不死身の男 作:ななし
「──テメェら動くんじゃねえぞ。騒いだら殺す」
そんなことを叫びながら天井に向けて銃を乱射する男。
周りには一般の客たち。その中に俺とステラさん、それから珠雫さんもいた。
──面倒事に巻き込まれたな
そんなことを考えながらこうなった経緯を振り返った。
一階のフードコートを出て俺たち一行は四階のシネマランドに移動を始めた。
道中軽い雑談をしながら向かう途中、三階に着いた時だった。
「ゴメンみんな。先にトイレを済ませておくから僕の分のチケット頼めるかな?」
「あらそれならあたしもお供しようかしら」
そんなことを言って一時離脱した黒鉄とアリスさん。
残されたのは俺とステラさんと珠雫さん。なんというか気まずい。共通の友達がいないとこうも会話が無くなるのかと思うほどに静かな雰囲気だった。
さすがに無言はキツイな。ここは先輩として何か話題を振ろう。
「そういえばステラさん、黒鉄と決闘したんだって?理事長から聞いたよ」
「え?あー、まあそうね」
「部屋が同じでトラブルが発端らしいけど……まああの人優しいけどそこら辺ぶっ飛んでるからなあ」
「まったくよ。お陰で変な醜態晒したわ」
「……それで?戦ってみてどうだった?」
そんなことを聞くとステラさんはキョトン顔をした後顎に手を当て真剣に考え始めた。
頭によぎってるのはおそらく黒鉄との戦いの光景だろう。
「凄かった。月並みだけど端的に言えばそれに尽きるわね」
「技術がな、凄いんだよあいつは」
「ほんとうに、驚かされてばかりよ」
「Aランクも認めるほど……ってことかな?」
「そうね。努力は才能をも覆せるってことを実感したわ」
しみじみと、それとどこか嬉しそうな声音でそんなことを言うステラさん。
なんというか、黒鉄の努力が報われて少し嬉しい気分だ。
「珠雫さんもお兄さんを追って破軍に入学した感じなの?」
「……まあ、そうですね」
「そっか。珠雫さんはほんとに黒鉄のこと好きなんだね」
「……っ、い、言っときますけどまだ私はあなたに対して気を許してはいませんから」
「ち、ちょっ、アンタねえ…!」
珠雫さんの言葉にステラさんが噛み付いた。
いや、まあ気持は分からなくもない。むしろそれくらい警戒心を持つことは大事な事だ。こんな傷だらけの男に易々と心を許す方が危機感が無さすぎるって話だ。
「いいよ、気持ちは分かる」
「で、でも……」
「……」フイッ
そっぽを向かれてしまった。
まあ、気長にだな。これくらいは可愛いもんだ。
「ごめんなさいねセンパイ」
「いいって。謝ることじゃない」
申し訳なさそうな顔されるとかえってこっちがいたたまれなくなる。
「……去年の事、イッキから聞いたの」
「あ、ほんと?」
「苦労してるのね」
「別に苦労という程じゃないけどね。ただ適性があって俺が望んだだけだから」
お金のために魔道騎士になることを選んだ。
人によっちゃ理由が不純だなんて思う人もいるだろう。実際そうだ。みんな各々の騎士道の元、この道を選んでる。そんな中俺みたいな人がいたらそれなりの感情を持つだろう。
別にそれを否定する気はない。ただ俺の人生と他の人の人生が違うってだけ。どう思うのかなんて人の勝手だ。
「さっきイッキとの会話で今年はのんびりするとか言ってたけど、もう大丈夫なの?」
「なんだ?そこまで聞いてたのか?」
もう大丈夫とは親のことだろう。
ステラさんは恐る恐ると言った形で聞いてきた。なんというか、こっちの気が悪くならないか気を付けてる感じ。
なんというか、ほんとに優しい人が多いな。
「まあ、もういいんだ。理由はもう無いから」
「え、それって……治ったの?」
「………」
「……まさか」
俺の顔を見て察した様子のステラさん。
「想像通りだ」
「踏み込みすぎたわね。ごめんなさい」
「いや、いいんだ。別に気しないでくれ。いつかは訪れるものだしな。俺もやれるだけの親孝行はやったつもりだ。後悔もない」
「……センパイって強いのね」
「そんなんじゃない。割り切りが早いだけだ」
なんというか湿っぽくなった。
今日はみんな楽しいお出かけのはずなのにこんな空気はいたたまれない。
「よし話戻すか。黒鉄との決闘、勝ったのは黒鉄なんだよな?部屋もそのまんまの同室なんだろ?大丈夫?良かったら俺一人部屋だし理事長に頼んで交換してもらおうか?」
「え?あー、いや、大丈夫よ。私もイッキの事もっと知りたいなって、あの決闘で思ったし」
そんなことを頬を赤らめながら言うステラさん。
ま、まさかこれって…!
