日守終音の人間観察   作:限界ボンバーヘッド

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餡子っておいしいけどたくさん食べたら口の中甘ったるすぎる。





自己境界

深夜。

部屋の明かりは消している。

街灯が窓から差し込み、床に淡く線を描いていた。

濡れたアスファルトの反射が、ゆっくりと揺れている。まるで、世界そのものがわずかに呼吸しているかのように。

 

終音は椅子に座ったまま、指先だけでスマートフォンをいじる。

背もたれに体重を預けながらも、その姿勢には落ち着きがなかった。どこか、すぐにでも立ち上がりそうな緊張が残っている。

 

画面は、あの少女の名前で開いたまま。

 

昨日までの彼は、他人の境界を揺らすことで自分を確かめていた。

触れれば崩れるような心を、わざと撫でる。

選択を迫り、迷わせ、壊れる瞬間を見届ける。

それが、自分がここにいる証明だった。

 

今日は違う。

 

 自分の境界を、試すんだ

 

胸の奥の衝動がざわめく。

壊すこと、揺らすこと、選ばせること――

そのすべてを外へ向けるのではなく、内側へ向ける。

逃げ場はない。観察者としての距離もない。

 

今夜は、全部自分のために使う。

 

指先が震える。

未送信のメッセージ。

文字を打つたび、心臓が跳ねる。

短い文章なのに、やけに長く感じる。

 

「もし今、何かを壊せるなら、俺は自分を壊す」

 

打ち終えた瞬間、空気が変わる。

部屋の静寂が、わずかに重くなる。

 

送るか、消すか。

それとも――

 

胸の奥で、衝動と覚悟がぶつかる。

破壊したい欲求が叫ぶ。

このまま踏み越えれば、何かが決定的に変わる。

戻れない場所に行ける。

 

だが、冷静な理性も答える。

 

 ここで送ったら、終わる…

 終わるのは、誰にとって?

 なにが終わる?

 

問いが、問いを呼ぶ。

これまで他人に向けていた圧力が、そのまま自分へ返ってくる。

逃げることはできない。

選ばなければならない。

 

終音は深く息を吐く。

肺の奥に溜まっていた何かを、ゆっくりと押し出すように。

 

そして指を止める。

 

送信せずに、画面を閉じる。

 

わずかな動作。

だが、それはこれまでのどんな行為よりも重かった。

 

自分自身を壊すのではなく、壊れない自分を選ぶ。

衝動に従うのではなく、衝動を抱えたまま立つ。

 

それが、初めての主体的な選択だった。

 

静寂の中で、胸の奥がわずかに軽くなる。

完全に消えたわけではない。

むしろ、はっきりと形を持ってそこにある。

 

薄い膜の世界は変わらない。

人は簡単に壊れる。

ほんの一言で、ほんの一瞬で。

 

だが、自分が立つ境界は、少しずつ変わっている。

 

そのとき、スマートフォンが再び震える。

机の上で小さく跳ねる音が、やけに鮮明に響く。

 

非通知。

 

終音は一瞬だけ目を細める。

予想はついていた。

それでも、無視はしない。

 

出る。

 

「こんばんは」

 

ライターの声。

どこか乾いていて、それでいて観察するような響きを持つ声。

 

「今日も…壊れなかったようですね」

 

終音は、わずかに間を置いてから答える。

 

「ええ、観察されるより、自分で立つほうがいい」

 

短い沈黙。

互いに、その言葉の重さを測るような時間。

 

「その感覚が、あなたの物語を変えるんですね」

 

終音は窓の外を見つめる。

街灯の光が、濡れたアスファルトに反射して揺れている。

さっきと同じ光なのに、少し違って見えた。

 

「壊れずにいることも、物語の一部だ」

 

静かに、呟く。

 

誰かを揺らすことで進む物語ではなく、

自分が揺れながらも立ち続ける物語。

 

「そうですか」

 

ライターの声が、わずかに柔らぐ。

 

胸の奥の衝動は、完全に消えていない。

今も確かにそこにある。

だが、それはさっきまでのような鋭い刃ではなかった。

 

破壊ではなく、覚悟に近いものへ。

 

「それが、日守終音さん。あなたの答えでいいんですね」

 

終音は立ち上がる。

窓に近づき、静かにそれを開ける。

 

夜風が部屋を通り抜ける。

冷たい空気が、思考をゆっくりと整えていく。

 

外の世界は相変わらず脆い。

誰もが、簡単に壊れる。

それは変わらない事実だ。

 

だが、自分は今、境界の上に立っている。

 

観察者ではない。

触媒でもない。

 

自分自身の物語の主体として。

 

日守終音――

まだ揺れながらも、確かに立つ。

 

救いと破壊の間で。

選択の上に。

 

そして、次に訪れる境界に備えて。

 




餡子と餃子って漢字似てるよね。


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