超オタ公奮闘記! 作:平成生まれ、令和育ち
五度目にして初の自発的なタイムリープは問題なく成功した。いつものようにツクヨミでの初ライブに参加して、八千年ぶりのライブを心から楽しむヤチヨにこんがりと脳を焼かれ、私は決意を確固たるものにする。
ヤチヨが心の底から笑える未来を見つけるため、私は早速とばかりに行動を始めた。
まずやるべきことは考えること。考えなしに同じ道を歩んだところで、待っているのは
ヤチヨが口にしていた、何をしないといけなくて、何をしてはいけないのか。それらを前もって把握しておくことが絶対条件だ。その上で、ヤチヨが心から笑えるハッピーエンドを見つけ出さなければならない。
本当はヤチヨに事細かに教えてもらえていれば時間の短縮ができたんだけど、タイムリープに反対していたヤチヨからそれを聞き出すことは不可能だっただろう。あの場ではヤチヨの制止を振り切ってタイムリープするしかなかった。
だから私はゼロから手探りで調べていくしかない。文字通り、何度輪廻を繰り返してでも。
言うは易く行うは難し。輪廻崩壊だとか歴史の修正力なんて規模も実態すらも分からない代物に挑むのだ。やれる事は全てやり尽くすくらいの心積りでいこう。
それから私はライバー活動の傍ら、
と言っても、ヤチヨがこれから歩むお姫様街道に関しては態々調べなくても大体のことは分かる、ファンですから。でも輪廻の崩壊にどう繋がるかという視点では見たことがないので、その辺りは注意が必要だ。
ヤチヨが今まで歩んできた道は……どうだろう。本人に直接聞くのが手っ取り早いけど、それをするにはタイムリープを明かすしかない。でも明かしたらヤチヨは協力してくれないだろうなぁ……。
……ヤチヨの過去は、一旦保留しよう。どのみち、タイムリープで戻ることができるのはツクヨミ初ログインのタイミングまで。スタート地点が初ログインに固定されている理由は分からないけど、それ以上前には多分戻れない。私が改変できるのはここから先だけだ。
気を付けるべきはヤチヨとかぐやの行動。輪廻の中心であるこの二人からだけは絶対に目を離してはいけない。それを念頭に置いて、私はこの周回を走り始めた。
だから、予想だにしなかった。かぐやがツクヨミにログインするよりも前に、輪廻が崩壊してタイムリープする羽目になるなんて──
▼
「──太陽が沈んで、夜がやってきます」
「……え?」
何度見ても飽きることのないヤチヨのご尊顔を前にして、私の思考は真っ白に染まっていた。
何故、どうして、いつ私はタイムリープした? 昨日は確か、ツクヨミでの活動を終えてログアウト、そのまま翌日に備えてベッドに飛び込んだはず。最後の記憶はベッドの上で、間違ってもツクヨミにはいなかったし、崩壊するツクヨミも消失するヤチヨも見ていない。
でも今、目の前にはチュートリアルヤチヨがいる。初ログインユーザーを嬉しそうにお出迎えしているお姫様がいる。タイムリープしているのは間違いがなかった。
考えなくちゃ、何があったのか。どうしてタイムリープしてしまったのか。ヤチヨのチュートリアルを話半分に聞きつつ、私は思考を加速させる。
前提として、タイムリープはツクヨミにログインしていなくても起動できる。今までが偶々仮想空間内で発生していただけで、何かしらの理由で輪廻の崩壊が確定した時点でタイムリープは起こるようだ。
仮想だろうと現実だろうとお構いなしな月のテクノロジーすげーと思いつつ、考えるのは輪廻崩壊が加速した原因だ。
ブラックオニキスとのコラボどころかかぐやがツクヨミにログインするよりも前の強制タイムリープは余りにも早すぎる。いったい何が原因で輪廻が崩壊した……?
「もしも〜し、ヤッチョの声は届いているかなぁ〜?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと、ぼうっとしていて……」
「よよよっ、ヤッチョを前に他の女の子のことでも考えていたのかな? ぴえん」
「違います。いつでも何処でもヤチヨのことだけ考えています」
「お、おぉう、凄まじい火の玉ストレートを食らった気分だよ……」
考え事をしながらの返答だったのでとんでもなく大胆な発言してしまったような気がするけど、口にした台詞を恥ずかしがっている余裕すら今はない。
ダメだ、今ここで悩んでも原因は分からない。今は一先ずキャラクリを終えてライブに参加、ツクヨミをログアウトしてから落ち着いて考えよう。
気持ちを切り替え、何やらもじもじしている推しの指示に従ってチュートリアルを進め、そのままライブへと参加。ヤチヨとしての初ライブに喜びMAX、浮かれMAXのお姫様に心を癒されるのだった。
▼
その後、私は輪廻崩壊が加速した原因を解明するために精力的に駆け回った。一番可能性が高いのはヤチヨの行動。今までと何か違う動きをきていないか、それとなく調査をした。
並行して私はタイムトラベル、タイムリープに関する資料や創作を読み漁った。この辺りは先輩にも協力してもらって、色々と教えてもらった。
ヤチヨの次はSFかなんて呆れられたけど、違います。これも全てはヤチヨの笑顔に繋がることなんです。それはそれとしていつもありがとうございます。今度またお昼奢ります。
オタクはオタクでも、私はヤチヨ特化のオタク。タイムトラベルやタイムリープに関する知識は一般人に毛が生えた程度。だから今は知識が必要だった。それが専門書だろうと、創作世界のなんちゃって理論でも。
……量子物理学むつかちい。コテコテの文系がちょっと興味を持って足を踏み入れられるような分野じゃない。これ、本気で学ぶならタイムリープ何回しないといけないのだろうか。
羅列される専門用語に目眩を覚えながら、それでもヤチヨのハッピーエンドを見つけるためだと気合を入れ直し、手当たり次第に知識を掻き集めていった。
そして──更に早い段階での強制タイムリープによって始まりの空間へと戻された。
▼
分からない。今回もまた原因が分からない。前々回よりも更に輪廻崩壊が早まった理由も含めて、分からないことだらけだ。
活動を追っていた限り、ヤチヨの行動に特別変化はなかった。ユーザーの前以外での動きは追い切れないから断言はできないけど、ヤチヨの行動によって輪廻崩壊が加速した可能性はないと思う。
だとすれば、残された可能性は……私? 私の行動が、輪廻の崩壊を早めた?
