超オタ公奮闘記! 作:平成生まれ、令和育ち
超かぐや姫好きとも巡り合えるし、モチベにもなるのでどしどし感想ください笑
日間に超かぐやが増えつつある……最高や……
ふと目を覚ますと、私は光一つない暗闇の中にいた。
「ここは……私は、いったい……」
何があったのか、直前の記憶を思い返してはっとする。そうだ、私は崩壊するツクヨミからログアウトすることなく残り続けて、それで……ヤチヨが──
「──ヤチヨ!? ヤチヨは!?」
目の前で幻のように消えてしまったヤチヨを思い出し、慌てて周囲を見回す。しかし何処を見ても広がっているのは先の見えない真っ暗闇のみ、ヤチヨどころか自分が今何処にいるのかすらさっぱり分からない状況だった。
「ここ、どこ……?」
ヤチヨが見つからないのも不安だけど、それと同じくらい自分が置かれている状況が分からなくて不安が湧き上がってくる。
ツクヨミの崩壊の最中、大半のユーザーは自身の意思でログアウトしていた。残っていた人もシステム側で異常を検知したのか、強制ログアウトされていったのは照琴さんの様子からして間違いない。
なら、私は? 取り残されてしまった私は、未だ仮想の世界の何処かを彷徨っているのだろうか。ログアウトは……でき、ない。
コンソールも呼び出せない、現実の身体を動かすこともできない。一昔前に流行った仮想空間に閉じ込められる小説や漫画の展開が脳裏を過り、背筋を恐怖が走った瞬間──真っ暗闇の中に奇妙な渦が出現した。
渦は次第に大きくなり、やがて人間大の大きさを形作る。そして一人? 一体? の異形が出現した。かぐやの卒業ライブに表れたエネミー、その総大将のような立ち位置にいた月人だ。
微笑みの仮面を貼り付けたような月人は私を見下ろすと、徐にお辞儀をしてきた。思わず反射的にお辞儀を返すと、月人は顔だけ上げて穏やかに微笑んだ。ように感じた。仮面みたいな顔は微塵も動いていないから感覚だけど。
月人は頭を上げるとそのままゆっくり近付いてくる。
「え、あの、ちょっと待ってください。何がなんだか──」
オタ公のアバターよりも図体のでかい月人に迫られて思わず素の反応が出てしまう。お辞儀のお陰で不気味だとか怖いとかいう感情は薄れているけど、それはそれとして正体不明の存在に迫られたら普通に身構えてしまう。
反射的に距離を取ろうとして、それよりも早くぬるりと伸びた月人の手が私の手首を掴むのが早かった。
──瞬間、私の脳内に莫大な量の情報の洪水が流し込まれた。
「あ──え?」
かぐやが、月からやってきた住人で。『ツクヨミ』は月の世界に似た構造。月人は思念体。月から逃げたかぐやを迎えにきた。迎えの儀式に、失敗した。輪廻が崩壊、原因不明。歴史の修正力を確認。タイムパラドックスを検知。タイムトラベルの痕跡を確認。使用者、推定────。歴史の狭間を彷徨う意識生命体を発見。接触を、開始──
「あ、が……なに、これ……!?」
頭が、割れそうだ。模試前の追い込みで五徹した時だって、ここまでの痛みはなかった。いや、そんな次元の話じゃ、なくて……意識が、潰れそう……パンクして──
海水に放り込まれた淡水魚みたいに喘いでいると、不意に頭を握り潰すような圧力が消えた。突如として訪れた解放感に膝から崩れ落ちる。し、死ぬかと思った……。
「今のは……なに?」
ぜえはあ荒い息を吐きながら、微笑み仮面を見上げて問い質す。月人は申し訳なさそうに小さく頭を下げながら、再び手を伸ばしてくる。
「ま、待って。あんなの何回もされたら廃人になっちゃいます──」
飛び退いて逃げようとしたけれど、先の情報爆弾によって疲弊した身体はいうことを聞かない。ろくな抵抗もできないまま、私は再び手首を掴まれて──覚悟していた苦痛は訪れなかった。
「えっと、いったい何を……これは?」
月人の謎の行動に疑問符を浮かべて、ふと手首に感じる重みに目を向ける。そこにはいつの間にか月明かりを落とし込んだかのような輝きを放つ白銀のブレスレットが巻かれていた。
「プレゼント? この状況で?」
訳が分からず首を傾げていると、不意にブレスレットが眩い光を放ち輝き始めた。って、ちょっとぉ!?
