不死身の男 作:ななし
「──一体何考えてるんですかアナタは。間に合ったからいいもの、下手すると一般人に死人が出ていましたよ。全くもって軽率です」
「………」
現在、俺は正座をさせられ珠雫さんからありがたいお説教をくらっていた。
まあ、その通りだ。うん。言い返す言葉もない。
「ま、まあまあ落ち着いて。船坂君も珠雫を信頼してのことだろうし」
「……お兄様はあの人に対して少し優しすぎませんか?」
横から庇うように声掛けてきた黒鉄に少し不貞腐れたように返す珠雫さん。だが、やがて諦めたようにため息を吐き出した。
「それにしても……容赦がないわね、ほんと」
そう言って辺りを見渡すステラさん。
今やこの空間にはテロリストたちの死体が転がり、もはや死屍累々といった状況が広がっていた。
まあカプセルにぶち込んで蘇生なりなんなりすれば生き返るでしょ、知らんけどな。
「ユージさんがほとんど処理しちゃって出る幕なかったわねえ」
顔に手を当て微笑むアリスさん。
だが、黒鉄とアリスさんが後ろに控えてくれていたから安心してやることをやれてた節はある。お陰で誰1人逃げられることなくことを終えれた。
「……船坂君。ありがとう」
「ん?何が?」
「ステラの尊厳を守ってくれたことだよ」
「……そうね。センパイありがとう」
「………」
こうも真正面から感謝されると嬉しさはあるがこそばゆい。
「……ああ、どういたしまして」
「考え無しではありますけどね」
「シズク…!」
珠雫さんの言葉に苦笑いが浮かぶ。言ってることは正しい。彼女にも迷惑かけた。
「これからどうする?」
「さっき報告は済ませたからこの後事情聴取とかあるでしょうね」
「なるほどなあ」
聴取か。面倒だ。でも断った方が面倒くさいことなるだろうし、パパッと終わらせるか。
そんなことを考えていた時だった。
「テメェら動くなッ!」
突如響いた声。声のした方を向けば1人の男が一般人の1人を人質にして手にした拳銃をこめかみに押し当てていた。
「いいか!今から俺の言うことを聞け!でないとこのババアの頭を吹っ飛ばすぞ!」
「人質の中に紛れ込んでたのか…!」
怒りの形相のテロリスト。
それを見て黒鉄らは歯噛みをするように顔を顰めた。
「いいか、まずは──」
「その人から離れろ!テメェぶっ殺すぞッ!」
──ザシュッ
「ぐぁッ…!」
投擲された銃剣。それが男の拳銃をもつ手に突き刺さった。
たまらず痛みで手から力が抜け、凶器は地面へ。
さらに拘束も緩まったのか人質は一目散に逃げ出した。
「ま、待て…!待ってくれ…!」
「………」
尻もちをつき、そのまま後ずさる男に向けて足を進める。
そのまま手にした歩兵銃に魔力を流し込み弾を装填。眉間に向けて銃口を構えた時だった。
どこからともなく飛来した無数の矢が男の体を貫いた。
「ぎゃっ、ぁ…!」
俺じゃない。この攻撃は……、
「な、何?」
「これは…」
「いやあ、他人の手柄を横取りするみたいで嫌だったんだけどねえ」
目の前の空間。
光り輝いたかと思うと何かがポロポロと剥がれ落ちるように景色が崩れていく。
その崩壊の中から姿を現したのは1人の男。
弓の固有霊装を手にした同い年くらいの男だ。
「これ以上一般人を怖がらせるわけにもいかないだろう?文句は無いよね?不死身の船坂君?」
「……ああ」
嫌味ったらしい笑みを浮かべる男。
分かってはいた。周りの一般人が俺のことを怖がってるのは。そりゃそうだろう。ここまでのことしてるんだから。しかも殺り方が殺り方だ。慣れてない人からすれば恐怖の対象に映る。
「桐原君…」
黒鉄の元クラスメイトの桐原静矢。
深く関わりはないが、それくらいは知ってる。
そして、去年の七星剣武祭の代表……らしい。そこら辺は学園にいなかったからよくわからん。
「それにしても、まだ学園にいたんだね黒鉄一輝君?」
「……」
嘲りの顔。心底、黒鉄を下に見ている。
聞いてる側も気分は良くない。黒鉄自身も睨む目を辞めていないほどだ。
「助かったよ桐原君。ありがとう」
「礼なんていらないよ。弱者を助けるのは強者の義務だからね」
