すっかり日が落ちて窓からは綺麗な星空が覗く夜、いつもは電気をつけたままに起きている時間だが今日ばかりは月だけを灯にしていた。
「すぅ…すぅ……」
その"理由"こと継鎖は、今まさに俺のベッドの上で頭を撫でても少し唸るだけで起きない程に熟睡していた。
そんな彼は今日初めて会ったばかりの少年であり、お風呂に入っていない為に少し汗の匂いを漂わせながらベッドを使っているのだが、全くもって嫌な気持ちは湧いて来ない。
寧ろその格好こそが今日一日にこの子が体験した苦労の表れであるのだから、愛おしく思えて仕方がない。
そんな姿を見ているものだから今日一日の出来事が、思い出した記憶が頭の中でよぎり出し始めた。
小さい頃に公園でゴミを拾って誰かに褒められてから、俺はずっと善行をする様に努めてきた。
時に途方もない労力を要する事になったとしても、それでも善行の為ならば如何なる努力も惜しまない様な信念を持っていた。
幼稚園でも、小学校でも、駅でも、ショッピングモールでも、中学校でも…如何なる場所であれ、善行を欠かさなかった。
もちろん、善行の最後には何の見返りも求めなかった。
何の見返りも求めずに善行ができる、その様な精神こそが自身の高潔さと特別性だと信じていたから。
だからこそ、俺は危険に満ち溢れた魔法少女にさえなったのだから。
でも、本当はそうじゃなかったのだろう。
魔法少女という存在は、その煌びやかさに反して隠匿されるもの。
怪人との戦闘で壊れた建物などが元通りに直る様に、また他者の記憶からも自然と消える。
たとえ怪人に襲われている人を助けたとて、町の平和を守ったとて、魔法少女を知り得るものは誰一人おらず、当然ながら賞賛の声は一つもない。
何の見返りがなくとも善行を出来るはずだったのに、そんな魔法少女としての活動を続ける内に何故か心のつかえを感じ始めた。
しかれども魔法少女という非日常故に、その様な感覚は何とか無視する事ができた。
だが高校に入ってからは、いよいよ日常にまで不足が生じては目を逸らす事など出来なくなった。
如何に善行をしたとて俺のそれは当たり前となり、いよいよ感謝や賞賛の声は一つも聞こえなくなっていたのだ。
善行を第一とする信念に、心のつかえを楔としてヒビが入り始めていた。
それでも昔から心に刻んでいた信念を貫こうと善行を続けたが、心のつかえは取れる事なく更に打ち込まれてヒビを深くするだけだった。
そして記憶の最後を飾るものは、親との怒鳴り合いの喧嘩と家出。
ただ当然の手伝いを頼まれただけなのに、そんな心に対する軽い一振りがヒビを底まで追いやってしまったのだ。
原因不明の心のつかえ、ヒビが入り切った信念、そして親との間にできてしまった禍根…ただ記憶を取り戻したとしても、俺はきっとどうしようも無い問題を抱え続ける事になったのだろう。
でも、そうはならなかった。
錆びた鎖が特徴的な鉄色の衣装に身を包んだ、白髪の可愛らしい魔法少女…繋 継鎖。
彼女もとい彼は今日一日で俺の記憶を取り戻してくれただけでなく、心のつかえの理由を教えた上で全て取り払ってくれたのだ。
(……こんなに褒められたのは、いつぶりだったかな)
思い返すは、今日一日を通して継鎖が俺に与え続けた賞賛の言葉の数々。
それを耳にした初めの頃は少し困惑したものだが、怪人を倒した後でようやくある事に気がついた。
俺が、彼の賞賛の言葉に対してこれ以上ない程に喜んでいる事を。
俺は善行そのものを目的としていたのではなくて、それに伴う賞賛と感謝の声をずっと求め続けていた事を。
賞賛の声聞こえなくば、俺は善行を続けられはしない事を。
それは即ち、善行に対して見返りを求めてしまう事を認めた証であったが…彼の純粋無垢な言葉の前ではどうでも良くなった。
共に大変な苦労を伴う善行をした相手からの、小さい子供らしく単純な言葉であるが故に裸の想いを心へと届けた言葉。
俺はどうしようもなく、それが欲しくなってしまったのだから。
