超オタ公奮闘記! 作:平成生まれ、令和育ち
それからの私は変わらずオタ公としての活動を継続、彩葉さんのバイト先の先輩と推し活仲間も維持し続けることになった。
今までとそこまで変わらない日常──という訳でもない。
まず、オタ公としての活動にヤチヨ&いろPのプロデューサーのようなものが加わった。かぐやが引退したと認識しているファンたちが二人の活動を受け入れられるように、広報として仮想現実問わずに走り回った。
別にヤチヨといろPにお願いされた訳じゃない。私が自発的にやりたくてやっていることだ。八千年間待ち焦がれてきた再会を果たしたのなら、ここからはもっと欲張りにやりたいことを目一杯やってほしいと思ったから。
それから、彩葉さんが実現したいことを応援するためにも色々と奔走した。また一緒にパンケーキを食べたい、そんな
でも親御さんと担任の先生が揃う三者面談に部外者の私を召喚するのはちょっと……ツクヨミ運営側の人間としての意見をとか、ヤチヨの代弁者としてと言われても、私でいいんですかそれ?
あと、当たり前のように私を憧れの先輩で命の恩人みたいに紹介するのはやめてください。恥ずかしくて死んでしまいます。命の恩人はヤチヨのことだと思うんですけど……私も十分恩人ですか、そうですか。
変化は他にもある。歴史の修正によって不安定になった私にヤチヨが殆ど付きっきり状態になった。分身できるとはいえ、彩葉さんと一緒に居たいだろうヤチヨの時間を奪うのは申し訳ないからやんわり断ろうとしたけど、笑顔のヤチヨに秒で却下された。ぴえん。
別に私のことは──というと彩葉さんも一緒になってお説教してくるので言わない。でもちょっと四六時中推しに見守られるのは心臓に悪いというか……え? 千回以上もタイムリープしながら見守り続けた私に言われたくない? ごもっともです。
何を言っても、私の方が限度越え過ぎて勝てない。私って実は重い……?
でも流石に彩葉さんと同居だけは断固として固辞した。そこは聖域だから、流石に踏み込めない。いずれヤチヨと彩葉さんとかぐやの願いが果たされた時のために、その部屋は取っておいてください。
あ、でも維持費はいくらか貢がせてもらっても……ダメですか? ヤチヨと一緒に稼ぎますか、そうですか。尊くて堪らないです、応援します。
それ以外のことで変わったことはあんまりない。変わらず大学に通ってバイトして、ツクヨミで広報ライバーと現実ではスポンサー企業との折衝や打ち合わせ。時折、現実のヤチヨの部屋をお掃除したりとそんな毎日。
ヤチヨと彩葉さんから倒れないか心配されるけど、もう慣れたというか……充実しているし、やりたいことを全力でやれているから大して苦でもない。それは彩葉さんも同じなはず。高校二年の秋に理転して研究の道に踏み込もうとしている彩葉さんにだけは言われたくないです。
悩みなんて、将来どうしようかなぁくらい。それも薄ぼんやりとは見据えつつあるので、贅沢なことに不安の類はあまりなかった。
そうして私は日々を過ごしていき、大学を卒業して社会人となって、それから──
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東京某所に設立された研究所。設立から五年と経っていない真新しい建物のエントランスを顔パスでスルーして廊下を進み、もう見慣れた研究室のインターホンを鳴らす。すると中からぱたぱたと走る音が聞こえ、間もなく扉が開いた。
室内から出迎えてくれたのは十年の月日で立派な京美人に成長した研究所の所長こと彩葉さんだ。
「忠子先輩! 一番乗りですね!」
「すみません、今日が待ち遠しくて早く来ちゃいました」
「いえいえ、みんなが来るまでゆっくり寛いでください」
彩葉さんに促されて研究室内の適当な椅子に腰を落ち着ける。本日の主催者である彩葉さんはにこにこ笑顔で二人分のコーヒーを淹れて私の対面の席に座った。
「嬉しそうですね、酒寄所長」
「それはもちろん。やっとここまで辿り着きましたから。これもみんなの協力のおかげです」
「ふふっ、それはよかったです」
穏やかに笑って、ベッドの上に横たわる『かぐや』のアバターボディを眺めた。
あれから十年。彩葉さんは三者面談で宣言した通り仮想空間ツクヨミに五感の実装、研究所の設立から今日まで幾度もの技術的ブレイクスルーを果たし、ついにアバターボディの試作一号機を完成させた。今日は出資者を呼び集めて行うお披露目会、もとい『かぐや』の誕生日パーティーだ。
「なんだか他人事みたいな顔してますけど、先輩のおかげでもある自覚あります?」
「うーん……少しだけ?」
「先輩がスポンサー集めに走り回ってくれたから、資金集めに苦労せず研究に集中することができたんです。本当に感謝してもし足りないです」