「な、なんですかこれはぁ!? 説明! 説明をしてくださーい!?」
変わらず微笑みの仮面を貼り付けたままの月人に訴えるも、月人はいってらっしゃいとばかりに手を振るだけ。いったい私を何処へ送り出そうとしているの!?
パニックになってブレスレットを引き剝がそうとするも、まるで接着剤か何かで固定されてしまったかのように微動たりとしない。
必死の抵抗虚しく、私の意識はブレスレットから放たれた眩い光に呑み込まれて──
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「──太陽が沈んで、夜がやってきます」
ふと気が付くと、目の前にヤチヨが立っていた。
「……え、ヤチヨ? ヤチヨ、どうして?」
崩壊するツクヨミの中で、幻のように消えてしまったはずのヤチヨが目の前にいた。
激しく困惑する私を前にヤチヨはいつものニコニコ笑顔で口を開く。
「どうしてと聞かれたのなら、答えてあげるのが世の情け~なーんてね。此処は仮想空間ツクヨミの玄関口で、ヤッチョがみんなのお出迎えをしているからいるのです☆ ヤッチョに会えた嬉しさで忘れちゃったのかな~?」
「ツクヨミ……ツクヨミは、でも……夢?」
「夢のような世界だって言いたいのかな? ふふっ、そう言ってもらえるのはヤチヨ冥利に尽きるけど、その台詞はツクヨミの全部を見てから言ってほしいのです~。みんなに喜んでもらえるように、た~くさんキラキラを準備してきたから♪」
「……そっか。そう、だよね」
さっきまでの出来事は長い長い夢で、今この瞬間が現実。ヤチヨが作り出したツクヨミにログインできる嬉しさのあまり、とんでもなく長い白昼夢か妄想の世界に浸ってしまっていた。きっと、そうに違いない……。
「ささっ、いつまでも突っ立ってちゃあ始まらない! 可愛く綺麗におめかしして、ツクヨミの世界へいざや参られ~ん☆」
「……うん」
胸中を覆う疑問と不安の暗雲に蓋をして、私はいつかの時と同じようにキャラクリを進める。キャラクリを始める前から右手首に巻き付いていたブレスレットの重みからも目を逸らして。
前と同じ忠犬オタ公のアバターを手早く組み立て、完了ボタンをタップする。一瞬の光に包まれた後、私の見た目は長年愛用してきた姿に様変わりした……改めて思うけど、キラキラしたいからってこの格好は色々と大胆が過ぎたよね。
内心で遠い目になっていると、ふとヤチヨの驚いた表情が目に留まる。そういえば前の時もヤチヨは私の姿と突然の奇行に驚いて固まっていたけど、こうして落ち着いて見ると何かおかしいような……。
疑問の答えを出すより前にヤチヨが驚きから復帰し、いつもの優しい笑顔に戻って私の手を取った。
「おめかしは終わったね? 心の準備は? ヤッチョにお祈りは済んだかな~? さあ、ツクヨミのライブ会場までここから一っ飛び☆ いってらっしゃ~い♪」
「わっ、ちょっとまっ──」
唐突に手を引かれてぽーんと鳥居の中へと放り込まれ、私はヤチヨのなすがままライブ会場まで飛ばされてしまう。揺らめく空間に完全に呑み込まれるまで、ついさっきのヤチヨの驚愕の理由を考えながら。
その後の流れは前回……夢で見たものと変わらなかった。ヤチヨのライブに目も耳も脳もこんがり焼かれ、ヤチヨを世界一のお姫様にすると心に誓った。何一つとして、変わらない。
ライブを終えてツクヨミから、仮想空間からログアウトする。淡い光に包まれて視界が真っ暗になり、現実の明確な感覚が戻ってくる。
少なくない緊張に包まれながらゆっくりと目を開けば、慣れ親しんだ私の部屋が広がっている。ちゃんとログアウトできたし、身体も傷一つない。やっぱりあれは長い、胡蝶の夢だったんだ。
ほっと一安心して私はスマコンを取り外し、どっと押し寄せてきた疲労に任せてベッドに飛び込む。今夜はもう何もする気力が湧かない。なんなら夢の最後に食らった情報爆撃のせいで頭が未だに痛い。最悪、明日は学校を休もう。
現実から目を逸らすように枕に顔を押し付け、そのまま私は意識を手放す。現実に戻ってもなお呪縛のように手首に巻き付くブレスレットの重みから、無理やりにでも目を逸らすために──
▼
それからの私は前回……夢で歩んだのと変わらない日々を過ごしていった。
勉強して、アルバイトして、ツクヨミでライバーとして広報活動に励む。世界にヤチヨを知ってもらうために……直視したくない現実から目を背けるように、夢の時よりも精力的に活動した。
時間はあっという間に流れる。夢と変わり映えのない日々を送り、気付けば同じ大学に進学して、ツクヨミのユーザーは一億人を突破していた。
何も変わらない日々、何も変わらない景色、何も変わらない人生。それに安心ではなく不安を覚えてしまうのはあの夢のせいだろう。崩れ落ちるツクヨミ、消えてしまうヤチヨの姿が瞼に焼き付いて消えない。
ただの悪い夢だと何度も言い聞かせているうちに、ツクヨミに超新星かぐやが爆誕する。
夢と同じようにライブ会場で大見得を切り、その場に居合わせたライバーたちに強烈な印象を残して、ヤチヨからも──ヤチヨ?
