超オタ公奮闘記!   作:平成生まれ、令和育ち

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ツクヨミ大戦争(バトルフィールド)開幕です。


Encore:瞬間シンフォニー

 オタ公の宣言がツクヨミに轟くや否や、KASSENのフィールドに参戦を望んだ大勢のユーザーが雪崩れ込む。誰もがかぐやへの溢れんばかりの想いを抱え、今にも月人の手で月へと連れ戻されかねないお姫様の元へと走り出した。

 

 文字通り大軍と化したツクヨミ中から集ったかぐやファン。その押し寄せる勢いたるや、囚われのお姫様的なポジションであるはずのかぐやが「みんな、ちょっと自由すぎじゃんね」と顔を引き攣らせるほどのもの。

 

 しかし表情を引き攣らせながらも、かぐやは自分への想いを叫びながら走ってくるファンに思わず笑みを零さずにいられない。自分はこんなにも多くの人たちを魅了して、別れを惜しんでもらえている。それがただ嬉しくて、消えない思い出がまた一つ、一つと増えていく。

 

 かぐやが感傷に浸っている一方、月人たちはといえば月への帰還を急ぐ──なんてことはない。むしろ逃げるどころか千に届くかという大軍勢を迎え撃たんとしている。何故ならば、それがオタ公との契約だからだ。

 

「ヤチヨのチートは止めるからさ、代わりに思い出作りに最後まで協力してよ。おたくらのお姫様のためにもさ」

 

 千回をも超えるタイムリープという偉業の果てに交渉を持ち掛けてきた人間。意図せずとはいえ終わりのない苦難を与えてしまったという負い目と、月の住人であるかぐやとヤチヨのために走り続けたのその心意気と覚悟に敬意を表し、月人は全面的に協力することを約束した。

 

 元よりオタ公の目的と月人の目的は反目しない。かぐやを月に連れ帰りたい月人と、かぐやにできうる限りの思い出の花束を贈った上で見送り、その上で地球へと送り出してほしいオタ公。むしろ利害で言えば一致しているともいえる。だからこその協力関係だった。

 

 ツクヨミの世界が書き換えられていく。オタ公がヤチヨ本体に接触し、そこからミニ月人が干渉して一時的に管理者権限を手にしたのだ。今のツクヨミには管理者が二人いるような状態だった。

 

 ツクヨミを滅茶苦茶にする意図はない。しかし共犯者であるオタ公の命令(オーダー)は可能な限り完璧に完遂してやりたいところ。故に、月人もまた地球人が好むだろう文化を再現する。

 

 始まるのは攻撃陣営と防衛陣営に分かれ、攻撃側が防衛側が守る拠点を攻撃して占拠し、防衛線を押し込んでいくゲーム。

 

 攻撃側は有限の残機チケットを削られ切る前に全ての拠点を占拠して、防衛線を突破すれば勝利。防衛側は攻撃側の残機チケットを全て削り切ってしまえば勝利。一昔前のFPSで流行ったオーソドックスなゲームモードだ。

 

 ただ、月人が監修したことで規模がぶっ飛んでいる。従来のゲームであれば多くても百人規模のぶつかり合いが限度のところを、参加人数上限なしで始めたのだ。そのおかげでKASSENフィールドを埋め尽くす軍勢の壮観なこと。人智を超える存在である月人であっても、チートがあろうとなかろうと圧倒されてしまうような有様である。

 

 加えて武器の仕様変更。飛び道具の代わりに戦場を飛び交うのは吹き出しコメント、近接武器は全て花束と巨大ペンライトに固定。この戦いはあくまで月に帰るかぐやへ想いを届けるための儀式だからだ。

 

 その代償としてゲーム仕様の改造と武器の修正、押し寄せるユーザーによって処理落ちしかているツクヨミサーバーの負担の軽減と。肉体を持たない思念体である月の住人をして「ちょっと無理ぽ」という弱音が出そうになる状況だ。

 

 しかし戦いの幕を開けてしまった以上はもはや引けない。歩兵代わりの灯篭月人を無限に召喚し、八百万の神々を模したエネミーとなって押し寄せる軍勢を迎え撃つ。その上で、傍に立つかぐやをさり気なく防衛最終拠点となっている城の特設ライブステージへと導く。

 

「えっ、まだ歌っていいの?」

 

 もちろん、と微笑みの仮面を貼り付けたような月人はかぐやをステージへと促す。これは大勢の地球人が望んだアンコールだ。であれば、主役であるかぐやが応えなければ始まらない。

 

「──っ、ありがと。逃げちゃって、ごめんね。最後のもいっかいだけ、全力で歌ってくるよ!」

 

 本当は最後の一回ではなく、何度でも歌いたい。そんな願望を押し込めて、かぐやはアンコールに応えるべくステージに立った。

 