真剣な顔で深々と頭を下げる彩葉さんに、気にしないでと首を振る。私はただやりたいことをやった、それだけのことだから。
あれから十年。彩葉さんが
その活動の中には、ツクヨミへの五感実装や『かぐや』のアバターボディ製作に必要な資金集めもあった。といってもやったことは今までと変わらず、提携できそうだったりスポンサーになってくれそうな企業を探して売り込みに行ったくらい。雑誌の取材と並行してできるところもあったので、そこまで苦ではなかった。
そもそも彩葉さんの研究分野は様々な方面が注目するものでもあったから、スポンサー集めはそこまで難しくなかった。特に仮想空間への五感実装を成し遂げてからは楽なもの。医療関連の企業なんかは自分たちから売り込みにきたこともあった。
とはいえ仕事しつつオタ公として活動するのは中々きついものがあった。一度過労で倒れて彩葉さんとヤチヨに本気の説教をされたし。けど……支えてくれる人もいたから、なんとかここまでやってこれた。
それはヤチヨであり、彩葉さんであり、そして──
思わずにやけそうになる頬を気合いで押し留めて、左手の薬指に嵌められた指輪を撫でる。すると不意に視線を感じたので顔を上げれば、生温かい目をした彩葉さんと目が合った。
「幸せ一杯ですねぇ、先輩。結婚式はいつでしたっけ?」
「え、えっと、まだ決まっていなくて。できればヤチヨとかぐやのアバターボディ製作に一区切りがついてからがいいかなと」
「別に気にしなくていいんですよ? ね、ヤチヨ?」
彩葉さんが呼び掛けると机の上に立て掛けられていたタブレットに笑顔のヤチヨが現れた。
「もちろんなのですー。忠子は忠子の幸せをちゃーんと掴んでね? あ、でもボディが間に合ったらヤチヨとかぐやも式に参列しちゃおっかなぁ〜」
「任せて。完璧に仕上げてみせるわ」
ヤチヨの願望に全力で応えるつもりの彩葉さん。彩葉さんがやると言った以上、私の結婚式にヤチヨとかぐやが参列するのは確定事項だ。彼女はやるといったらやる女性である。
豪華な顔触れになりそうだなぁ、と今から遠い目になってしまう。でも推しに幸せを祝福されるなんてファン冥利に尽きるというもの。感無量だ。
そんな他愛のない話に花を咲かせていると、来客を告げるインターホンの音が鳴る。どうやら私以外の招待客も到着したようだ。呼んでいたのは高校時代からの親友である芦花さんと真実さん、それからリアルお兄ちゃんこと帝と愉快なお仲間二人だったかな。
額に差はあれど全員が彩葉さんの研究に出資している面々だ。その中でも親しく、ヤチヨとかぐやの事情を知っている面々が集められたのだろう。その顔触れに呼んでもらえたことを光栄に思う。
彩葉さんが招待客を迎え入れるために席を立つ。ぱたぱたと離れていく背中を見送り、私は机の上のタブレットの中にいるヤチヨを見た。
「ヤチヨ」
「ん〜? どうかしたのかな?」
「忘れていませんよ、約束。だから心配しないでください」
「────」
私の言葉にヤチヨは面食らったように目を丸くし、次いで呆れたような申し訳なさそうな、それでいて嬉しそうな微苦笑を浮かべた。
「忘れてくれたっていいんだよ〜? あれはその、ちょっとした気の迷いだから」
「忘れません。結婚しても、この先に何があったとしても。
「それはぜーんぜん大丈夫。待つのは慣れてるからね〜☆」
一ミリも笑えない冗句を飛ばすのはやめていただきたい。苦笑いしか返せなくなってしまうから。
ヤチヨと私、二人だけの約束。それが果たされるのは、まだ先のこと──
EX:オタ公
社会人になってもライバー活動やら営業活動をしていた化け物。でもちょっと無理が祟って倒れた。彩葉とヤチヨにガチ説教を受けてからは活動を縮小しつつ、自分のプライベートにも目を向けるようになった末、公私共に大変お世話になった先輩とゴールした。
ヤチヨと何かしらの密約を交わしている……。
先輩
後輩で推しの忠子とゴールインした。
実は一度競技勢に復帰、帝にリベンジを数年活動して公式戦で帝を下して勝ち逃げ引退しているとか色々あるけど、男の話はまあええか。今はツクヨミライバーとして公私共にオタ公を支えている。
EX:彩葉
やりたいことに理解を示し協力してくれるオタ公のおかげで資金難に陥ることもなくアバターボディまで完成させた。次はかぐやを本当の意味で人にしようと画策している。
巷では錬金術師だの、完璧で究極のオタクとか噂されている。そのうちノーベル賞を貰うと思う。
芦花の誕生日にツクヨミでサシ飲み膝枕という大罪を犯した魔性の女。かぐやとヤチヨも包囲網をじわじわと形成しているので、遠からず芦花は陥落する。頑張れカリスマ美容インフルエンサー。
EX:ヤチヨ(かぐや)
ヤチヨは力を溜めている……。
月人
ソワソワ……。
オタ公の結婚に関して、ご意見はたくさんあると思います。とりあえず、次の話が最後です。そこまでお待ちください……。