転生特典が『SAO』なんですが上位互換機?があったのでアインクラッドを実装しようと思う   作:ケツ命騎士団

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なーんもわからん

いつかの記憶。遠い遠い過去の記憶の残滓。

もはやその顔をおぼろげにしか思い出すことが出来ない。大切だったはずの思い出。気の遠くなるほどに長く過ぎ去った月日は確実に精神を削り取っていった。

かつての力は無く。私は無力だった。必ず無事に連れて帰ると交わした約束は未だ果たせず、ただ見守ることしか出来ないまま──時は流れた。

 

 

 

 

 

 

戻ってきた。4畳半の狭い室内。我が家だ。

とりあえず懸念事項であった金銭面も無事? 解決*1し、ユナからよくわからんお願いごとを押し付けられてしまった俺は一人これから先のことを少しばかり考え始める。

肉体を失う事になるほどの何かが起きる……? この過剰としか言えないチートを持っていながら? あるいはデジタルゴーストと化した茅場晶彦*2のように自ら電子体になったのか? そこまでする必要があったのか。一体それはどういう状況なんだ。まるで皆目見当もつかない。……情報が足りない、やはりあいつを取っ捕まえて口を割らせるべきだな。

 

「それにしても酒寄さんと仲良くしろってことは彼女にも何かがあるってことだよな? ぱっと見かわいい女の子にしか思えないんだが実は宇宙人とか異世界からやって来たヒロインだったりするとか……いや無いな普通に真面目そうな良い子だったし」

 

考えてもわからんことが分かった。とりあえずアドバイス通りメシで釣ってみるか。肉と魚ならどっちが好みかな。

 

 

 

 

 

 

ピン、ポーン。と控えめに来客を知らせるインターホンの音が予習のため勉強机に向かってせっせとペンを走らせていた腕を止めた。時計を見れば時刻は昼を少し過ぎたところ。

 

「はーい」と声を上げてしまってから気づく。あれ、大丈夫なやつかこれ? と。押し売りセールスマンとか宗教の勧誘とか某テレビ局の集金とかだったりしたら非常に不味いのでは。

押しに弱いことは誰に言われずとも自身が一番よく理解しているところである。

金銭的に余裕が無いから宅配の類は頼んだ覚えもない。……返事をしてしまった以上は今更居留守を決め込むわけにもいかないし、覚悟を決めて恐る恐る玄関に向かい扉を開ける。

 

「こんにちは。酒寄さん」

「あ、桐ヶ谷さんだったの。良かったぁ〜」

 

面識のある人で助かった。ホッとして思わずその場でしゃがみ込んでしまった。

 

「ちょっ、大丈夫か! 酒寄さんっ」

「ごめん。なんか気が抜けちゃって……もう大丈夫だから」

「何かあったんですか? まさか、ストーカー被害とか嫌がらせに!?」

「あ、いや! ちがっ実は──」

 

ちょっと恥ずかしいけど変な誤解を生むのはそれ以上に嫌だった。早とちりして気が動転しただけなの。と告げると心底安堵した様子で無事で良かったと優しく微笑み、手を差し伸べて来る。ありがたくその手を借りて立ち上がりながら思う。

 

「そういえば、桐ヶ谷さんの用はなんだったの?」

「ああ、そうだった。……少しばかり料理を作りすぎてしまってね、酒寄さんのお腹が空いていればで良いんだけどまた食べて貰えないかな」

「え! 良いの!? 私で良ければぜ、ひ」

──都合の良い話は毒や。一番食ってかからなあかん。

母の声が脳裏を過る。母はいつでも正しかった。自分に出来たことは出来るものだと本気で考えている人。息苦しくて、褒められたことなんて一度もなくて。苦手だった。

 

「ん、酒寄さんどうかした? 顔色もあまり良くないし体調が悪いなら無理しなくて大丈夫だからね」

 

こちらを心配そうに見つめる目からは裏がある様にはとても見えない。心が強く痛んだ。

 

「……ごめん。ちょっとだけ疑心暗鬼になってた。ありがたくいただくよ」

 

別に騙されても良い。この人を信じてみたいから。毒だって薬になるんだし逆もまたしかり。引っ越し蕎麦から始まった奇妙な縁だけど大切にしていきたいと思ったのはきっと、間違いじゃないはずだから。

 

 

*1
後日終わりの見えないデバッグ作業に忙殺された。うまい話などなかった。

*2
VRマシンを使って脳のスキャニングを実行し、精神(フラクトライト)をデータへと変換した。肉体はこれに耐えきれず死亡。

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