5限目までの授業がおわり息を吐く。結局翠とはあれから話すことができず、いまだに私は心の中にもやもやしたものを抱えていた。騒がしくなった教室で私も席を立ち翠の席へ向かう。今日は月曜日。部活も委員会の仕事もないのでいつもは友達の家に集まってゲームなどをして遊ぶことが多い。翠とスクールアイドルのことで話したいとも思っていたため誘おうと思ったのだが、
「練習?」
「そう。スクールアイドルの」
…ここまで来たら逆に一日かけてのジョークなんじゃないかと思えてしまう。
「ツバサ公園でやってるからよかったら見に来てよ。それじゃあね!」
そう言ってそのまま行ってしまった。楽しそうな顔してたしやっぱり私をからかって遊んでいるのだろうか。追いかけることもできず私は一人取り残されてしまった。
「お~い、ゆうみど~。今日もうちに集合でって…片割れはどないしたん」
「片割れ言うな。…用事あるんだって。」
「ほーん」
確かによく二人で話していることも多いから二人一組あつかいされるのは否めないが。私たちをカプ扱いしてきたこいつは
「まぁええわ。んで?ゆうはくんのか?」
「いや、行くよ。」
「そんなら、またあとでな。」
そう言って澪も教室を出て行った。友達の家とは言ったけれどほとんどは澪の家に集まる。正直あまりゲームをする気分でもないのだが、明日になれば翠がどこまで本気かわかること。別に今日中に確認しなければならないわけでもない。そう思って私も教室を出た。
……練習って、なにするんだろ
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「ゆう。お前なんか今日調子悪いな?悩みでもあんのか?」
澪の部屋でゲームをしている最中、唐突にそんなことを聞いてきた。今この部屋には私と澪の二人しかいない。いつもは家主の澪を含めて4,5人は集まるのだが、今日は珍しく翠以外の2人も用があるらしかった。
ゲームをしていれば気も紛れるかと思っていたのだが、思いのほか態度に出ていたらしい。
「別に何ともないよ」
冗談だろう。きっと明日には何事もなかったかのように、今日の話などなかったことのように流されのだろう。そう思うのに
『私は本気だよ』
あの時の言葉と表情が頭から離れないままだ。
「そうは見えへんけどな」
にやついて言う澪を横目でにらむが悩んでいることは事実なので強く言い返すこともできず黙ってしまう。そんな私を見かねてか澪が話し出した。
「
「いや…別にそこまでじゃない。ただまぁ……ちょっと気になることがあるってだけ」
「そうか~」
気になる…か。とっさに出た言葉であるが気になっているのだろう。どんな練習をしているのだろうか、曲を作る目処は立っているのか。どういうわけか家でくつろいでるような姿へ想像できない。私は本当のところ彼女が冗談で言ったわけではないと思っているのだろうか。
私はスクールアイドルをすることについてどう思っているのだろうか。あれはアニメの中のこと。非現実的かといえばそうではないけれどやはり夢物語と言わざるを得ないと思う。
「おせっかいやけど、自分にできることがあったらゆうてや。」
「うん、ありがと。」
そこまでのことじゃないのだが無駄に心配させてしまった。
目をそらし窓の外を見ると
(あれは…翠?)