「やだ、恋のお話?聞かせて……」
「べ、別にそんなんじゃないわよ!」
さらに顔を赤くしたステラさん。
耳まで赤くしちゃってあらまあ。
「なんて可愛い反応。ね、珠雫さん」
「なんで私に振るんですか。あとその口調、アリスならまだしもあなたがすると気味が悪いです。やめてください」
相も変わらず冷たい反応。
うんうん、それもまた可愛いね。
「全く……さっさと行くわよ!もう…」
「うふふ、照れちゃって」
「やめてください。その口調」
そうして、意気揚々と改めてシネマランドへ向かおうとした矢先だった。
「……ん?」
なんだかものすごい嫌な予感が体を駆け巡った。
耳を澄ませば微かに聞こえてくる"チッ…チッ…"という音。そして微かに香る火薬の匂い。
多分俺だから気づいた。去年、腐るほど経験した感覚。
「っ!2人とも防御──」
瞬間、爆発音が響いた。
「……2人とも大丈夫そう?」
「ええまあね。シズク、あんたは?」
「舐めないでください。問題ありません」
言葉を投げかければ帰ってくる2つの声。ステラさんも珠雫さんも2人とも無事そうだ。
伐刀者は常に体の周りに無意識で魔力の鎧のようなものを纏っている。Aランクのステラさんのその鎧は別格に硬い。
珠雫さんもさすがにあの黒鉄の妹といったところか。どれ程の魔力を持ってるかは分からないが傷一つ無さそうだ。流石だな。
わざわざ俺の声が無かったとしても問題なさそうだったな。
俺はと言うと少しばかり傷が出来た。
まあ、黒鉄よりは魔力はあるがそれでもEランク程度。あの爆発でも致命傷にならないのは伐刀者って感じだが多少やっぱりダメージはくらう。
「センパイは大丈夫?」
「大丈夫だ」
にしても、白昼堂々テロ行為か。こんなことするやつなんて心当たりがひとつしかない。
とにかく、今は黒鉄とアリスさんと合流したいところ。
そんなことを考えていた時だった。
「おい!お前ら!手を上げろ!」
武装した男が銃を構えて立っていた。
即座に固有霊装を顕現させ──
「何してるんですか…!」
隣の珠雫さんに小声で制止された
「周りには一般人もいるわ。今はアイツらの言うことに従いましょう」
「………」
ステラさんの言葉に動きを止める。彼女の言うことは最もだ。
この場で制圧は容易い。が、それをした時相手はなりふり構わず一般人を巻き込みかねない。
"相手を殺す"ことは得意だが"誰かを護る"のは慣れてない。
ここは2人の言う通り大人しくしていた方がいいか。
「分かった」
そう言って俺は手を上げた。
「よしじゃあ全員着いてこい。今からお前らは人質だ」
目の前の男がそう言うと踵を返して歩き出した。
背中ががら空き。何時でも殺れる。が、後ろから仲間らしき足音が聞こえる。無理だな、やめとこう。
そんな経緯を経て冒頭へと戻る。
周りの一般客同様、フードコートに集められ人質にされた。
周りには武装した男が十数人。
こいつらはおそらく"
伐刀者を選ばれた新人類なんて考え、その伐刀者による世界の支配を目指してるイカれ集団だ。こうして定期的にテロ行為をしては資金調達してる奴ら。たまたまこのショッピングモールが標的にされたってところだろう。
ステラさんも珠雫さんも近くにいる。
ステラさんは皇族で有名人だからかつばの広い帽子をいつの間にか被って最低限顔を隠していた。
とにかく大人しくしていれば殺されることはないだろう。
こいつらの目的はあくまでも金。事が終われば撤収する。その時にでも殺ればいい。今動けば一般人が危険だ。