 卒業ライブでアンコールに応えるという型破りに誰もが苦笑いするが、それでこそかぐやらしいと最後は全員が揃って笑う。笑って、地上にて輝く星となって推しの元へと想いを届けるべく駆けるのだ。

 

 そして──月軍とツクヨミ軍は真正面から激突するのだった。

 

 

 ▼

 

 

「何が、起きてるの……?」

 

 かぐやを月人から守るために、これから先も一緒にいるために戦った。芦花と真実、それからお兄ちゃんたちにも助けを求めて、持てる力の全てを出し切って戦い抜いた。

 

 でも月人には敵わず私たちは敗北した。ブラックオニキスがチートまで使ってくれたのに、かぐやを守ることができなかった。

 

 奮戦虚しくかぐやが月人の手で月へと連れ帰られてしまう──そう思った時だった。ツクヨミの公認広報ライバーで今回の卒業ライブのMCを務めていた忠犬オタ公が、突如としてEX:月人戦なるものを開幕した。

 

 始まったのは大勢のプレイヤーが入り乱れる拠点占領ゲーム。月人陣営とツクヨミ陣営に分かれて、かぐやの元へとファンたちが溢れんばかりの想いを伝えんがために突貫するという光景があちこちで展開されている。

 

 なんというか、無茶苦茶だ。無茶苦茶だけど、かぐやの卒業ライブには相応しい無茶苦茶振りというか……ヤチヨカップ優勝前の空気を思い出す。って、こんなところでぼけっと感傷に浸っている場合じゃなかった。

 

 私たちは月人相手にKASSENで負けた。でも、オタ公が開幕宣言したEX月人戦によって意図せずして二度目のチャンスを得られた。かぐやを取り返すなら、今この瞬間を置いて他にない。

 

 乃依と雷、芦花と真実は残機切れで戦線を離脱してしまっている。残っているのは帝ことお兄ちゃんだけ。

 

 いつの間にか隣に並んでいた帝とアイコンタクトを交わし、いざ戦場に飛び込もうとしたところで──

 

「──はいはい、そこまでー。此処から先は一方通行でーす」

 

 この混沌(カオス)を招いた張本人たるオタ公が出鼻を挫くように道を塞いだ。

 

 大勢のかぐやのファンを戦場へと駆り出したオタ公。かぐやに想いを伝えるためならば誰でも奮って参加しろと言った癖に、私たちの前に立つオタ公の目には「ここから先は通さない」という強い意志が宿っていた。

 

「なんの、つもり? どうして邪魔するわけ?」

 

「なんのつもりも何も、ここから先はアンコールであって延長戦じゃない。いろPたちは負けたんだよ。あっちで犇めき合ってるファンたちと一緒に、かぐやに送る言葉を届けるだけなら別にいいけどさ……違うよね?」

 

「……っ」

 

 改めて敗北を突き付けられて、武器を握る手に力がこもる。あと少しとか惜しいとかそんな次元の話ではない。戦いのルールや全てにおいて譲歩してもらいながら、手も足も出ずに負けたのだ。

 

 ここは潔く敗北を受け入れて、月へと帰るかぐやを見送るのが筋。そう言われてしまえば、反論はできないのかもしれない。

 

 でも、私は……かぐやと──。

 

「はいはい、俺の可愛い妹を苛めるのはそこまでにしてくれよ、オタ公。妹がやっと見つけた絶対に譲れないものなんだ。邪魔すんのなら、無理やりにでも通させてもらうぜ?」

 

 帝が武器である棍棒を肩に担ぎながら前に出る。するとオタ公はあからさまに呆れたような顔で口を開いた。

 

「帝はチートのフォローで私に借りがあるはずなんですけどー?」

 

「それはそれ、これはこれってな。でも礼は言っておくぜ。ありがとよ」

 

 そうだ、オタ公はブラックオニキスのチート利用をフォローしてくれた。かぐやのためにEX:月人戦なるものも開催してくれた。それなのに、どうして私たちの行手を遮るのか。あなたはいったい誰の味方なわけ? 

 

 今にも飛び出してしまいそうな激情を呑み込み、変わらず薄ら笑いを浮かべ続けるオタ公を睨む。

 

「わー怖い怖い……でも、いろPはそれでいいよ。負けを認めてお利口さんにかぐやを見送るなんて解釈不一致だし、っていうかそれされると困るのはこっちだしね」

 

「何言ってんのか訳分かんないだけど?」

 

「分かんなくていいよー、今はね」

 

 ふざけているのか真面目に言っているのか、オタ公の考えがまるで読めない。敗北した私を戦場には行かせないと言いながら、同じ口で諦めるのは解釈不一致などと宣う。オタ公は私にどうしてほしいというのか。

 

 訳が分からず混乱していると、棍棒から剣を引き抜いた帝がオタ公の前に立った。

 

「悪いけどさ、悠長にお喋りに付き合ってる余裕はないんだわ。押し通るぞ」

 

