日守終音の人間観察   作:限界ボンバーヘッド

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バナナおいしい





連鎖の境界

翌朝。

街は薄曇り、湿った空気が肌にまとわりつく。

終音はいつも通り大学へ向かう電車に乗る。

だが、胸の奥は昨日より重い。

 

「境界を自分だけで試す」ことで、誰も傷つけなかったはずなのに。

 

他人の存在が、静かに迫ってくる。

 

電車内。

スマートフォンに通知が溜まっている。

少女からの短い一文。

 

《今日も、眠れそうです》

 

誠からは、昨日と同じようにバイト報告。

遼からは、また未完成の絵。

警察官からは無言の写真。

夕焼けの色が昨日より鮮やかに感じる。

その瞬間、終音は気づく。

 

自分の選択は、すでに他人に影響を与えている。

壊さずにいることも、破壊することも、どちらも連鎖する。

 

 これが…連鎖か

 

窓越しに流れる景色を見ながら、終音の指はスマートフォンを握る。

画面に表示されたライターからのメッセージ。

 

《観察される側から、観測する側へ戻る時が来ましたね》

 

終音は笑う。

少し苦い笑み。

 

「そうかもしれない」

 

呟いた声が、車内のざわめきに吸い込まれる。

 

大学に着く。

キャンパスは日常の喧騒。

だが終音の目には、薄い膜の向こうに小さな揺れが見える。

誰かの微かな感情の動き、揺れる選択の瞬間。

 

講義の後、図書館へ向かうと、あの彼女が座っていた。

顔色は昨日より落ち着いている。

だが指先は微かに震える。

 

「……こんばんは」

 

終音は静かに声をかける。

彼女は小さく笑う。

 

「こんばんは、観察者さん」

「観察者じゃないよ」

 

終音は微かに笑みを返す。

 

「今夜も、壊さないことを選ぶ」

 

彼女の瞳が揺れる。

 

「私も…今日だけ、生きてみます」

 

その言葉に、胸の奥で冷たい衝動がわずかに軋む。

だが今回は、それを抑えることができる。

選択は、再び連鎖する。

誰かの小さな一歩。

それに呼応する別の一歩。

終音は知る。

自分が境界に立つ意味は、他人を壊すことではなく、共に選ぶことにある。

窓の外では、薄い膜の世界が淡く光を反射している。

 

人は壊れることもできる。

だが、壊れずにいることもできる。

終音の胸の奥で、衝動はまだ消えていない。

だが、形を変えた。

破壊ではなく、選択の重みとなった。

 

「今日も、選ぶ」

 

彼は呟く。

揺れながらも、選ぶ。

壊すのではなく、壊れないことを選ぶ――

その瞬間、世界の薄膜の向こう側に、わずかな静寂が広がる。

そして終音は初めて、選択の連鎖の中心に立つ。

 

自分の意志で揺らすのではなく、誰もが踏みとどまる可能性を守るために立つ場所。

救いと破壊の間。

境界の上。

選択の中で、物語はようやく、静かに動き出す。

 




選択するってことは責任も伴う。


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