ライブのMCをこなしながら、かぐやを見下ろすヤチヨの表情を見て違和感を抱く。前か……夢の時は気が付かなかったけど、ヤチヨのかぐやを見る目は遠い過去を懐かしむような、届かない夢を見ているような色を帯びていた。
今この場においてかぐやは威勢の良い無名のライバーでしかない。溢れ出る魅力やカリスマがないとは言わないけれど、それはいろPの献身的とも言えるフォローがあって輝き始めたもの。今のかぐやは光っていても原石に過ぎない。
にも関わらず、かぐやを見るヤチヨの目はずっと前から知っていたようなものに見えた。理由は……ダメだ、分からない。チュートリアルで何かしらのやり取りがあったのだろうか。
疑問の種に答えを得ることはできないままに時間は流れていく。
かぐや&いろPは怒涛の快進撃で新規ファンを続々と獲得。ヤチヨカップのランキングに凄まじい勢いで食い込み、夢と同じようにブラックオニキスと突発コラボ。激戦の末に敗北しながらも、ヤチヨカップ優勝の座をもぎ取った。
過程も結果も変わらない。かぐや&いろPはツクヨミとVR史に伝説を残し、ヤチヨとのコラボライブで新時代を幕開ける。
そして前と同じように、月人がライブに介入した。
……かぐやは月の住人で、月人は月からかぐやを迎えにきた。そんな竹取物語みたいな話、あるわけがない。あれは妄想が生み出した産物だ。
手首で存在を主張するように淡く光るブレスレットから目を逸らし、私は自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
コラボライブから間も無く、かぐやが電撃引退宣言を行った。
変わらない、変わらない、何も変わらない。引退を告知した日も、卒業ライブの日付も、何もかもが同じ。このまま進めば、また──
……いや、あれは夢だ。私の妄想が生み出した胡蝶の夢。ツクヨミが崩壊して、ヤチヨが消えるなんて未来は……あり得ない。
刻一刻と迫る
大勢のファンがかぐやの卒業を見届ける中、卒業ライブが始まり──スペシャルゲストとして登場したいろP率いるかぐや陣営と、突如として乱入してきた月人陣営の攻防が始まる。
かぐや陣営と月人の戦いの内容も変わらない。無限に湧き出てくる月人に対抗していろPたちがチートを行使して、かぐやをまも──ろうと──
ふと、月人の軍勢と戦ういろPの横顔を見て違和感に気付く。前はチート利用という特大の爆弾に気を取られて気が付かなかったけど、戸惑ってる……何に?
……チート。そうだ、チート。もしかして。
「照さん照さーん。ちょっち聞きたいんだけど。チートって自分で使う以外に、他人に使わせることとかってできたりする?」
配信用ボイスチャットを切り、隣で渋い顔をしていた照琴さんに尋ねる。プロゲーマーとして活躍していた照琴さんなら、私の求める答えを知っているかもしれないと思ったのだ。
照琴さんは微かに目を見開き、同じく配信用ボイスチャットを切ると私の疑問に答えてくれる。
「できなくはないかな。前に他ゲーの公式大会で、外部から無理やりチートを付与されたプロチームが棄権せざるを得なくなった事件が実際にあった」
実際に前例があったんだ。だったら、いろPたちが自分たちの思惑とは別にチートを使わされている可能性は十二分にある。いや、むしろそれなら前の時の困惑も含めて戸惑っている様子に納得がいく。
いろPたちが月人陣営に対抗しているのは間違いなく自分たちの意思で、でもチートの利用までは意図したものではなかった。なら誰がいろPたちにチートを付与して、月人との戦いに介入しているのかといえば……それ、は──
「──ヤチヨ、なの?」
戦場のライブ中継ではなく、ツクヨミの中心に聳え立つ天守閣を見上げて呟く。
ツクヨミをその手で作り上げ、管理者としてユーザーの輝きを見守り慈しんできただろうお姫様。言い換えればそれはツクヨミの絶対支配者であり、不正も改竄も思うままの女神様。一プレイヤーにチートを付与するのも容易いことだろう。
確証は、ない。でも現在進行形でシステムにBANされることもなくいろPたちが戦い続けられていることを考えれば、強ち的外れな推測でもないはず。でも、でも……どうして?
