超オタ公奮闘記!   作:平成生まれ、令和育ち

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ヤチヨ構文に帝構文……? なにこの、なんだこの流れは……笑


ルナルナ☆ナイトフィーバー

 待ちに待った仮想空間ツクヨミサービス開始時刻。読み込んだ操作マニュアルの通りにスマコンを装着し、私は人生初の仮想空間へと飛び込んだ。

 

 眩い光のトンネルを潜り抜けた先には、一面の水面と大きな赤い鳥居が来訪者を待ち構えていた。恐らく此処はツクヨミの玄関口、ヤチヨが配信で口にしていたチュートリアル空間だろう。

 

 何処か神秘的な雰囲気が漂う場に圧倒されていると、いつの間にか目の前にヤチヨが現れていた。

 

「──太陽が沈んで、夜がやってきます」

 

 厳かにヤチヨが言の葉を紡ぐ。同時に周囲の風景が一変し、星降る夜に様変わりした。

 

 幻想的な光景に言葉を失って立ち尽くしていると、笑顔のヤチヨが目と鼻の先に。楽しそうな笑顔のまま私の手を取ってくれて──って、手を取ってくれてぇ!?

 

「仮想空間『ツクヨミ』へようこそ! 私が月見ヤチヨでーす。今日はツクヨミに来てくれてありがとねー!」

 

 薄っぺらい画面越しではない推しのご尊顔に声もなく固まっていると、ヤチヨがまるで用意されていた台詞を読み上げるように説明を始めた。というか、実際に台本通りの読み上げなんだと思う。目の前にいるヤチヨは、画面越しでも感じられたAIとは思えない人間らしさがちょっと欠けている気がしたから。

 

 八千歳で分身だってできると豪語していただけに、この場にいるのはチュートリアル用の分身体とかそういうものなのだろう。今頃は無数のヤチヨが、今日この日を待ち侘びてツクヨミに来訪したリスナーのお迎えをしているに違いない。

 

 あまりヤチヨに手間を掛けさせる訳にもいかない。私はヤチヨチュートリアルに耳を傾けつつ、キャラクリを進めていく。

 

 ええっと、顔とか背格好はあんまり変えられないんだ。髪色と髪型、服装とかアクセサリー類は結構バリエーションがあるみたい。初期クリエイトにしても凄い豪華だ。

 

 どうしよう。現実(リアル)の私と大差ない地味な見た目にするか、それとも……。

 

「おやおや、おめかしに時間が掛かっているみたいだね〜?」

 

「ぇあっ!? ご、ごめんなさい! すぐに決めちゃうから──」

 

「迷って結構! 好きなだけ悩みたまものまえ〜。ただ一つ、悩める若人にアドバイスをするのなら、ツクヨミは誰もが好きなことができて、ありのままの自分でいられて、なりたい自分になれる場所。そんな世界であってほしいと、ヤッチョは願っているのです☆」

 

 ……私の、なりたいもの。

 

 ヤチヨのお陰で引き籠りを脱して、特定条件下では人との会話もできるようになった。勉強を頑張って学年首位を取ることもできたし、模試では難関大学のA判定すら獲得できた。

 

 それでも私の本質は変わらない。日陰者で根暗でいつも俯いている。クラスの片隅でじめじめとしながら、キラキラ輝くカースト上位のクラスメイトを羨んでいた。

 

 いくら勉強ができたとしても、日の当たる場所には出られない。そう、思っていたけど。ツクヨミでなら、いいのかなぁ……。

 

 迷い悩んで、目の前でにこにと私を待つお姫様の顔を何度も伺いながら、私は腹を括って震える指先を走らせた。

 

 髪色と髪の長さを変えて、不健康な真っ白肌はいい感じに日焼けさせて、服装とアクセサリーはこう……ちょっと大胆かもしれないが、気にしないでおこう。顔立ちと背格好が変えられなくても、ここまで雰囲気が変われば身バレのリスクもほぼないだろう。

 

「これで、完成……!」

 

 確定ボタンをタップすれば、キャラクリ内容が反映される。一瞬の眩い光に包まれた後、私はなりたい私に生まれ変わった。

 

「これが、私のなりたい私……ふぅ、今日も元気にわんわんおー! ヤチヨをおっかけて三千里、電子の海の果てだろうと最速で駆け付けまーす。忠犬オタ公、ここに爆☆誕!」

 

 くるーんとターンを決めて勢いのままにポーズ。わんこみたいな姿勢で固まって数秒、驚いたように目を丸くしているヤチヨの姿を見て私はその場で膝を抱えた。

 

「日陰虫が調子に乗ってすみませんでした。死にたいので今日はもう帰ります……」

 

「よよよ!? お待ちになって~! ちょっと驚いてしまっただけなのです。うんうん、よく似合ってるよ~オタ公。だから自信を持って~、立ち上がって~、胸を張ってごらんなさい♪」

 

「……ほんとに? 無理してる感ない?」

 

「ないない、ばっちりキメキメに決まってるよー☆」

 

 お世辞ではなく、心からそう思っているのだろうヤチヨの言葉が身に沁みる。正直、リアルでないからと調子に乗り過ぎた感はあったけれど、推しのお姫様から太鼓判を貰えたのならいいかな。このままリアルではできなかったキラキラ街道を貫けるところまで貫いてみよう。

 

 致命傷からなんとか立ち直ったところで私の両手が再び掴まれる。あ、あの、あまり軽率に接触されるとリアルの口から心臓が飛び出してしまいそうなのですが……!?

