超オタ公奮闘記!   作:平成生まれ、令和育ち

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続いてはこの方。

総合評価1000超え、ありがとうございます!


アスノヨゾラ哨戒中

 私、酒寄彩葉には推し活仲間なる奇妙な関係性の人がいる。

 

 その人は私がアルバイトで入ったカフェの先輩アルバイターで、右も左も分からない私に仕事の手順やコツを手取り足取り教えてくれた相手だ。

 

 先輩はカフェ内で他のスタッフや店長からもとても信頼されていて、私が対応に困った時も何処からともなく現れてはフォローしてくれる。人に頼ることを避けている私ですら、いつの間にか助けられてしまっていた。

 

 他のスタッフに聞けば、先輩は実家を出て一人暮らししながら大学に通っているそうで。しかも学費と生活費は全部自分で稼いで、成績も優秀だという。

 

 凄い、と思う。私が目指すべき目標を体現しているような人で、同時に少なくない嫉妬や羨望の念を抱かざるを得なかった。だって先輩はなんでも一人でこなしながら、両親との仲は良好だという話だったから。

 

 父を亡くし、兄は家を出て行ってしまい、厳しい母に認めてもらいたいがために何でも一人でやると決めた私にとって、先輩は私の欲しいものを何もかも持っているような人だった。

 

 私が一方的に抱える複雑な気持ちのせいで先輩との関係性はぎこちないものになるかと思っていた。先輩から声を掛けられるまでは。

 

「月見ヤチヨ、好きなんですか? 私も好きなんです」

 

 切っ掛けは私のバッグにぶら下げられていたヤチヨのメンダコぬいぐるみストラップ。それを見た先輩が、目の色を変えて話を切り込んできた。

 

 先輩は自分もヤチヨのファンなのだと口にして、バッグからヤチヨのグッズを次々と見せてくれた。そのどれもが古参でも持っている人が限られるようなプレミアものばかりで、先輩のヤチヨに対する本気ぶりを窺い知ることができた。

 

 気付いたらバイト終わりにスタッフルームでヤチヨグッズを並べて、推しトークに花を咲かせていた。私もヤチヨを女神同然に推している身。グッズの数では敵わないかもしれないけど、胸に秘める想いの丈なら負けるつもりはない。

 

 私と先輩の推しトークは店長にお小言を頂くまで続いた。やっちゃいましたね、と舌を出してお茶目に笑う先輩に、心の内で燻っていた複雑な感情はいつの間にか溶けて消えていた。

 

「彩葉さん。もしよかったら、私と推し活仲間になってくれませんか?」

 

 バイト先からの帰り道。途中まで同じ方向だからと肩を並べて歩いていた先輩が、唐突にそんな提案をしてきた。

 

 推し活、仲間……それは友達とかバイト先の先輩とは何が違うのか? 疑問を呈すれば、先輩は自信満々な表情で推し活仲間のなんたるかを語り始める。

 

 曰く、推しへの想いを共有する仲間。

 

 曰く、時に熱く推しトークで盛り上がり、推しのグッズを並べてはしゃいで、一緒に推し活をする……推しを同じくする戦友。

 

 何だか大袈裟な物言いだけど、結局は友達のことでは? そう言えば、違うと断言されて更に推し活のなんたるかを力説される。もうなんというか、普段の頼れる先輩とのギャップが凄まじい。

 

 最終的に先輩の溢れんばかりの熱意に押されて、私は推し活仲間なる未知の関係性を新たに構築することになった。

 

 推し活仲間になってからの先輩とは事あるごとにヤチヨトークで盛り上がった。だけに飽き足らず、先輩はちょくちょく私にヤチヨのコラボグッズを渡してくるようになった。

 

 お菓子だったりパンだったりエナジードリンクだったり、果てはちょっとした生活用雑貨まで。衝動買いしてしまって消費しきれないからと、助けてくださいとばかりに押し付けてくるのだ。

 

 母の教えで他人の施しに甘える訳にはいかないと断ろうとしたけど、それも先輩が他のスタッフにも誰彼構わず布教と称して配り始めたことで馬鹿らしくなった。先輩に施しとか憐れみなんて意図はないのだと気付いたからだ。

 

 それに……包み隠さず言えば、生活費も学費も自力で捻出している私からすると、食料や雑貨を貰えるというのは有り難い事この上なかった。

 

 貧乏なのよ……お金がないのよ……死活問題なのよ……。日々慎ましく生活していかないと生きていけないのよ。

 

 だいたい、私と同じで一人暮らしで学費も自力で稼いでいる身の上なはずなのに、どうして人に配るほどグッズを買い漁れるのか。実家からたくさん仕送りを貰っているとか?

 

 気になって聞いてみれば、実家からの仕送りは断っていると返された。自分がやりたいことをやるために上京したから、その分のお金は自分で稼ぐと宣言したそうだ。

 

 この人は……本当に、凄い。自分のやりたいことじゃなくて、ただ母に認められたい一心で意地張っているだけの私とは違って。自分のやりたいことのために日々を邁進している。私も、そんな風に生きられたら──

 

 疲れていたのだろう。ある日のバイトの帰り道、そんなことをぽろっと零してしまった。すると先輩は──

 

「いざとなれば助けてもらえる私と、いざという時も一人で頑張り続けている彩葉さんは違いますよ。彩葉さんは誰よりも頑張ってます。今は気付けなくてもいい。でもいつか、その頑張りが報われる日が必ずくる。それまでは、一緒にヤチヨを推していきましょう!」

 

 無責任と取られてもおかしくないような発言なのに、どうしてか。先輩の瞳には心の底から本気で私の頑張りを認めているような真剣さが滲んでいて、いつものように適当に流すことができなかった。

 

 

 ねえ、先輩。先輩の瞳に映る私はそんなに凄いんですか? 自分のやりたいことをちゃんと見つけて、そのために頑張っている先輩から見て、本当にちゃんと頑張れていますか?