何が影響を及ぼした? 何をしてはいけなかった? 何をしなくてはいけなかった?
前回の世界線で新しく取り込んだことは、タイムトラベルとタイムリープそのものに関して調査を始めたこと。逆にやめたことは、特にないはず。
タイムトラベルとタイムリープに関して勉強することが原因? だとしたら、既に知識を持ち越してしまっている時点で詰んでしまう。ハッピーエンドを見つけるどころか、輪廻崩壊を防ぐことすらできなくなってしまう。
……確認、してみないと。このタイムリープは余計な事はせず、輪廻崩壊のタイミングだけに注視しよう。そうすれば、原因も解明できるかもしれない。
じんわりと不安と恐怖が胸の内に広がる。染みのように広がるそれは止められなくて、それでもヤチヨの笑顔を胸に私は走り続ける。
▼
……輪廻崩壊が加速した原因が、やっと分かった。原因は、やっぱり私だ。
でも当初に予想した、タイムトラベルとタイムリープについて知識を得ることが原因ではなかった。そうではなくて、私がライバーとしての活動を疎かにしてしまっていたことが原因だった。
どういうことかといえば、忠犬オタ公としてのツクヨミ広報活動が疎かになったせいで、ツクヨミの知名度・認知度の上昇が遅くなってしまったことが原因。より具体的に言えば、かぐやがログインするまでにツクヨミのユーザー登録数が一億人を突破していないと輪廻崩壊が確定するみたいだった。
十回以上もタイムリープを繰り返して調べた結果だ。ツクヨミのユーザー登録数がどうしてヤチヨとかぐやの輪廻に影響を齎すかまでは調べ切れなかったけれど、恐らく間違いない。
原因を特定した時は流石に驚いた。ツクヨミのユーザー数までもがヤチヨとかぐやの輪廻に影響を及ぼしていたこともだけど、それ以上に私一人の広報活動がそこまでツクヨミの知名度上昇に貢献していたなんて、思いもしなかったから。
確かに私はツクヨミサービス開始から精力的に広報活動に勤しんできた。でもそれはヤチヨの魅力を、ツクヨミの世界をより多くの人に知ってもらうための推し活の一環。目に見える数字なんてあまり気にしていなかった。
でも、これからは数字を意識しなければならない。ツクヨミのユーザー登録数が一億人を突破しなければ、輪廻が崩壊して強制タイムリープ。キラキラのハッピーエンドなんて夢のまた夢だ。
……今までは数字なんて意識していなかった。ただヤチヨの魅力を、ツクヨミの素晴らしさを心のままに広報するだけでよかった。でも今後は、ユーザー登録数最低一億人というボーダーラインを目指しながら、その上でヤチヨのハッピーエンドを見つけ出さなければならない。
大丈夫、大丈夫。最初の二回は意識しなくてもできたこと。タイムリープを繰り返したことで既知となった勉学面の時間を削って、広報ライバーとしての時間をしっかり確保すれば問題ない。アルバイトも、ライバーとしての活動が軌道に乗れば辞めてもいい。
それよりも、しんどいのはライバーとして活動する時に嫌でも数字を気にしないといけなくなったこと。ヤチヨの魅力を配信している時も、ツクヨミのトピックを語っている時も、数字が意識の端をチラつくようになってしまった。
それが……ちょっと、辛かった。
それでも、私は諦めない。ヤチヨのライブとファンサで心を癒し、ライバーとしてツクヨミの広報活動に打ち込み、ハッピーエンドを探す。
大丈夫、ツクヨミの中では忠犬オタ公のキャラクターがあるから、ちゃんとやれている。リアルは……うん、もう何回かタイムリープを繰り返せば、きっと慣れる。
部屋の鏡に映った虚ろな目をした自分から目を逸らし、イヤホンから聞こえるヤチヨの歌に耳を傾けながら、私はそう何度も言い聞かせて目を閉じた。ひたひたと聞こえてくる絶望の足音から耳を塞ぐように。
そんな私の甘さを嘲笑うように、無慈悲に残酷に輪廻の崩壊がまた訪れた。