「ごめん!ちょっと用があるの思い出した」
「お!おう…わかった…」
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『普通な私の日常に突然訪れた奇跡』
玄関を出て翠を追う。ランニングをしているようで制服からスポーツウェアに代わっており練習をするというのはやはり本当だったようだ。
『何かに夢中になりたくて』
数百メートルほど離れてから澪の家に自転車を置きっぱなしにしてきたことに気づいたがそんなことよりも翠を追うことを優先した。
『何かに全力になりたくて』
どうして追いかけているのか自分でもわからない。どうして家を飛び出して今見える背中を追いかけているのか。
『脇目も振らずに走りたくて。でも、なにをやっていいかわからなくて』
窓から翠のことが見えた時、その横顔が見えた時
『くすぶっていた私のすべてを吹き飛ばし、舞い降りた!』
追いかけたいと思った。
『それが!』
それに今、彼女の走る姿を見ていると、なんだか
(主人公みたい)
『本当に始めるつもり?』
私は今、その背中に輝きを重ねてしまっている
『すく~るあいどる部で~~す』
もう疑うこともない、翠は本気だ。
『わたくしが生徒会長である限りスクールアイドル部は認めないからです』
常識とか、世間体とかそういうことは関係なく、
『私ね!スクールアイドルやるんだ!』
いつのまにかツバサ公園についていて、翠は木陰でストレッチをしていた。
私に気づいたようでこちらに手を振ってきた。つけていたせいか少しばつが悪くて頭を掻きながら翠のほうに歩いていく。
「本気…だったんだ。」
「信じてなかったの?」
「そりゃあ…常識的に考えて…ね?」
「常識的に…ねぇ。」
翠の目が細くなる。わかっているのだろう。スクールアイドルは架空のもの。それに私たちは中学生。動画を配信することもあるだろうしスクールアイドルなのだから在籍する学校も公表するのだろう。世間体も問題になってくる。
それらを理解してなお、翠はスクールアイドルを始めようとしている。
「どうして?どうして始めようと思ったの?」
「……」
「わかるでしょ?それが難しいってこと。」
『大体やるにしても曲は作れるんですの?』
…そこまで言うのは酷か。ただ、翠は笑みを浮かべて
「私言ったよね、初めて見た時からやりたいって思ってたって。この一年間、何もせずいたわけじゃない」
「?それってどういう」
翠が目を閉じ深呼吸をする。17時を伝えるサイレンが鳴る。
でも私の耳には届かなくて。
私たち以外誰もいない公園。いや、正確にはいたかもしれないが私には翠しか見えていなかった。前奏は必要ない、私には聞こえていて
それほどまでに
「……何を探してる~」
輝いていた。
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「私は、µ`sやAQOURES、虹ヶ咲のみんなみたいに特別じゃない」
翠が話だす。
「スクールアイドルを始めるには、仲間を集めるより先にまず私が彼女たちに近づかなきゃ誰も勇気を出してくれないと思って。」
先ほど歌とダンスからわかる。彼女は1年前から本気で、その情熱を燃やし続けていたんだ。
「普通な私には誰にもついてきてくれないと思って」
自分のことを普通という彼女は私に初めてトキメキをくれたあの人に似ていた
「ねぇ結愛」
「…なに?」
「難しいかどうかってそんなに大事?」
…大事に決まってる。憧れる気持ちもわかる。私だってなれるならなりたい。あんな風に輝いて、ときめいて…
何も言えない私を前に翠はため息をつきながら言った
「あのさぁ~、結愛もラブライブから学んだでしょ~」
翠の姿が重なる。私があこがれていたもの、雲の上、別次元のものだと思っていたもの
「一番大切なのはできるかどうかじゃない、やりたいかどうかだよ、ってね。」
翠が私に手を差し出す。
その姿は、彼女自身は普通だと言い張っても
私にとっては
「一緒にスクールアイドル、始めませんか?」
正真正銘、アイドルだった
「さっきの歌とそのセリフだったら、断ったほうがいい感じ?」
私の言葉にクスリとほほ笑む
「それじゃあ次回のサブタイトルは”オタク仲間を追いかけろ”ってところ?」
「しまんないタイトルだな」
それから私たちは顔を合わせて笑ってしまった。
日は傾きオレンジ色の光が田を照らす。
私もなれるだろうか。
彼女のように。
画面越しのじゃない。
今目の前で輝く、アイドルのように
「よろしく頼むよリーダー」
そう言って私は翠の手を握る。昨日までただの友人だと思っていた彼女の手を握っただけだというのに、この瞬間私の新しい日常が始まった気がした。