「んー、まあそりゃそうなるよね。しゃーない──先輩、お願いします」

 

 オタ公が小さく呟いた直後、オタ公の横を擦り抜けて一つの影が躍り出る。その影は手にした刀を振り翳し、剣を抜いていた帝に襲い掛かった。

 

 鳴り響く剣戟と散り咲く火花。二つの刃が正面から激突し、帝は襲撃者の正体を見て目を見開いた。

 

「おいおい、よりによってあんたまでそっち側かよ。やっぱり公乙コンビできてたんじゃねーか」

 

「可愛い妹のためならチートまで使っちゃうシスコンなプロゲーマー帝君には言われたくないねー」

 

 帝に襲い掛かった影の正体は乙事照琴。オタ公とツクヨミのイベントでしょっちゅう組んでは実況解説をしている元プロゲーマーのライバーだ。

 

 この土壇場でオタ公以外の妨害者の乱入。しかも元とはいえ帝と、お兄ちゃんと同じプロゲーマーだ。気を抜いて戦える相手ではない。

 

「訂正しろよ、照琴。可愛い妹と推しの笑顔のためだぜ。これで黙ってちゃあ、みんなの帝様の名折れだろ?」

 

「じゃあ僕も。無茶苦茶な後輩で推しのお願いのために訂正してもらおうかな」

 

「……ふ」

 

「……は」

 

 重なる刃越しに短く笑みを交わし──瞬間、二人の姿が掻き消えた。私の反射神経でも追いきれない速度で激突を繰り返しているのだ。

 

 現役プロゲーマーと引退プロゲーマーの対決。イベントにすればさぞ盛り上がるだろう激戦が繰り広げられる。お兄ちゃんがめちゃくちゃに強いのは知っていたけど、それにしても凄い。これが、プロ……。

 

「いやー、流石はプロ。パンピーの私たちじゃあ割って入るなんて無理無理。ってなわけで、男子は男子、女子は女子で仲良くやろっか?」

 

 プロゲーマーの激突に圧倒されていると、オタ公がお茶でもどう? と言わんばかりの軽い口調で誘ってくる。そうだ、いつまでもこんなところで惚けている時間はないんだ。

 

 立ち塞がるオタ公に対して武器を構える。ツクヨミでも有数のライバーであるオタ公だけど、ゲームの腕に関しては目立った話を聞かない。プロと比べたら私なんてまだまだだけど、ゲーマーですらないオタ公が相手なら勝てるはずだ。

 

「意気込んでるところごめんだけど、月人相手に一乙もしないいろPと真正面から勝負とか無理だから。だから、先に謝っとくねー」

 

 間延びさせた謝罪の直後、オタ公のアバターをエネルギーの奔流が包み込む。無数の警告メッセージが中空を駆け巡り、褐色の肌を禍々しい紋様が走った。間違いない、これは──

 

「──チートコマンド、モード犬神。なーんてね。黒鬼も使った訳だし、文句はなしね。ずっこいのは認めるけど」

 

 鉤爪付の籠手を装備してオタ公がほんの少し申し訳なさそうな顔をする。いや、普通に狡いし卑怯だし、そこまでする? って声を大にして言いたい。

 

 でも文句を言ったところでオタ公がチートの使用を止めるとは思えない。不利な状況は変わらず、時計の針は無慈悲に残酷に進み続けている。やるしか、ない! 

 

「泣いて謝っても許さんから……!」

 

「いいね、いろPの訛り。掛かっておいで──きっちり悔いを残させてあげるからさ」

 

 両手に武器を握り締め、私はオタ公へと突貫した。

 




EX:オタ公
彩葉とかぐやが互いに満足してお別れしてしまう可能性をなくすために悪役ムーブしているわんこ。慣れない悪役にちょっと表情筋が引き攣りそうではあるが頑張っている。

チートコマンド:モード犬神
月人が掌握した管理者コマンドを利用したチート。加速・攻撃力増加・防御力増加・分身までなんでもござらっせ。でも中身がゲーマーに毛が生えた程度の素人なので、本気のプロなら攻略できる。なおいろP。

月人
コラボライブでヤチヨにめっ! された後にこっそりオタ公に接触された。事情を聞いて、オタ公自作のブレスレットを見て、割としっかり敬意を抱いている。あと、月の住人のごたごたに巻き込んでごめんね、とも。
今回の卒業ライブに関しては全面的にオタ公の要望を叶える所存……でも結構限界ギリギリ。

先輩:乙事照琴
はい、先輩でした。色々と捏造盛り盛りのキャラになっています。
お騒がせな後輩で密かな推しであったオタ公にお願いされて祭りに参戦。プロ時代に帝とは面識があった。というか公言していないがプロ引退した切っ掛け。オタ公のお願いとは別に、色々と因縁を清算しようとしていたりしていなかったり。
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