そんなことを考えた矢先だった。
「お、お母さんをいじめるなぁ!!」
人質の中から子供が1人飛び出した。
その手に握られていたのはアイスクリーム。それを解放軍の1人のズボンへとぶつけた。
隣にいるステラさんも珠雫さんもそれを見て焦ったような表情が浮かんだ。
「こんのガキがァ!」
「あぐっ」
男は自分の腰にすら届いてない身長の子供の顔に向けて蹴りを放った。
「………」
それを見て立ち上がろうとしたが、横から伸ばされてきた手に腕を掴まれた。
「待って…!気持ちはわかるけど今出て行っても犠牲者出るだけよ…!」
「あの子供が死ぬぞ」
「……っ」
ステラさんの言葉に思わず目が鋭くなる。
こんなことしてる間にも子供を庇おうと出てきた母親に向けて男は銃を構えている。周りの仲間がなだめているがその引き金が引かれるまで時間の問題だ。
「……私が行くわ」
「貴方は何言ってるんですか…?」
ステラさんの言葉に流石に慌てる珠雫さん。
「………」
「遅かれ早かれ、私のことはどうせバレる。それに皇族である私ならすぐに殺そうとはしないはず。だから私に任せて欲しいの」
言ってることは間違ってない。間違っては無いが……
「何かあれば出るぞ」
「それでいいわ。シズクも準備をしておいて。アンタなら何とか出来るでしょ」
「……分かりました」
そう言って飛び出すステラさん。と、同時に地面に手を当て目を瞑り集中する珠雫さん。
今はこのふたりに任せておこう。自分の出番はもう少し後だ。
そういえばと、辺りを見渡してみると……やっぱりいた。
上の階、そこにいる2つの人影。黒鉄とアリスさんだ。
出るタイミングを見計らっているのだろう。
良かった。感情に身を任せてなくて。みんなの計画が崩れるとこだった。俺の良くないところだなこれは。
「珠雫さん。何をしてるんだ?」
「静かにしてください。今、集中してます」
小声で珠雫さんと話すが何やら神経を使う作業をしている様子。
なら邪魔しないようにこっちも大人しくしておこう。
そんなことを思うが、目の前ではステラさんが子供を庇いテロリストと睨み合ってる。交渉しようとしてるが肝心の親玉がいない。
大人しくしてるのが得策なのはわかるが何も出来ないってのは焦れったくなってくる。
そんな時だった。
「おやおやおや〜?これはとんでもないお方が紛れ込んでたもんだあ」
唐突に響いた声。
声のした方を向くとそこには武装した兵士を10人近く連れた顔に刺青の入った男がいた。
「ヴァーミリオン皇国の第二皇女じゃありませんか」
そう言ってヒヒヒと笑う男。
黒字の布に金の刺繍でデザインされた外套を羽織っている。幹部クラスのやつが着る衣装だ。
「おい。何ガタガタやってんだてめえら。お留守番もまともにできねえのかああ!?」
「ひっ」
「俺ァ大人しく待ってろっつったよなあ?大切な人質に手は出すなっつったよな俺ぇ?」
「お、俺たちは止めたんすよ!?でもアイツが言うこと聞かなくて…!」
なにやら揉めている様子。
このまま勝手に内輪で揉めて部下らしきヤツら全員殺してくれれば楽なんだけどな。
「い、いや、あのガキが俺のズボン汚しやがったから…!」
「ああ!?んな事でガタガタ言ってんじゃ──」
そこまで言うと男は言葉を止め顎に手を当てなにやら思案顔で黙った。
「いや……ヒヒヒ」
「ビショウさん…?」