とても魅力的なそれと天秤にかけたとしたら、見返りを求めぬ高潔さや特別性など空高く打ち上がってしまうのだから。
そして高校の記憶で思い出した心の支えをようやく取れたが為に、こうして家に帰ってから禍根を取り除く為に親としっかり話し合えた。
急に怒って失踪した俺を心配してか家出の件では酷く怒られたものの、両親は善行を続ける事に対する辛さに関して良く話を聞いた上で慰めてくれた。
どうしようも無いと思っていた禍根でさえ、あっさりと解決したのだ。
こうして全ての禍根や悩みが無くなった事を改めて認識すると、これからの事を考えられずには居られない。
賞賛の言葉を求めてしまう俺の心がハッキリして、足りなかった分の賞賛を今日一日で貰った…だが、何も人生は今日で終わりでは無いのだから。
きっとこれからも、高校における善行に対して誰かの賞賛や感謝が得られる訳では無いだろうから。
ふと不安になって、少し寝返りをうった継鎖に向けて一つ質問をしてみる。
「なあ、継鎖…お前は、これからも褒めてくれるか?」
返答は、ただの寝息。
彼は寝ている為に当然ではあるのだが、ふと視界に入った小さい左手を見ると答えはそこにあった。
「…そうだよな。当然お前は、俺の事をずうっと褒めてくれるよな」
そこにあるは俺の右親指と継鎖の左親指を繋いでいる鎖だ。
この鎖が俺と継鎖の凡ゆる意味での繋がりを示す事など、一目瞭然ではあるのだがそれだけでは無い。
細くとも左手で掴んでびくともしないそれは、切っても切れないほどに頑丈なのだ。
それは即ち…如何に時が流れようとも、何があろうとも、継鎖がずっと俺と共に過ごし善行を欠かさず褒めてくれる事を示しているのだから。
継鎖と会うまでの過去は酷く暗く、賞賛の言葉が尽きて行く未来への希望など持てる訳もなかった。
だが、これからは違う。
「……お前の褒め言葉があれば、それでいい」
魔法少女の継鎖が、俺の行う全ての善行を認めて褒めてくれるのだから。
少なくなった賞賛を埋める以上に、彼の言葉が俺の善行の報酬となるのだから。
そうして彼が俺の側に居続けるのなら、真に俺はどんな善行でもこなせるのだから。
「明日からが楽しみだな、継鎖?」
俺が善行をして、継鎖が褒める。
そんな輝かしい日々が待っているのだから。
あれこれ考えたが、未だに眠気は訪れない。
寧ろ、これからの素晴らしい時間を考えるだけで頭が冴えてくる。
真っ先に考えるは、継鎖の褒め言葉。
(可愛い、綺麗、背が高い、モデルみたい……ふふ)
今日一日を通してそうされた様に、魔法少女の彼が言う事を想像すればそれだけで興奮して来た。
更にはそんな想像を広げていくに従って、言葉だけでなく褒め言葉を言う彼の姿までもが段々と鮮明に見えてくる。
大変なゴミ拾いの後にかいた汗が、じっとりと脇や背中の服を滲ませる様。
子供特有の高体温で真っ赤に熱った顔や二の腕の様。
どこか癖になる、少しすえた臭いの様。
この世の何よりも滑らかで柔らかい太ももに、ガーターベルト代わりの鎖が少し食い込み汗で光る様。
見た目は女の子なのに中身は男の子だから、暑さのあまりにスカートをパタパタさせて風を入れる様。
そうする中で見えてしまった自らのパンツに恥ずかしがって、更に顔を赤く染める様………
もはや言葉で無くとも、善行を共にしたその可愛らしい姿だけで俺は幸せになれる。
だが彼を表現するのは、何も魔法少女の姿だけでは無い。
今目の前で寝息を立てている少年の姿こそが……
"えっち"
「ーーーー!!!!??」
瞬間、頭の中の魔法少女の姿をした継鎖が放った言葉によって、何処か気持ちいい電撃の様な凄まじい衝撃が走った。
パチパチと弾ける頭の中で、継鎖は羞恥が混じりながらも俺への非難が確かに含まれている表情で睨みつけている。
いやそんな事はない、俺は継鎖をそんな目で見てなんかいない。
これはただ子供を可愛がる目線であり、俺は"えっち"な変態なんかじゃ無くて頼れるお姉さんだ。
でもその継鎖は想像であり、つまりは俺の心。
という事は…
(……違う、違う!)