募る疑問の答えは出ないまま、いろP陣営と月人陣営のKASSENが決着する。勝利を手にしたのは前の時と同じ、困惑顔のいろP陣営だ。
負けるつもりなんて毛頭なかった。でも根拠もなく勝てるとは思ってなかったし、チートによる後押しをされるとは考えてすらいなかったという顔だ。守られた側のかぐやですら、どんな顔をすればいいのか分からないといった様子で立ち尽くしている。
あの時と同じ結末。なら、次に訪れるのは──
見上げたツクヨミの夜空。常夜の世界を眩く照らす巨大ミラーボールに、大きな亀裂が走った。
「あ──」
亀裂は星が散りばめられた夜空に伝播し、あっという間に地上の街並みにも届く。脆いガラス細工のようにツクヨミが崩壊していき、ユーザーたちがパニックに陥りながらログアウトしていく。夢と……前回と同じ光景だ。
「また……壊れる……」
ヤチヨが作り上げた世界が、誰もがありのままの自分で居られる場所が、夢だと現実逃避していた私を嘲笑うように壊れていく。
前と全く同じ。夢だと目を背けて逃げ続けたツクヨミの終焉が現実となって、ヤチヨが──
「──ヤチヨ! ヤチヨはどこ!?」
「オタ公! 君も早くログアウトを──」
私の肩を揺さぶっていた照琴さんを振り払って走り出す。向かう先はツクヨミの中心に聳え立つ天守閣。ツクヨミの管理者たるヤチヨが居を構える、ヤチヨだけが入城を許されたお姫様のお城。
加速度的に崩壊速度を上げるツクヨミを横目に形振り構わず走り続ける。またあの光のない暗闇に堕ちるかもしれない恐怖に蓋をして、飼い主の元へ駆ける犬のように、みっともなく何度も躓きながら走り続けた。
息を切らせながら私は天守閣へと続く橋の前まで辿り着いて、無残にも崩れ落ちた橋だったものの残骸を呆然と見下ろす。天守閣に繋がる道はここ一つだけで他に道はない。
いや、そもそも天守閣への入城はユーザーの誰一人として認められていない。ツクヨミの公認広報担当である私も例外ではない。走ってきたところでヤチヨの元に駆け付けることなんて最初から不可能だった。
少し冷静に考えれば分かったことだろうに、馬鹿みたいだ。自分の考えなしぶりに頭を抱えたくなって、それでもと一縷の望みにかけて頭上を振り仰ぐ。
ツクヨミの街並みを一望できるバルコニーに、前回と同じようにお姫様は佇んでいた。前よりも距離が近いからか、今度はその目尻に浮かぶ涙と悲しみに満ちた表情がはっきりと見えた。
自らの手で作り出したツクヨミが崩壊する光景から目を逸らすことなく、ヤチヨはただ粛々と目前に迫る
ヤチヨの両手が胸に抱えたメンダコのマスコットをぎゅっと抱き締める。愛しい誰かの代わりのように、強く、強く、掻き抱いて──
「ごめんね、──……」
小さな謝罪の言葉を口にする。直後、その姿が陽炎のように揺らめいた。
消えてしまう。直感的に悟って、私は躊躇うことなく叫んでいた。
「ヤチヨぉ──!!」
「────」
城下から響いた私の声にはっと顔を上げたヤチヨと目が合う。何処にでもいる普通の女の子のように泣き腫らした、初めて見る顔。私は堪らず手を伸ばして──伸ばした手の先でヤチヨは消えてしまった。
直後、仮想の大地が砕け散り、私は再び真っ暗闇の底へと落ちていく。
またあの何処とも知れない空間で月人と再会することになるのか。そう思った直後、手首に巻き付いたブレスレットから眩い輝きが解き放たれ、私の意識を呑み込んだ。
タイムトラベルがあるのなら、タイムリープだってあるよね……