転生特典が『SAO』なんですが上位互換機?があったのでアインクラッドを実装しようと思う 作:ケツ命騎士団
彩葉ちゃん誕生日(5/11)おめでとうございます。
2030年7月12日。ついにその日がやって来た。
出来る限りの手はすべて打ったつもりだが、それでも不安だけは拭いきれない。今は想定外のイレギュラーが発生しないことを祈るだけだ。
彩葉は無事にかぐやを拾ってくるだろうか。いや、なんだかんだ言って心優しい彼女であれば、あからさまに怪しい赤子であっても放置するような事はしないはず。だから、大丈夫。──そう思った瞬間、呼び鈴が激しく連打され、けたたましい電子音が室内に鳴り響いた。
「明日奈! 明日奈ッ!!」
彩葉の切羽詰まった声が外から木霊する。ついに来たかとすぐさま扉を開け──彼女の腕の中で泣き喚く赤子を見て、俺は瞬きを一瞬忘れた。すぐに我に返り、制服姿の彩葉を中へ招き入れて落ち着かせるように座らせる。
良く冷えた麦茶の入ったグラスをそっと手渡すとゴクゴクと一気に飲み干した。そして彼女は先ほどよりかは幾分か落ち着いているが、それでもあたふたしながら状況を説明し始めた。
想定していたとおりに話は進む。バイトから帰宅して来たところ、アパートの前に現代風竹取物語のごとく7色に光り輝くゲーミング電柱が自己主張しており、その中にいた赤子をとりあえず保護するために取り出してしまう。
しかし、後は任せたとばかりに元のどこにでもある普通の電柱へと戻ってしまい、その場に放置するわけにもいかず連れて来てしまったと語る。
「どうしよう、この子。とりあえず警察とかに連絡して保護してもらった方が良いのかな……」
「いいや、それはやめておいたほうが良いんじゃ無いかな。話を聞く限りかなり特異な存在のようだし、そうじゃなくても誘拐疑惑や痛くもない腹を探られる事になる。……学校や保護者にも連絡が行くだろうし最悪、この子も保護どころか研究対象にされる可能性が高い」
起こり得る最悪の未来予想を語ってみれば彩葉の顔はどんどん青ざめ、身体を強張らせた。と同時、そんな彼女に影響されたのか腕に抱かれた赤子は大きく泣きじゃくり始める。
「ふえええええええええええええええ!」
「うわっどうしたどうした。うぅ……怖くない、怖くないよー…………明日奈どうしよ、全然泣き止んでくれないんだけど。て言うかこっちが泣きたいよ」
「ごめんごめん。私が脅すようなこと言ったからキミが不安に思って、それをこの子が感じ取ったんだろうね……そうだ。子守り歌とか歌ってあげたらどうだろう? 安心してくれるんじゃないかな」
「急に子守り歌って言われてもそんな記憶、ないよ……」
「ふやあああああ!」
ますます大きくなる泣き声に頭を悩ませる彩葉に、それなら一番好きな曲はどう? とさり気なく誘導してみたが、もじもじとしながら「明日奈が歌ってよ」と気恥ずかしそうにこちらに強請って来た。その可愛らしい仕草にぐっと込み上げてくるものがあったが──
しかし、それだけは絶対に何があっても出来ないので申し訳なく思いながらも心を鬼にして「彩葉が歌うべきだ」と突き放した。
そして、彼女は観念した様子で意を決して月見ヤチヨのデビュー曲。『Remember』を優しく口ずさむ。ワンフレーズ歌い終わる前には穏やかな表情を浮かべて、気持ち良さそうにすやすやと眠る赤子の姿がそこにあった。
「つ、疲れた……けどこれで、やっと落ち着いて話が出来るね」
「お疲れ様彩葉。すごく、とても良い歌声だったよ。……しまった。録音しておけば良かった」
「もう、からかわないでよ明日奈。こんなにすぐ寝付くなんてやっぱりヤチヨは最強だね。ヤチヨしか勝たん…………明日奈がすんなり受け入れてくれて助かった。でも、荒唐無稽な話だと否定しなかったのはどうして? 私が嘘をついているとは思わなかった?」
「思わなかった、というより──」
そこまで言いかけて、言葉を切る。
「彩葉は、そういう嘘をつく人じゃないからね」
それだけを選んで、口にした。彼女は少しだけ照れくさそうに笑って、それ以上の追及をしてこなかった。
……助かった、と思うべきか。それとも──もう引き返せないと考えるべきか。静かに眠る小さな存在に視線を落とす。規則正しい寝息。彩葉の腕の中で安心しきっているその姿はごく普通の赤子そのもののように見えた。
「……かぐや」
気づけば、その名を口にしていた。
「え?」
「ああ、ごめん。なんでもない」
慌てて誤魔化しながら、俺は視線を逸らした。
──ここから先は、一歩間違えればすべてが崩れる。予定通りに進める必要がある。そのためにもまずは。
「今夜は、この子をここで預かろう。彩葉、一人じゃ不安だろうしね。心配なら彩葉も泊まって行くと良い。それと、晩ご飯がまだならハンバーグとスープが冷蔵庫にあるから温めて食べて」
「え、いいの?」
「もちろん。……その代わり、少しだけ私の言うとおりにして欲しい」
彩葉は不思議そうに首を傾げながらも、素直に頷いた。
「それで、言うとおりって?」
「まず、この子のことは出来る限り誰にも話さないほうが良い。親兄弟も、友達にも。芦花や真実なら言いふらしたりはしないだろうけど念のために、ね」
「まぁそりゃそうだよね……話すにしてもどう説明したら良いのか分かんないし。でも、流石にずっとは無理だよ?」
「分かってる。けど大丈夫。彩葉が無理なら私がなんとかするから」
迷いなく言い切った言葉に彩葉は一瞬言葉を失った。その後、怪訝そうな表情を隠さずに問うてくる。
「明日奈。どうして、そこまで……」
「乗りかかった船というのは建前として。キミの助けになりたいから、かな。この子は──普通じゃない。だからきっといつか、大変な事に巻き込まれるかもしれない」
それでも。
「それでも、彩葉は関わることを選ぶんだよね」
分かっていて、確認する。彼女は少しだけ考えて──
「……うん。だって私が連れてきたんだし、それに知らないところでどうにかされるのは、嫌だ。せめてこの子の保護者が迎えに来るくらいまではちゃんと責任を持つつもり」
「そう言うと思った。でも、子育ては大変だよ?」
「どうせ断っても無理やり手伝う気なんでしょ? 明日奈」
「もちろん」
そう言いながらサムズアップすると、彼女は申し訳なさそうにしながらも安堵のため息を吐いた。