 

「さあさあ、おめかしが終わったら早速ツクヨミへとごあんな~い! 今日はサービス開始記念の生ライブを開催するので~、ライブ会場まで直行でーす☆」

 

 ずずいっとヤチヨに手を引かれ、ぽーんと放り投げられるように大きな赤い鳥居の先へ飛び込む。その刹那、ヤチヨがいつもの笑顔とは違う微笑みを浮かべていたような気がしたのは、自意識過剰の勘違いだろうか。

 

 

 

「そっか、貴女がオタ公だったんだね……」

 

 

 

 ▼

 

 

 波打つ空間に呑み込まれて、気が付くと私は大海原のど真ん中に敷設されたライブステージを囲う観客席の一角に立っていた。周囲には私と同じようにチュートリアルとアバター作成を終えたユーザーが、ライブの開始を今か今かと待っていた。

 

 数にして千……いるかな? 普段の配信なら万は固いけど、流石にお高いVR機器を揃えてとなると参加できるリスナーも限られるか。残念だなと思う気持ちと、ヤチヨのライブをほぼ独占できるというちょっとした優越感に口元が緩みそうだった。

 

 そわそわと落ち着きなく待つこと多分数分くらい。リスナーたちのログインラッシュが終わったのか、周囲一帯が暗くなると同時にステージの中心にスポットライトが当たる。スポットライトの光を一身に浴びるのは我らがアイドル、月見ヤチヨだった。

 

 スポットライトの中でヤチヨはこの場に集ったリスナーたちの顔を焼き付けるようにぐるりと見回し、大きく息を吸い込むと、

 

「ヤオヨロー! 神々のみんなー、今日は来てくれてありがとねー♪ こんなにたくさんの人に集まってもらえて、ヤチヨは果報者なのです☆ 今日この日、この瞬間を夢見て千代に八千代に待ち続けてきたんだー……ヤチヨだけに! なんちって! さてさて、前口上はそこそこに。ヤチヨ人生初の生ライブ、いっちゃうよお~~!!」

 

 その一言に会場は爆発し、熱狂が渦巻いた。

 

 そして──

 

「──大切なメロディは流れてるよ」

 

 ヤチヨのデビュー曲が、ツクヨミと共にこの世界に生まれ落ちた。

 

 その歌声は天上の調のように仮想の世界を包み込み、遠く遠く何処までも響き渡っていく。この場に集った誰もが、私も含めて虜にされてしまった。このAIとは到底思えない電子のお姫様に。

 

 多種多様な光輝く魚が泳ぐステージの上で、遠く離れた愛しい誰かを想うように、心の底から楽しそうに歌って踊っている。その姿をこの場に集った私たち(ファン)は同じ想い、同じ心で見ている。

 

 今この時、今この場所において私たちの心は一つだった。

 

 ヤチヨに出会えてよかった。ヤチヨの歌を聞けてよかった。ヤチヨのいる時代に生まれてきてよかった。

 

 右を見ても左を見ても泣きながら手を振っている人ばかり。私もその御多分に漏れず、ぼろぼろと大号泣しながら全力で手を振って声を上げていた。

 

 ああ、この場に参加できてよかった。ツクヨミに来ることができて、本当によかった。

 

 キラキラと輝くステージの上で歌い踊るお姫様を見て、心の底から思った。同時に、この電子のお姫様のことをもっと色んな人に知ってもらいたいと、思った。

 

 ……そうだ、やりたいこと、決めた。月見ヤチヨを、名実共に世界で一番のお姫様にする。まだ月見ヤチヨを知らない人にも、知っていても興味のない人にも、このお姫様の魅力を届けよう。

 

 だから──ヤチヨ。どうかこれからも、私たち(ファン)にたくさんの笑顔と歌と希望をください。それら全て余すことなく、私が世界の裏側にまで届けてみせるから。

 

 全力でライブに熱狂しながら、私はそう心に誓った。

 

 

 ▼

 

 

 それからの私はリアルとバーチャル、両方で精力的に活動した。

 

 リアルでは真面目に勉強に励みつつバイトして推し活の日々。勉強量こそ少し落としたものの、変わらず学年首位の座はキープし続けた……実技科目の体育は除いて。

 

