザー登録数は五千万を超えた。

 

 未だ彩葉とは再会できていないけれど、オタ公のお陰でツクヨミにはたくさんの人たちが訪れてくれるようになった。ライブも八千年前の賑わいに負けないくらい大規模なものになった。私一人じゃ、きっとここまでツクヨミの世界を広げることはできなかっただろう。

 

 遅まきながらオタ公に改めて感謝を伝えて、ずっと疑問に思っていたことを尋ねる。

 

 どうしてオタ公は私とツクヨミのためにここまでしてくれるの? どうしてここまで私とツクヨミを愛してくれるのか、と。

 

 私の問い掛けにオタ公は初めてちょっと困ったような顔になって、少し恥ずかしそうにしながらもこう答えた。

 

「ヤチヨの歌を、笑顔を、世界をたくさんの人に知ってもらいたい」

 

現実(リアル)で自信を持てなくて孤独だった私が、ありのままの自分で居られる場所だから。誰に遠慮する必要もなく、好きなことを好きだと言えるこの場所が大好きだから」

 

「そんな世界にいる、世界一可愛くて優しいお姫様のことを世界中の人に知ってもらいたいだけ。ほんとそれだけだから、そんじゃ!」

 

 気恥ずかしさを誤魔化すようにそう締め括って、オタ公は今日も慌ただしく走り出してしまった。

 

 

 八千年、今日まで長い歳月を歩んできた。その旅路の中でたくさんの人に出会って、色んな輝きを見て愛してきた。好きになった人もたくさんいる。

 

 誰一人として忘れていない。優劣も何もない。命を賭して生きる人たちの覚悟を、私は心の底から愛してこの胸に抱えて歩んできた。

 

 そのお星さま(輝き)の中に今、私の心を眩く照らす新星が加わった。

 

 ありがとう、オタ公。私とツクヨミを愛してくれて、本当にありがとう。嬉しくて、嬉しくて、ヤチヨになって初めて涙が零れてしまった。ツクヨミを作ってよかったと心の底から思った。

 

 ねえ、オタ公。貴女は私をお姫様と慕って推してくれているけど、そんな貴女に友達になってほしいと願うのは欲張りかな? ヤチヨになって初めてのお友達になってほしいと、私の抱える事情を知ってほしいと願うのは強欲かな? 

 

 煌めくツクヨミの街並みに飛び込んでいくその横顔を、私は心から愛おしいと思ったのだった。

 

 それからしばらく時が経って、ツクヨミのユーザー登録数は一億人を突破。ライブに訪れたユーザーの中に彩葉を見つけることもできて、かぐや(わたし)が地球に訪れる日も刻一刻と近づいていた。

 

 





EX:オタ公
追加で百回以上のタイムリープを重ね、検証と情報収集を終え、これを最後のタイムリープと定めた超オタ公。積み重ねた経験と未来知識を活かして、ツクヨミの知名度とユーザー登録数上昇に多大な貢献をする。
ヤチヨとの距離感は友達ではなく推しとファンに留めようと、色々頭捏ねくり回してあんな感じの台詞が出た。
なお、無自覚にヤチヨの脳を焼いている模様。でもいいよね、女たらし彩葉さんと比べたらこれくらいは……ね?
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