いちいち毒のある言葉。
こういうのに対しては俺自身どうと思うことはないが、黒鉄をバカにされている光景を見てステラさんと珠雫さんの顔がすごいことに。
「だけど黒鉄君…、君はまだそんな惨めったらしい力で騎士道を歩む気なのかい?」
「アンタねえ…!いい加減にしなさいよ!」
「ステラ、いいから」
「良くないわよ!散々好き勝手言ってるけどね!アンタなんかよりイッキの方がずっと強いわ!アンタなんてイッキの足下にも及ぶもんですか!」
そんな啖呵を切るステラさんだが、それはもはやただの願い。
桐原の実力も何も見たことないのにそんなこと言い切れるわけがない。
「ぷ、はははははは!」
「な、何がおかしいのよ!」
「おかしいとも!そこの"落第騎士"が僕より強いって?傑作だ!どうやら黒鉄くんは随分とヴァーミリオン君に自分のことを格好よく吹き込んでるようだけど……ちゃんと言わないとダメじゃないか。君が、かつて僕と戦うのが怖くて逃げた臆病者だってことをさ」
「えっ……」
そんな言葉にステラさんの口は止まった。
黒鉄も否定も何もしない。只々黙って桐原の方だけを見ている。
「そ、そんな事あり得ない……有り得るはずがないわ!」
「んー、どうしてもヴァーミリオン君はそいつがボクより強いと言いたいわけだ」
「当然よ。イッキは私に勝った騎士なんだから!」
「それなら賭けをしないか」
「賭け、ですって?」
「黒鉄君、生徒手帳の電源切ってるんだろう?入れてみなよ」
「………」
桐原の言葉に促され黒鉄はポケットから生徒手帳を取り出し電源を入れた。そうすれば起動と同時に一通のメールを受信。
不躾だがふと横から覗いてみれば送り主は、選抜戦の実行委員からだった。
その内容は。
【黒鉄一輝様の選抜戦第一試合の相手は、2年3組桐原静矢様に決定いたしました】
「……なんとまあとんでもない偶然だな」
「そう、黒鉄君の一戦目の相手は去年の七星剣武祭代表のこのボク。《狩人》の異名を持つ桐原静矢なんだよ。戦うことは決定されているのさ。だから、ヴァーミリオン君の言葉通り、負ければ君に言った言葉は全て取り消し謝罪しよう。ただし、負ければヴァーミリオン君には僕のガールフレンドになってもらおうかな」
「桐原君!馬鹿なことは──」
「いいわ、その賭け乗ってあげる」
「ステラ!?」
戸惑う黒鉄を無視して鈴井さんはあっさりと乗ってしまった。
当事者の黒鉄を差し置いて2人で話を進めすぎじゃないかこれ。
「ステラ、止すんだ。こんなのなんの意味もない。僕は別に桐原君の謝罪はいらないから」
「イッキがよくてもアタシはダメなの!アタシに勝った騎士が弱いなんて言われちゃアタシの立場がないじゃない!」
「……ふっ、話は決まったね。ただ勝つだけの気怠い試合だと思っていたけど楽しみができたよ。黒鉄君、次は決戦の場で会おう」
そう言って踵を返し歩き去っていく。
そんな彼の元へ人質の中から数人の女が駆け寄っていっていた。彼女かなにか。ハーレムでも築いているのだろうか。別に羨ましくないけどね。ただよりムカつきが出てきた。このムカつきは黒鉄をバカにされたからだな。うん、きっとそうだ。嫉妬なんかじゃない。
「顔は悪くないけどああも性格が歪んでるとダメね!」
「……ヤな感じです」
「ふん、イッキなら楽勝よあんなヤツ。あたしに勝ったんだもの。そうでしょ?」
「……どうだろうね。僕にとって彼は相性最悪な相手だから」
「イッキ……」
ステラさんの問いかけ。それに返答した黒鉄の答えはステラさんが期待したものとは違った。
「…………」
気配も姿も消す力か。
そう考えると黒鉄との相性は確かに最悪だ。まあでも、何とかするだろうこの男は。そんな確信が俺の中にはあった。
不安げな面々を他所に、俺は心の中で黒鉄へエールを送った。
「黙れぇぇぇぇぇッ!!」
「アタシの前ではずっと格好いいままのあんたでいなさいよこのバカァァァァ!!」
「僕の
「お、おい!待て!待って!それ刃物だぞ!そんなんで人斬ったら大変なことになるだろ!そうだ!じゃんけんできめよう!それがいい!」