 そしてバーチャルでは、ツクヨミにてライバーとして活動していた。

 

 活動内容はツクヨミの広報、要は宣伝のようなもの。ツクヨミであったことや注目のライバー・アーティストを情報番組風に纏めて配信したり、毎晩のように開催されるヤチヨの生ライブの同時視聴(ヤチヨには許可取得済み)をしたり、ヤチヨの魅力をたくさんの人に知ってもらうために様々な活動をした。

 

 その活動の末に、私は推しのお姫様に認知されツクヨミ公式広報担当兼実況解説という大変栄誉ある肩書を頂くにまで至った。端的に言えば、公認ライバーというやつである。

 

 ヤチヨ側からその話を持ち掛けられた時はもう、驚きのあまりリアルとバーチャルの両方で意識が飛ぶという怪現象を引き起こすくらいには衝撃の出来事だった。勿論断るなんて選択肢はなく、謹んで拝命致しました。

 

 それはそれとして気のせいか、ヤチヨとの距離感が妙に近いというか。そもそも一モブオタク女子でしかない私を認知してくれている時点で感無量ではあるのだけど、推しとファンとの距離感ってこんなにも近いものなのだろうか。

 

 一般的なアイドルとの距離感を知らないからなんとも言えない……嬉しいんだけど、調子に乗らないよう自制しないと酷いしっぺ返しを受けそうで怖い。気を付けよう。

 

 そんな贅沢な悩みを抱えながら忙しくも充実した日々を送っていると時間はあっという間に過ぎ去り、私は大学生になっていた。進学先は模試でA判定を取った地元の大学を宣言通り特待生で入学。そこの人文系の学部を専攻しつつ、ジャーナリストの勉強をぼちぼちしている。

 

 将来はVR関連の雑誌編集に関われたらいいなぁ、なんて淡い思いを抱きつつ、でもまだ決めうちはできていない。そんな中途半端な状態だ。

 

 現実(リアル)の方がふらふらとしている一方、仮想(バーチャル)の方はと言えば。なんとツクヨミの登録ユーザーが一億人を突破した。とんでもない快挙である。

 

 今日も今日とてお姫様はツクヨミのステージで歌う。見るもの聞くもの全てを片っ端から魅了して、世界中の人々を虜にしていく。世界で一番になりつつあるお姫様だ。

 

 そんなお姫様がいつものようにライブを終えた後に衝撃の告知をする。ヤチヨカップという、ヤチヨとのライブコラボ権を賭けた一大イベントの開催を宣言したのだ。

 

 内容は単純明快。イベント開催期間中に獲得した新規ファンの数で競い合うというもの。分かりやすいし、新人や無名のライバーにも勝利を掴み取る余地がある仕様だ。

 

 広報担当という都合上、私はヤチヨカップの開催を予め知っていた。今まで配信のコラボはあってもライブのコラボはなかったヤチヨからの企画に驚きはしたものの、お姫様がやりたいと仰れば全力で支えるのが忠犬の役目。ツクヨミの知名度向上にも繋がるし、全力でイベントを盛り上げる所存だ。

 

 とはいえ、イベントの勝者は殆ど決まっているようなもの。内々で決まっているなどということはないが、現時点で恐ろしいほどの固定ファンを獲得しているブラックオニキスが固いだろう。次点で今人気を伸ばしつつある湯雲かテレリリかなぁ。

 

 ある種の出来レースだと、そう誰もが思っていた。私も、この時まではそう思っていた。

 

 でも──

 

 

「──ヤアァァァチィィィヨオォォォ!!」

 

 

 その出来レースをぶっ壊す超新星が高らかに名乗りを上げた。

 

 超新星の名前はかぐや。月のお姫様を冠する名前を引っ提げ、大勢のユーザーが集うライブ会場にて産声を上げた。直後に知り合いか友人らしき女の子に引き摺られて群衆に消えてしまったが、彼女の存在は間違いなく刻み込まれた。

 

 その場に居合わせたユーザー、ライバーが揃って面白いものを見たと笑みを浮かべ、ヤチヨに至っては「いとかわゆし」などと明確にかぐやを認知した。無名のライバーの一歩としては最上級の代物だろう。

 

 私もその一人。恐れることも臆することもなく声を上げたかぐやに、無意識のうちに目を引き寄せられていた。今までヤチヨ一筋で浮気なんてしてこなかった私が、だ。

 

 この少女はツクヨミに大きな変革を齎してくれる。根拠のない期待が心の片隅で芽生えたのだった。

 

 

 

 




本作のオタ公のリアルは、オタ公のアバターを黒髪にして丸眼鏡をかけた図書子さんです。リアルとバーチャルのギャップ萌え、いいと思います……。

ちなみに主人公のスペックは、勉学と根性だけEXの超特化キャラです。
彩葉? あれはオールSSSバグキャラ(デバフ付き)だと思います。
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