 

 私には……どうしても、そうは思えなくて。嫉妬や羨望はなくなったけど、確固たる目的意識を持って生きる先輩が眩しくて、いつしか憧れにも似た感情を抱くようになっていた。

 

 先輩みたいにやりたいことを見つけて、全力で走ることができたらいいな。お母さんにも認められて、お兄ちゃんにも応援してもらって、遠い空にいるお父さんにも誇れるような何かを見つけて、全力で生きられる日が来たらいいな。

 

 そんな夢物語にも等しい願いを抱いたまま、今日も私は限界ギリギリで日々を生き延びる。夜空に浮かぶ一等星のように眩しい先輩の輝きに目を奪われ、優しい女神の歌と笑顔で命を繋ぎながら──

 

 ……いやあの、先輩? どうしてみおちゃんが転んで引っ繰り返したピッチャーをキャッチして、挙句に中身を全部余すことなく受け止めるなんて芸当ができるんですか? 未来予知でもしたんですか?

 

 やっぱりこの先輩は凄い……凄いけど、なんかちょっとおかしいかもしれない。

 

 

 ▼

 

 

 やっとこさ辿り着いた三連休。このシフトを乗り越えられたら久方振りに六時間眠られる。ゆっくりと休むことができるぅ……。

 

 だというのに今日も今日とて繁盛している我が職場。ホールも厨房も目が回りそうな忙しさ。そろそろ退勤時間が近いけど、果たして定時で上がることができるのだろうか。

 

 てんやわんやの店内を遠い目で見ていると、不意にスタッフルームの方から人に呼ばれた。

 

「彩葉さーん。そろそろ上がりの時間ですよね? 代わるので、下がっていいですよ」

 

「え、先輩? 今日はシフト入ってないはずじゃ」

 

 スタッフルームからひょこっと顔を覗かせた先輩に驚く。今日のシフトに先輩の名前はなかったはず。それなのにどうして此処に居て、既に制服に着替えてスタンバイしているのだろうか。

 

「ちょっとお店の前を通りかかって、そしたら大変そうだったから店長に臨時で入りますよーって言ったんです」

 

「ええ? いいんですか、それ」

 

「高校生が深夜帯ぎりぎりまで働くよりはよっぽどいいですよ~。店長にも許可を貰っていますしね。ささっ、私が代わるので彩葉さんは気にせず上がってください」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 正直、疲労困憊で限界ではあった。学校の授業中に目を開きながら気絶するレベルである。今はとにかく纏まった休息が欲しくて、今回ばかりは先輩の厚意に素直に甘えることにした。

 

 臨時で助っ人に入ってくれた先輩と入れ替わりでスタッフルームに引っ込み、手早く着替えて荷物を纏める。帰り支度を済ませて、いざ帰ろうとしたところで──

 

「──彩葉さん」

 

 ホールからスタッフルームを覗き込んでいた先輩と目が合った。

 

 先輩は両手に満載の料理を載せたトレイを持ちながら、意味ありげに微笑むと口を開く。

 

「今日はヤチヨの歌でも聞きながら、寄り道せずに真っ直ぐ帰ってくださいね。そうしたら、きっと良いことがありますよ」

 

「……なんですか、それ。占いか何かですか?」

 

「ふふっ、そうですね。今話題のヤチヨ占いだったりして」

 

「そんなのありましたっけ?」

 

 ファンとしてヤチヨを推している私だけど、そんなとんちきな占いの存在を耳にしたことはない。ヤチヨのことでいい加減を言うなんて、先輩にしては珍しい。

 

 私の胡乱な眼差しに対して、しかし先輩は変わらず微笑みを崩さないまま、ホールから呼ばれると元気よく返事をして戻っていってしまった。

 

 後に残されたのは意味深な先輩の言葉と態度に困惑して立ち尽くす私だけ。訳も分からずしばらく呆けていたけど、やがて考えたところで答えは出ないと割り切って職場を後にした。

 

 ──この後、私は私の人生を変える運命と出会うことになる。

 

 その運命は嵐のように私の人生をハチャメチャにして、望んでもいないハッピーエンドに連れていくと高らかに宣言した。自分のやりたいことをやって、周りも何もかもを巻き込んで突っ走る。その無茶苦茶ぶりに、気付いた時には先輩の意味深な発言と態度は記憶の片隅に追いやられていた。




EX:オタ公
千回を超えるタイムリープを繰り返して超スペックに至っていることを自覚していない悲しき怪物。
彩葉から嫉妬やら羨望を向けられていたことを自覚していなかったので、輪廻崩壊の危機を寸前で回避していたことに実は気付いていない。無自覚のガバが一番怖いことを忘れているクソボケ。
彩葉にグッズを渡すための資金源はライバーとして稼いだお金。公認ツクヨミ広報担当ライバーであるが、ヤチヨとしょっちゅうコラボ配信はするし、ビジュもキャラも良いのでそれなり以上に稼いでいる。
ヤチヨに続いて彩葉の脳もウェルダンしている自覚は、もちろんない。やっぱりクソボケ。
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