「分かった!僕の負けでいい!僕の負けでいいから痛いのは嫌だァァァァァ!!」
「………1ミリばかり予測と距離がズレてたな…、僕もまだまだだ」
「………」
うん、何とかなったな。
▶▶▶
七星剣武祭の選抜戦が始まった。
黒鉄はじめ、ステラさんや珠雫さん、アリスさん達も一回戦は無事に突破できた。
桐原はまあ、うん……ご愁傷さまというかなんというか。
終始、黒鉄を圧倒してたがステラさんの激励で黒鉄覚醒。初めての公式戦でアガっていたわけだが緊張も解れて本領発揮。
そのまま、桐原のステルスをカンパして降参負けさせた。
さすがと言う他ないな。俺が桐原の相手してたらどうしてたか。何ともできないだろうけどなんとかはしてたとは思うが、ああまで完璧に完封できる黒鉄はさすがに凄い。脱帽だな。
「さて、この後はどうするかな」
俺はと言うと出場者じゃない。
だから親しい人間……まあ、黒鉄とその仲間たち(計4人)の試合を見ては余った時間を勉強等して時間潰すくらいしかやることが無い。
今日の分の試合もみんな終わってやることもない。
図書館にでも行って勉強でもしようかな。そんなことを思いながら学園の廊下を歩いていた。
「…………」
手元に固有霊装の歩兵銃を出し、そのまま体を反転。後ろに向けて銃剣を差し出すように突き出した。
「っと、危ねえ…!」
「………」
目の前にいたのは大きなリボンを頭に付け、一本下駄を履いた着物姿の小柄の女。
みたことある、が、そのまま歩兵銃の銃口を両手で握りバット振るうように目の前の人物の顔面目掛けてフルスイング。
しかし、それを当然のように受けとめ防御された。
即座に銃剣を歩兵銃から外してそのまま近接戦へ──
「って待て待て待て。このまま続けたら殺し合いになるだろうが」
「じゃあなんだ今の殺気は」
手を突き出し、制止を促す女。
武器を下げ睨みながらそう聞けば彼女はにへらっと笑いながら軽い調子で口を開いた。
「いやー、くーちゃん……あ、この学園の理事長のことな?そのくーちゃんのお気にの生徒ってどんなやつだろーなって気になってさ。逢いに来たついでにイタズラしてみちゃったって感じで……」
「………」
そんな言葉を聞いて呆れしか出ない。
確かこの人は今年から新任教師として赴任してきた人だったはず。
確か名前は──
「西京寧音だったか?」
「お、うちのこと知ってんだ。まあテレビに出る有名人だしなあ」
「いや、学園の先生くらい知ってるってだけだ」
「………」
俺の言葉に体を固めた西京寧音。
その後肩を震わせて青筋が立った笑顔で口を開いた。
「てか、先生って知ってるなら"先生"くらいつけろよ…!」
「初対面で殺気ぶつけてくる人なんて先生じゃないだろ」
「年上!敬語!」
「初対面で殺気ぶつけてくる人なんて敬語いらないだろ」
淡々と返せば、ジタバタと怒ってますよーみたいな態度でワーワー騒いでくる。うるさい。
「はあーあ、生意気なガキだなおい。くーちゃんには丁寧みたいなのにさあ。うちくーちゃんの友達なんだけどお?」
「理事長も大変だな。アンタみたいな友人がいて」
「(ꐦ^ω^)」ピクピク
笑顔だが青筋が立ってる。
キレたいのはこっちだ。普通に生活してたのに殺気なんてぶつけてきやがって。
「うちのこと知らねえみたいだから教えとくけどよお──」
「KOKの3位だろ」
──King of Knight
伐刀者同士が戦い合う格闘技はいくつもあるが、いちばん有名なものといえばこれだ。
その中で現在3位の位置についてるのがこの西京寧音。
流石にそれくらいは俺でも知ってる。
「それ知っててそんな態度とるんだな?」
「………」
お互い無言。
歩兵銃を握る手に力が入る。
「………」
「………」
瞬間、手にした歩兵銃と西京寧音が手にした固有霊装の鉄扇がぶつかりあった。
「年上に対する礼儀ってもの教えてやるよォッ!」
「こっちの方が幾分もわかりやすいな…!」
獰猛な笑みで向かってくる彼女に、こちらもまた笑みを返した。
後日、"廊下での死闘はやめましょう"の張り紙がされたりした。