「ああ、いや、何。災難だったなおめえも。同情するぜ。だが安心しろ。てめえら"名誉市民"の名誉は俺が守ってやる」
そう言うやいなや、男は懐から拳銃を取り出し、その銃口を母親に庇われている子供に向けた。
「何するつもり!?」
「何って、ケジメをつけさせるんですよォ。大事なことでしょう?人として」
「人質には手を出さないんじゃないの!?」
「それは大人しくしてたらの話ですよお姫サマ。だがこのガキは大人しくしてなかった。まあガキだから仕方ないかもしれませんが……それでも罪は罪」
そう言って引き金を引こうとする男。
流石にこれは──
「待ってください…!まだです…!」
「……チッ」
動こうとするが隣の珠雫さんに止められる。
思わずしたうちがこぼれたが、別に珠雫さんに対してのものじゃない。
……焦れったい。
「ま、そう言っても優しいお姫サマは納得してくれないでしょうから?このビショウ、あのガキの命を救う提案を致しましょうかね」
「……いいわ、それは何?」
「ごくごく簡単なことですよォ。悪いことをしたら謝る。それだけの事。お姫サマが謝るんですよ。あのガキの代わりに……全裸で土下座してね?」
「──待ってください…!まだです、まだ…!」
「珠雫さん。一般人のことは任せる。何をしてるのか俺には分からないが早めに頼んだ」
「ちょっと…!」
即座に固有霊装を権限。手元に銃剣が装着された歩兵銃を呼び出し、一息に駆ける。
まずは近場の雑魚から。
槍を突くように歩兵銃を突き出し、背中から一気に心臓を貫通させるように刺突。
「ギャッ…!」
倒れ込む体を掴みあげ、そのまま力任せにビショウと呼ばれた男へ向けてぶん投げた。
それを意図も容易く躱す男。
そのまま、その目がこちらを睨みつけてきた。
それに目を合わせながら男の元へ足を進める。
「──ああ?まだ伐刀者が紛れていやがったんですねェ。アナタ、状況分かってますかァ?こっちには人質が……って、まさかそんな…!」
そこまで言うと男は大袈裟に頭を抑え、口元に笑みを浮かべた。
「こんな場所であの不死身に会えるとは…!その軍帽!その顔の傷!その固有霊装!殺したくて殺したくてたまらない相手がまさか目の前にいるなんて、なんて幸運ッ!」
「…………」
「せ、センパイ」
「先輩…?なるほど、お姫サマの為に出張ってきたってとこですかねェ。これはこれは涙ぐましいほどお優しいお人ですこと。でも分かってます?こちらには人質がいるんですよォ?」
その声を合図に周りの部下達は銃を構えた。
銃口は当然のように人質に向けて。
「私の一声でアナタの後ろの方々は蜂の巣でさァ。そこんとこ理解できてま──」
それ以上、男の言葉は続かなかった。
即座に間合いを詰めて、銃剣を男の口の中へ向けて突っ込んだからだ。
そのまま、空いた片腕を男の首に回し、そこを支点に銃剣を口に差し込んだまま歩兵銃をくるりと大きく男の背中側へ回す。
するとゴキリと音が鳴り、男の首は真逆の方向へ折れ曲がった。
「一声出せるもんなら出してみろッ!!」
「ビショウさん!?」
すぐに歩兵銃を引き戻し、近くの男に向けて刺突。
手にしていたアサルトライフルを奪い取り、銃口を握りしめ棍棒代わりにテロリストたちの頭へと振り下ろした。
「止まれ!人質がどうなっても──」
「障波水蓮ッ!」
「なっ!?」
瞬間、一般人を囲むように出てきた水の壁。
珠雫さんだろう。ありがたい、これで心置き無くやれる。
「ヴェロロロログロゴルゥアアアアアッ!」
「「「「──ヒッ!」」」」