違うのならば…証明しないといけない。
今目の前で寝ている継鎖、彼を見て邪な思いを抱かなければいいのだ。
「つぐさ…!」
"えっち"
「ぁぁぁっ!!!!?」
またもや俺の頭の中でそう唱えた継鎖、だが今度は姿が違う。
正しく目の前で寝ている少年の彼が、両手で目を塞ぎながらも指の間で俺の体を恥ずかしそうに眺めている。
そこには非難なんてなくて、寧ろ俺の体を女性的だと褒めているに等しい言葉だ。
褒められて、嬉しい。でも"えっち"という言葉は、非難の為の言葉で……
"えっち""えっち"
「あっ、あっ、あっ、あっ………!!」
少年と魔法少女の姿をした二人の継鎖が、同時に語りかけてくる。
非難の"えっち"と、賞賛の"えっち"が、私の両耳から侵入して脳へと沁みゆく。
だめだ、このままだと何かが壊れる。
あえて目を逸らし続けていた真実を、知ってはならない禁忌を封じていた錠前が壊れてしまう。
だがいくら口で抵抗しても、心は正直だった。
「や、やめろ…!それ以上は、それ以上は…!!」
"えっち""えっち"
「アッ……!!」
気づいて、しまった。
でもいいじゃないか。
最初に俺の求めていたものを暴いたのは、継鎖だ。
彼と彼女がそう言うのであれば、俺は正直になっていいのだから。
頭の中で羞恥の表情を浮かべる魔法少女の彼が、更に非難を口にする。
それは決して賞賛などではなく、俺の粗を責問する言葉だ。
"えっち、変態、しょたこん、ろりこん…!"
「……ああ、それでいいっ…!!」
だが、それ故に興奮する!
あんなにカッコいいだとか凄いだとか言って俺を尊敬していた継鎖が、今や俺の事をただの変態として罵っている……その姿が、この落差こそが心地良くてたまらない!!
"お姉さん…?何を、しているの?"
"や、やめてよ、お姉さん……"
「ああっ!それもまた良いっ!!!」
まだ"性"の本当の意味を知らない様な、幼気な少年の姿をした彼が困惑と共に語りかける。
あれだけ信用していた目が今や俺に対する不信で濁っていて、けれども何処か期待していそうな顔は、正しく背徳だ!!
「はぁっ…はぁっ…!!」
"えっち"と言う言葉が…賞賛と非難という、二つの相反する意味を内包できる言葉だったとは!
継鎖に対して、ここまで重い
読めなかった…!この俺の目をもってしても!!
「…………」
ベッドでスヤスヤ眠る継鎖を見る。
彼は口どころか目すら開いておらず、当然の事ながら先までのは俺の想像であって現実の彼が言っていた訳では無い。
そもそも彼は、俺に抱き付かれるだけで顔を真っ赤にしてしまう様な純粋さを持っている少年である。
だが、これまでの興奮がそれで冷める訳が無かった。
寧ろこれからに思いを馳せると、更に興奮してやまない。
「…なあ、継鎖…もし、もしもだ…」
もっとも興奮したところで、"今"襲うなんて事は絶対にしない。
これから何度も善行を重ね、継鎖に褒められ、絶対的な信頼を得なければならないのだから。
そうした善行を重ねた上で"犯す"事が、甘ったるい程の背徳である事は当然だが、先にあるものはそれでは無い。
同時に信頼を裏切られた時に浮かべるであろう困惑と、俺と言うグラマラスな女性の体を見た時の興奮…それらが入り混じった表情を眺めながらの"初めて"が、それから事を理解した彼が俺へと浴びせかける拙い非難が待っているのだ。
かつて抱いた善行を貫く信念、それはいつの間にか更に固くなっていた。
積み上げて来た全てを裏切って"犯す"…その時まで俺は、決して善行を絶やさず継鎖からの賞賛と信頼を積み上げ続けるのだ。
「もし、尊敬できるカッコいいお姉さんが…見下げ果てた変態だったら、お前は何と言うんだろうな?」
寝ている彼に対して、再度問いかける。
当然その答えは、安らかな寝息だ。
今度は彼が何と答えるか分からない。
一つも根拠がなくて分からない、が……
「その時は、そうだな……」
この答えが"えっち"だと良いな。
そう、願った。
魔法少女 "筑根人 蘭"
身長[203cm]
体重[規制済み]
今年で魔法少女歴10年となるベテラン魔法少女。
ドイツのとある傭兵を模した衣装を身に纏い、比類なき身体能力で近接戦を仕掛ける戦闘スタイル。
使用する魔法は"Beuta(略奪)"。
無力化した敵の武器に魔法をかけると、自らの武器として自由に取り出す事が出来るようになる。
デカい、筋肉、太いの恵体三点セット。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。